誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

22.暗部組織襲来

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中間試験の内容は、紫紺の森を抜けて決められたエリアに向かうこと。それだけだ。
 その先着順で成績が付けられる。

 それにしても、再びここに戻ってくるとは。何故私の指定を無視してこの禁止エリアで実施するんだ?こんな危険を犯さずともダンジョンでもなんでも即席で作ればいいだろうが。

 私の死を知っている人間でもない限り、こんな強硬策は出来ないはず。

 試験の説明は今朝既に行われており、改めて何か知らされるということは無い。私は木々のエリアに飛ばされ、周囲に私以外誰もおらず、やがてどこからか開始を告げる爆音が鳴り響く。私はその音と共に巾着を掲げた。

 さて、この試験で一体何を試されているのか考えてみよう。

 まずはゴール地点の探索。索敵スキルが求められる。
 次に、森に出てくる魔物と戦うか、逃げるかの選択。戦場での判断が求められる。
 それが制限時間3時間で行われる。

 人数が多いがゆえに互いを争わせて強引にライバルを蹴落とす趣向の入試とは異なり、試験はシンプルだ。シンプルがゆえに、言い訳が効かない。

「さてと、ゴールにはジェルドの魔力が込められた木があると言っていたな。他者の微かな魔力を、こんな広大なエリアで拾う必要がある。そもそも強者の居場所を正確に感知できるかというのは、実際の戦場でも死活問題になるからな。場所は気に食わんが、悪くない趣向だ」

 いけない、つい理事長視点で教師陣に評価を出してしまう悪い癖が出た。

 さて、元婚約者殿の魔力など、昔から知り尽くしている。どれだけ魔物や魔法生物による感知の引っ掛けがあろうと、方角と距離程度私には造作もなくわかる。この姿になって魔力を貯蔵できる器官は縮小しているが、マラカイと口づけをすることで出来うる限りで魔力は貯めてきた。

「ヌルゲーだな」

 完膚なきまでの速攻クリアを見せつけてあのエセ聖女を完封してやる。試験官がジェルドだったら不正だのなんだのとはあの小娘も言えんだろう。
 そして何より、あのエセ聖女が生徒会に入ったり、これ以上アウレリウスにべったりするのは私が許せない。アウレリウスは、もっとあの子に相応しい女と結婚するべきなんだ。立木心愛ではいかん。あれはアウレリウスの足を引っ張る。

「私が、良い令嬢を見繕っておかなくてはな。ふむ、おしとやかなタイプが好きだろうか、それとも意外と豪快なタイプが好きだろうか・・・」

 これも生徒会に入ってからじっくり聞くべきか。
 出来れば私の悪口を言わない令嬢だと嬉しいが、そんな女は砂漠で針を見つけるくらいに難しいだろうから、せめて冷静な考え方が出来る娘だと良い。

「・・・ん?ゴール地点が動いている?」

 感知したジェルドの魔力は、私からみて遠くに段々と移動していく。そっちに行くと、出てくる魔物が更に強くなるだろうエリアに座標がずれていく。

「おいおい、流石に学園入って一か月の段階で、ゴールがそっちの方向は駄目だろう。ったく、元婚約者殿は一体何を考えてるんだ!!」

 入試の時とは異なり、アウレリウスはこのテストでの巡回はしていない。彼もれっきとした学生であり、わざわざ下級生のテストを覗きにきたりはしない。すると、以前とは異なって生徒を守ってくれる存在というのは期待しない方がいい。
 アウレリウスが優しいだけで、この学園は死者が出ることを恐れない。だが。

「こんなところで生徒諸君に勝手に死なれてはかなわん。せめて死ぬなら一年の最後に私の魔法で死ね!!」

 ゴールに向けて急いで駆けた。早めに辿り着けば、危険性を訴えられるだろう。私の目的の障りになるのなら見捨てるが、まだ復讐まで十分時間はあるんだ。

 見知った光景を脳内の魔物の群生地マップと照らし合わせ、不要な戦闘を避けつつ駆けていく。時々交戦の音がするが、おそらく他の生徒だろう。とはいえ、ここ周辺は冷静に対処できれば何とかなる魔物で固められている。
 偶に悲鳴はするが、無視して私はゴールに走っていく。

(・・・?なんだ?教師でもなく、生徒でもない。知らない複数人の魔力反応がある?)

