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犯人探求編
12.元婚約者・ジェルド
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『ローゼルアリオン。また、お前が首席だってな。一方の俺は次席だ。毎度毎度変わらんな』
『そうだな、それが嫌ならもっと努力して私を越えて見せろ、婚約者殿』
『本当に、忌々しい。一応確認はするが、教師を洗脳して答えを聞き出したという噂は本当か?』
その質問に対し、私はじっとジェルドを見た。当然やっていない。完全に根も葉もない噂だ。けれど、やっていないことの証明は出来ないように、私がどれだけ言葉を重ねたとて、誰も信じてはくれない。いや、私も最初は抵抗した。やっていないと何度も他の人には言った。けれど、それでもなお流れているということは、誰一人信じてくれなかったということだ。故に、目の前のジェルドに対しても、私はただただ無力だった。
諦めていた。けれど誠実に生きていれば、いずれは誰かが理解してくれるだろうと。それだけを信じていた。
今日から最初の授業が始まる。呪文学は元婚約者のジェルドが担当している。
ジェルド。呪文学の教授にして、私の元婚約者。表情は常に変化は無く、それが格好いいと非常に人気が高い。
なお、婚約者になった経緯は、家の命令だ。ジェルドは商人上がりの武器の製造・売買に特化した男爵家で、一方私は伝統はあるが段々と財産が目減りしてきた子爵家。私は家族から疎まれていた事もあって、長男で同性というのに、押し付けられた。
故に私たちの中に全く愛はないどころか、今では向こうからは会話を拒否されるくらいに嫌われていた。
「では俺の授業を始めるが、最初に注意事項を述べる。俺は非常に厳しい。故に、簡単には単位を得られないと覚悟をしておけ。では始める」
教科書を開き、新入生が相手というのに特段進め方の講釈無く授業は開始した。
「魔法は光と闇という特殊なタイプを除けば、火・土・水・氷・緑など色付きに分かれ、タイプに当てはまらないものは無属性としている。無属性は攻撃性は低い反面、誰もが使いやすいというメリットがありー・・・」
そして一連の講釈を終えると、次に無属性魔法の実践に移行する。最初の魔法は物を引き寄せる魔法、宙に浮かべる魔法、遠ざける魔法の三点だ。
「うへ~、流石国内最高の魔法学園、しょっぱなから三つ覚えなきゃあかんのか~」
「この三つは魔法使いの基礎中の基礎だからね。使えて当然なんだよ」
アバラと私はこそこそと語り合っている。学園は優秀な者を入試で取り揃えているため、最小限の説明で出来ることを前提にして一つ当たりの授業はかなり詰め込むのだ。この呪文学では一コマ90分授業で、講義がひと段落すると魔法を行使出来た者から帰ってよしというシステムになる。
ここの面々は魔法を使って実力で入学してきた面々ではあるものの、基本的に己の得意とする炎や水やといったものを各々で勉強している。すると、逆にこういった基礎はおろそかになっている者が大半だ。
「だってさ~、物を浮かべたり出来たところで、この学園は合格できひんやん。確かに便利やけど、俺たち魔法使いは基本的に15歳くらいに魔力が開花するから、一年後の受験に合わせると戦闘魔法に特化させんとあかんもん」
「よし、アバラ。コツを見せるからちょっと見ててね」
正直アバラのことはどうでもいいのでさっさと実技を終えて単位を貰っておきたいが、真っ先にジェルドの元へ魔法を見せに行くと、初心者のはずなのにあまりに優秀すぎて目立ってしまうので、アバラで暇をつぶすことにする。
「まずは物を引き寄せる魔法。頭の中で物の軌道を作って『アトラクト』と呟けばいいよ。アトラクト」
すると、ペンが私の手元にすっと引き寄せられる。
「おお、すっげ!コツは?コツはどうやったん?」
「・・・初めてだろうに、確かにすごいなお前。名は?」
誰かが話しかけてきた。私はふと後ろを見ると、知らないうちにジェルドが立っていた。いつの間にいたんだ。さっきまで生徒を待つために前にいたのではなかったか。どうして私に注目を。
いや、違う。周囲もこちらを見ている。分かった、その原因はアバラだ。
こいつ・・・滅茶苦茶声が大きくて通るのだ・・・・
やがて、魔法の実践が恥ずかしくて少しもじもじとしてた面々が、自分の心の声を代弁してくるアバラの声を耳にしてこちらに意識を割いたのだろう。そしてそれに乗じてジェルドもやってきた。くそ、目立たない私の算段が、初っ端からおじゃんになり始めている・・・!!
