誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

9.入学式

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 時は過ぎ、入学の時が来た。

 私の死はまだ発表されていない。マラカイに頼み、生きていることの偽装工作はしている。死から時間が経てばたつほどアリバイを拾うのが難しくなっていき、犯人の特定は難しくなっていくものの、私は「こいつだ」と思ったら証拠なしで殺す算段をたてている。
 裁判や捜査を介入させるつもりなどないのだ。どうせ他人を間に入れても、私はヘイトを買っている身だから公平な捜査なんて行われないだろうし。
 
 魔塔時代からマラカイは私に粘着していたが、その甲斐もあって私の癖は知り尽くしているようで、姿を偽って私の振りをしてくれているらしい。ストーカーもたまには役に立つものだ。

 魔塔主自身が見なくてはならないローゼルアリオンとしての書類をこなし、入学に向けて準備を終えた。偽装工作は残り二か月持てば上々だろう。折を見て保存してある私の死体を部屋に転がし、訃報を流す。それまでに学園の状況を把握しておくこと。それが今できることだ。

 入学試験で心愛が言っていた発言。光の魔法は選ばれた者か、極めた者にしかできないという発言。あれは本当だ。
 選ばれた者とは心愛のような光の適性を持つ者。これは本当に少ない。全世界に両手で数えられる程度しか光魔法の適性者はいない。
 一方極めた者は、確かに少なくはあるが、珍しくはない。私は闇魔法に特化しているため使えないことは無いが、例えば元婚約者殿、学園の校長、歴戦の教師陣、生徒会の面々といった感じだ。

 優秀なものが集う学園だ。容疑者は多い。私はそいつを特定して、殺す必要がある。あの光の剣は、刺した対象の生命魔力を吸収する。故に、犯人を外すと私は回復に失敗し、抵抗できずに殺人犯として捕まる。故に、絶対に見極めなくてはならないのだ。

 復讐の決意を固め、私は鞄を持った。

「せんせ~準備できましたか?では行きましょうか」
「『行きましょうか』じゃない。お前は何を同行しようとしているんだ」
「あ、先生ってば知らないんですね!入学式っていうのは、家族が付いていく行事なんですよ?だったら伴侶の僕が付いていかなくては!」
「やめろ馬鹿!目立つだろうが!!」

 魔法学園は貴族が多く揃うため、いわば小さな社交の場でもある。故に、親もこの機会を逃さないように必死にやってくるのだ。とはいえただでさえマラカイは変人ということで通っているのだ。それが入学式に参列してどうする。しかもいつから伴侶になった!

「・・・まさかお前、ここの大家に私との関係を夫婦、とか記載してないだろうな?」
「書いてません」
「だよな、流石にそこまではしてないよな」
「配偶者って書きました」
「直ちに訂正してこい!!」

 マラカイを蹴って家から出し、私は荷物を持って学園に向かう。本当に悪ふざけの多い元弟子だ。顔は格別に良いのだから黙っていればモテるのにな。
 この間彼の私室に邪魔したら、修復済みの私の死体を抱き枕のように抱いて眠っていた。キモすぎて鳥肌が数時間収まらなかった。そのまま生きている私に矛先が来ても仕方がないから、取り上げることもできず。

 ・・・予定を早めて死亡の公表したほうがいいか・・・?いや、マラカイのキモさの為だけに貴重な一度限りの機会は捨てたくはないな・・・。くそ、我慢せざるを得ない。

 魔法学園には空飛ぶ馬車で来るもの、箒に乗ってくるものなど、様々な手段で登校してくる。故に、学園周辺はファンタジー候の光景が広がっていて見ているだけでも面白い。一方の私は当然歩きだ。

 校門に近づくと、誰かがの肩に腕を回してくる。

「よ!おチビ!!試験以来やな。今日からよろしくな~」

 青色のベリーショートをした男、アバラだ。完全に私のことを友人と認識している。

「アバラは寮じゃないんだね」
「いやあ、寮やで?入学式が終わってから引っ越しが始まるんよ。新入生の寮分けは上級生が決めるらしくって、学校始まらんと上級生こぉへんからなあ。融通利かへんシステムやろ?」
「なるほど。それは大変な一日になりそうだ」
「よければ手伝ってくれるとうれしいんやけどな~」

