92 / 124
終章 空色の君を思う
91.黎明戦争⑤
しおりを挟む
立木心愛がついに私たちの前に立ちふさがった。彼女の後ろには見覚えのある平民が数人おり、学園には知り合いもいるだろうに構わず攻撃魔法を仕掛けている。彼らは過去に軍部へと連れ去られた面子だろう。けれど、大義の為であったら暴力行為もいとわないくらいに刷り込まれている。
「モルト!くそ、ここで寝とってな!!」
アバラの同室だった男だ。彼もこの戦いに平民側として加わっており、アバラによって気絶させられていた。・・・いや、後ろを見ている余裕はないな。目の前にはその平民代表がいる。
聖女と、悪役が互いを見合う。
これが最後の戦いになる。
「地味男。アウレリウスの説得はしてくれたかしら?民主化は正しいことって。この学園の面々はこれから皆殺しにするけれど、アウレリウスを差し出してくれるのであれば、貴方だけは同郷のよしみで助けてあげないこともないわ?」
「そうだね、民主化は正しいことだ。正しいからこそ、元の世界で多くの国が取り入れている政治形態だ」
立木心愛はにこりと笑う。・・・けれど。
「君はまだ若い。だから知らないのだ。革命の先に何があるか。民衆が後ろ盾無くトップになれば、今度は力を持っている軍部を抑える力が無くなる。すると、君たちのやり方では軍国主義の道は避けて通れない」
「・・・?何言ってるの?そんなこと、なるわけないじゃない」
「君の後ろにいるのは軍部で、君はただの操り人形。革命を起こさせて、失敗すれば切り捨て、成功すれば君を抑えて乗っ取るための踏み台でしかない」
どうしてこの戦いが起こっているのか。あまりに突発に起こった戦争であり、理解できない者の方が大多数だ。故に私はスピーカーで戦場に声を拡散させていた。
教授たちも、生徒達も、乗り込んできた平民たちも、私たちの問答に耳を傾けていた。戦場は魔物と魔法使いの戦いから、魔法使いと魔法使いへの戦いへとシフトしている。故に、不思議と周囲の戦いの音は静まっていく。
「貴族制度はいずれ滅びる。それは免れない。どれだけ魔法が発達した世界であっても、歴史は平民に味方をする。時代と共に主権は国民に移り、民たちの声が反映される平和な国へと進んでいく。けれど、王も存続する。王とは、政権を握る存在から、その国の文化的象徴を背負うものへと変貌していく」
「・・・・・・」
「アウレリウス王がいれば、軍国主義の道を辿らず平和な形で平民たちに権力を移行できるだろう。立憲君主制へ、平和に移行していける。他でもない、このローゼルアリオンが宣言する!」
ローゼルアリオン、その名を聞いた途端、立木心愛も、アバラも、周辺の面々も、目を見開く。死んだはずの人間の名だ。驚くのも無理は無かろう。
スピーカーはここまででいい。
魔力は満ちた。
人々の視線が私に集中している中、黒い大杖を召喚し、姿を大人に戻した。
「ローゼルアリオンッ!?どうして、悪役のあんたが、どうしてここにっ!!」
「本当だよ、どうしてヒロインのお前がそこにいて私がここにいるのか。不思議極まりない」
私の傍らにはアウレリウスがいて、そんな私たちは立木心愛と対峙していた。原作では私と彼女の立ち位置は逆であったにも関わらず、何の因果か。
ローゼルアリオンという名前を聞き、中には戦闘を放棄してまで、どういうことか確認しに集まる者も少なくない。死んだはずの人間の生存の事実は、それほどまでに人を驚かせる。
「お・・・チビ?」
「アリオン・・・。はは、狐につままれた気分だよ」
視界の端にアバラとレオも観衆に混ざっていた。
立木心愛は苛立ったような表情をする。この場の人間から自分に向けられているのが敵意という、この異様な状況。原作では学園の面々が自分を応援していただろうに、現在広がっているのは似ても似つかないこの状況。そして、唐突な真相に、頭がついていかない。故に、理性的な言い返しもできない。もはや感情的になって喚くことくらいしか、彼女に出来る術はないのだ。
「ちっ、周囲が鬱陶しいわね。私が操り人形なんて、そんなの嘘よ、嘘よッ!!だって、あの人たちは私のことを特別だって言ってくれた。この国を背負うべき女性だって言ってくれた!!ドラゴン、あいつを焼き尽くせぇぇぇぇ!!」
「知ってるか?最近の魔法使いは、ドラゴンなぞより、ローゼルアリオンの名のほうが遥かに恐ろしいらしいぞ」
ドラゴンは息を吸い、腹がみるみると膨らんでいく。炎を吐くための前動作だ。アウレリウスは攻撃を察知して防御しようとしたが、私は止めた。
必要ない、あの程度。
「夜天の業火」
全てを燃やし尽くす、闇の炎。大杖をドラゴンに掲げ、解き放った。宇宙のような光を帯びる藍の炎はドラゴンの最大火力のブレスを相殺し、逆に押し返し、やがてその身にまで到達する。暗い炎が竜の体を包み、やがて灰すら残さず燃え切った。
「我々では傷一つつけられなかったドラゴンが、あんな瞬殺で・・・」
「これが闇の支配者・ローゼルアリオン・・・!!」
畏怖の声。・・・いや。
「最強の助っ人が味方に現れた、喜びの声だね。これは」
「あれか?敵だと思ってたやつが味方として加わると、バイブスが上がるとかいうあれか?」
というか、誰が敵だ誰が。私はずっとこの学園に味方ムーブをしてただろうが!!
