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犯人究明編
65.縁結びの公園
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「吐け!!一体『不思議まぼろし動物図鑑』はどこにある!?」
「知らねえよ!そんな児童向けタイトル本の在処、俺が聞きてえよ!!」
アウレリウスに抱かれた翌日。私はロギルジョーの胸倉を掴んでいた。
その本で契約破棄について書かれていれば上々、無くともフェニックスを躾する手段を私は知りたい!!しつけて私にお痛するアウレリウスを止める方法を知らなくてはならない!!
「少なくとも王宮にはねぇな」
「・・・お前、フェニックスについて知っていることって何がある?」
「幻の存在だろ?人並み以上に知らねえよ」
王族にもいまいち知られていないとは。やはり図鑑を探す必要がある。
「今日は城下に行くか」
「俺はうきうきで修業を付けてもらいに来たんだけどな・・・?まあいいや、切羽詰まってるようだから付き合うよ」
ロギルジョーはベッドサイドで腰をかがめ、私をおんぶする。王宮内で王族にこのようなことをさせるのは本当はよろしくないのだが、使用人たちから慕われているようで、誰も表情一つ変えない。頭を下げてくる面々に、軽く手を振っていた。
「お前もここの使用人たちも、昔はアウレリウスをいじめていたと聞いているぞ。どの面下げて王宮にいるんだ」
「へえへえ反省してますー。ったく、頑張ればできるのなら最初からやってればいいだろうが。他の奴らは知らねえが、俺は雑魚を小馬鹿にするという、事実の指摘くらいしかしてねえからな」
「そういう余計な一言で子供の心は一生傷を負うんだからな!まったく、けしからん」
「雑魚に雑魚って言って何が悪いんだ。その反骨精神で大物になったのなら、俺を褒めてほしいくらいだね」
無言で私は首を絞めた。一方のロギルジョーはそう来ると思ったのか、頭を動かして受け身をとる。すれ違う使用人たちには会話の内容を聞かれないように、小声になりながら会話をしていると、使用人たちが前方に頭を下げ始めた。
誰か、身分の高い者がこれから来るような、独特な空気を肌で感じる。
やがて、赤いドレスに身を包んだ、40代くらいの女性が、前方からこちらに向かって歩いてくる。ややきつめの化粧をしており、その性格が外見から伺える。
「あら、廊下が騒がしいと思えばロギルなの」
「母上!」
「それも背中に人を背負って。王宮でそのような下品なことはおやめなさい」
母上?つまりこの女性がロギルジョーの母親か?
母上と呼ばれたその女性は扇で口元を隠し、じろじろとこちらを値踏みする。
「お前。ロギルの背中から降りなさい。繰り返すけれど、ここをどこだと思っているの」
「母上、これには事情があるんです」
「黙りなさい、事情があれど、そのようなことは使用人にさせればいいこと。貴方がわざわざ卑しいことをする義理はなくってよ」
ロギルジョーは抱えている私を手放さないようにする一方で、面倒と判断した私は浮遊魔法で体を浮かせる。おんぶでなくなったとはいえ浮遊魔法でも言いたいことはあるようだ。けれど女性はそのまま私のことをじっと見たうえで、何も言わずにどこかへ行ってしまった。
「いや、悪ぃな。普段は優しくて賢い人なんだが、気品についてはうるさいんだよ」
「ロギルジョー、お前。ひょっとして身内の評価に砂糖水以上に甘いタイプか?」
「あんたに言われたくねぇんだけど!?」
彼女が我が国の王妃にして、幼いアウレリウスにつらく当たっていた義母。すなわち私の敵である。去った方向へ向けて私が威嚇していると、ロギルジョーからデコピンされた。
「不敬になるからやめろ。下町へ行くんだろ?」
「そうだな、闇討ちは別に今じゃなくていい」
「息子の前でよくそんな過激なこと呟けるよな!?」
ロギルジョーは王宮から出るなり私を背負い直し、眼鏡をかける。魔道具の一種で、まあいわゆるお忍び用変装道具だ。
「背負っていると目立つがいいのか?」
「下町ではお年寄り背負う奴が割といるんだよ」
「そうか、なら問題無いな」
