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犯人探求編
48.婚約者
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周囲からの注目が集まる中、寮の前には私、アバラとレオ、ジェルドと第二王子、そしてアウレリウスがいた。どういう状況だ。私は紙袋を抱える手に力が入る。
紙袋に入っているハンカチは失敗作。未完成の品だ。そして、第二王子ロギルジョーは、これが編入祝いだと思っている。そんなわけないだろ。私はお前の存在を今の今まで忘れていた。けれど、所詮失敗作なのでこれを渡して引いてくれるなら、ウィンウィンだろう。
しかしアウレリウスがやってきたことで話が変わる。この子の前でロギルジョーに紙袋を渡してみろ。例えば海外では貰ったものをすぐその場で開封することは自然な文化であるため、ロギルジョーはハンカチをこの場で取り出すだろう。それをみるアウレリウス。やがて私に向けるその目は裏切者を見る目になる。それは到底受け入れられない。
しかし、じゃあアウレリウスに渡せばいいのか?それも違う。何度も言うがこれは失敗作で、例えこの子のお眼鏡にかなわない程度のハンカチであったとしても、私はもっと完成度の高い物を渡したい。
ということで、大変まずい状況に直面していた。どちらにも渡せないのだ。
しかしアウレリウスもロギルジョーも、互いに障害を見るようなまなざしを向ける。相手がいなければ、自分こそがこの紙袋を受け取れるかのように。
「・・・おやあ、お兄様。お久しぶりですね?ご挨拶申し上げたいところですけれど、今、私は大事な親友と取り込み中でして。大変申し訳ございません」
要するに「取り込み中だからお前は去れ」と上品に言っているのだ。
いつから親友になった。一応言っておくが友人どころか味方とすら認識してないぞ私は!!
そしてロギルジョーの親友発言に今度はアバラが私を裏切者を見る目で見てくる。頼むから全員ここから解散してくれないだろうか。
「ロギルジョー、久しぶり。奇遇だね、僕もアリオンに用があったんだよ。なんでもアリオンが僕に渡したいものがあるって呼んできたから、ここにきたんだ。ね?アリオン?」
そんな約束をいつした!私はアウレリウスの目をじっと見るが、少なくとも弟に対抗するために言っている発言ではないと目から察する。
すると、本当にハンカチを貰いに来た?こんな人が集まる中?
ふと。仮説が出来た。
まさかアウレリウス、最初からハンカチを衆目に晒されている状態で受け取ろうとしたんじゃないだろうな・・・?
いや、そんな馬鹿なはずはない。そんなことをすればつまり、わざわざ受け取りに来たという印象が残る。すると、受動的に受け取ったハンカチとは意味合いが大きく異なる。特別だから受け取りに来たという意味に誤解されてしまうのである!!
本当にハンカチを受け取りたいのなら、自室は隣なのだから朝会った時とかに尋ねてくれればいいはずだ。それをわざわざ今来たということは、やはりそういうことである。
アウレリウスが私を見る目は本気の目だ。まずい、今私は何かのルート分岐にでも直面しているのか!?
ロギルジョーとアウレリウスのにらみ合いが始まる。原因はこの紙袋。いやあのな、この中には産業廃棄物が入っているんだが。ギャラリーたちは、王位継承権同士の空気が剣呑としていることに気が付き、歴史が動く瞬間とばかりに誰も離れない。やめろ、歴史の動く瞬間に産業廃棄物を関わらせないでくれ。
「・・・兄貴が言ってる物は多分別だろうよ。何故ならさっき、俺に向かってあの紙袋を渡そうとしていた。アンタさえ来なければ平穏な空気だったんだぜ?」
「口調が下品になっているよ。そんな人目もはばからない喋り方で、よくも人に、間が悪いなんて言えたね。お前は王族教育を最初からやり直してくると良い」
バッチバチである。それもそのはず。アウレリウスは幼いころ、後ろ盾のない状況で王城に暮らしていた。一方ロギルジョーは、後ろ盾が沢山ある中でアウレリウスをこき下ろしていた。やがて形勢は変わったものの、互いが仲良くなることは無い。
私は焦る表情で周囲を見る。すると、ジェルドと目が合った。そしてその口が無音で動く。
『こ っ ち に 投 げ ろ』
こっちに投げろ!?