キッと周囲を睨むが、歓声は止まない。
ここでは戦争が起こっていたはずだった。それこそ、私たちが立っているこの場所は、激戦区。だというのに、歴史的1ページを見逃してたまるかとでもいうように、戦えない者も、軽傷を負ったものも、せめて一目見ようと殺到してきている。
そんな異様な空間で、私に向けられているのは、応援の声だった。
「まるで、星辰魔導議会みたいだな。あの時は私に向けられていたのはブーイング一色だったが」
「歓声を受けたのは初めてだよね。大丈夫だよ、これからは沢山の声援がアリオンを待っているから」
「はは」
立木心愛は、怒りで身を震わせていた。彼女のシナリオは、この学園を制圧し、王を倒し、やがて聖女としてアウレリウスと共にトップに君臨すること。自分は悪政を打破し、英雄視されるというのが描いていた未来予想図だったはず。
だというのに目の前に広がっているのは、自分こそが悪役であるかのような空気。
原作の悪役が今は英雄視されて、一方の自分が悪役なのだ。耐え難い屈辱だろう。
「おかしい、おかしいわ。私はヒロインなのよ?だっていうのに原作と違ってアウレリウスは私に心を開かないし、王妃も私のことを認めないし、学園のみんなも私を称賛しない。なんで、なんで!!何もかもが、原作通りにいかない!!」
髪をかきむしり、錯乱している。そんななか、私に念話を繋ぐ者がいた。
『おーい、こちらロギルジョー。今大丈夫か?』
「絶賛取り込み中だが、丁度いい。お前の声をスピーカーにするよ。終わったのだろう?」
『ああ、いまじゃ王宮はてんやわんやだぜ。でも了解した』
ロギルジョーの念話を、実態を持つように調整する。そして、全員に聞こえるように拡散する。
「第二王子ロギルジョーだ。アークランド魔法学園の襲撃の首謀者である、スカルノス家を筆頭に、関連貴族全員拘束した!国家反逆罪で、投降せぬものは生き死に問わず、王家の名において制圧の許可を下す!」
「だと。どうする?聖女」
乗り込んできた平民たちにも、その声は届いていた。私の話を聞いて真相を知り、少なからず迷いが出たのだろう。降参し始めている。自分たちの行いが何だったのか、ようやく目が覚めた。この国を良い方向へと変えたいといった正義感が強いからこそ加わったのだ。
だからこそ彼らは投降を潔く受け入れたのだ。
けれど立木心愛だけは諦めていなかった。こいつは、自分の非を決して認めはしない。こいつだけは崇高な理念ではなく、自分がトップに立つためという、己の欲望から始まったものだからだ。そんな人間が、冷静になって留まれるわけはない。
しかし、ふと何かを思いついたように目を見開き、やがて不敵に笑う。
「・・・たとえあんたがローゼルアリオンだったとて、私は殺せないわよ?だって、お守りを持っているもの。私を殺せば、アウレリウスは道連れよ?」
彼女の発言は真実で、同時に本当に厄介極まりない。彼女は光の魔法の使い手であるため、私との相性も悪い。ドレイヴン教授との戦いのときのようにやった、洗脳して壊させるという芸当は通じないのだ。代を重ね、優れた聖女である今代の立木心愛には、基本的に闇魔法の搦手は通じない。
だがな。
「知ってるか?戦いの窮地を救うのは知恵。知恵ある者こそが、生きながらえることが出来る。この学園ではそうやって生き延びる術を沢山教えられてきたというのに、お前は何も学ばなかったんだな」
「え?」
私は短距離転移を使った。転移防止結界があれど、この距離であれば容易い。
そして立木心愛の懐にもぐりこむ。そのまま魔道具の大杖を両手で構え、顎に向かっていわゆるアッパー攻撃をした。そう、物理攻撃だ。入試の時にアバラが男女平等パンチをした、あれと全く一緒の動き。
立木心愛は宙に飛ばされ、そのまま床にドサリと倒れこむ。当たり所が良かったというか悪かったというべきか、気絶している。
「お守りは・・・これか。婦人の体をまさぐるのは本当は嫌だが、私はお前の人権よりアウレリウスのほうが遥かに大事だからな。えいっ」
服の内ポケットに入っていたそれを、握って潰す。
「歴史がどうのこうのいう前に、お前が自分の過去のミスを学べ」
私はビシっと立木心愛を指さした。
敵のトップの制圧に、周囲のギャラリーはというと。
