誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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終章 空色の君を思う

89.黎明戦争③

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 戦いの舞台は移る。
 アバラとレオは、ロキと対峙していた。

「そこの青髪のおまえ。平民か?」
「せやで。やからなんなん?」
「俺は民主制を推進しているんだ。お前も平民なら、貴族制に思うところはあるだろ?」

 レオは、今の発言に硬直した。これはつまり、スカウトだ。
 アリオンからは二人に、民主制のその先の未来について説明を受けている。しかしアバラはいまいちわかっていなかったようで、「なんやよーわからんけどおチビがあかん言うならそういうことやろ」と納得したのだ。

「お前たち平民は、最も蔑まれた存在だ。それは、誰かが変革を起こさねば永遠に変わらないだろう」
「それは、確かに嫌やな」
「はは、お前はとても賢いな。そうだ、その学園にいても、お前の将来には限界がある。どれだけ努力しても、報われることは無い」
「それも、嫌やな」
「アバラ・・・」

 レオは心配そうにアバラを見上げた。単純に、敵の口車に乗せられそうになっている友人を心配しているのだ。しかし。

「でもなあ、将来がどうとかじゃなくってなあ。俺がこの学園にいるのは、魔法を学びたかったからや。将来がどうなるとか、俺は考えとらん。古くて狭い考えの村から出て、ここに入って、沢山のことを見聞きして、体験して。嫌いやと思ってたやつが尊敬できる人間やったなんて、驚きもあった。でもそういう発見を積み重ねて立派な魔法使いになる。俺は職業を探しにここに来たんとちゃうよ」
「・・・そんな目先の楽しみは今だけだ」
「ちゃうで!新しい世界はとても楽しかった!初めて村の外で出来た友達も、俺の宝物になったんや!俺は学園での生活が本当に楽しかった!俺はこの学園に来れて、本当に良かったよ」

 その声は、この場を水鏡で写し出しているアリオンにも聞こえているだろう。そしてアバラの言葉にどれだけ救われているか、アバラは知る由もないのだろう。

「頭悪いから、民主化とかよくわからんよ。でもな、大好きな学園を守るために、俺は戦うんや」

 アバラは静かに拳を握って構えた。レオも安堵し、正面を向く。

「敵さん、増援おるとおもうか?」
「いいや、いないと思う。極秘の作戦だから、取り巻きだろうと信用していないだろうね。特にこれは平民主軸の侵攻っていう名目だし、こいつは多分、頭悪そうな貴族しか知り合いにいないと思うよ」
「そっか。なら温存せんでええな!!」

 アバラはロキとの距離を一気に詰め、喉に向かってこぶしをふるう。ロキの魔道具は喉にあるためだ。しかし咄嗟に展開された歌による防御魔法に弾かれる。

「安直な攻撃だな。食らいな」

 ロキはアバラの腕を掴み、至近距離で叫ぶ。しかし、アバラは何とか振りほどき、また二人の間をレオが水の盾を張った。いや、盾ではない。それはもはや半球体の壁だった。

 水に光や音が入るとき、反射も起これば屈折も起こる。故に、音は淀む。0にはならないが、相当軽減が出来るのだ。加えてそれを半球状にすることで、ロキに跳ね返るように工夫している。

 しかし、屈折は起こる以上はやはり音をすべて相殺することは難しく、レオは苦痛に顔を顰め、アバラは耳を庇うような姿勢を取った。それをロキは逃さない。

「もっと水の壁が広いかぶ厚ければなあ。お前、水魔法は使えるが、魔力量は微妙なんだろ?」
「・・・・・・」

 レオは答えない。とはいえ、レオの魔力量が少ないのはその通りだった。貴族ではあるが、魔力量に特化した血筋ではない。ただ侯爵家の家系は学術的な方向に秀でていた。

 そう、学問では評価されにくい魔法界では、侯爵家は裏では嗤われることの多い家だったのだ。

 例えば新しい魔法を開発したとする。しかし、特許のような思想の無いこの世界では、結局扱えるようになるのは魔法の実技に秀でた者。そういった者たちは我が者ののように新しい魔法を行使し、一方開発者が称えられることは少ない。侯爵家ではたくさんの魔法の開発をしていたが、反面、魔塔主や王宮魔法使いと言った有名所は輩出出来ていないのだ。

 結局上に立てる魔法使いは、ローゼルアリオンやマラカイのような、実技において最強クラスの者たち。彼らは確かに学問にも秀でているが、本当にそちらはおまけのような評価でしかない。

 知識とは誰もが等しく習得できるもので、だから無価値。

「魔法っていうのはな、誰もが自在に使えるわけじゃあないから価値がある。誰でも上限無く使えるんじゃあ、飽和するからな。一生懸命頭を使おうとしているようだが、それで俺には勝てねえよ」

 ロキは歌いだす。星辰魔導議会の際にはアウレリウスに通用しないと分かると歌声は崩れたが、敗北を経た今ではもう、ロキのメンタルも安定してきた。大抵のことで魔法の精度は崩れはしない。

 レオの水の壁も、広範囲に出来るわけではない。長時間も難しい。敵の攻撃の瞬間ごとに張りなおしている状態だ。長引けば長引くほどに分は悪くなるだろう。

 アバラと連携しながら、水の壁を調整する。口の動きに合わせて、またアバラの体の向きに合わせて。ロキを水で包めるかと思いきや、上手に躱され、音節の瞬間に魔力をさりげなくためることで、衝撃波を生みアバラの体術を弾き飛ばす。