「僕はアリオン、です」
「アリオン?それはまた、縁起の悪い名前だな。覚えておく」
絶対ローゼルアリオンのことを思い出したうえで縁起が悪いって言っただろう、こいつは。婚約者に対してなんという暴言。
けれど、彼から褒められたのは学園時代の時から一度もないため、それだけは少し嬉しかった。
ジェルドは私の格好を一瞥した後、すたすたと違う席に向かっていった。こちらに集まっていた視線もジェルドが去ったことで各々のペンを見始めた。立木心愛もこちらを無表情に見ていたが、やがて視線を戻して魔法を成功させる。レオもやはり、優秀なだけあってすぐに成功させた。
アバラも自分の魔道具の籠手を身に着け、アトラクトと呟く。すると、じわりじわりとペンが動き、やがて手の中に納まる前に、机をコロコロと転がって止まった。
「大事なのはイメージだよ。軌道を頭の中で作るんだ。あと、呪文の恥を忘れて」
「よっしゃ!!アトラクト!!」
するとペンは弾丸レベルのスピードで飛び、咄嗟にかわしたアバラと、丁度後ろにいたレオの髪を掠っていく。やがて壁に突き刺さった。パラパラと後ろで音を立てていた。
今の恐怖映像を見て怯えたのか、加減を間違えると自分の体に穴が開くと理解し、教室内は異様な空気に包まれる。
「あー・・・、コホン。そこの青髪。お前は補習だ」
「やだー!!最初の授業からー!!」
「それと、アリオン。お前は今から俺の補佐になれ。早速呪文の使い方を梃子摺っている面々にコツを伝授してこい」
嘘だろ、初日でモブ生徒から補佐に昇格してしまった・・・。
「いいえ、ジェルド教授。今のアバラの馬鹿さは僕の教え方のまずさによります。僕では身に余る立ち位置かと」
「うるさい。お前の意見など聞いていない。さっさとやれ」
こいつ・・・!!
なんでこんな強引なんだ?別に補佐が無くともこいつだったらスマートに授業をこなしているはずだ。まさか、私のことをローゼルアリオンと疑っているのか・・・?疑っているうえで監視しようと?
いや、私はまだ魔法の才能が開花する前はこいつと会っていない。私の顔をつぶさに観察していたアウレリウスとは違って、こいつは私と目を合わせるのも嫌がっていた男だ。私の顔のパーツすら覚えていないはず。
私は立ち上がり、のろのろとジェルドの方向へ歩く。しかし、同時に一人の人物が挙手をした。
「はいはい!ジェルド先生!!私も先生の補佐を希望します!!」
立木心愛だ。マラカイやアウレリウスとはまた違った系統ではあるが、ジェルドもまた男らしい惹かれる容姿をしている。故に、女子たちからは密かに人気が高い。まあ、私は学生時代にこいつの婚約者ということで仇のような目で見られていたが・・・。
立木心愛も、ジェルドのあの容姿と、堅実な空気に惹かれたのだろう。そのため立候補した。
「僕も、彼女が補佐のほうが向いていると思います。ですので・・・」
「黙れ。俺が決定したことは覆さん。そして一つ言っておくことがあるが・・・」
ジェルドは目の前の机を思いっきり叩く。心愛は、それを見て大いに体を震わせて驚いていた。
「俺は能力の無い奴が上に行く行為、称賛されることがこの世で一番嫌いだ。光魔法と、ただ人目を引くだけの突飛な行動だけで、この学園をのし上がれるとは思わんことだな」
ジェルドは心愛を睨みつけ、一方大勢の前で睨まれている心愛の双眸には涙がたまり、顔は真っ赤になっている。大勢の前で威圧をかけられるというのは、プライドの高い彼女にとってこれ以上ない屈辱だろう。
・・・そしてジェルド。君のその発言はあれだろ。絶対私のことを不正で上にのし上がった無能と批判しているだろ。この調子から察するに結局、こいつに人生で一度も信じてもらうことは出来なかったんだな。
まあいい。この一年の終わり、どうせこいつとは最後に殺しあうことになる。学園には手ごわい連中が散見されるものの、一番面倒なのがこいつだろう。もちろんジェルドが犯人であれば、不意を打つ。今のうちにこいつからの信頼を勝ち取っておけば、いずれは私に油断をしてくれるだろうから。そう考えれば補佐も悪くはないのかもしれない。