「おいローゼルアリオン!!元魔塔主なのに最後は物理攻撃って恥ずかしくないのか!!」
「魔法を使え、魔法を!!」
「女性を殴る人って、自分よりも弱い人を殴る傾向があるのよね。やっぱあの人・・・」
周囲からは異議ありの罵声。ブーイングに満ちていた。
けれど、籠る声に悪意の色はない。苦笑いのような、親しみのあるかけ声だった。
「うわあ、おチビえっぐいことしよるわ・・・」
「君が入試でやったことと全く一緒だからね!?」
やがて学園を覆う結界も解かれ、王宮から増援がなだれ込む。しかしてその時には、場はよくわからない温かいブーイングに包まれており、増援達は首をかしげながら首謀者たちの拘束にとりかかった。
学園の戦いは、いや、私の殺人事件から始まった一連の戦いは、こうしてようやく幕を閉じたのであった。
「モルト!くそ、ここで寝とってな!!」
アバラの同室だった男だ。彼もこの戦いに平民側として加わっており、アバラによって気絶させられていた。・・・いや、後ろを見ている余裕はないな。目の前にはその平民代表がいる。
聖女と、悪役が互いを見合う。
これが最後の戦いになる。
「地味男。アウレリウスの説得はしてくれたかしら?民主化は正しいことって。この学園の面々はこれから皆殺しにするけれど、アウレリウスを差し出してくれるのであれば、貴方だけは同郷のよしみで助けてあげないこともないわ?」
「そうだね、民主化は正しいことだ。正しいからこそ、元の世界で多くの国が取り入れている政治形態だ」
立木心愛はにこりと笑う。・・・けれど。
「君はまだ若い。だから知らないのだ。革命の先に何があるか。民衆が後ろ盾無くトップになれば、今度は力を持っている軍部を抑える力が無くなる。すると、君たちのやり方では軍国主義の道は避けて通れない」
「・・・?何言ってるの?そんなこと、なるわけないじゃない」
「君の後ろにいるのは軍部で、君はただの操り人形。革命を起こさせて、失敗すれば切り捨て、成功すれば君を抑えて乗っ取るための踏み台でしかない」
どうしてこの戦いが起こっているのか。あまりに突発に起こった戦争であり、理解できない者の方が大多数だ。故に私はスピーカーで戦場に声を拡散させていた。
教授たちも、生徒達も、乗り込んできた平民たちも、私たちの問答に耳を傾けていた。戦場は魔物と魔法使いの戦いから、魔法使いと魔法使いへの戦いへとシフトしている。故に、不思議と周囲の戦いの音は静まっていく。
「貴族制度はいずれ滅びる。それは免れない。どれだけ魔法が発達した世界であっても、歴史は平民に味方をする。時代と共に主権は国民に移り、民たちの声が反映される平和な国へと進んでいく。けれど、王も存続する。王とは、政権を握る存在から、その国の文化的象徴を背負うものへと変貌していく」
「・・・・・・」
「アウレリウス王がいれば、軍国主義の道を辿らず平和な形で平民たちに権力を移行できるだろう。立憲君主制へ、平和に移行していける。他でもない、このローゼルアリオンが宣言する!」
ローゼルアリオン、その名を聞いた途端、立木心愛も、アバラも、周辺の面々も、目を見開く。死んだはずの人間の名だ。驚くのも無理は無かろう。
スピーカーはここまででいい。
魔力は満ちた。
人々の視線が私に集中している中、黒い大杖を召喚し、姿を大人に戻した。
「ローゼルアリオンッ!?どうして、悪役のあんたが、どうしてここにっ!!」
「本当だよ、どうしてヒロインのお前がそこにいて私がここにいるのか。不思議極まりない」
私の傍らにはアウレリウスがいて、そんな私たちは立木心愛と対峙していた。原作では私と彼女の立ち位置は逆であったにも関わらず、何の因果か。
ローゼルアリオンという名前を聞き、中には戦闘を放棄してまで、どういうことか確認しに集まる者も少なくない。死んだはずの人間の生存の事実は、それほどまでに人を驚かせる。
「お・・・チビ?」
「アリオン・・・。はは、狐につままれた気分だよ」
視界の端にアバラとレオも観衆に混ざっていた。
立木心愛は苛立ったような表情をする。この場の人間から自分に向けられているのが敵意という、この異様な状況。原作では学園の面々が自分を応援していただろうに、現在広がっているのは似ても似つかないこの状況。そして、唐突な真相に、頭がついていかない。故に、理性的な言い返しもできない。もはや感情的になって喚くことくらいしか、彼女に出来る術はないのだ。
