誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

15.魔法実技学

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「火の球をぶつけるだの、氷柱を落とすことに固執して、大抵のものは戦闘が何かということを忘れる。必ずしも魔法使いの戦いは、一度で相手を倒すことは求められないのだよ。今日は浮遊魔法の実戦練習を行おう」

 魔法実技学の教授・ドレイヴンがそう告げる。ドレイヴン教授。平民出身御年50歳の、私が魔塔主になる前から学園に勤務している人だ。それ以前は魔塔に勤務していたらしい。私も生徒時代に彼の授業は受けているものの、基本的に人を見下す態度なので、合わないと判断した私は速攻で単位をそろえた。

 魔法学園では、方針としては戦闘術を基軸にして進めていく。故に今日は屋外で、魔法実技学ではマネキンに向かって、習いたての魔法をぶつける訓練をする。
 今日は浮遊魔法の訓練で、私は今度こそ目立たぬようにするつもりだ。

 そう、魔法を使わねばならない授業では、魔力を当然消費するのである。すると、魔力問題で困窮している私としては一発で成功させたい。故に、まずは魔道具がまるで不調とでもいうように、皆が実践している中で自分は突っ立っていた。
 当然一発で成功させる奴はいない。教授のドレイヴンも「今年はこの程度か」と溢す。しばらくすると、やがてちらほらと成功するものが出てきた。

 レオも無事成功させ、授業終了の印を貰う。一方のアバラは案の定うまく行っていない。心愛は流石主人公か、早いうちにクリアしている。やがて出来ていない生徒の元へ回っては、伝授していた。呪文学の時の当てつけだろう。

 魔法は遠距離であれば遠距離であるほど演算能力が問われる。ようするに、アホでは難しいのだ。だからアバラは近接を重視して籠手を使っているのだろうが、この学園の魔法指導との相性は悪い。アバラは手を広げて魔法陣を展開するものの、中々コントロールがうまく行かない。
 レオはアバラを助けるために、終わったにもかかわらず俺たちの元へとやってくる。

「さっきやってみて何となくコツは分かったから僕の言うとおりにして。大事なのはイメージだから」
「あかーん、やっぱ俺才能あらへんわ~」

 落ち込むアバラに私は近づく。

「大丈夫だよ、僕だってほら、まだできてないからさ!まだ一年だから、頑張ろうよ」

 私とレオで励ましあう。そんな私たちの元へ、面倒くさそうな表情をしたドレイヴン教授が近寄る。

「ふん、『まだ一年だから』?悪いが、これまで首席を取ってきた者たちは例外なく、最初の授業で頭角を現していた。落ちこぼれが成り上がった例などない。残念ながら、お前たちには才能は無いのだよ。諦めろ」

 腕を組み、ただ鼻で笑う。そういえば、私も学生時代はそうだったかもしれない。記憶にないくらい、速攻で終わらせたような。とはいっても事前に予習を積んでいただけではあるが。

「ローゼルアリオン、マラカイ、アウレリウス。このあたりが有名どころだな。全員吾輩の生徒だよ。この目で彼奴らの才能を見出し、育て上げた」

 ふふん、と今度は自慢げになった。マラカイとアウレリウスの真偽は知らないが、少なくとも私はこの人のことを恩師と認識したことはない。おそらくだが数回担当しただけのことを誇張して周囲に吹聴しているのだろう。

「そんな吾輩が宣告するが、青髪と地味。お前たちに才能はない。早めに魔法使いの道は諦めて進路選択をし直した方がいい」
「な、なんやて!?」

 待て待て、私はまだ魔法を使ってないぞ。一度も見ていないのにどうしてそんなことがわかるんだ。まあ、十中八九先着順に才能を見極めているだけだろうが。
 とはいえ、習得速度というのは確かに才能を見極めるうえで大きい。座学で例えたほうが分かりやすいか。
 一冊の本を読むのが早い奴と遅い奴。当然早い奴の方が短時間で知識を吸収できる。そして要領の良いものほど、何度も繰り返すことで習得すればいいということを本能で知っている。一方の遅い奴というのは、情報の取捨選択が遅い。故に二週目に行く段階でかなりの時間がかかり、一週目のすべてを忘れてしまう。だから何も吸収できずに終わる。やることなすこと何もかもが遅い。結果早い奴と遅い奴の差は段々開いていく。

 そしてこれもまた才能である。遅い奴にペースアップをしろと言ってもなかなか通じるものではない。だからこそ、指導する側の技術が問われるのだ。私はアバラの傍らに立った。

「アバラは難しく考えすぎなんだよ。イメージは簡潔に。見てて」

 私は巾着袋を掲げ、マネキンに浮遊魔法をぶつける。すると、浮いた。

「最初から全部を動かそうとするんじゃないんだ。まずは相手の身体の重心を見極める。深くは考えようとせず、とりあえずは本能に従ってみて。理論はちゃんと後からついてくるからさ。アバラは近接戦闘は得意だろうからイメージは繰り返せば出来るから」
「ええ・・。やっとるんやけどなぁ。でももう一回やってみるわ。ええと、重心重心」

 何度も何度も繰り返す。最初は足だけが浮いてひっくり返り、戻してはまた挑む。レオも手伝っては指南する。そしてやがて

「できたー!!な、な、マネキン浮いとるよー!!」

 魔法の発動は成功した。

「そのまま何度も繰り返していけば、必ずイメージは固まって安定するよ」
「よくやったねアバラ」
「うん、ありがと!ほんまありがと!!」

 アバラは私とレオを歓喜の余り抱きしめた。一方後ろから私たちを見ていた教授は、何も言わずフンッとだけ残して立ち去った。

「この学園は成績下位の者には退学システムがあるからなぁ。これも魔塔主やっけ?」
「そうだね。魔塔主が決めたね」

 アバラのつぶやきにレオが答える。そう、成績下位の者には退学制度を実施している。

 理由は簡単。学園に入ったらエスカレーターで就職できると思っている面々に鉄槌を下すためだ。つまりは日本の学校と一緒で、単位を落とせば学年が上がれないどころか、退去してもらう。