やがて授業は終わり、補佐になった私は片づけを手伝う。補佐ということは教室の掃除も私を当てにしているだろう。けれど、魔法を無駄に使いたくは無いので、掃除用具を探す。
「おい、風魔法を教えてやるからこっちにこい」
ジェルドは掃除に困っているだろう私に近づいてくる。ジェルドは自身の魔法具であるモノクルに軽く指を添える。そしてその指を前方に動かした。すると四方から風が起こり埃が収束していった。
・・・運動の起点が複数ポイントに作られており、上手に一か所に集まるように調整されていた。
通常、魔法というのは発動の為の起点をどこに作るのかが重要になってくるのだが、それが複数あればあるほど難しい。数学で例えるのなら、算数の足し算をやってるのが起点の一つ目とすると、方程式をするのが起点の二つ目、2乗の関数計算をするのが起点の三つ目というように、それらの計算式を一気に同時並行する感じだ。それも増えるたびに難しくなっていく計算を、だ。
一方のマラカイや私は、そういった複雑な計算を同時にするよりも、一度の計算を一瞬で終わらせていくというスタイルだ。高速詠唱はまた普通の魔法式とは違うため、三乗の関数計算を一つずつ高速で解いていくという感じ。
どっちが難しいかと言えば同時並行の前者のような気もするが、まあ、人には向き不向きがあるからな。
要するに、起点の同時展開が増えれば増えるほど、難易度が桁違いに難しくなっていく。けれどそれをこのジェルドはさしたる様子もなく、簡単にやってのけた。
「・・・すごいですね、教授は。僕もいつか、そんな風に魔法術式を展開できるようになるんでしょうか」
「知っているか。風の魔法の複数起点術は、すべての魔法の中でも難易度は上位に入る。風自体は簡単に起こせるが、今のように複数方向から軌道を計算する必要があるんだ。そのせいで難易度が跳ね上がっている」
今、私が心の中で分析した通りのことをジェルドは話す。しかし、掃除を教えに来たのに、わざわざ真似できないような技術を伝授しているのだろうか。
「魔塔主ローゼルアリオンは、在学中にこっそり教室に忍び込んでいた。それを外部から目撃されては、悪い噂が流れていたが、俺は奴が去った後に教室を点検した。何かしようものなら証拠を集めて告発しようと思ったからな」
こいつ・・・。隙あらば私を蹴落とそうとしてたのか。
けれどレオの言っていたことを思い出す。上に立つ者というのは、常に悪意を持って解されると。私が首席でいることで、こいつは私の不正を常に疑っていた。
「けれど、床や窓が妙に奇麗になっていただけで、特にこれと言って教室に異常は無かった。あいつは教室では本当に掃除だけをすることで自分の魔法を磨いていた。まあ、私とは違って高速詠唱による起点を作り続けるというスタイルだろうから、今見せたものとは違うのだけれどな」
「つまり、教授は僕に、掃除で稽古を付けてくれると・・・?」
「いや、毎年私が見込んだものにこれを話すと、自分で考えて自分なりの方法でやっていく。魔法は合う合わないがあるからな。この間のお騒がせ迷惑男のマラカイ。あいつも、この話をすると真面目にやっていったよ。まあ、あいつの場合は魔塔主のことを異様に崇拝していたからというのもあるだろうが」
・・・初めて聞いた話だ。ジェルドが私の告発を狙っていた事実も、マラカイが掃除をしていた事実も。
たった視点を一つ変えただけでこれまで知り得なかった事実を拾っていく。けれど、私の不正を疑っていたうえで私に何もなかったのなら、どうしてジェルドは私を嫌うのか。
「ジェルド教授は、魔塔主のことは、どう思ってますか?」
「私は私を嫌う人間が嫌いだ。能力の比較だけで相手を見下す人間もな。あいつの魔法や努力は尊敬していた。けれど、こちらをあざ笑うような心の醜い婚約者を、一体誰が歓迎するというんだ」
見下した覚えも、あざ笑った覚えもない。けれど、私はこういう暗い性格だから、そういう風に受け取られることも多かっただろう。もちろん私は今、正体を隠しているためそういった類の反論は出来ない。
風魔法を素人のように偽装し、掃除を終え、私は教室を後にした。
『そうだな、それが嫌ならもっと努力して私を越えて見せろ、婚約者殿』