 これが魔法学園の最上級生にして、準優勝の男。アウレリウスという絶対の存在が無ければ、この男こそが今年の首席だった。

「俺の体術は一度でも当たれば、あんなひょろひょろ沈められるんやったんやけどなあ。くそ、粘るで!」

 レオは水で矢を作り、飛ばす。しかし防御の魔法を歌いだし、簡単に弾かれた。

 無敵だ。音は360度に飛ばせる。こちらの攻撃は歌で弾かれ、しかし相手の歌はこちらに届く。曲の切り替わりに差し掛かり、見下すようにロキは口を開く。

「これが最上級生と下級生の違いだ。そして才能のあるものと無いものの違い」

 すぐに次の歌に行けばいいものの、明らかに侮っている。
 アリオンのように機転を利かせて反射鏡を作るような芸当はレオにはまだできない。だからアバラは体術に持ち込んで隙を作ろうとし、一方レオは水の壁で守りを作るしかないのだ。

 一瞬でも、隙があれば。

 アバラは両手を広げた。。レオはそれを見て、静かにうなずく。

「いくでぇ!!」

 アバラは地面に両手を当てた。

『アバラの身体強化って、こぶしを固くしたりできるよね。そのまま他の物質って固くできる?』

 アリオンは、以前にアバラにそう聞いた。

『おう、出来るで!まあ、この学園にきて色々思い知らされたけどなあ。物を固くできても遠距離には到底勝てへんってなあ』
『そんなことないよ。逆に、そういった原始的な力こそが、一番対策が難しいんだよ』

 アリオンはそれだけ情報を得ると、目を閉じて、作戦を立案した。

『土魔法が使えなくたっていい。確かに土を固くするには土魔法が必要だろうね。けれど、それは遠距離に飛ばす場合での話。アバラ、近距離の君は、もっと想像力豊かにしていいんだよ』


 アバラは地面の表面10センチほどを固くする。アバラもまた魔力は多くない。けれど広く、薄く。おおよそ、このロキとの戦場の土を覆えるように。

 そしてそれを一気に持ち上げた!!崩れることなく、畳のようにそれは持ち上がる。

「-ッ!!!なっ、バカな!?」

 地面が持ち上がるということは、つまりロキの体も持ち上がる。10センチほどの土では人間の足は土を貫通するし、何より柔らかすぎればそもそも土を持ち上げることもできない。

 けれど、限定的な硬化魔法を使った。故に、意表を突かれたロキは態勢を崩し、バランスを戻すために歌声を止めてしまう。

 ロキは思ったことだろう。隙が出来てしまう、と。

 そして同時に思ったことだろう。で、あれば最大火力の音響を出して、周辺諸共破壊すればいいと。

 自分の鼓膜も痛め、また魔力を大きく消費するだろうからロキとしても取りたくなかった手段だ。彼にはまだこれからやるべきことがある。こんな雑魚共に消費すべきではない。けれど、倒れてしまったら意味がない。

 ロキは、自分の必殺技ともいうべき歌を咄嗟に選曲した。防御をかなぐり捨てた攻撃特化の魔法。結局人を傷つけてきた人生だ。どちらが得意かというと、窮地には日常的にやってきたことを選択する。

「・・・待ってたよ、この瞬間を」

 防御は解かれた。レオはロキの死角、悟られないように地道に上空に作っておいた水の塊を、すぐ下に落とした!!

「相手が大きい魔法を行使していると、不思議と小さい魔法を見逃すことがある。それは、熟練者でもよくやってしまうこと。だから囮として有効だってことを。壁が僕の最大出力だって油断したね」

 レオは上空に伏せていたそれを、ロキの顔にかぶせる。小さな水の塊だ。人間を覆うほど大きい物でなくともいい。ただ顔さえ覆ってしまえば、人間はそれだけで命の危機に晒される。

「ぐっ、っふぉ・・・!!」

 当然水中では息が出来ない。故に歌うこともできない。けれど、体の向きをずらせば呼吸は出来る。ロキはその身を傾けようとした。しかし。

「そうはさせへんで!!」

 ロキの思惑を、アバラは止める。しがみついたのだ。

 呼吸のできない人間の末路など、一つしかない。ロキは咄嗟に両手を挙げて、降参の意志を表明した。

 決着はついた。

「すう、すう、すう・・・」
「窒息はしないように、鼻の部分だけは開けてあげるよ。詠唱もできないし、実質無効化成功だね」
「はあ、はあ・・・。終わったぁ・・・。強かったぁ・・・」
「お疲れ様、アバラ」

 アバラは息を乱しながらも、ロキの懐をまさぐる。すると、白いお守りがあった。アバラはそれを破壊する。

「真っ先に家族が身代わりになるだろうに、こいつの父親はこれを持たせたんやな」
「魔獣避けの目印でもあるから、まあ普通なら死ぬことはないと思ったんだろうね。よし、このままロキをアリオンたちに引き渡そうか」

 レオの魔力切れを考量し、アバラはロキの鳩尾に一発入れて沈める。やがて頭上から聞きなじみのある声がした。

『二人とも、よくやった。そいつを持ってこっちに・・・いや、持ってこられてもしょうがないな。魔法実技学の地下に秘密の部屋があるから、そいつを収納しておいてくれ。ではな』

 ブツリと音が切れる。

「いやほんま、おチビどうしたん?本当に急にキャラチェンしとるやん。戦争って人間を変えるってよぉいうけれど、こういうことやったんやな」
「異変はともかく、アリオンと一生懸命考えた作戦が役に立ったね」

 アウレリウス殿下は言った。知識は、窮地を救う鍵となると。

 勉学に励んでも、レオが報われることは無かったはずだった。けれど、ローゼルアリオンが学力重視の施行をして、初めて自分のスキルを認めてくれる人がいると思えた。

「僕も、この学園に入って本当に良かったよ」
「うん!よし、地下牢に行ったら俺たちも前線行ったるで!!」

 そして無事にロキの制圧に成功したのであった。
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