「ちっ、周囲が鬱陶しいわね。私が操り人形なんて、そんなの嘘よ、嘘よッ!!だって、あの人たちは私のことを特別だって言ってくれた。この国を背負うべき女性だって言ってくれた!!ドラゴン、あいつを焼き尽くせぇぇぇぇ!!」
「知ってるか?最近の魔法使いは、ドラゴンなぞより、ローゼルアリオンの名のほうが遥かに恐ろしいらしいぞ」
ドラゴンは息を吸い、腹がみるみると膨らんでいく。炎を吐くための前動作だ。アウレリウスは攻撃を察知して防御しようとしたが、私は止めた。
必要ない、あの程度。
「夜天の業火」
全てを燃やし尽くす、闇の炎。大杖をドラゴンに掲げ、解き放った。宇宙のような光を帯びる藍の炎はドラゴンの最大火力のブレスを相殺し、逆に押し返し、やがてその身にまで到達する。暗い炎が竜の体を包み、やがて灰すら残さず燃え切った。
「我々では傷一つつけられなかったドラゴンが、あんな瞬殺で・・・」
「これが闇の支配者・ローゼルアリオン・・・!!」
畏怖の声。・・・いや。
「最強の助っ人が味方に現れた、喜びの声だね。これは」
「あれか?敵だと思ってたやつが味方として加わると、バイブスが上がるとかいうあれか?」
というか、誰が敵だ誰が。私はずっとこの学園に味方ムーブをしてただろうが!!
キッと周囲を睨むが、歓声は止まない。
ここでは戦争が起こっていたはずだった。それこそ、私たちが立っているこの場所は、激戦区。だというのに、歴史的1ページを見逃してたまるかとでもいうように、戦えない者も、軽傷を負ったものも、せめて一目見ようと殺到してきている。
そんな異様な空間で、私に向けられているのは、応援の声だった。
「まるで、星辰魔導議会みたいだな。あの時は私に向けられていたのはブーイング一色だったが」
「歓声を受けたのは初めてだよね。大丈夫だよ、これからは沢山の声援がアリオンを待っているから」
「はは」
立木心愛は、怒りで身を震わせていた。彼女のシナリオは、この学園を制圧し、王を倒し、やがて聖女としてアウレリウスと共にトップに君臨すること。自分は悪政を打破し、英雄視されるというのが描いていた未来予想図だったはず。
だというのに目の前に広がっているのは、自分こそが悪役であるかのような空気。
原作の悪役が今は英雄視されて、一方の自分が悪役なのだ。耐え難い屈辱だろう。
「おかしい、おかしいわ。私はヒロインなのよ?だっていうのに原作と違ってアウレリウスは私に心を開かないし、王妃も私のことを認めないし、学園のみんなも私を称賛しない。なんで、なんで!!何もかもが、原作通りにいかない!!」
髪をかきむしり、錯乱している。そんななか、私に念話を繋ぐ者がいた。
『おーい、こちらロギルジョー。今大丈夫か?』
「絶賛取り込み中だが、丁度いい。お前の声をスピーカーにするよ。終わったのだろう?」
『ああ、いまじゃ王宮はてんやわんやだぜ。でも了解した』
ロギルジョーの念話を、実態を持つように調整する。そして、全員に聞こえるように拡散する。
「第二王子ロギルジョーだ。アークランド魔法学園の襲撃の首謀者である、スカルノス家を筆頭に、関連貴族全員拘束した!国家反逆罪で、投降せぬものは生き死に問わず、王家の名において制圧の許可を下す!」
「だと。どうする?聖女」
乗り込んできた平民たちにも、その声は届いていた。私の話を聞いて真相を知り、少なからず迷いが出たのだろう。降参し始めている。自分たちの行いが何だったのか、ようやく目が覚めた。この国を良い方向へと変えたいといった正義感が強いからこそ加わったのだ。
だからこそ彼らは投降を潔く受け入れたのだ。
けれど立木心愛だけは諦めていなかった。こいつは、自分の非を決して認めはしない。こいつだけは崇高な理念ではなく、自分がトップに立つためという、己の欲望から始まったものだからだ。そんな人間が、冷静になって留まれるわけはない。
しかし、ふと何かを思いついたように目を見開き、やがて不敵に笑う。
「・・・たとえあんたがローゼルアリオンだったとて、私は殺せないわよ?だって、お守りを持っているもの。私を殺せば、アウレリウスは道連れよ?」
