誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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終章 空色の君を思う

83.春告げの儀

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 春告げの儀は、貴族社会でいう舞踏会と近い要領で進行する。つまり、身分の低い物から入場し、後ろに入る人物程、格が上がっていく。やがて踊るもの、歓談する者に分かれる。

 とはいえここは魔法学園。身分では計られない。では何で決まるかというと、三年のうち下位から入場し、成績上位が最後になる。つまり、アウレリウスはラストになるのだ。

「アリオン、快諾してくれたのに何で今日は嫌がってるの?ひょっとして緊張してる?」
「快諾してませんから!抵抗しましたから!なんなら今すぐに帰りたいですから!!」

 待機場をこっそり抜けようとする私を、アウレリウスは一生懸命掴む。本来であれば前に二位のロキがいなくてはならないが、襲撃の準備のためだろう、この場にはまだいなかった。故に、三位のイヴリン嬢が前にいる状態だ。新緑のドレスで、とても美しい。隣のレオはイヴリン嬢のペアであり、私のことを冷めた目で見ていた。

「ここまで来たならもう腹を括りなよ。ほら、周囲の三年生たちがアリオンのことを温かい目で見てるじゃん」

 確かに、よく見ると他の三年生の面々はアウレリウスの、公として衣装も髪も整えた美しい姿に見とれ、一方隣の私には温かい視線を向けている。なんだその、親戚の子供の七五三でも見るような類の目は!!

「最初はアリオンのこと恋敵って見る人たちも多かったけれど、あまりにも殿下と仲睦まじいから段々と見守りの方向へシフトしていったんだろうね。良かったじゃん」
「だから僕と殿下はそういう関係じゃないから」
「ならなんでここにいるの?」
「強引に連れてこられたからだよ!!」

 そう叫ぶとアウレリウスは不服そうに見てくる。
 イヴリン嬢の相手はレオ。ふむ。

「そういえば血縁者って相手がいないっていうアピールになるんだったよね。つまり、僕らもギリギリ行けるのでは。父子路線で」
「頭大丈夫?そんな色も装飾もそろえておいて、恋仲じゃないは無理があるよ?」
「・・・レオたちは姉弟だから色とか全く揃えていないんだね。なるほど。話は変わるんだけど、ペアの交換って受け付けてるかな?レオ、よければ僕と出ない?」
「ほぼトリに近いところに一年二人がペアで出るってこと!?意味が分からないんだけど!!」

 ここでこのまま出てしまったら私は王太子の婚約者候補として永遠にみんなの記憶に残る。プロポーズの返答にまで時間があるのだから、ギリギリまで保留にしたのである。なら、アウレリウスをイヴリン嬢と組ませればいいのでは?と思ったが双方とも嫌そうな顔をした。

「もう目録も決まってるんだから変更は出来ないよ。どのみち魔塔主のマラカイ殿が、王族だけは誰と組んでも色眼鏡で見ないことってお達しだしたんでしょ?なら気負う必要はないんじゃないかな」
「そっか、そうだよね。僕らが出ても、そういう勘違いする人はいないよね」
「アリオンがそう言った途端、聞こえてた三年たちが顔を見合わせて困惑しているから手遅れな気がするけれど、まあ元気が出たならいいや」

 そしてレオは話は終わったとでもいうように前を向いた。レオも、この後の戦闘を考えて緊張しているのだろう。そんな最中、ペアについて揉めていて本当に申し訳ない。アウレリウスは小声で耳打ちをしてきた。

「多分僕たちのことを恋仲って分かっていないのはアリオンくらいだと思うよ」

 当事者が分かっていないのであれば、それは恋仲とは言わないのでは。

「でも、プロポーズの答えはOKだって僕は分かってるから、今は勘弁してあげるよ。あ、アリオン顔赤い」
「馬鹿!周りに聞こえたらどうするんだ!!」

 列が段々と進んでいく。そして、出番がもうすぐであることを否応なしに理解するのだ。

「とはいえお前の晴れ舞台だ。その黒と赤を基調にした衣装は、お前以上に映える奴はいないよ」

 これが子供の卒業式という奴なんだろうな。立派になった姿に、お父さんはハンカチを心の中で握りしめているよ。

「うん、そして僕の色に染まってるアリオンは世界一綺麗だよ」
「いや、いつもより髪も整えていて少し額も出していて、そのブローチを筆頭にした装飾品。お前が一番の主役だよ」
「いやいや、おそろいの装飾を付けているアリオンはもっと綺麗だから、真の主役はアリオンだよ」

 前列のレオたちと距離があるが、なにやら姉弟でこそこそ話し合ってる。

『なんか、後ろの二人イチャイチャしてない?』
『あの分ですと今から熱い口づけでも交わしそうな勢いですわね』

 せんわ。
 こちらを期待するような目でちらちら見てくるイヴリン嬢だが、彼女にも荒事が起こる旨は伝えてある。故に、侯爵家の力を借りて、この会場のすぐ近くの部屋に、応急手当物資などを蓄えている。また、来賓の中には王家から潜りこんだ治癒術師も潜伏していた。私含め事情を知っている者は全員、衣装を脱ぐとスムーズに戦闘服になるように、下に別のものを着込んでいた。こんなジャラジャラでは戦うのも難しいからな。

 いつ事が起こるか分からない。けれどそれまではアウレリウスが最も目立った華になる。故に今はこの会場を楽しむしかない。
 やがてレオたちが会場に進んだ。出番はもうすぐだ。

「最初は静かなオーケストラが流れて、主役の僕らが入ってコーラスになるんだよ。アリオン、皆の注目を一手に引き受ける準備は出来た?」
「ああもう、分かった!分かったから!!」