ジェルドは困惑している私を察し、助け舟を出そうとしてくれているようだ。
ふと、昔のことを思い出す。ジェルドにハンカチを顔面に投げられたあの事件を。
私は紙袋を、ジェルドの顔面に向けて思いっきり投げた!!まったく躊躇せず!!
見事に顔面にクリーンヒット。手元に来るだろうと計算していたジェルドは、全然違うところに飛んできたそれに反応が遅れた。
周囲の空気は凍る。それはそうだ。真面目で怒ると怖い教授に、突然生徒が乱心したのだ。アウレリウスもロギルジョーも、目が点になっている。
「・・・アリオン」
流石のジェルドも顔面に来られるとは思っていなかったようで、声がわなわなとしている。しかし。一方の私は、昔にされたハンカチ顔面投げられ事件の仕返しが出来て、ちょっと心が潤っていた。
「ちょっ、ギャラリーのみんな、はよ逃げーや!!今からここ爆心地になるで!?」
アバラは周囲の面々に呼びかけると、ジェルドの怒りを察知して周囲に散らばっていく。アバラとレオも、こちらに目配せをした後に逃走していった。紙袋の中が産業廃棄物と知っているために気を利かせてギャラリーを散らしてくれたのだ。呼びかけた本人がここに残れば、野次馬をする人間が現れるかもしれないため、アバラたちもこの場を去る。
けれどよかった、これで私が失敗作を人前でアウレリウスに押し付けるという大事故は避けられた。しかしジェルドは自分の顔に張り付いた紙袋を剥がし、摘まんだ。
「・・・・・・・・・・・・これは没収する」
「待ってくださいジェルド教授、それは僕へのプレゼントです!」
「うるさい!!没収する!!ったく、嫌な奴を思い出した」
ジェルドは紙袋を持って去っていった。一方のアウレリウスは焦っているが、しかし私を弟の元へ置いていくことも出来ないようで渋々諦めた。いや、あれは産業廃棄物だったからいい。ジェルド、私の代わりに処分しておいてくれ。私もお前のハンカチを過去に処分したからこれでお相子だ。
ロギルジョーも途方に暮れている。やがて王子二人と私だけが場に残された。
「悪いな、アリオン。折角俺のためにプレゼントを用意してくれたって言うのに、没収されちまった」
「アハハ、ソウダネ」
ロギルジョーは落ち込んでいるが、しかし決意を固めて気を取り直す。そして私に右手を差し出してきた。
「改めて俺はロギルジョー。王族の人間だが、気にせず気軽に接してくれ。よろしく」
本当に王家の人間とは思えないほど気さくだ。けれど、その根にはちゃんと気品が伺える。まあとりあえず握手だけ交わしておいて、あとは近づかないようにしよう。そう思いこちらからも手を伸ばそうとしたら、しかし直前でロギルジョーの腕を強く払いのけた人物がいた。
アウレリウスだ。
「悪いけれど、アリオンは僕の派閥にいるから金輪際彼に近づかないでほしい」
「俺は友人としてアリオンに話しかけてるんだぜ?なんでもかんでも政治に結び付けるのは本当に悪い癖だな。アンタは一生あの婚約者を探していろよ。誘拐されてんだろ」
婚約者?私はアウレリウスの顔を見る。文脈からして立木心愛のことを言ってるのだろう。
しかし、婚約者だったのか?それについては初耳情報だ。小説ではアウレリウスは現段階では王太子では無かったため、婚約者は空席だった。
アウレリウスは私にそっと近づいて、私の耳をふさぐ。これから聞かれたくない話をするつもりだ。
目を凝らして、唇を読む。残念だが私は読唇術を使える。戦闘で相手が小声の詠唱だった場合、何が飛び出てくるか分からんため、それの対策として唇の動きを読む訓練をしておいたのだ。
「・・・誘拐された。つまり、その後どんな無体を働かれているか分からない。つまり、王妃としては不適格になっているよ。戻ってきたとて、汚れた女性を国母に推す王がどこにいる?」