・・・私の左足は包帯でグルグル巻かれているから、やはり目立つな。
そして私たちはやや視線を受けながら動き始める。昨日はアウレリウスのたくましい背中に一生懸命腕を回そうとしていたが、それに比べればこの背中はやや小さい。しかし、ロギルジョーも同じことを私に感じたようだ。
「あんた本当に食べてんのか?随分軽いぞ。そのへんの年寄りと体重変わらねえレベルだ」
「お前ももう少し食べたほうがいい。成長期だろ?アウレリウスより遥かに小さいぞ」
「盛ってる盛ってる。俺と兄貴そこまで変わらんって。なんかあんたと喋ってると本当に年寄りと喋ってる感覚に包まれるな。なんだこの気持ち」
変わらないというが、アウレリウスは180センチ代、ロギルジョーは170真ん中当たりだろう。まあ大人の姿の私は170前半故に何か言えた義理ではないが。
「15歳まで私は監禁されていたからな。この姿はその時を再現しているんだが、やせっぽっちなのは仕方ないんだ」
「・・・なんか、悪ぃな」
「気にするな。大人のことなど気にせず、若者はたんと食え」
下町はとても賑わっていて、屋台も出ている。ところどころおいしそうな肉の匂いもすれば、ジュースなんかも売っていた。アークランドでは魔法使いは民衆にも珍しくはないため、飾りが宙を浮いていたり、食べ物が浮遊していたりなどで見ているだけでも面白い。
「思えば私はこうして下町を碌に歩いたことが無かったな。ふむ、中々興味深い」
「・・・なんか、食ってくか?奢るぜ?」
「年下に奢られる人間がどこにいる」
とはいうもののあそこの牛串が気になったので、ロギルジョーにおぶされながら自費で購入する。網と炭火焼きで焼いており、香ばしい匂いが鼻を通る。
「ふむ、魔法界の牛串もなかなかうまいな」
「遠慮すんな、好きな物食わせてやるから」
「お、おお。突然献身的になってどうしたんだ。お前らしくない」
こう見えて前世の大学時代では旅行に行っているので割とおいしい物は食べ慣れているのだが、ロギルジョーにとって、私は残飯だけを食べて生きてきた人間に映るのだろう。面倒だから訂正はしないが、私たちの間には微妙な空気が流れ始める。
買ったものを食べるということで噴水に座ったが、ロギルジョーは自分の分を買わず、食べている私をじっと見る。なんだその、子供が食べているのを熱心に見守るような親のような目線は。
「あ、あ~。あそこに人だかりが出来てるな。あれはなんだ?」
居たたまれなくなり、私は目の前に移るものを適当に指さす。
「ああ、縁結びの樹のことか。見に行こうぜ」
私を背負うことに嫌そうな顔をせず、ロギルジョーは再び私を背負って歩き出した。微妙な空気が流れていたから、まあいい。
「縁結びの樹?魔法はびこるこの世界で、そんな迷信チックなものがあるのか?」
「俺は興味ないんだけどな。実は兄貴はこっそりここに通い詰めてるんだぜ?あそこの樹をみてくれ」
ロギルジョーは木々が並ぶ公園に足を踏み入れ、周辺の土をレンガで舗装している一本の光り輝く木を指さす。枝には大量の赤いリボンが結ばれていた。
「このあたりの樹、光ってるだろ。なかでもあの樹が一番輝いているんだよ。なんでも、内密に仕入れた情報なんだけどよ。あれは兄貴専用の樹らしい」
公園には数十本にもわたる樹木が生えていたが、その枝にはどれも赤色のリボンが結ばれていた。そのなかでもロギルジョーが指さした樹には、赤いリボンが9本、丁寧に結ばれている。
「管理人があの樹だけ特別に個人専用にすることを認めたんだってよ。だからあの樹は、兄貴が毎年訪れて丁寧に世話しているらしいんだよ」
「そうか、アウレリウスは良縁に恵まれたいのか。安心しろ、これからは私が恋のキューピッドになるからな」
「あんたと結ばれたくて頑張ってるんだろうが!!」
いじらしい努力をする子だ。急いで不死鳥の守りの洗脳を解いて、良縁を紹介してやるからな。
「あんたも結んでいくか?いや、もう相手は決まっているようなもんだけどよ・・・」
「私か?私は独身で生きていく。伴侶がいたとてどうせ馬もあわんだろうし、今では息子もいるし。そして息子に看取られて暖かな最期を迎えたい」
