誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

19.詰問①

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 私は今、生徒指導室に拘束されていた。立木心愛の騒ぎ立てによって、私は闇魔法の禁止されているものの一つ、「昏倒魔法」を行使した疑惑がかかっている。

 おかしい。確かに私は立木心愛に向けて闇魔法を使った。けれどそれは昏倒魔法ではない。記憶消失魔法だ。

 私はアウレリウスの拷問を記憶から抹消させるために立木心愛の記憶を書き換えた。
 たしかに闇魔法を行使して他人の脳をかき混ぜると、当たり所が悪いと少しだけ障害が出ることがある。けれどそれを本人が認知することは困難である。それを一体どうして感知できたというんだ。

 拘束魔法で腕を縛られている目の前には、校長と、ジェルドがいた。ジェルドは生徒指導も担当している。

「さて、どうして自分が拘束されているか、理解しているか?」
「いいえ」
「ここにいる立木が、お前から闇魔法を行使されたと被害届を出した。我々も周辺を捜索したが、確かに闇魔法の使用の痕跡が残っていた。彼女が言うには、お前に会いに行ったはずなのに途中から記憶がない、と」
「そうなんです!記憶がなくなっているうえに気絶だなんて、絶対に闇魔法しか考えられません!」

 この女、私に一体何の恨みがあるというのかというくらいに突っかかってくるな。十中八九アウレリウスが私に時間を割いているのが原因だろう。
 さて、冤罪なようで、微妙に真相なのがまずいな。闇魔法のすべてが禁止されているわけではないが、大半は制限されており、そもそも行使自体が特定のポジションについていないとできないとされている。

 王になれば別だが、王太子はアウトだ。故に、実際に闇魔法で拷問を行使したアウレリウスを庇わなくてはいけない。自分を潔白にしつつ、アウレリウスの疑いを逸らす。

「僕は魔法実技学の終わり、荷物を取りに行っていました。そこからは生徒会長と行動を共にしております。彼が僕の無罪を証明できるはずです」
「悪いけれど、貴方がアウレリウスに会いに行ったことは私だって知ってるわよ。けど、私と彼が文通しているのが気に食わなくて割り込もうとしたじゃない」

 立木心愛の発言が頭で理解できず、私は思わず固まる。こいつは、何を言ってるんだ?

 どういう思考回路をしていたらそんな記憶修正が出来るんだ?どうして自分を正当化するためだけにそんなストーリーをぽんぽんと考えられるんだ?

 いや、思い返すと、元の世界でもこういうタイプの人間は割と少なくなかったか。感情のままにしゃべり、都合のいいように記憶を捻じ曲げる。そのくせ本人は自分が間違っていないと信じているせいで、言葉に強みがあるがゆえに、周囲を巻き込む。自己愛性人格障害、というんだったか。

 こういう人間にどんな理屈を言っても通じない。完璧な証拠を提示したとて、このタイプは延々と自分の罪を認めたがらない。いわゆる炎上系に近いのだ。そして隣にいる校長も、この心愛寄りのように思う。すると、疑われている私一人で潔白までもっていくことは大変難しい。疑われている人間の言葉など、払いのけられて終わるのが関の山だ。

 仕方がない。私はこの学園に犯人を追跡するためにやってきたが、ここは犯人を追うことを諦めて、罪をすべて引き受けて一度学園を去るべきか。
 そんな私に対し、ジェルドは話しかける。

「立木の主張を肯定するか?」
「もし、肯定すると僕はどうなりますか?」
「それはもう、資格のない者の闇魔法は重罪だ。お前は監獄に送られ、そこで一生を費やしてもらう。貴族であれば退学で終わったが、お前は平民だから終身刑になってしまうのは本当に可哀そうだと思うが」

 ・・・そうなるだろうな。とすると、今ある力を振り絞って転移を使い、マラカイと合流するか。あいつとなら学園外で、一旦態勢も整えられるだろう。問題は今、私を縛っているこの拘束だな。光魔法で拘束具を作られており、大人になった私でも破壊は一筋縄にはいかない。

「新入生のアリオン君、と言ったかね。どうして彼女にこんなことをしたんだ。新入生総代だったから嫉妬したのかね?なんて醜いあり方だ、我が学園には相応しくないね」

 校長が私に話しかける。この姿になってもなお、私は疑念を抱かれてばかりだな。そんな私を庇うように、立木心愛は前に立つ。

「校長先生!彼は私の聖女としての立ち位置がうらやましく思っただけなのです!彼も折角頑張って入学したのですから、せめてこの件を明るみにして皆の反面教師として在籍させるのはいかがでしょうか!?」

 私を反面教師として在籍させる。つまり、恩情で許した立木心愛は更にみんなから尊敬され、一方の私は三年間蔑まれる。
 ・・・こいつ、人を貶めようとしているくせに、私から恨まれることは避けようとしているな。人が陰で悪口を言うのは、本人に聞かれて自分が嫌われるのは嫌であるのと一緒で、こいつもまた誰からも嫌われない、愛される聖女様を演じようとしている。
 手紙の件も、ひょっとしたら本当に心の底から善意でああやった可能性が出てきたな。お前にふさわしくないから、王子にふさわしい私がやってあげたほうがいい、というように。
 心愛は私の腕の裾を掴む。手を掴まなかったのは、私という醜いものは出来うる限り触りたくないからだろう。

「ね?罪を認めて反省をしてほしいの。そうすればあなたの罪を軽減できるから」

 それどころか、こいつは私に感謝してほしいとさえも思っているのか・・・!!

 気持ち悪い。
 本当に、世界が自分を中心に回っていると信じている化け物だ。

 けれど、冷静に考えたら私も同じことをやっていたかもしれない。人を助けたいと思って、皆の反感を買う制度をいくつも作った。そのくせ心の奥底では感謝の言葉を期待し、嫌われたら根に持つ。私もこいつも、やってる根本は一緒なのかもしれない。

「再度確認するが、本当にお前はやったのか?」

 ジェルドは私に確認する。学生時代、私はこいつを説得することを諦めた。諦めたからこそ、私の無言を肯定と受け取った。きっと、ここでどれだけ足掻いたとしても、嫌われる運命の私は冤罪を晴らせないだろう。
 けれど戦うことを諦めたからこそ、結局私の悪評は晴れなかった。あの時、違うものを違うと言っていれば、何かが変わったかもしれない。

 そう、命を落としてせっかく新しい戦いを始めたんだ。

 前回とは違うやり方で、私は戦おう。


「・・・確かに、僕はそちらの立木心愛さんに魔法を使用しました」
「なるほど。よく罪を告白してくれたね。彼女の恩情に免じ・・・」
「しかし、闇魔法は使っておりません。なおかつ立木さんから闇魔法を行使されたと、正当防衛を主張します」

 どうせ闇魔法を行使したことは本当だ。痕跡も残ってしまっている。そして、真相を突き詰めれば、アウレリウスは自首をするだろう。

 そうはさせない。
 事実を捻じ曲げて、私は立ち向かう。
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