誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

7.不死鳥の少年

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 レオとアバラは魔物の群れに囲まれる。
 おかしい、ここは森の中でも有数のセーフゾーンだったはず。だというのに、どうして魔物がいるんだ?

 この場所は万が一迷ったものがいた際に、避難場所として私が用意しておいた。周囲には守護の魔晶石を張り、決して魔物が近寄らないようにしている。視線を巡らせると、魔晶石はすべて砕けていた。
 レオがやったのか?いや、そんなことをして何の意味がある。すると一体誰が・・・。

 そういえば、前にマラカイとここに来た時に派手な雷魔法を二人で撃った。・・・まさかと思うが、この近くだった可能性があるのか・・・?
 正規の道で来たことは何度もあったが、前回マラカイに復活させられた時は見覚えのない場所だった。すると、丁度この裏だった気がしなくもない。

 セーフゾーンは、特に魔物の密集地につくってある。とすると、ここは特に危ない場所だ。レオも、先ほどレオに会うためにのこのこと中央に行ってしまったアバラも、周囲一帯を警戒している。

(まあ、二人が死のうがどうでもいいか。どうせ学園では全員諸共殺すつもりだったのだし)

 私はまだ魔物に気が付いていない。相方がおらずともこのランタンさえあれば私は合格できる。そう思いランタンの位置を確認するが、見当たらない。ふと、ここに来る直前の会話を思い出す。

『おチビ、よかったら俺がランタンも持つで?それ、なんの素材使っとるかしらんけど、妙に重ない?』
『ああ、うん。確かに隊列の後ろの人が持ってる方が安全かもね』

 ランタンはアバラが持っている・・・!!

 仕方がない、アバラが死のうが私には関係ないが、ランタンだけは返してほしい。私はアバラに向かって「ランタンよこせ」のジェスチャーをした。

「大丈夫、おチビはそこにおってな。絶対俺たちはここから生還するからな」

 違う!!お前たちの命の心配なんざしとらん!!!!

 やがてアバラは鎧の魔物に殴り掛かり、レオは周辺の魔物に水魔法を放つ。アバラは相手の大振りを住んでのところで避け、装甲の隙間を狙うが、しかし効いてる様子はない。同様にレオの攻撃は精密性があるものの、敵は後を絶たない。

 一方の私は身を隠している状態だ。
 チッ、このままではランタンが壊されてしまう。魔力のストックも残り少ない。けれど、合格のためには戦わなくてはならない場面だ。私は、ゴーレム周辺の魔物たちに巾着袋を向ける。

「ブリザード・ノヴァ!!」

 相手の魔力を、そのまま氷に変換する魔法。イノシシや狼の魔物は、これまで放出していた魔力を氷に書き換えられ、己が魔力で凍り付く。レオが既に水魔法を使ってくれたこともあり、効率的に魔法を放つことが出来た。
 けれど、発動の際に私は魔力を少なからず持ってかれる。魔力コスパはよくても、決して0ではないのだ。私の体は警鐘を鳴らす。
 ・・・今ので、少なくとも雑魚は一掃したかった。けれど、出来たのは半分程度。魔力というのは貯水タンクで、一方その魔力を一度にどれだけ使えるかは蛇口に近い。残念ながらこの姿の私では、貯水タンクに仮に余裕はあっても、蛇口が小さすぎて十分に魔力を出し切れない。
 一度大人の姿に戻るか?いや、ここで真の姿を見られるわけにもいかない。

 やがて魔物たちはレオとアバラよりも、私のほうが危険であると認識し、こちらに殺到し始める。これほどまで詰め寄ってくる魔物を一斉に倒すには、相応の魔力が必要となるだろう。

(これは・・・終わったな)

 誰が私を殺したか、真相も知らずにここで死ぬのか。

 一回目は顔も分からぬ相手に殺され、二回目は魔物に食い殺される。なんて酷い人生だろう。これならば、他人のことを一切考えずに気ままに生きて、そして聖女と王子に殺されている方が遥かにマシだった。

 誰かを幸せにしようと頑張った結果、誰を幸せにすることも出来ず、そして恨まれ、無意味に殺される。




 走馬灯が走る。

 あれは、王城に邪魔をしに行った時のことだ。雲を眺めて魔法を考えていた。まだ自分の前世も知らず、がむしゃらに頑張っていた青い頃。

 まだ学園の一年生だったころ。諸事情あって私は王城に来ており、屋根の上に座って、静かに物思いにふけていた。足元には城の庭が、少し視線を上げると城下町が広がる。そんな私の隣に、知らないうちに泣いてる子供ががスタスタ近づいて、隣にぽすっと座ってきたのだ。

