誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

文字の大きさ
50 / 124
犯人探求編

49.イヴリンの野望

しおりを挟む
 私は生徒会に向かうために廊下を歩いていた。

 昨日の王子兄弟二人の話を反芻する。どうりでアウレリウスは、立木心愛誘拐事件の捜索に乗り気ではなかったわけだ。立木心愛を殺してしまえば、全員が幸せになれるというアウレリウスの発言。あの子が、そんなこと強硬手段を考えていたとは想像していなかった。

 ・・・まあ、学園入学時に立木心愛を殺すつもりだった私が何かを言えるわけではない。ただ、あの子の手を血に染めることはしたくない。故に、もしこの先、相まみえることがあれば、手を汚すのはこの私だ。

 それにしても、アウレリウスの婚約者の話。立木心愛がいなくなり、現状は空席扱いのようだった。すると、これは絶好のチャンスではないか?私はほわほわと頭の中にある女性を思い描く。

 生徒会書記のイヴリン嬢。

 私は彼女が嫁になってくれるといいなあと勝手に未来を想像する。なんといったって、私に悪印象を持っていない。こんな人材が他にいるだろうか、いやいない。アウレリウスは国母について、「皆から尊敬を集めている必要がある」と発言していたが、イヴリン嬢のあの人格であれば必ず周囲の人間の尊敬を集めているはずだ。
 息子にいい人を紹介するのも、また父の役目。お見合いというやつだ。

 よし、その前に念のために、彼女についての調査をするか。私は三年のエリアに立ち寄った。

「イヴリン様?お優しい方ですわ。前に私が教科書の忘れ物をしたときに、貸してくださったの」

「イヴリン様か。婚約者はいないと聞いているよ。だから、殿下に次いでハンカチは沢山もらうんじゃないかな」

「イヴリン様について知ってること?そういえば、恋に悩める人々の駆け込み寺っていう噂を聞いたことがあります」

 いろんな人に聞いてみて、噂がいくつか入った。よくわからん情報もあったが、とにかくやはり人格者で尊敬を集めている。なるほど。よくわかった。

「アーリオン。ここは三年生の授業が多いエリアなのに、どうしたんだい?」

 噂を頭の中で整理していると、後ろからアウレリウスがやってきた。どうやら自分に会いに来たと思っているようで、明らかにニコニコしてた。

「ああ、いや。少し調査をしていたんだ。用は終わったから帰るよ」
「え!?」

 私の言葉を聞き、アウレリウスは一瞬魂が抜けたような表情をした。しかる後に顔をキリッとさせた。

「いやいや、アリオンが三年生のエリアに来る理由がないんだ。そう、僕に会いに来た以外には」
「うーん、強いて言うなら確かに人に会いに来たんだが、お前じゃないんだ。ごめんな」

 アウレリウスは固まった。多分、ハンカチをくれると思っていたのだろう。なお、ジェルドに投げたハンカチは回収せず、あの紙袋の中に入っていたのは失敗作であることはあの後アウレリウスに説明した。「僕はアリオンのだったら失敗作だろうが全然かまわないのに」と取り返しに行こうと不貞腐れていたが、あれは糸くずの集合体だから本当にやめなさいと頑張って止めると、嫌々だが一応は納得してくれた。

 私たちの脇を通っていく三年の面々は、私たちを見て「本当に仲良しさんね~」と温かい目で見ていた。「本当に」ってなんだ。ひょっとして私たちの関係がもう三年にまで知れ渡っているのか?それは困る。非常に困る。

 さて、三年の本日の授業は終わりのようで、星辰魔導議会に向けて今はそれぞれが研鑽中とのことだ。イヴリン嬢も選ばれているらしいので、きっと一人でいるのだろう。邪魔をするのは心苦しいが、少し話に行こう。

「アウレリウス、イヴリン嬢がどこにいるか知っているか?」
「知らない」
「そうか、ありがとう」

 ムスーっとしながら答えるアウレリウスを放置して私は歩き出す。すると、教室棟にはいないかもしれない。解禁された紫紺の森とか?まあ、行ってみて探知するか。
 すると、後ろから付いてくる足音がする。

「・・・星辰魔導議会までそんなに時間はないんだろ?私のことは良いから練習しておいで」
「アリオンはイヴリンに何の用があるの」
「仮説を確かめたいだけだよ。少し話をするだけだから」
「仮説って何。その仮説を確かめるのに僕じゃダメなの」

 私の服をクイクイと引っ張ってくる。これは、親が弟妹に構いすぎた結果、不貞腐れるという例のあれではないか。私は振り返ってアウレリウスの頭をよしよしと撫でる。少し嬉しそうだ。私は再び振り返り、紫紺の森へ向けて歩み始める。するとやはり後ろから付いてくる。てちてちついてくる。

「・・・アリオンは、ひょっとして男性よりも女性のほうがいいの?」

 性別の話?欲しいのが息子か娘かの話でいえば特段どちらでもいいが、しかしまあアウレリウスは男の子であるから・・・。

「男の子かな」
「そっか!」

 そして二人で歩き出す。今の質問は何?