 なお、退学制度実施前は、勉強せず遊ぶ奴らが非常に多かったため、結局在学中になにも身に着けず、未熟故に卒業後での死傷が散見されたのだ。どのみちこの学園で下位をとるということは魔塔や軍部に入れず、魔導兵として魔獣討伐最前線に送られるだけの人生なので、リタイアさせてやった方がという温情である。

 けれど実際には目の前のアバラのように、教師に恵まれないタイプを見ていると申し訳なくなる制度ではある。けれどアバラは珍しく、今日は私への憎まれ口を言わなかった。

「なんか、色々魔塔主の話を聞いとるとさ。つい考えるんやけど、この退学システムも確かに、この程度の初歩すらついていけんかったら、俺が同じ立場でも別の道探しやって思うかもなぁ」
「・・・でも、アバラは結局魔法を使えた。才能を殺しているシステムでもあるかもね」
「うーん、せやねんけどなあ。なんやろ、悪意に解するとそうなるし、善意を持って解すると温情にも思えるし。ああ、俺頭悪いから全然分からんわあ」

 青い髪をくしゃくしゃとかき乱し、足りないなりに一生懸命考える。アバラは才能がないと自分を卑下するが、しかし理屈を聞いただけで呑み込めたのは十分素質がある。本物の才能無しは、理屈を言っても努力しても何も変わらない。そういう人物を私はこれまで何人も見てきた。

「でもなあ、やっぱ俺の才能を切り捨てられるのは腹立つで、絶対主席になって魔塔主見返したるわ!!待ってろ!!ローゼルアリオン!!」

 憎まれ口には違いないが、怨念とは違って宣言だ。中々悪くない敵宣言だと思う。一年後に、成長したお前と戦うことを今から楽しみにしているよ。レオもほほえましそうにアバラを見ていた。一方で隣の集団から声が響く。

「だから!そうじゃないって言ってるでしょ!要領悪いわね」

 立木心愛は出来ない生徒に当たり散らしていた。自分の指導で通じないと、人間怒りたくもなる。それにしては感情的であるが。やがて、立木心愛は周囲からやや距離を置かれ始める。

 アバラはじっと心愛を見た後に、「腹減ったから行こ」と私たちを促す。彼女のせいでやたら避けられているのに、何もせずこの場を去る決断をするとは。根は悪い奴じゃないのだろう。レオもうなずく。

 しかし、私もそれに倣おうとすると、今度は遠くから「アリオン!」と私を呼ぶ声が聞こえた。

 アウレリウスだ。

「昨日の落とし物の話!ねえ、今から向こうで話せるかな?」

 完全に「魔塔主」という単語が「落し物」という隠語になっている。私はコクリとうなずいた。アウレリウスへの手紙はちゃんと用意してあるものの、私のような平凡生徒が皆のあこがれの生徒会長に気軽に会いに行って渡せるわけがなかったのだ。どうしようかと思っていた矢先に向こうからやってきた。

「じゃあ僕は後で行くから、二人は先に行ってて」
「おうよ~。全くもう、おチビは一体どんなドスケベな落とし物したんや。王子様も食いつきまくりやん」
「このアホは僕が押さえておくから、アリオンは気にせず行ってきてよ」

 手を振り、二人とは別れる。
 アウレリウスは非常に落ち着きなく視線をさまよわせており、私からの手紙の返信を期待している。周囲に誰もいないため、小声だったら大丈夫だろう。

「はい、魔塔主からの返信を受け取っていますよ。安心してください」

 すると不安そうだったアウレリウスの表情は、一転して輝く。ここまで心待ちにされているというのも私としては感慨深い。

「けれど荷物置きの部屋の鞄の中にしまっています。少々お待ちいただけますか?」
「うん!僕も行くと目立つだろうから、ここで待っていたほうがいいね」

 すでに大分目立ってはいるが。
 憧れの生徒会長がやってきたせいで、まだ授業に残っている面々は頬を染めてこちらに視線を向けている。その中には嫉妬の念がこもる視線も感じる。まあいい、嫌われるのには慣れている。

 私は荷物置きの部屋に、急いで駆けた。屋外から屋内に入って、そこから少し距離があるのだ。これはセキュリティ的な観点から、建物の内部の方が盗難が起きにくいとの配慮だ。部屋に入り、自分の荷物の前に立ち、屈んで漁る。

 あった。昨晩一生懸命書いたアウレリウスへの手紙だ。正直、50枚の便箋に対してこちらが言えることは5枚が限界だった。あの子を巻き込みたくない以上は変に情報を落としたくはない。すると、挨拶、心配への礼、活躍への賛美などとりとめもない内容以上は、どうしても手が止まってしまった。

 これで満足してくれると嬉しいが。便箋の枚数にも違いはなく、勝手に誰も触ってないことを確認する。念のため自分の名を「R」とだけ表記したが、魔塔主との交流は見られて良いものではない。

 さて、アウレリウスも待っているだろうから行こうか。そう思ってドアを開けると、誰かが近づいて私の手紙を取り上げる。

「なあにこれ。手紙?あんた、アウレリウスと文通してんの?」

 立木心愛が、私の手紙を奪い、そして意地の悪そうな表情を向けてきた。
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