 ちらちらと見てくるアバラを無視して私はすたすたと誘導の看板通りに進んでいく。「新入生はここから」という札を、蝙蝠の使役獣がぱたぱたと口で咥えていた。
 私は無償では働かん。お前に恩を作っても後々助かることもなさそうだし。

 入学式の会場に足を踏み入れる。
 光の花が頭上に沢山咲いており、太陽の明かりだけでは暗いはずの講堂は美しく照らされていた。

 この小説は日本製ではあるが、海外の学校を意識している。つまり今は日本でいう9月に相当する季節だ。故に頭上の花は秋の花で、これは季節によって変わっていく。

 右も左もわかっていないだろう集団に紛れ、私はただ開始の時刻を待つ。隣ではアバラが「なあ、俺人手足りないなあって思ってるんだけど、そう、人手がな?引っ越しのな?」としつこい。まあ会が始まれば流石に黙るだろう。

 やがて厳かな式が始まる。この学園では理事長は挨拶しないため、ヘンダーソン校長が全てを取り仕切っていく。私は理事長として何度か校長とは話しているが、目上の者にはとても人当たりがいい。けれどあの手の人物は格下相手には態度を変える。腹に一物を抱えた、信用のならないタイプだ。
 年は60代で、一方理事長をしていた私は20代。たまに思い切った改革をすると、何か言いたげな目で見られたが、決して気のせいではないだろう。

 続いて壇上に現れたのは、現生徒会長のアウレリウス。美しい容姿とその所作に、先ほどの長い校長の話とは打って変わって全員が憧れの目を向ける。挨拶はとても短かった。

『僕は生徒会長のアウレリウス。今日、入学してくれた皆が、この学園の理念に基づく、優秀で気品のある生徒になることを期待している』

 たったそれだけの短い発言なのに、長々と喋っていた校長よりも多大なインパクトを残して去っていった。次の番である新入生総代がやってきたというのに、誰もが去っていったアウレリウスの方向から目が離せない。さすがは小説のヒーロー。どこにいても人目を惹きつける。

 新入生総代は聖女・立木心愛。先ほどまでアウレリウスに対してうっとりとした会場は、今度は彼女の登場にざわつき始める。特に新入生のエリアから。

「あれ、あの子って、ペアに恵まれていた子じゃなかったっけ」
「実技で地面に突っ伏してた子よね」

 流石に噂になっているか。けれど校長は「静粛に」とざわつきを抑えつける。立木心愛の実力では新入生総代は不相応だ。これは、誰かが裏で糸を引いているな。隣のアバラは「へえ、あの子が一位の子なんや。凄い優秀なんやろなあ」と言っている。お前はどういう記憶力をしてるんだ!!お前が地面にノックアウトさせたんだろうが!!お前はひょっとして日常的に女を殴りでもしているのか!?

 彼女はざわつきをさして気にする様子もなく、話し始める。

立木心愛です。この学園ではとても悪い理事長がいると聞いたのですが、私は断固として立ち向かいます。応援よろしくお願いします』

 どういう意思表示だそれは。
 よくも堂々とこの私を悪と断じた上に、応援を呼び掛けたな、あの女。新入生総代っていうのは、新入生の声を代弁する役割だろう。
 流石の常識のない発言に、周囲も怒るだろうと私は反応を伺う。けれど、私の予想外の反応がそこにはまっていた。

「「「うおおおおおおおお!!!」」」

 会場のバイブスが上がっていた。

 あれだ、共通の嫌いな奴で盛り上がれるという人間特有のあれだ。
 敵が共通していると、連帯感が生まれるというあれだ。

 隣のアバラもめちゃくちゃテンション上がってる。諸悪の根源たる魔塔主に堂々と喧嘩を売ったのだ。そんな勇気あるものを称えずして誰が称えるのか。先ほどまで心愛に向けられた懐疑の目は、一気に勇者を称える目に変わった。
 こいつらの中で、目の前の非常識人より、私への憎しみのほうが上回るのか。こいつらは一体、私の何をそこまで嫌っているのか!!