 やがて私たちは紫紺の森につき、案の定魔法の試し撃ちをしていた。

「アリオン君?ここまでどうしたの?あら、会長まで」
「お忙しい中ごめんなさい。いくつかお話をしたいと思いまして。お邪魔でしょうか」
「ふふ、全然。丁度休憩を取りたいと思っていたの」

 それにしては疲れた様子ではない。完全にこちらに配慮している。なんという理想的な人物なんだ。私は興奮のあまりアウレリウスに顔を向けるが、じっとこっちを見ていた。私を見るな。イヴリン嬢を見ろ。

「イヴリン様は何の魔法を得意としているんですか?」
「緑の魔法よ。ええ、星辰魔導議会では不利な属性なの。本当に苦労しているわ」

 緑の魔法は植物の成長を促したり、召喚する魔法になる。戦闘になるトーナメントでは、非常に不利である。

「緑の魔法は植物だけじゃなくって、命を生む美しい魔法だわ。けれど戦闘には不向きね」

 私はアウレリウスに視線をやる。同様に出場するライバルに聞かせていい話ではないと判断した。しかしイヴリンはそれを制止した。

「いいのよ。会長と私は別ブロック。戦うにしても決勝でしょう。けれど、会長の一人勝ちっていうのは目に見ているわ。全然格が違うもの。だから探られても何も怖くはないのよ」
「いや、僕は少し遠くにいるよ。正直周囲が強くないとつまらないからね」
「ふふ、大言壮語じゃないのが本当に憎らしいですわ」

 アウレリウスはこちらに視線をやりつつも、会話が聞こえないように距離を取った。

「それで、聞きたいのは魔法のことではないのよね?」
「・・・その、いくつかあるのですが、イヴリン様に恋人や婚約者はいらっしゃるんですか?」

 きょとんとした顔でこちらを見る。やがて、手で口を隠しながら笑った。

「アリオン君、それは下手をすれば交際を申し込む前振りの質問になります」
「いえ、僕はそんなつもりじゃ・・・」
「いいんですのよ。本当に交際申し込みでしたら会長は連れてこなかったでしょう。なにか事情があるとみました」

 思えば自分の人生は大分枯れているため、不慣れから確かに言葉遣いに配慮が無かった。まして思春期だったら異性の言葉一つを大きくとらえかねない。もう少し落ち着いて口を開こう。

「おりません」
「本当ですか!?恋人も、婚約者も!?」

 グッドニュースに、思わず私は身を乗り出した。しかし、視線をこちらに向けているアウレリウスが私の周囲に、まるでイヴリン嬢と隔てるように魔法の幕を張る。

「あまり近すぎると会長が嫉妬をしますわ。落ち着いてくださいね」
「そういえば確かに会長は、イヴリン様に近かった僕に嫉妬してきましたね」

 やっぱりアウレリウスは、イヴリン嬢に無意識下で脈があるのだ。だからこそ彼女を生徒会に入れたのだ。これは、本当に良縁では?
 今は思春期特有の勘違いでやたら私に引っ付いてくるが、しかし、頭を冷やせば誰が一番妃に相応しいか、ちゃんと考えてくれるだろう。私が体を離すと、アウレリウスは魔法を解除した。

「わたくしが思いますに、会長はアリオン君のことが気になっているとお見受けするのですが」
「そんなことはありません。全くありません。0です。皆無です。気のせいです」
「否定の言葉が多すぎて怪しいですわね・・・」

 イヴリン嬢は私を見て再び微笑みを向ける。見るものの心を落ち着ける雰囲気。あれだな、私が嫌われている原因に私の能面があったかもしれないな。元の姿に戻ったら微笑の練習でもしようか。嘲笑にしか見えないだろうな。やめておこう。