『本当に、忌々しい。一応確認はするが、教師を洗脳して答えを聞き出したという噂は本当か?』
その質問に対し、私はじっとジェルドを見た。当然やっていない。完全に根も葉もない噂だ。けれど、やっていないことの証明は出来ないように、私がどれだけ言葉を重ねたとて、誰も信じてはくれない。いや、私も最初は抵抗した。やっていないと何度も他の人には言った。けれど、それでもなお流れているということは、誰一人信じてくれなかったということだ。故に、目の前のジェルドに対しても、私はただただ無力だった。
諦めていた。けれど誠実に生きていれば、いずれは誰かが理解してくれるだろうと。それだけを信じていた。
今日から最初の授業が始まる。呪文学は元婚約者のジェルドが担当している。
ジェルド。呪文学の教授にして、私の元婚約者。表情は常に変化は無く、それが格好いいと非常に人気が高い。
なお、婚約者になった経緯は、家の命令だ。ジェルドは商人上がりの武器の製造・売買に特化した男爵家で、一方私は伝統はあるが段々と財産が目減りしてきた子爵家。私は家族から疎まれていた事もあって、長男で同性というのに、押し付けられた。
故に私たちの中に全く愛はないどころか、今では向こうからは会話を拒否されるくらいに嫌われていた。
「では俺の授業を始めるが、最初に注意事項を述べる。俺は非常に厳しい。故に、簡単には単位を得られないと覚悟をしておけ。では始める」
教科書を開き、新入生が相手というのに特段進め方の講釈無く授業は開始した。
「魔法は光と闇という特殊なタイプを除けば、火・土・水・氷・緑など色付きに分かれ、タイプに当てはまらないものは無属性としている。無属性は攻撃性は低い反面、誰もが使いやすいというメリットがありー・・・」
そして一連の講釈を終えると、次に無属性魔法の実践に移行する。最初の魔法は物を引き寄せる魔法、宙に浮かべる魔法、遠ざける魔法の三点だ。
「うへ~、流石国内最高の魔法学園、しょっぱなから三つ覚えなきゃあかんのか~」
「この三つは魔法使いの基礎中の基礎だからね。使えて当然なんだよ」
アバラと私はこそこそと語り合っている。学園は優秀な者を入試で取り揃えているため、最小限の説明で出来ることを前提にして一つ当たりの授業はかなり詰め込むのだ。この呪文学では一コマ90分授業で、講義がひと段落すると魔法を行使出来た者から帰ってよしというシステムになる。
ここの面々は魔法を使って実力で入学してきた面々ではあるものの、基本的に己の得意とする炎や水やといったものを各々で勉強している。すると、逆にこういった基礎はおろそかになっている者が大半だ。
「だってさ~、物を浮かべたり出来たところで、この学園は合格できひんやん。確かに便利やけど、俺たち魔法使いは基本的に15歳くらいに魔力が開花するから、一年後の受験に合わせると戦闘魔法に特化させんとあかんもん」
「よし、アバラ。コツを見せるからちょっと見ててね」
正直アバラのことはどうでもいいのでさっさと実技を終えて単位を貰っておきたいが、真っ先にジェルドの元へ魔法を見せに行くと、初心者のはずなのにあまりに優秀すぎて目立ってしまうので、アバラで暇をつぶすことにする。
「まずは物を引き寄せる魔法。頭の中で物の軌道を作って『アトラクト』と呟けばいいよ。アトラクト」
すると、ペンが私の手元にすっと引き寄せられる。
「おお、すっげ!コツは?コツはどうやったん?」
「・・・初めてだろうに、確かにすごいなお前。名は?」
誰かが話しかけてきた。私はふと後ろを見ると、知らないうちにジェルドが立っていた。いつの間にいたんだ。さっきまで生徒を待つために前にいたのではなかったか。どうして私に注目を。
いや、違う。周囲もこちらを見ている。分かった、その原因はアバラだ。
こいつ・・・滅茶苦茶声が大きくて通るのだ・・・・
やがて、魔法の実践が恥ずかしくて少しもじもじとしてた面々が、自分の心の声を代弁してくるアバラの声を耳にしてこちらに意識を割いたのだろう。そしてそれに乗じてジェルドもやってきた。くそ、目立たない私の算段が、初っ端からおじゃんになり始めている・・・!!