 満足げに勝気な表情を会場に向けている心愛。


 けれど、彼女の頭上にある照明の花が、突然赤くチカチカと点滅し始める。


 その異常事態に、控えていたアウレリウスは防御態勢に入り、他の教授の面々も身を乗り出す。

 

「キャアアアアアアアアアア!!!」

 心愛の悲鳴が鳴り響き、彼女は頭を抑えてしゃがむ。緊急事態と認識したアウレリウスが、急遽心愛に防護幕を張ったために、心愛は無事なようだ。火花は散り、延焼はないものの突然の命の危険に、場は騒然となった。硝煙の匂いが立ち込め、緊急事態であることを嗅覚からも伝えてくる。

 新入生たちは目の前で起こった出来事に慌て、やってきた在校生や家族たちは逃げ出すもの、子供の安全を確認しようとするものでごった返す。一方、家族たちの席から一人、私に近づいてくる黒マントがいた。

『せんせ、もうちょっとであの女を仕留められたのですが、防護なんて言う余計なことをしてくる奴がいました。殺害に失敗してごめんなさい』

 変装したマラカイである。私は「お前がやったのか!!」と胸倉を掴むが、マラカイはひょうひょうとしていた。

『だって~、あの女、先生に宣戦布告したんですよ?だったらせんせ~の一番弟子の僕への挑戦状ってことじゃないですか~』
『いらんいらん!!あのタイミングでやったら完全に怒った私の犯行って思われるだろうが!!私はあくまでギリギリまで自分の正当性を確保したいんだよ!!』

 現に、「ローゼルアリオンの怒りだ・・・」「器ちっせえな魔塔主って」と滅茶苦茶言われている!!

『も~我儘なせんせーですね。ちょっと待っててくださいね』

 マラカイは私から離れ、スタスタと壇上に登っていく。そしてマントを脱いだ。

「はーいみんな注目!!魔塔から来賓としてきたマラカイでーす!!今の爆発は僕の仕業です!!」

 会場がぴたっと静かになる。マラカイの名は知れ渡っており、皆の動揺は一気に落ち着きを見せる。マラカイは平民にして、その才能から100年に一度とも評されていた。故に、中には憧れの念を抱くものも多いのだ。

 やがて座席から離れていた者たちは、自分の席に戻る。今の爆発は見世物と判断したのだろう。けれどその見世物があまりに危険なパフォーマンスだったため、生徒やその家族たちは、安堵から段々怒りへと転じていく。場にはブーイングが起こり始めた。

 けれどマラカイは動じない。それどころか、見下したような態度で会場を見渡す。そして口を開いた。

「お前たちは何のためにここに来たんだ?」

 マラカイは厳しいまなざしを会場に向ける。不満を吐いていた面々は、マラカイの威圧に思わず動きを止める。

「ここは魔法学園で、いわば他国でいう士官学校。それが目の前の爆発程度に慌て、騒ぎ、しまいには危険だからと怒る?それを理不尽というのなら、さっさと帰れ。そこの王子も言っていたが、ここの学園の理念はいかなるときも気品のある生徒だ。貴様らみたいな突然の事態にも対応できない軟弱な者を、この学園は求めていない」

 圧倒的場の掌握。彼の絶対的強者の圧に、誰もが息をのんだ。
 これこそが、魔法の頂点に最も近いものと、そうでない有象無象との違い。
 歴戦であるはずの教授陣すら、恐怖に顔を歪ませていた。

 当然だが、あれほど苦労して合格を掴んだ以上は誰も帰らない。そしてもう一つ、彼の言うことには理屈が通っているからだ。ここは魔法学園で、戦いを教わる場所。今のようなことは日常茶飯事なのだ。それが怖ければ、最初から入るほうがおかしい。

 場はマラカイに掌握される。けれど、空気の読めない人物が一人いた。

「あんたが魔塔主ローゼルアリオンの手下ね!!私はあんな悪人にぜーったい負けないんだから!!」

 どれだけ正当性のある理屈を述べても、一人の感情論をかざすものには勝てない。会の終了直後、心愛は一年達から英雄視された。
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