「そういえば婚約者はジェルド殿だったよな。見るからにあんたたち相性最悪だよな。はは、喋ってるとなんかジェルド殿の幻覚が見えてきたな・・・」
「はは、私にもジェルドの幻覚が・・・見え・・・」
私とロギルジョーは押し黙る。二人同時に幻覚が見えるということは、つまりそういうことである。縁結びの公園に、ジェルドがいた。こちらのことはまだ気が付いていないようで、じっと樹を眺めている。
『おいおいおい、本物か!?あの堅物ジェルドが縁結びなんて、あそこにいるのは誰かが作った幻影じゃないのか!?』
『双子の兄弟か、他人の空似かもしれない!!落ち着け、まずは遠くから観察するぞ』
とはいうものの、あのようなモノクルを魔道具にしている男をジェルド以外に知らない。ジェルドは赤いリボンが結ばれた隅の樹をただ無心にじっと見ていた。一つだけ他と離れた木で、青空と赤い紐とのコントラストが美しい。
『・・・元婚約者殿は誰かに片思いでもしてるのか?こんな迷信の公園にやってきて無駄な時間を過ごすなど、あいつらしくない』
『あのさ。仮に本当に誰かに片思いしているなら、あんたの殺人の動機にならないか?』
『殺人の動機・・・?』
つまりロギルジョーはこう言いたいのだろう。他に好きな相手がいるが、そのためには婚約者を消す必要があった。だから私を殺さねば、その相手とは結ばれないと。
『つまりもしジェルドが犯人であれば、私はあいつの恋路の為に殺されたということか?』
『まだ決まってはねえけどよ。これまでの容疑者の中で、一番明確な動機にはなるよな』
『許さん、わ、私だって別に好きで婚約関係を結ばされたわけではないのに・・・!!』
落ち着けとばかりに私を揺するロギルジョー。しかし、奇妙な動きであるがゆえに、当然目立ち。
「お前達、こんなところでこそこそとなにをしているんだ?」
ジェルドだ。議論に熱中している私たちに気が付き、近づいてきた。
「知らねえよ!そんな児童向けタイトル本の在処、俺が聞きてえよ!!」
アウレリウスに抱かれた翌日。私はロギルジョーの胸倉を掴んでいた。
その本で契約破棄について書かれていれば上々、無くともフェニックスを躾する手段を私は知りたい!!しつけて私にお痛するアウレリウスを止める方法を知らなくてはならない!!
「少なくとも王宮にはねぇな」
「・・・お前、フェニックスについて知っていることって何がある?」
「幻の存在だろ?人並み以上に知らねえよ」
王族にもいまいち知られていないとは。やはり図鑑を探す必要がある。
「今日は城下に行くか」
「俺はうきうきで修業を付けてもらいに来たんだけどな・・・?まあいいや、切羽詰まってるようだから付き合うよ」
ロギルジョーはベッドサイドで腰をかがめ、私をおんぶする。王宮内で王族にこのようなことをさせるのは本当はよろしくないのだが、使用人たちから慕われているようで、誰も表情一つ変えない。頭を下げてくる面々に、軽く手を振っていた。
「お前もここの使用人たちも、昔はアウレリウスをいじめていたと聞いているぞ。どの面下げて王宮にいるんだ」
「へえへえ反省してますー。ったく、頑張ればできるのなら最初からやってればいいだろうが。他の奴らは知らねえが、俺は雑魚を小馬鹿にするという、事実の指摘くらいしかしてねえからな」
「そういう余計な一言で子供の心は一生傷を負うんだからな!まったく、けしからん」
「雑魚に雑魚って言って何が悪いんだ。その反骨精神で大物になったのなら、俺を褒めてほしいくらいだね」
無言で私は首を絞めた。一方のロギルジョーはそう来ると思ったのか、頭を動かして受け身をとる。すれ違う使用人たちには会話の内容を聞かれないように、小声になりながら会話をしていると、使用人たちが前方に頭を下げ始めた。
誰か、身分の高い者がこれから来るような、独特な空気を肌で感じる。
やがて、赤いドレスに身を包んだ、40代くらいの女性が、前方からこちらに向かって歩いてくる。ややきつめの化粧をしており、その性格が外見から伺える。
「あら、廊下が騒がしいと思えばロギルなの」
「母上!」
「それも背中に人を背負って。王宮でそのような下品なことはおやめなさい」
母上?つまりこの女性がロギルジョーの母親か?