「おい、その発言は流石に言いすぎだろ。被害者に対して偏見の発言はあまりにも酷すぎる」
「じゃあお前が娶ると良い。するか?しないだろう?どれだけ綺麗ごとを並べたとて、疑わしい女性は国の頂点には選べない。これが一般市民の女性だったら僕の発言は確かに度が過ぎている。けれど、一国を左右する話だからこそ、度が過ぎなくてはならないんだ」
娶りたくない。その言葉に図星を突かれたように、ロギルジョーは目を逸らす。納得はしたくないだろうが、しかしこの話をすすめると、自分が立木心愛と婚姻せねばならない展開になりかねない。
私もアウレリウスの発言は確かに言いすぎとは思うものの、しかし理屈だけでいえば筋は通っていた。
「清らかか、と言えばそれを証明する手段は触診だったり検査は出来るだろ。それで大丈夫って言われたらどうすんだよ」
「でも悪い印象は拭えないよね?国母は、イメージを何より重視する。だから深窓の令嬢はあれだけ固い警備を付けられているんだよ。そう、国母は国民全員から尊敬を集められる人間である必要がある」
・・・アウレリウスは私を妃にしたいと言っていたが、私では絶対にダメだろう。ローゼルアリオンの名はあまりにも清廉なイメージから対極にある。以前の発言はアウレリウスなりのジョークだったのか。
一方のロギルジョーは何とも言えない顔をしていた。それに対してアウレリウスは口を開いた。
「大丈夫だよ。あんなのが王家の血筋に取り入ろうとするのさえ汚らわしいから、お前への下賜はするつもりがなかった」
「入学試験のペア制度を聞いたんだけどな。あれは聖女を学園にねじ込むためのルールだろ?もし俺が同タイミングに入学試験を受けていれば、化け物の世話を任されそうで時期をずらした。けどそれくらい父上は、聖女に心酔しているぞ。兄貴の意見が認められると思ってるのか?」
「通すよ。確かに王の権力は段々と分権の道をたどっている。今は大臣の発言を無視できない時代だ。ならばそれを逆手に取ればいい。聖女を擁立するものが、聖女を娶ればいいってね。うん、凄く楽しそうな会議になると思う」
なるほど。アウレリウスは元から立木心愛との結婚は嫌だったのか。それはそうだ。私の頭の中でこれまでの彼女を思い浮かべる。
「けど、それを通すまでに相当会議を積む必要があるだろ。大臣たちに意見を浸透させることを考えると、二年は見積もっておいた方がいいぜ。それくらい聖女にまつわる伝統は根深いんだ」
この二人、仲が悪いはずなのに共通の敵を話題にして、結託している。そういえばロギルジョーは立木心愛誘拐の調査について王家から命じられているといわれたが、嫌々だった。きっと、彼女が帰ってきた場合は結婚候補に自分が入っていると想像しているのだろう。
「議会、っていうのは最後の手段だよ。最善手はそもそもそんな議題すら持ち上がらないこと」
「・・・つまり、誘拐のまま永遠に失踪してもらうっつーことか?」
「それが出来たら話が早いんだけどね。アリオンが魔塔主ではなくなった今、多少の事件であれば表沙汰になろうが、もうどうでもいい。だからこそ、もっと簡単な手を使える」
私の耳をふさぐアウレリウスの手は、更に強くなる。絶対に、この先の発言を聞かせないように。
「先に殺してしまえばいいんだよ。そうすれば王も納得して、国民は心愛を王妃として称える地獄を味わわずに済み、僕は好きな人にこの国をプレゼントできる。全員が幸せになれる方法だと思うだろ?」
紙袋に入っているハンカチは失敗作。未完成の品だ。そして、第二王子ロギルジョーは、これが編入祝いだと思っている。そんなわけないだろ。私はお前の存在を今の今まで忘れていた。けれど、所詮失敗作なのでこれを渡して引いてくれるなら、ウィンウィンだろう。