 やがて係から出番を促される。そして、主役の登場とのことで会場からは聞いたことも無いほどの大きな拍手が鳴り響いた。やがて扉をくぐると、照明が輝き、幻の赤の花びらが頭上から振る美しい大講堂に踏み入れる。

 まるで、世界の注目が私たちに集まっているかのようだった。

 音楽に合わせて会場の中央に足を運ぶ。さりげなく目をやると、動物の骨を持ったアバラ、腕組みをしているジェルド、嬉しそうに手を叩くロージ、各教授の面々、たくさん詰め寄っていた。私たちが中央に来た時にテロが起こる可能性も考えたが何も起こらず、やがて曲のコーラスの部分がやってくる。

 最も目立つ場所で、私たちは向き合って手を取り合う。フロア中央の私たちを、照明は神々しく照らし出す。ここは、現役時代にはボイコットして立てなかった場所だ。それをこんな形で立つことになろうとは。

 けれどそんな感慨にふけるよりも、美しい魔法のライトに照らされて、妖艶な色気を纏うアウレリウスに私の目は釘付けになっていた。私が真に惹かれたのは静かな瞳だった。
 ただそこに立っているだけで、周囲の空気までもが一変するような王族としての威厳。けれどこちらに向ける眼差しは、優しく、深い信頼に満ちている。

 アウレリウスの存在は、魔法で作られた照明や、豪華な装飾品よりもずっと印象強く、この会場の雰囲気を決定づけていた。

 なんて、美しいのだろう。

「アリオン、行くよ」

 やがてダンスは始まる。い、いけない、アウレリウスに見惚れてしまっていた!少し頭を振り、冷静になった。主役の足を引っ張ってはならない。ダンスは得意ではないが、この子のために全力は尽くさねば。

「アリオンはダンスは初めてかな?僕に身を任せていてくれれば大丈夫だよ」
「いや、この間練習でジェルドと踊ったよ」
「それは練習だからカウントには入らないよ。つまり、公式で踊ったのは初めてっていうことかな?」
「・・・まあ、そうなるな」

 その言葉に気分が高揚したのか、情熱的な身のこなしを演じることになる。周囲も、呼吸を止めたように私たちを見入った。

 体重の移動が滑らかで、手を引いては私の体を上手に操る。流石は王族。社交界には慣れているだろうが、相手への気遣いも格別にうまい。周囲も私たちの踊りに見惚れ、小さく声を漏らしていた。

「アリオンの初めてをまた貰えて、僕はとても嬉しい」
「語弊があるからやめろ」

 やがて音楽が止まると、私たちは並んで一礼する。そして、会場全体から大きな拍手が鳴り響いた。

「ふう・・・なんとかクリアか。もう二度としたくないな、こんなこと」
「こら、王妃になったらパーティは日常茶飯事になるんだからね?」

 仮に貴族制度がなくなろうと、他国との交流でパーティは無くならない。妃になる人間は大変だと思うよ。本当に。

 やがて、タイムスケジュールに決められていない、歓談の時間となる。私たちに集まっていた視線は半分は周囲に散り、けれどアウレリウスは主役ということで挨拶のため人々が殺到する。

「じゃあ、私はこれから用があるから抜けるよ。すぐ戻るから」
「え!?アリオン!?」

 もみくちゃにされるアウレリウスを置いて、私は会場出入り口に向かって走っていく。すると、会場から逃げるように離れていく元婚約者殿を見つけた。

「ジェルド教授!ここにいたんですね!」
「・・・ああ、お前か。何を急いで・・・。そういえば一曲踊る約束だったな」

 こいつはこういうキラキラした場所が苦手なのだろう。社交界も避けていると聞く。そこだけは本当に考えが一緒だな。

「よろしれば僕と一緒にご一緒してくださいませんか?いい場所を知っているんです」
「ふむ、いいだろう」

 生徒のアリオンのことは気に入ってくれているようで、即答をする。二人で会場を離れ、階段を上り、上へ上へ。以前にアウレリウスと一緒に来た、バルコニーだ。春のあたたかなそよ風が心地よい。

「ふむ、魔法の花はここまで演出が届くのか。いつも早々に会場を抜けているが、ここに来たのは初めてだ」
「オーケストラの音楽も聞こえるんですよ。なので一曲どうですか?」

 私はジェルドに手を差し出す。
 ジェルドは無言で手を取って、私の腰に手を当てた。

 荘厳な音楽が奏でられる。大聖堂での演奏のため、ここから遠くで響いているのがなんともいえない気持ちにさせられるものだ。けれど、私たちは無言で踊った。

 学園時代に、互いに避けていたあの時を埋めるように。

「あの大聖堂とは違って、視線はない。だから、楽しいな」
「そうですね」

 ジェルドもそれを思い出していたのだろう。どこか辛そうな表情をこらえながら、けれど私という生徒の前で気丈にふるまっていた。

「以前僕は友人から聞かれたことがあります。性善説派か性悪説派かって。僕は性善説って答えました。教授はどう思いますか?」
「性善説だな」
「・・・本当ですか?」
「本当だ」

 疑うような私の視線をジェルドは一蹴する。

「なんでも、性善説を信じる人間のほうが根は良い人間が多いと」
「そんなことはないだろう。それはあまりに極論すぎる」
「僕もそう思います。でも、だからこそ、この問答に僕は結論を出せる」

 アウレリウスが情熱的な踊りであったなら、ジェルドはとても穏やかだった。ただ心地よい時間だ。

 やがて曲は一区切りつく。私たちは無言で体を止めた。

「教授。僕は、貴方と二人きりになりたかった。だからここについてきてもらいました」
「・・・・・・」
「話があるんです」
「・・・なんとなく、そんな気はしたよ。一応尋ねるが、どういう話だ?」



「ローゼルアリオンを殺したのは、貴方ですね」
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