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「お前。ロギルの背中から降りなさい。繰り返すけれど、ここをどこだと思っているの」
「母上、これには事情があるんです」
「黙りなさい、事情があれど、そのようなことは使用人にさせればいいこと。貴方がわざわざ卑しいことをする義理はなくってよ」
ロギルジョーは抱えている私を手放さないようにする一方で、面倒と判断した私は浮遊魔法で体を浮かせる。おんぶでなくなったとはいえ浮遊魔法でも言いたいことはあるようだ。けれど女性はそのまま私のことをじっと見たうえで、何も言わずにどこかへ行ってしまった。
「いや、悪ぃな。普段は優しくて賢い人なんだが、気品についてはうるさいんだよ」
「ロギルジョー、お前。ひょっとして身内の評価に砂糖水以上に甘いタイプか?」
「あんたに言われたくねぇんだけど!?」
彼女が我が国の王妃にして、幼いアウレリウスにつらく当たっていた義母。すなわち私の敵である。去った方向へ向けて私が威嚇していると、ロギルジョーからデコピンされた。
「不敬になるからやめろ。下町へ行くんだろ?」
「そうだな、闇討ちは別に今じゃなくていい」
「息子の前でよくそんな過激なこと呟けるよな!?」
ロギルジョーは王宮から出るなり私を背負い直し、眼鏡をかける。魔道具の一種で、まあいわゆるお忍び用変装道具だ。
「背負っていると目立つがいいのか?」
「下町ではお年寄り背負う奴が割といるんだよ」
「そうか、なら問題無いな」
・・・私の左足は包帯でグルグル巻かれているから、やはり目立つな。
そして私たちはやや視線を受けながら動き始める。昨日はアウレリウスのたくましい背中に一生懸命腕を回そうとしていたが、それに比べればこの背中はやや小さい。しかし、ロギルジョーも同じことを私に感じたようだ。
「あんた本当に食べてんのか?随分軽いぞ。そのへんの年寄りと体重変わらねえレベルだ」
「お前ももう少し食べたほうがいい。成長期だろ?アウレリウスより遥かに小さいぞ」
「盛ってる盛ってる。俺と兄貴そこまで変わらんって。なんかあんたと喋ってると本当に年寄りと喋ってる感覚に包まれるな。なんだこの気持ち」
変わらないというが、アウレリウスは180センチ代、ロギルジョーは170真ん中当たりだろう。まあ大人の姿の私は170前半故に何か言えた義理ではないが。
「15歳まで私は監禁されていたからな。この姿はその時を再現しているんだが、やせっぽっちなのは仕方ないんだ」
「・・・なんか、悪ぃな」
「気にするな。大人のことなど気にせず、若者はたんと食え」
下町はとても賑わっていて、屋台も出ている。ところどころおいしそうな肉の匂いもすれば、ジュースなんかも売っていた。アークランドでは魔法使いは民衆にも珍しくはないため、飾りが宙を浮いていたり、食べ物が浮遊していたりなどで見ているだけでも面白い。
「思えば私はこうして下町を碌に歩いたことが無かったな。ふむ、中々興味深い」
「・・・なんか、食ってくか?奢るぜ?」
「年下に奢られる人間がどこにいる」
とはいうもののあそこの牛串が気になったので、ロギルジョーにおぶされながら自費で購入する。網と炭火焼きで焼いており、香ばしい匂いが鼻を通る。
「ふむ、魔法界の牛串もなかなかうまいな」
「遠慮すんな、好きな物食わせてやるから」
「お、おお。突然献身的になってどうしたんだ。お前らしくない」
こう見えて前世の大学時代では旅行に行っているので割とおいしい物は食べ慣れているのだが、ロギルジョーにとって、私は残飯だけを食べて生きてきた人間に映るのだろう。面倒だから訂正はしないが、私たちの間には微妙な空気が流れ始める。
買ったものを食べるということで噴水に座ったが、ロギルジョーは自分の分を買わず、食べている私をじっと見る。なんだその、子供が食べているのを熱心に見守るような親のような目線は。