「僕はアリオン、です」
「アリオン?それはまた、縁起の悪い名前だな。覚えておく」
絶対ローゼルアリオンのことを思い出したうえで縁起が悪いって言っただろう、こいつは。婚約者に対してなんという暴言。
けれど、彼から褒められたのは学園時代の時から一度もないため、それだけは少し嬉しかった。
ジェルドは私の格好を一瞥した後、すたすたと違う席に向かっていった。こちらに集まっていた視線もジェルドが去ったことで各々のペンを見始めた。立木心愛もこちらを無表情に見ていたが、やがて視線を戻して魔法を成功させる。レオもやはり、優秀なだけあってすぐに成功させた。
アバラも自分の魔道具の籠手を身に着け、アトラクトと呟く。すると、じわりじわりとペンが動き、やがて手の中に納まる前に、机をコロコロと転がって止まった。
「大事なのはイメージだよ。軌道を頭の中で作るんだ。あと、呪文の恥を忘れて」
「よっしゃ!!アトラクト!!」
するとペンは弾丸レベルのスピードで飛び、咄嗟にかわしたアバラと、丁度後ろにいたレオの髪を掠っていく。やがて壁に突き刺さった。パラパラと後ろで音を立てていた。
今の恐怖映像を見て怯えたのか、加減を間違えると自分の体に穴が開くと理解し、教室内は異様な空気に包まれる。
「あー・・・、コホン。そこの青髪。お前は補習だ」
「やだー!!最初の授業からー!!」
「それと、アリオン。お前は今から俺の補佐になれ。早速呪文の使い方を梃子摺っている面々にコツを伝授してこい」
嘘だろ、初日でモブ生徒から補佐に昇格してしまった・・・。
「いいえ、ジェルド教授。今のアバラの馬鹿さは僕の教え方のまずさによります。僕では身に余る立ち位置かと」
「うるさい。お前の意見など聞いていない。さっさとやれ」
こいつ・・・!!
なんでこんな強引なんだ?別に補佐が無くともこいつだったらスマートに授業をこなしているはずだ。まさか、私のことをローゼルアリオンと疑っているのか・・・?疑っているうえで監視しようと?
いや、私はまだ魔法の才能が開花する前はこいつと会っていない。私の顔をつぶさに観察していたアウレリウスとは違って、こいつは私と目を合わせるのも嫌がっていた男だ。私の顔のパーツすら覚えていないはず。
私は立ち上がり、のろのろとジェルドの方向へ歩く。しかし、同時に一人の人物が挙手をした。
「はいはい!ジェルド先生!!私も先生の補佐を希望します!!」
立木心愛だ。マラカイやアウレリウスとはまた違った系統ではあるが、ジェルドもまた男らしい惹かれる容姿をしている。故に、女子たちからは密かに人気が高い。まあ、私は学生時代にこいつの婚約者ということで仇のような目で見られていたが・・・。
立木心愛も、ジェルドのあの容姿と、堅実な空気に惹かれたのだろう。そのため立候補した。
「僕も、彼女が補佐のほうが向いていると思います。ですので・・・」
「黙れ。俺が決定したことは覆さん。そして一つ言っておくことがあるが・・・」
ジェルドは目の前の机を思いっきり叩く。心愛は、それを見て大いに体を震わせて驚いていた。
「俺は能力の無い奴が上に行く行為、称賛されることがこの世で一番嫌いだ。光魔法と、ただ人目を引くだけの突飛な行動だけで、この学園をのし上がれるとは思わんことだな」
ジェルドは心愛を睨みつけ、一方大勢の前で睨まれている心愛の双眸には涙がたまり、顔は真っ赤になっている。大勢の前で威圧をかけられるというのは、プライドの高い彼女にとってこれ以上ない屈辱だろう。
・・・そしてジェルド。君のその発言はあれだろ。絶対私のことを不正で上にのし上がった無能と批判しているだろ。この調子から察するに結局、こいつに人生で一度も信じてもらうことは出来なかったんだな。
まあいい。この一年の終わり、どうせこいつとは最後に殺しあうことになる。学園には手ごわい連中が散見されるものの、一番面倒なのがこいつだろう。もちろんジェルドが犯人であれば、不意を打つ。今のうちにこいつからの信頼を勝ち取っておけば、いずれは私に油断をしてくれるだろうから。そう考えれば補佐も悪くはないのかもしれない。
