誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

8.君を、決して疑わない

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 アウレリウスは私の前に立ち、こちらに殺到する魔物に対して呪文を詠唱する。やがて、防壁が張られた。

 聖盾せいじゅんのアウレリウス。

 王子は、防御に特化した魔法を構築する。私は闇魔法使いではあるが、このアウレリウスの盾を見た時には正攻法は無理だろうなと悟った。それほどまでに防御を極めた最高の魔法使い。

 しかし、この国の王族は代々攻撃に特化することを理想としている。守っているだけでは勝てないのだ。王者には王者の戦い方があり、敵を蹴散らしてこそ玉座に座る理想となる。故に、守ることしか出来ないアウレリウスは魔法覚醒前の、防御適正のみが発覚している段階で散々差別をされていた。

 けれど研鑽し、自分の長所をさらに伸ばし、くだらない火傷痕だって成長とともに消え、今では誰もが憧れる王太子として君臨している。
 そして私は今、こうして彼の背中に守られることで成長を実感していた。レオとアバラも、驚愕の表情で王子を見ている。

「けれど貴方に攻撃魔法は・・・」

 アウレリウスはそんなことは何度も言われているのだろう。故に、ただ私に微笑みだけを返した。

「召喚」

 防御魔法を構築したまま、右手を開く。すると、私たちの頭上に真っ赤な不死鳥が現れた。不死鳥はそのまま、炎を吐く。王子は既にアバラとレオにも防御魔法を張り、不死鳥は大炎を吐く。周辺は炎の海に染まり、やがてはすべての魔物を焼き尽くした。

「無事?怪我はない?」

 アウレリウスは私の怪我の有無の確認をする。あの時の泣きべそをかいていた子供は立派に成長し、やがて私を守ってくれた。それも今回だけじゃない。

 

 そのことを今になって思い出したのだ。そうだ、あの時の子供は私に真っ赤な羽を渡したんだ。私の胸にそれは吸い込まれ、消えていった。それが死を迎えることで、復活の証として現場に残った。

 今、私が巾着に入れているこの羽こそが、その証。

 この子は周囲の陰口に負けず、一生懸命努力した。一方の私は、あれだけこの子に「嫌われても気にするな」と言っておいて、実際に自分がそうなると一々怒っていた。沢山の蘇る記憶とその事実に、私はただ茫然とする。

「よかった、ケガはないね。この試験では絶対に死者を出したくなかったんだ。だって、それがアリオンの願いだからね。あっ、君もアリオンって言うんだったね。いや僕が言ってるのは魔塔主のアリオンで・・・」

 あたふたとしている王子を目にしながら、私は彼との最後の記憶を思い出す。

『アリオン、貴方がどれだけ人から嫌われようと恨まれようと、僕だけは貴方の味方でいるから』

 私の意図をちゃんと汲み取ってくれた人間はいた。
 私のことを、ちゃんと好いてくれた人間はいた。
 私の味方はちゃんといたんだ。

 死者を少しでも減らそうと、他人の幸せを願って行った行動は決して無駄ではなく、まわりまわって自分を助けた。心が震え、喉が熱くなる。やがて巡回の続きのために彼は姿を消した。私はアウレリウスに礼すらも言えないまま、やがて試験終了を告げるブザーが鳴り響いた。



「やったー!!俺たち合格したでー!!おチビ、ほんまにありがとうな!結局俺は大した活躍も出来んかったし!」
「僕はランタンを壊せなかったはずなのに、どうして合格しているんだろう。ひょっとしてあの聖女絡みかな。まあいいや。藪蛇はつつかないでおこう」

 なんと、基準を満たしていないはずのレオも合格していたとのことだ。
 一方の私は合格したというのに気分は沈んでいた。復讐というのはやり遂げた後が一番生きがいをなくすというが、私も怒りの矛先を今だけは見失っていた。アウレリウスに会って、思い出して、あれだけ偉そうに説教して。私が誰かに殺された憎しみを、どこにぶつければいいのか。