「あ、あ~。あそこに人だかりが出来てるな。あれはなんだ?」
居たたまれなくなり、私は目の前に移るものを適当に指さす。
「ああ、縁結びの樹のことか。見に行こうぜ」
私を背負うことに嫌そうな顔をせず、ロギルジョーは再び私を背負って歩き出した。微妙な空気が流れていたから、まあいい。
「縁結びの樹?魔法はびこるこの世界で、そんな迷信チックなものがあるのか?」
「俺は興味ないんだけどな。実は兄貴はこっそりここに通い詰めてるんだぜ?あそこの樹をみてくれ」
ロギルジョーは木々が並ぶ公園に足を踏み入れ、周辺の土をレンガで舗装している一本の光り輝く木を指さす。枝には大量の赤いリボンが結ばれていた。
「このあたりの樹、光ってるだろ。なかでもあの樹が一番輝いているんだよ。なんでも、内密に仕入れた情報なんだけどよ。あれは兄貴専用の樹らしい」
公園には数十本にもわたる樹木が生えていたが、その枝にはどれも赤色のリボンが結ばれていた。そのなかでもロギルジョーが指さした樹には、赤いリボンが9本、丁寧に結ばれている。
「管理人があの樹だけ特別に個人専用にすることを認めたんだってよ。だからあの樹は、兄貴が毎年訪れて丁寧に世話しているらしいんだよ」
「そうか、アウレリウスは良縁に恵まれたいのか。安心しろ、これからは私が恋のキューピッドになるからな」
「あんたと結ばれたくて頑張ってるんだろうが!!」
いじらしい努力をする子だ。急いで不死鳥の守りの洗脳を解いて、良縁を紹介してやるからな。
「あんたも結んでいくか?いや、もう相手は決まっているようなもんだけどよ・・・」
「私か?私は独身で生きていく。伴侶がいたとてどうせ馬もあわんだろうし、今では息子もいるし。そして息子に看取られて暖かな最期を迎えたい」
「そういえば婚約者はジェルド殿だったよな。見るからにあんたたち相性最悪だよな。はは、喋ってるとなんかジェルド殿の幻覚が見えてきたな・・・」
「はは、私にもジェルドの幻覚が・・・見え・・・」
私とロギルジョーは押し黙る。二人同時に幻覚が見えるということは、つまりそういうことである。縁結びの公園に、ジェルドがいた。こちらのことはまだ気が付いていないようで、じっと樹を眺めている。
『おいおいおい、本物か!?あの堅物ジェルドが縁結びなんて、あそこにいるのは誰かが作った幻影じゃないのか!?』
『双子の兄弟か、他人の空似かもしれない!!落ち着け、まずは遠くから観察するぞ』
とはいうものの、あのようなモノクルを魔道具にしている男をジェルド以外に知らない。ジェルドは赤いリボンが結ばれた隅の樹をただ無心にじっと見ていた。一つだけ他と離れた木で、青空と赤い紐とのコントラストが美しい。
『・・・元婚約者殿は誰かに片思いでもしてるのか?こんな迷信の公園にやってきて無駄な時間を過ごすなど、あいつらしくない』
『あのさ。仮に本当に誰かに片思いしているなら、あんたの殺人の動機にならないか?』
『殺人の動機・・・?』
つまりロギルジョーはこう言いたいのだろう。他に好きな相手がいるが、そのためには婚約者を消す必要があった。だから私を殺さねば、その相手とは結ばれないと。
『つまりもしジェルドが犯人であれば、私はあいつの恋路の為に殺されたということか?』
『まだ決まってはねえけどよ。これまでの容疑者の中で、一番明確な動機にはなるよな』
『許さん、わ、私だって別に好きで婚約関係を結ばされたわけではないのに・・・!!』
落ち着けとばかりに私を揺するロギルジョー。しかし、奇妙な動きであるがゆえに、当然目立ち。
「お前達、こんなところでこそこそとなにをしているんだ?」
ジェルドだ。議論に熱中している私たちに気が付き、近づいてきた。
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