誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

45.集中砲火

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「思春期の相手と仲直りする方法について悩んでいるんです」
「思春期の相手・・・?お前も思春期ではないか?」

 呪文学を終え、私はジェルドのもとで片づけに勤しんでいた。今日は器具としてガラスを使う授業だったが、昨晩の件が私の中で残り続け、片づけの最中にいくつか割ってしまった。
 あまりに気がそぞろということで、ジェルドが声をかけてきたのだ。元婚約者に相談なんて普段の私なら絶対しないが、しかし今は猫の手も借りたい状態だ。早くアウレリウスと前のような仲睦まじい状態に戻りたい。それをせずに犯人探しに着手が出来ないのだ私は。

「相手と話が噛み合わないんです。だからこちらの意見を言ったら拗ねてしまって」
「それはもう永遠に相性が合わんのだろう。縁を切れ」

 切るわけないだろ!!!人の悩みだと思って、適当なこと言うんじゃない!!!
 ジェルドは私のことを見ていられないと判断したようで、自分で片づけを始める。魔道具のモノクルに魔力を通し、やがて器具が浮き始めた。そしてそれが一斉に棚の方向へと動いていく。

「それか相手の意見に自分を合わせるかだな。合わせた結果ストレスを感じるのならどのみち長続きはせん。亡くなった俺の元婚約者殿も、気に食わん奴とは全員バッサリ縁を切っていた。まあ、あいつはそもそも出来る縁自体皆無のほうが近いか」

 まさにその通りだ。けれど今回だけは縁を切りたくないのである!!

「・・・ジェルド教授に息子がいたとします」
「俺に子供はいないが?そもそも未婚だが?」
「ローゼルアリオンとの間に子供がいたとします!!」
「気持ち悪い仮定をするんじゃない!!!」

 この例えは私自身も気持ち悪いと思っているんだ。お相子だ。

「じゃあ僕と教授の間に子供がいるとしましょう。前提です。前提ですから」
「・・・まあ、いいだろう。それで?」
「その子供が思春期兼反抗期だったとします。そして親子なので世代間の認識のズレもあります。その状態で息子と喧嘩したら一体どうしますか?」

 ジェルドは顎に手を当てる。30秒くらいの長考の末、やがて自分の考えを発し始めた。

「なるほど。俺が夫でお前が妻ということでいいんだな?」
「まあ、そこはどっちでもいいので、はい」
「そうだな。まずは妻であるお前に意見を仰ぐかな。次に、時間が欲しい。そのうえで、普段やってる挨拶などといった習慣は絶対に欠かさないようにする、あたりだろうか」

 なるほど。挨拶をすることでいずれは些細なきっかけが出来る。時間を空けずになし崩しで元通りの関係になれば、アウレリウスは再び自身を傷つける可能性だってある。ここは思い切って長期間距離を保ってから、けれど習慣は保つ。あくまで平静をよそうのが大事なんだ。そのうえでゆっくり歩み寄ろう。

「ありがとうございました。スッキリしました」
「次からはちゃんと仕事をするように」
「はい!」

 ジェルドもたまにはいいことを言うものだ。私はテンションが上がり、教室から出ていく。

 すると。

 能面のような無表情をしたアウレリウスが、教室から出てくる私を待ち受けていた。

「ア・・・・・・ウレリウス・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

 まさかと思うがさっきの会話の内容を聞かれていないだろうな?本人に聞かれているのに距離を保って機会をうかがうのは、別の気まずさがある。

「アリオン・・・。まさか、本当にジェルド教授のことが好きなの?」
「へ?」

 ジェルドのことが好き・・・?

「『俺が夫でお前が妻ということでいいんだな?』って言ってたよね?僕は容疑者と二人きりになる君を心配してここに来たのに、なんでこんな・・・」

 よりにもよって一番誤解を招くところから聞いているとは・・・。

「違うんだ、会話の流れで仮の話になったんだよ!!」
「どういう話の流れなら夫婦という前提の話になるの?」
「その、私とジェルドに子供がいたらという前提の話で・・・」
「だからどうして二人に子供がいるという前提の話になるの?」

 駄目だ・・・。元をたどるとどうしてもお前の話になりかねない・・・。

 アウレリウスは私の腕を掴み、そのまま私をどこかへと誘導する。

「次の教室まで送るから」
「あ、ありがとう」

 気まずい。アウレリウスは一言も喋らない。何か話したいが、コミュ障の私がそうそう話題を提起することもできず。そういえば、生徒会でアウレリウスとロージが密談していたが、あの話の続きが気になるな。私の死亡前後、アウレリウスとジェルドが何やら二人だけで会話していたというあれだ。間を埋めるのにもちょうどいい。