やがて授業は終わり、補佐になった私は片づけを手伝う。補佐ということは教室の掃除も私を当てにしているだろう。けれど、魔法を無駄に使いたくは無いので、掃除用具を探す。
「おい、風魔法を教えてやるからこっちにこい」
ジェルドは掃除に困っているだろう私に近づいてくる。ジェルドは自身の魔法具であるモノクルに軽く指を添える。そしてその指を前方に動かした。すると四方から風が起こり埃が収束していった。
・・・運動の起点が複数ポイントに作られており、上手に一か所に集まるように調整されていた。
通常、魔法というのは発動の為の起点をどこに作るのかが重要になってくるのだが、それが複数あればあるほど難しい。数学で例えるのなら、算数の足し算をやってるのが起点の一つ目とすると、方程式をするのが起点の二つ目、2乗の関数計算をするのが起点の三つ目というように、それらの計算式を一気に同時並行する感じだ。それも増えるたびに難しくなっていく計算を、だ。
一方のマラカイや私は、そういった複雑な計算を同時にするよりも、一度の計算を一瞬で終わらせていくというスタイルだ。高速詠唱はまた普通の魔法式とは違うため、三乗の関数計算を一つずつ高速で解いていくという感じ。
どっちが難しいかと言えば同時並行の前者のような気もするが、まあ、人には向き不向きがあるからな。
要するに、起点の同時展開が増えれば増えるほど、難易度が桁違いに難しくなっていく。けれどそれをこのジェルドはさしたる様子もなく、簡単にやってのけた。
「・・・すごいですね、教授は。僕もいつか、そんな風に魔法術式を展開できるようになるんでしょうか」
「知っているか。風の魔法の複数起点術は、すべての魔法の中でも難易度は上位に入る。風自体は簡単に起こせるが、今のように複数方向から軌道を計算する必要があるんだ。そのせいで難易度が跳ね上がっている」
今、私が心の中で分析した通りのことをジェルドは話す。しかし、掃除を教えに来たのに、わざわざ真似できないような技術を伝授しているのだろうか。
「魔塔主ローゼルアリオンは、在学中にこっそり教室に忍び込んでいた。それを外部から目撃されては、悪い噂が流れていたが、俺は奴が去った後に教室を点検した。何かしようものなら証拠を集めて告発しようと思ったからな」
こいつ・・・。隙あらば私を蹴落とそうとしてたのか。
けれどレオの言っていたことを思い出す。上に立つ者というのは、常に悪意を持って解されると。私が首席でいることで、こいつは私の不正を常に疑っていた。
「けれど、床や窓が妙に奇麗になっていただけで、特にこれと言って教室に異常は無かった。あいつは教室では本当に掃除だけをすることで自分の魔法を磨いていた。まあ、私とは違って高速詠唱による起点を作り続けるというスタイルだろうから、今見せたものとは違うのだけれどな」
「つまり、教授は僕に、掃除で稽古を付けてくれると・・・?」
「いや、毎年私が見込んだものにこれを話すと、自分で考えて自分なりの方法でやっていく。魔法は合う合わないがあるからな。この間のお騒がせ迷惑男のマラカイ。あいつも、この話をすると真面目にやっていったよ。まあ、あいつの場合は魔塔主のことを異様に崇拝していたからというのもあるだろうが」
・・・初めて聞いた話だ。ジェルドが私の告発を狙っていた事実も、マラカイが掃除をしていた事実も。
たった視点を一つ変えただけでこれまで知り得なかった事実を拾っていく。けれど、私の不正を疑っていたうえで私に何もなかったのなら、どうしてジェルドは私を嫌うのか。
「ジェルド教授は、魔塔主のことは、どう思ってますか?」
「私は私を嫌う人間が嫌いだ。能力の比較だけで相手を見下す人間もな。あいつの魔法や努力は尊敬していた。けれど、こちらをあざ笑うような心の醜い婚約者を、一体誰が歓迎するというんだ」
見下した覚えも、あざ笑った覚えもない。けれど、私はこういう暗い性格だから、そういう風に受け取られることも多かっただろう。もちろん私は今、正体を隠しているためそういった類の反論は出来ない。
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