しかしアウレリウスがやってきたことで話が変わる。この子の前でロギルジョーに紙袋を渡してみろ。例えば海外では貰ったものをすぐその場で開封することは自然な文化であるため、ロギルジョーはハンカチをこの場で取り出すだろう。それをみるアウレリウス。やがて私に向けるその目は裏切者を見る目になる。それは到底受け入れられない。
しかし、じゃあアウレリウスに渡せばいいのか?それも違う。何度も言うがこれは失敗作で、例えこの子のお眼鏡にかなわない程度のハンカチであったとしても、私はもっと完成度の高い物を渡したい。
ということで、大変まずい状況に直面していた。どちらにも渡せないのだ。
しかしアウレリウスもロギルジョーも、互いに障害を見るようなまなざしを向ける。相手がいなければ、自分こそがこの紙袋を受け取れるかのように。
「・・・おやあ、お兄様。お久しぶりですね?ご挨拶申し上げたいところですけれど、今、私は大事な親友と取り込み中でして。大変申し訳ございません」
要するに「取り込み中だからお前は去れ」と上品に言っているのだ。
いつから親友になった。一応言っておくが友人どころか味方とすら認識してないぞ私は!!
そしてロギルジョーの親友発言に今度はアバラが私を裏切者を見る目で見てくる。頼むから全員ここから解散してくれないだろうか。
「ロギルジョー、久しぶり。奇遇だね、僕もアリオンに用があったんだよ。なんでもアリオンが僕に渡したいものがあるって呼んできたから、ここにきたんだ。ね?アリオン?」
そんな約束をいつした!私はアウレリウスの目をじっと見るが、少なくとも弟に対抗するために言っている発言ではないと目から察する。
すると、本当にハンカチを貰いに来た?こんな人が集まる中?
ふと。仮説が出来た。
まさかアウレリウス、最初からハンカチを衆目に晒されている状態で受け取ろうとしたんじゃないだろうな・・・?
いや、そんな馬鹿なはずはない。そんなことをすればつまり、わざわざ受け取りに来たという印象が残る。すると、受動的に受け取ったハンカチとは意味合いが大きく異なる。特別だから受け取りに来たという意味に誤解されてしまうのである!!
本当にハンカチを受け取りたいのなら、自室は隣なのだから朝会った時とかに尋ねてくれればいいはずだ。それをわざわざ今来たということは、やはりそういうことである。
アウレリウスが私を見る目は本気の目だ。まずい、今私は何かのルート分岐にでも直面しているのか!?
ロギルジョーとアウレリウスのにらみ合いが始まる。原因はこの紙袋。いやあのな、この中には産業廃棄物が入っているんだが。ギャラリーたちは、王位継承権同士の空気が剣呑としていることに気が付き、歴史が動く瞬間とばかりに誰も離れない。やめろ、歴史の動く瞬間に産業廃棄物を関わらせないでくれ。
「・・・兄貴が言ってる物は多分別だろうよ。何故ならさっき、俺に向かってあの紙袋を渡そうとしていた。アンタさえ来なければ平穏な空気だったんだぜ?」
「口調が下品になっているよ。そんな人目もはばからない喋り方で、よくも人に、間が悪いなんて言えたね。お前は王族教育を最初からやり直してくると良い」
バッチバチである。それもそのはず。アウレリウスは幼いころ、後ろ盾のない状況で王城に暮らしていた。一方ロギルジョーは、後ろ盾が沢山ある中でアウレリウスをこき下ろしていた。やがて形勢は変わったものの、互いが仲良くなることは無い。
私は焦る表情で周囲を見る。すると、ジェルドと目が合った。そしてその口が無音で動く。
『こ っ ち に 投 げ ろ』
こっちに投げろ!?