 ゴールまで残り50メートル。けれどその周辺に、明らかに学園の部外者の人間たちがいた。

「早く動かせ。ああ、ゴールにはダミーも用意しろ」
「馬鹿言うな、これだけの大木だぞ。今のこの速度よりも上は出せん」

 まるで作業服にも見える戦闘服を着た不審者たちが、ゴールのはずの大木を、根っこから引き抜いて運んでいた。二人が持ち上げ、一人が誘導している。

「入学したてのガキ程度なら、ダミーと本物の区別もつかんだろ。いや、優秀なものは本物に寄り、アホはダミーに寄るはず」

 逆探知されないように魔力は使わず、少しだけ頭を出して声の方向を観察する。

 魔塔主であった私だからこそ、些細な違いが分かる。あれは、この国の軍の暗部組織。つまり、軍部関係者だ。

 そもそも魔塔と軍とは協力的な関係にある。ただ、軍は魔法を使わない者たちも含まれる場所で、魔塔は魔法使いしか入れない場所、というような認識でいい。とはいえ、魔法使いは魔法を使えないものを見下し、魔法を使えないものは魔法を使えるものを排斥しようとしてきた歴史がある。故に、現在でも魔塔と軍の根本は不仲である。すると、魔塔主のお膝元になる学園に対しては、OBが多い一方で、ライバルの巣窟というわけでもある。

 そんな部外者の軍部の奴らがどうしてここへ。見るからに怪しい格好だが、小説ではローゼルアリオンが軍部を密かに掌握し、暗部組織は間接的な手先として暗躍していた。ここはお偉いさんの暗殺や、諜報、まあ要するに汚いことを諸々請け負っているところだ。

 それも試験の妨害なんて。そんなことをして、一体誰に何のメリットがあるんだ?

『優秀なものを呼び寄せる』と言っていたが、暗部組織は優秀な生徒が誰であるかを知ろうとしている?けれど知るだけだったら本来の試験の結果を待てばいいだろう。掲示板を見ればわかるだけのこと。

 ・・・つまり、優秀な生徒への危害を企んでいる、と考えるのが筋か。例えば誘拐とか。

 ふむ・・・。そうなると、私はここでこいつらを見逃し、ダミーに触れるべきだろう。本物に集まってしまった生徒連中には申し訳ないが、運が悪かったということだ。私は出来ればこの学園の奴らは自分の手で仕留めるという野望があったが、自分の身を危険に晒してまで助けてやるほどの義理はない。

 優先順位はあくまで明確に。自分の命が無くては復讐は果たせない。この身で暗部組織と勝てる確率など、0に等しい。
 故に、暗部組織がダミーを作り、本物を持って離れていくのを見計らって私は進んだ。

「この木に触れれば、試験は終了だな。おそらく、ダミーというからにはこいつは本物と酷似しているのだろう」

 手でぺたっと触れるが、何の反応もない。


 ・・・・・・・?


 ひょっとして、本当にジェルドもどきの魔力を適当に植え付けただけの、正真正銘のはずれ樹木なのか!?せめて本物に酷似したシステムはつけておけよ!!お前達、曲がりなりにも優秀な暗部組織だろうが!?

「あったー!!ゴール!!あれ、おチビやん!?ってことは、もしかして俺、二位ってこと!?ひゃ~嬉しい~!!」

 ダミーに釣られたアホが来た。
 アバラだ。急いで駆け抜けてきたのか、全身がボロボロになっている。

 ・・・私は生徒会に入らなくてはならない。そうしなくては、アウレリウスが落ち込んでしまう。すると、優秀な成績を残さなくてはならず、つまりはこのダミーでは駄目だ。

 本物に触れる必要がある。

「アバラ、よく聞いて。非常に残念なお知らせなんだけど、ゴールが盗まれた」
「あるやんここに。俺もタッチするでぇ!!おら!!」
「アバラは今の緊急事態が分かっていないと思うけど、僕は今から本物を取り返してくる。君は絶対にここから動かないで」

 相手は暗部組織。学園に入りたての人間が束になっても敵いはしない。

 察するに暗部組織は本物のゴールを有利な地点に移動させて、やってきた優秀な奴を数名誘拐するのだろう。さすがに全員を攫ったら表沙汰になる。けれど、数名だったらこの学園では事故扱いで終わる。