 脳裏にアウレリウスの美しい赤色の髪が蘇る。

 彼は、私の命の恩人だ。

 もし、仮に彼が犯人だったとして、あのときに不死鳥の守りをくれていなければ確実に死んでいた。返しても返しきれない恩がアウレリウスにはある。

 

 復讐はやめない。
 犯人を突き止め、私は学園を血の海に沈める。

 けれど一方でアウレリウスのことは復讐の対象から外そうと思う。

 故に、私の恩讐の炎はまだ消えていなかった。誰が私を殺したのか、その真実を知らなくては。どれだけ綺麗ごとを並べたとして、復讐を止めてはいけない。そうしなくては私は何を糧に生きていけばいいのかも分からなくなる。どうしてここに立っているのかが分からなくなる。

 諦めるな。やり遂げる!
 私は両手で自分の頬を叩いて喝を入れた。

「ええ、おチビ?今試験は終わったんやで?なんで今喝入れしとるん?」
「僕の戦いはこれからが本番だからだよ」
「入学試験はただの踏み台っつーわけ。そういう向上心俺は好きやで」

 アバラも私に釣られて真剣な表情をする。レオはそんな私たちのことを変なものを見る目で見ていた。






「せんせ~お帰りなさい!お風呂にする?ご飯にする?それとも僕とエッチしてくれます?」
「その前にまず合格おめでとうとかないのか?」
「だって先生の合格なんて最初から決まってるようなもんじゃないですか~。魔塔の主に先生が就任してから大分死傷者も減りましたし、先生の雑魚魔力でも十分入れるくらい、今は学力重視も導入されましたし」

 私とマラカイは、学園の近くに家を借り、二人で住んでいた。現在無一文の私は物件を借りることが出来ず、渋々マラカイに頼ったのだ。マラカイは私の訃報の公表と共に魔塔へと戻っていくだろう。これは一時的な我慢だ。

 マラカイは大人の時の私より頭1つ分大きい。今のこの私の小さい体ならなおさらマラカイは大きい。私の体を抱きしめ、脱がせようとしてくる。

「そのはずなんだがな、試験会場が紫紺の森だったんだ。あそこは封印している遺跡も多いから、下手したら死者が出るからやめておけと言ったはずなのに、どういう了見なんだ。おかげで私は王子がいなければ死んでいたぞ」
「・・・なんですか?それは。先生が死にかけた?」

 マラカイの先ほどまで纏っていた軽い空気が転じて重くなっていく。私がそこまで危険なことになるとは思わなかったのだろう。笑い飛ばしてはいけない事態を、重く見る。背中をぽんぽんとすることで落ち着かせ、マラカイの空気は少しだけ和らぐ。

「先生、やっぱり僕にまかせてくださいよ。そんな危険な潜入せずとも、僕があの学園、吹き飛ばしてきますから」
「私もそのつもりだったけれど、事情が少し変わった。あの学園には殺したくない人物がいるんだ」
「そんなの知りませんよ。僕は差別しませんから、全員等しく殺します」
「駄目だ。いいな?」

 不貞腐れた様子でこちらを見てくる。やがて不服そうではあるがこくんと頷いた。

「そうだ、先生の入学に合わせて、既にいろいろと勉強道具を購入してきたんですよ?まるで先生の父親になったみたいで嬉しい反面、先生から父親って思われて恋愛対象外に思われるのも嫌だなあって辛かったんですからー」
「ああ、教科書か。助かった。これで買いに行かなくていいのは助かるな。今日から商店街は相当混雑するだろうから」

 普通は合格発表を受けてから、道具をそろえる。けれど購入できる場所は学園が指定しているため、今頃は新入生で殺到しているだろう。マラカイが気を利かせてくれるのは本当にありがたい。こいつの行動は理解できないものの、意外と気は利く男なのだ。

「明らかに制服に着られている初々しい先生が見られるのは最初の数か月だけですからね。記録用器具も購入してきたんですよ!えっへん」
「段々とお前が父親に見えてきたよ。すると恋愛対象外だから、そのまま頑張ってくれると嬉しい」

 マラカイが記録用器具カメラを破壊しているのを横目に、私は自分の部屋へと戻っていった。

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