ジェルドは困惑している私を察し、助け舟を出そうとしてくれているようだ。
ふと、昔のことを思い出す。ジェルドにハンカチを顔面に投げられたあの事件を。
私は紙袋を、ジェルドの顔面に向けて思いっきり投げた!!まったく躊躇せず!!
見事に顔面にクリーンヒット。手元に来るだろうと計算していたジェルドは、全然違うところに飛んできたそれに反応が遅れた。
周囲の空気は凍る。それはそうだ。真面目で怒ると怖い教授に、突然生徒が乱心したのだ。アウレリウスもロギルジョーも、目が点になっている。
「・・・アリオン」
流石のジェルドも顔面に来られるとは思っていなかったようで、声がわなわなとしている。しかし。一方の私は、昔にされたハンカチ顔面投げられ事件の仕返しが出来て、ちょっと心が潤っていた。
「ちょっ、ギャラリーのみんな、はよ逃げーや!!今からここ爆心地になるで!?」
アバラは周囲の面々に呼びかけると、ジェルドの怒りを察知して周囲に散らばっていく。アバラとレオも、こちらに目配せをした後に逃走していった。紙袋の中が産業廃棄物と知っているために気を利かせてギャラリーを散らしてくれたのだ。呼びかけた本人がここに残れば、野次馬をする人間が現れるかもしれないため、アバラたちもこの場を去る。
けれどよかった、これで私が失敗作を人前でアウレリウスに押し付けるという大事故は避けられた。しかしジェルドは自分の顔に張り付いた紙袋を剥がし、摘まんだ。
「・・・・・・・・・・・・これは没収する」
「待ってくださいジェルド教授、それは僕へのプレゼントです!」
「うるさい!!没収する!!ったく、嫌な奴を思い出した」
ジェルドは紙袋を持って去っていった。一方のアウレリウスは焦っているが、しかし私を弟の元へ置いていくことも出来ないようで渋々諦めた。いや、あれは産業廃棄物だったからいい。ジェルド、私の代わりに処分しておいてくれ。私もお前のハンカチを過去に処分したからこれでお相子だ。
ロギルジョーも途方に暮れている。やがて王子二人と私だけが場に残された。
「悪いな、アリオン。折角俺のためにプレゼントを用意してくれたって言うのに、没収されちまった」
「アハハ、ソウダネ」
ロギルジョーは落ち込んでいるが、しかし決意を固めて気を取り直す。そして私に右手を差し出してきた。
「改めて俺はロギルジョー。王族の人間だが、気にせず気軽に接してくれ。よろしく」
本当に王家の人間とは思えないほど気さくだ。けれど、その根にはちゃんと気品が伺える。まあとりあえず握手だけ交わしておいて、あとは近づかないようにしよう。そう思いこちらからも手を伸ばそうとしたら、しかし直前でロギルジョーの腕を強く払いのけた人物がいた。
アウレリウスだ。
「悪いけれど、アリオンは僕の派閥にいるから金輪際彼に近づかないでほしい」
「俺は友人としてアリオンに話しかけてるんだぜ?なんでもかんでも政治に結び付けるのは本当に悪い癖だな。アンタは一生あの婚約者を探していろよ。誘拐されてんだろ」
婚約者?私はアウレリウスの顔を見る。文脈からして立木心愛のことを言ってるのだろう。
しかし、婚約者だったのか?それについては初耳情報だ。小説ではアウレリウスは現段階では王太子では無かったため、婚約者は空席だった。
アウレリウスは私にそっと近づいて、私の耳をふさぐ。これから聞かれたくない話をするつもりだ。
目を凝らして、唇を読む。残念だが私は読唇術を使える。戦闘で相手が小声の詠唱だった場合、何が飛び出てくるか分からんため、それの対策として唇の動きを読む訓練をしておいたのだ。