「なあ、ロージと話していた件についてよければ教えてくれないか?ジェルドと密談、だったか」
「・・・そんなこと記憶にないよ」
「いやでも、お前は心当たりあるようなことをロージに呟いてなかったか?」
「記憶にないんだ。あの人と喋っただろう教室から去ったことは覚えているんだけれど、何を喋ったのか、そもそもその時の光景すら記憶が抜けているんだよ」

 そんな話はこれ以上するつもりはないとでもいうように、アウレリウスはぶっきらぼうに答えた。

 駄目だ、会話も盛り上がらず、取り付く島もない。

 そこからは無言で、私たちは次の教室につく。アウレリウスは私を見届けると、どこかに去っていった。
 あれ?これではまるで私のほうが子供なのでは・・・?

 教室は授業開始1分前だった。私が最後に席に座る。

 今日は魔法実技学の座学分野だ。
 元来は覚えた呪文を実践として使う、戦闘を重きに置いた学問ではあるものの、座学重視に学園の方向性が切り替わった結果、魔力のペース配分や呪文のコストといったそういった実践的なことを理論で叩きこむ時間も増設された。

「遅い。授業三分前にはちゃんと着席しているように」
「申し訳ございません」

 以前浮遊魔法の実践の時もそうだったが、本当に小言が多い面倒な教授である。私はアバラとレオが座っている隣に座る。授業内容は魔法自体の相性、魔力消費量の多い呪文、またどうすれば消費魔力を抑えられるかといった講義だ。なかなかに為になる授業ではある。教授の性格に難はあるが、授業自体は良い復習になる。

「ではアリオン、仮に相手が炎魔法を使うとして、緑の魔法は有効だろうか?」
「・・・緑の魔法で召喚する植物が水分を含んでいる間は有効、そうでない場合は危険です」
「チッ、正解だ」

 嫌な質問だ。モンスターとモンスターを戦わせる某有名ゲームでは草と炎は炎のほうが強い。しかし、それは草の中の水分を蒸発した後の話になる。草が乾燥すれば炎のほうが強く、けれど緑の魔法の使い手が延々と水分を含む植物を生み出していれば条件は変わってくる。

 つまり、今の質問はYESかNOで答えていたらどちらも外れ、馬鹿にされていた。

『性格悪いね、あの教授』

 レオの小声に私は軽くうなずく。どうにも、私はあの教授に目を付けられているようだ。

 それから陰湿な質問攻撃は私に集中するが、すべて正答を突き付ける。最初は私に対して同情的なクラスの空気は、あまりに華麗に立ち回る姿に、尊敬の空気になってきた。

『アリオン君凄いね!流石神童・・・』
『教授性格悪いよな。でもそのせいでアリオン君の博識さがより輝いてるね』

 教室は完全に私を味方する空気になっていたが、ドレイヴン教授は気が付けず。やがて授業は終わる。

「アリオン、最後のほうの質問に至っては一年生の範囲を超えていたのよね?よくわかったね」
「あはは・・・。魔法って割と理論に基づいているから、理屈に基づいて推理しただけだよ」
「いやー。スカッとしたわー。あの教授、毎年誰か生徒を一人ターゲットにして虐めるらしいって女子たちが噂しとったんよ。そして間違えればクラス全体の連帯責任にする。すると自分へのヘイトが生徒一点に集まるから統率しやすいっていう手法らしいで?」
「その前にアバラ、大分女子と打ち解けるようになってきたんだね?最初の頃は避けられてたのに」

 立木心愛がいなくなり、アバラの悪い噂が段々と薄まってきたのだろう。すると明るい男だから苦労無く人脈が広がっていく。まったく、魔法の適性より私はそっちの才能のほうが遥かに欲しかった。

「アリオン~お前すげえな!!俺の成績やべえからさ、また勉強教えてくれよ~」
「アリオン君!教授の質問を引き受けてくれてありがとうね!!君のおかげでこっちに嫌がらせが向いてこずに本当に助かっちゃった!!」

 教室を去る前にいろんな生徒たちが私に声をかけていく。私は彼らの応援に手を振って笑顔で答えた。確かについていくのもやっとの授業で、その指名を一手に引き受ける存在がいたら助かるだろうな。おかげさまで私の名声が上がったようだ。

 しかし、こうして素直に感謝されるのは悪くない気分だ。少々にやけていたのか、アバラが私の頬をツンツンとしてきた。
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