「ご存じですか?我が侯爵家がどうしてこの立場を得ることが出来たのか」
「ええと、生命魔法の研究、でしたか?」
「そうです。よくご存じですね」

 生命魔法。人体研究に特化した魔法だ。主に治癒魔法などが当てはまる。

「その中でも、生殖系統の研究が一番大きいのですわ」
「生殖系統・・・って・・・・」

 生殖、つまり子作りである。そういえば私とジェルドの婚約に、侯爵家の手を借りる云々の話を聞いたことがある。

「わたくしとレオの両親は、どちらも男性ですの。生みの親が魔法で子宮を形成し、やがて私たちを身ごもりました。そう、性別を問わなくする、素敵な魔法ですの!」

 イヴリン嬢は目を輝かせ、嬉々として語り始める。やがて、私の手を掴んだ。あまりの早業に、アウレリウスは咄嗟に動けなかったようで、固まっている。

「そう!!だからもし、会長とアリオン君がお世継ぎを欲しいのでしたらわたくしにお任せください!身分差なんて気にせずとも大丈夫ですわ!我が侯爵家が総出を上げて応援いたしますから!身ごもるとしたらアリオン君ですわよね!?ええ、わかっていますわ!!わたくしが極めに極めた子宮づくりの緑魔法でアリオン君のお腹の中にかわいいかわいい赤ちゃんのベッドをおつくり致しますので、その気になったらいつでも!!お声をかけてください!!!!」

 早口でまくし立てるイヴリン嬢を私は片手で制止する。

「・・・会長の婚約者の座が空いているのですが、よければイヴリン様はいかがでしょうか」
「ご冗談を」

 2人でアハハと笑いあう。

「では早速作りますわね」
「やめてください!!!!!」

 私は急いで立ち上がって、逃げるようにその場を去った。アウレリウスは何があったのか分からず、心配そうにこちらをみていた。

「アウレリウス、一応聞くが、どうしてイヴリン嬢を生徒会に誘った?」
「アリオンの悪口を言わないのと、彼女とのコネクションがあればアリオンに子宮を作れるっていう理由だね。だから僕はちゃんと緑魔法も使えるんだよ?」

 私はほろりと涙した。この生徒会、碌な理由でスカウトされた人間がいないな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ラストダンスは僕と

中屋沙鳥
BL
ブランシャール公爵令息エティエンヌは三男坊の気楽さから、領地で植物の品種改良をして生きるつもりだった。しかし、第二王子パトリックに気に入られて婚約者候補になってしまう。側近候補と一緒にそれなりに仲良く学院に通っていたが、ある日聖女候補の男爵令嬢アンヌが転入してきて……/王子×公爵令息/異世界転生を匂わせていますが、作品中では明らかになりません。完結しました。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

【完結】星に焦がれて

白(しろ)
BL
気付いたら八年間囲われてた話、する? わんこ執着攻め×鈍感受け 「お、前、いつから…?」 「最初からだよ。初めて見た時から俺はお前のことが好きだった」  僕、アルデバラン・スタクにはどうしても敵わない男がいた。  家柄も、センスも、才能も、全てを持って生まれてきた天才、シリウス・ルーヴだ。  僕たちは十歳の頃王立の魔法学園で出会った。  シリウスは天才だ。だけど性格は無鉄砲で無計画で大雑把でとにかく甘えた、それに加えて我儘と来た。それに比べて僕は冷静で落ち着いていて、体よりも先に頭が働くタイプだったから気が付けば周りの大人たちの策略にはめられてシリウスの世話係を任されることになっていた。  二人組を作る時も、食事の時も、部屋だって同じのまま十八で学園を卒業する年まで僕たちは常に一緒に居て──そしてそれは就職先でも同じだった。  配属された辺境の地でも僕はシリウスの世話を任され、日々を慌ただしく過ごしていたそんなある日、国境の森に魔物が発生した。それを掃討すべく現場に向かうと何やら魔物の様子がおかしいことに気が付く。  その原因を突き止めたシリウスが掃討に当たったのだが、魔物の攻撃を受けてしまい重傷を負ってしまう。  初めて見るシリウスの姿に僕は動揺し、どうしようもなく不安だった。目を覚ますまでの間何をしていていも気になっていた男が三日振りに目を覚ました時、異変が起きた。 「…シリウス?」 「アルはさ、優しいから」  背中はベッドに押し付けられて、目の前には見たことが無い顔をしたシリウスがいた。  いつだって一等星のように煌めいていた瞳が、仄暗い熱で潤んでいた。とても友人に向ける目では、声では無かった。 「──俺のこと拒めないでしょ?」  おりてきた熱を拒む術を、僕は持っていなかった。  その日を境に、僕たちの関係は変わった。でも、僕にはどうしてシリウスがそんなことをしたのかがわからなかった。    これは気付かないうちに八年間囲われて、向けられている愛の大きさに気付かないまますったもんだする二人のお話。

ルピナスの花束

キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。 ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。 想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった

カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。 ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。 俺、いつ死んだの?! 死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。 男なのに悪役令嬢ってどういうこと? 乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。 ゆっくり更新していく予定です。 設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。

処理中です...