「・・・誘拐された。つまり、その後どんな無体を働かれているか分からない。つまり、王妃としては不適格になっているよ。戻ってきたとて、汚れた女性を国母に推す王がどこにいる?」
「おい、その発言は流石に言いすぎだろ。被害者に対して偏見の発言はあまりにも酷すぎる」
「じゃあお前が娶ると良い。するか?しないだろう?どれだけ綺麗ごとを並べたとて、疑わしい女性は国の頂点には選べない。これが一般市民の女性だったら僕の発言は確かに度が過ぎている。けれど、一国を左右する話だからこそ、度が過ぎなくてはならないんだ」
娶りたくない。その言葉に図星を突かれたように、ロギルジョーは目を逸らす。納得はしたくないだろうが、しかしこの話をすすめると、自分が立木心愛と婚姻せねばならない展開になりかねない。
私もアウレリウスの発言は確かに言いすぎとは思うものの、しかし理屈だけでいえば筋は通っていた。
「清らかか、と言えばそれを証明する手段は触診だったり検査は出来るだろ。それで大丈夫って言われたらどうすんだよ」
「でも悪い印象は拭えないよね?国母は、イメージを何より重視する。だから深窓の令嬢はあれだけ固い警備を付けられているんだよ。そう、国母は国民全員から尊敬を集められる人間である必要がある」
・・・アウレリウスは私を妃にしたいと言っていたが、私では絶対にダメだろう。ローゼルアリオンの名はあまりにも清廉なイメージから対極にある。以前の発言はアウレリウスなりのジョークだったのか。
一方のロギルジョーは何とも言えない顔をしていた。それに対してアウレリウスは口を開いた。
「大丈夫だよ。あんなのが王家の血筋に取り入ろうとするのさえ汚らわしいから、お前への下賜はするつもりがなかった」
「入学試験のペア制度を聞いたんだけどな。あれは聖女を学園にねじ込むためのルールだろ?もし俺が同タイミングに入学試験を受けていれば、化け物の世話を任されそうで時期をずらした。けどそれくらい父上は、聖女に心酔しているぞ。兄貴の意見が認められると思ってるのか?」
「通すよ。確かに王の権力は段々と分権の道をたどっている。今は大臣の発言を無視できない時代だ。ならばそれを逆手に取ればいい。聖女を擁立するものが、聖女を娶ればいいってね。うん、凄く楽しそうな会議になると思う」
なるほど。アウレリウスは元から立木心愛との結婚は嫌だったのか。それはそうだ。私の頭の中でこれまでの彼女を思い浮かべる。
「けど、それを通すまでに相当会議を積む必要があるだろ。大臣たちに意見を浸透させることを考えると、二年は見積もっておいた方がいいぜ。それくらい聖女にまつわる伝統は根深いんだ」
この二人、仲が悪いはずなのに共通の敵を話題にして、結託している。そういえばロギルジョーは立木心愛誘拐の調査について王家から命じられているといわれたが、嫌々だった。きっと、彼女が帰ってきた場合は結婚候補に自分が入っていると想像しているのだろう。
「議会、っていうのは最後の手段だよ。最善手はそもそもそんな議題すら持ち上がらないこと」
「・・・つまり、誘拐のまま永遠に失踪してもらうっつーことか?」
「それが出来たら話が早いんだけどね。アリオンが魔塔主ではなくなった今、多少の事件であれば表沙汰になろうが、もうどうでもいい。だからこそ、もっと簡単な手を使える」
私の耳をふさぐアウレリウスの手は、更に強くなる。絶対に、この先の発言を聞かせないように。
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