(怪しいのは向こうの崖のエリアか。高いところに陣取ったほうが周囲の状況が掴めやすいからな)

「よし、行くか」
「おう、行くで」

 アバラはさも当然のようについてこようとする。

「...アバラ、本当に危ないからここにいて。君が思っているほど簡単な相手じゃない」
「なら尚更取り戻さんと他の奴らが危ないやん。おチビ一人やと危ないて」

 確かに、こいつも退学がかかっている以上は既に生きるか死ぬかの状態なんだ。ついて来ようとするのは当然か。くそ、行くだけ行って一緒に異常事態を目撃したほうがいいか。

 探知を使うと、案の定崖のエリアに陣取っていた。暗部組織は急遽魔塔の衣装に着替えたようで、その周辺にたむろう。一方私は、気配を隠すために半径3メートルに、気配消しの陣を張った。

「んん?あれ魔塔の連中とちゃう?なら試験のスタッフさんということやろ。警戒せんでもええやん」
「いや、違う。さっきまで軍部の別衣装を着ていたんだ。あれはフェイクだろうね」

 ひょっとせずとも、暗部組織は攫うだけ攫って、万が一の時は我々魔塔側に擦り付けようとしているな。

「いやいや、性悪魔塔主が俺らにいやがらせしてる可能性のほうが高ない?」
「そんないやがらせをして魔塔主になんのメリットがあるの?」
「うーん、それもそうやなあ。俺は頭悪いから、判断はおチビに任せるわ」

 やがて、私たちの後方から誰かがこっそり近づいてくる。レオだ。

「僕が一位と思ってたらさすがだねアリオン。で、君たちはここで何をしているんだい?」

 私は顎をくいっとする。それだけで彼には状況が大体通じる。

「なるほど。ひょっとして、不審者かな?教師もいない場所に魔塔の面々がいるというのはおかしいね」
「本当に話が早い」

 魔塔主が学園の理事長にはなるが、基本的に魔塔側は学園側に人を送ったりなどの干渉は滅多にしない。しても、必ず事前に告知がある。レオもそれを知っているようで助かった。
 困ったことに、回り込んで崖側から行くには浮遊魔法の上位互換の飛行魔法が必要で、しかし相当魔力を消費する。その上見張りはちゃんといるので、撃ち落とされるのが関の山だろう。木に触れるなら正規ルートから行くしかない。おそらくだが、木に触れることが出来れば、ワープで試験前の会場に戻ることが出来るとみた。

 そうしてどうすべきか思案していると、私たちの後方からは、さらに5名くらいの生徒がやってくる。その中の一人に、立木心愛がいた。

「・・・何やってんの?あんたら」

 ゴール目前にいる私たちを目の当たりにして一瞬大いに焦った顔をしたものの、しかしとどまっている様子を見て鼻で笑う。一方の他の四名は、学力試験で最優秀を取った私と次席のレオがゴールに対して睨みを利かせているということで、不審者たちの観察をし、やがて異常事態であると察した。本当に、こいつらもこんなに早く来るだけあって優秀なのか、察しが早い。

 いや、正確にはこの場に最も最初に来ていたのが私と判断したのが大きいのだろう。通常人間は、異常事態と認識すると、判断をその場の「最も出来そうな」人間にゆだねるという。すると、直近で派手な功績を残した私の印象は、この場で最も好印象に映っているはず。そんな人間が睨みを利かせているのだから、心理的にとどまったのだろう。

 故にこの場の指揮権は、私にある。

 ・・・とすれば、この後誰が動くかは明白。私を指揮者と認識できない人間。

「ただのスタッフじゃない。じゃあ、私はさっさとゴールするわね。さようなら~」
「おいアホぉ!!危ないから行くなや!!」

 アバラの制止を聞かず、私の陣から抜け出て心愛は歩みを進める。

 私はそんなアバラを止めた。そもそも誘拐というのは根拠のない仮説で、ひょっとしたら学園側が本当に暗部組織に依頼をした可能性だってなくはない。

 一度心愛に先陣を切ってもらって状況を見よう。

 すると、存在を認識された心愛の周囲に、暗部組織の面々が囲む。やがて心愛は闇魔法の拘束術で手足が縛られ、口も塞がれる。そして、即席で建てたのだろう近くの小屋に、心愛は連行された。

 私たちは、異常事態を確信し、ただ息をのんだ。

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