 その子はずっと泣いていた。生みの母を殺し、そして王族に不可欠な魔法も、変な適性を持っているからみんなから嫌われると、その子供は泣いていた。

 私は子供に不慣れだったから、最初はうざいなと思った。けれど、どうしてだろうか。泣いているその子供が他人のように思えなかった。そう、私も嫌われていたからだ。何をやっても嫌われた。勉強が出来ても、容姿が垢抜けても、人の幸せを願っても、嫌われた。闇の魔法に特化していたから。コミュニケーションに難があったのもあっただろう。けれど、中身は成熟していたがゆえに差別にも理不尽にも慣れている。

 闇の魔法は、洗脳、拷問、殺人という、人を傷つけることに特化している魔法だ。故に適性持ちは、生まれた時に本当であれば殺処分されることも多い。私は貴族であったから奇跡的に見逃された。けれど家の中では生まれてからずっと牢に隔離され、その間、実の弟と会ったことすらない。
 私が見逃されたことはきっと奇跡だったのだろう。けれど理不尽には変わりない。

 その時はまだ前世のことは思い出せなかったけれど、私の中身は成熟していた。故に私は大抵の理不尽には耐えられた。けれど、この子のような成長途中の子供に、努力で変えられないことを責められ続け、耐えられるわけがない。

『どうして全員から好かれる必要があるんだ?お前のほうが身分が高いんだから、殴り返せばいいだろ』
『そんなことできないよ!もっと嫌われるじゃん!』
『だからなんでそんなに嫌われることを恐れるんだ?少なくとも、殴り返さずこうやって泣いてるやつのほうが私はずっと嫌いだが』

 子供は意表を突かれ、少しだけ泣き止む。

『泣き止んだら、貴方は僕のことを嫌いにならない?』
『そもそもお前に興味が無いから、なんでそんなことで嫌われてるのかも知らん。私は新しい魔法について考えたいから、どっか行け』

 けれど子供はどこにもいかなかった。ただ私の服で涙を拭きとった。どういう教育を受けたらそんな行為が出来るんだ。けれど、子供にとって理不尽に追い返されないのは初めてのことだったのだろう。ぽつりぽつりと語りだす。

『僕が生まれたせいで、お母さまが出産の際に亡くなったんだ。だからお父様は僕を嫌ってる』
『それは嫌う父親が悪い』
『後妻のお義母様も、僕が魔法の勉強が苦手なことを笑ってくる』
『そりゃ、まだ年齢的に十分に魔法を使えんのだから仕方がないだろう。誰だって、実技で活用できるようになってから勉強が付いてくるんだから』
『弟たちは、僕のこの腕の醜いやけど痕を馬鹿にしてくる』
『嫉妬だろ。そんなもん、そのへんの治癒魔法士に頼めば一瞬で治してくれる。さっさと行ってこい』

 全ての悩みを雑に断ち切られ、子供は驚いた表情をしていた。やがて、その顔は笑顔になる。

『あはは!僕のこと、そんな雑に励ます人、初めて見た!』
『楽しそうで結構。じゃあ、ちょっと静かにしててくれ』
『実はね、ここに来たのは、ここから飛び降りて死のうと思ったからなんだ』

 流石の物騒な話に思考は止まり、私は思わず子供を見て固まる。けれど子供は別に大したこともないように、あっけらかんと話した。そのギャップに私は思わず固唾をのむ。
 ・・・今に思えば、きっと子供のこの様子は、すでに何度もここに来てるのだろう。ここに来て、何度も飛び降りて死のうと思った。けれど結局怖くなって、また元に戻って、そして抜け出したことを怒られて、いじめられて。

 そんなある日、偶然私に会った。だから、少し話をしてみようと思ったのだろう。華やかな王城で孤独にしている私に、親近感を持ったのだろう。

『ねえ、王家に伝わる秘術って知ってる?代々王族にしか使えないんだ』
『ああ・・・、不死鳥の守り、だったか?殺されても再び蘇るというやつだったか』
『うん。結局僕は飛び降りたとて、また復活してしまう。でも何度も復活できるわけじゃないんだ。使

 子供は私の胸に自分の手を当てる。やがて何かを唱え、手を離した。

『だったら僕は二度死ねばいいって、そういう覚悟で今日は来たんだ。けれど今日は貴方が先にいた。僕は本当だったらここで一度死んでいたはずなのに、それを貴方が止めてくれた』
『・・・・・・・』
『ローゼルアリオン。いや、長いからアリオンって呼んでもいいかな。あなたの黒い噂は事実無根っていうことが今日の僕は理解できた。だから、憎まれる貴方がこの先、不当に死ななくていいように。潰えていたはずの僕の命を貴方にあげるよ』




 眼前に魔物が殺到する最中、忘れていた思い出がよみがえる。あの子供の名前は・・・。

 やがて、死者を出さないように巡回していた王子が私の前に降り立つ。

「間に合ったね、ちょっと後ろに下がっててくれるかな」

 そう、あの子供の名前はアウレリウス。
 とても赤い髪を持った、不死鳥少年だ。
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