彼女の発言は真実で、同時に本当に厄介極まりない。彼女は光の魔法の使い手であるため、私との相性も悪い。ドレイヴン教授との戦いのときのようにやった、洗脳して壊させるという芸当は通じないのだ。代を重ね、優れた聖女である今代の立木心愛には、基本的に闇魔法の搦手は通じない。
だがな。
「知ってるか?戦いの窮地を救うのは知恵。知恵ある者こそが、生きながらえることが出来る。この学園ではそうやって生き延びる術を沢山教えられてきたというのに、お前は何も学ばなかったんだな」
「え?」
私は短距離転移を使った。転移防止結界があれど、この距離であれば容易い。
そして立木心愛の懐にもぐりこむ。そのまま魔道具の大杖を両手で構え、顎に向かっていわゆるアッパー攻撃をした。そう、物理攻撃だ。入試の時にアバラが男女平等パンチをした、あれと全く一緒の動き。
立木心愛は宙に飛ばされ、そのまま床にドサリと倒れこむ。当たり所が良かったというか悪かったというべきか、気絶している。
「お守りは・・・これか。婦人の体をまさぐるのは本当は嫌だが、私はお前の人権よりアウレリウスのほうが遥かに大事だからな。えいっ」
服の内ポケットに入っていたそれを、握って潰す。
「歴史がどうのこうのいう前に、お前が自分の過去のミスを学べ」
私はビシっと立木心愛を指さした。
敵のトップの制圧に、周囲のギャラリーはというと。
「おいローゼルアリオン!!元魔塔主なのに最後は物理攻撃って恥ずかしくないのか!!」
「魔法を使え、魔法を!!」
「女性を殴る人って、自分よりも弱い人を殴る傾向があるのよね。やっぱあの人・・・」
周囲からは異議ありの罵声。ブーイングに満ちていた。
けれど、籠る声に悪意の色はない。苦笑いのような、親しみのあるかけ声だった。
「うわあ、おチビえっぐいことしよるわ・・・」
「君が入試でやったことと全く一緒だからね!?」
やがて学園を覆う結界も解かれ、王宮から増援がなだれ込む。しかしてその時には、場はよくわからない温かいブーイングに包まれており、増援達は首をかしげながら首謀者たちの拘束にとりかかった。
学園の戦いは、いや、私の殺人事件から始まった一連の戦いは、こうしてようやく幕を閉じたのであった。
3
あなたにおすすめの小説
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
ラストダンスは僕と
中屋沙鳥
BL
ブランシャール公爵令息エティエンヌは三男坊の気楽さから、領地で植物の品種改良をして生きるつもりだった。しかし、第二王子パトリックに気に入られて婚約者候補になってしまう。側近候補と一緒にそれなりに仲良く学院に通っていたが、ある日聖女候補の男爵令嬢アンヌが転入してきて……/王子×公爵令息/異世界転生を匂わせていますが、作品中では明らかになりません。完結しました。
オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。
雪解けに愛を囁く
ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。
しかしその試験結果は歪められたものだった。
実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。
好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員)
前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。
別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。
小説家になろうでも公開中。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
【完結】星に焦がれて
白(しろ)
BL
気付いたら八年間囲われてた話、する? わんこ執着攻め×鈍感受け
「お、前、いつから…?」
「最初からだよ。初めて見た時から俺はお前のことが好きだった」
僕、アルデバラン・スタクにはどうしても敵わない男がいた。
家柄も、センスも、才能も、全てを持って生まれてきた天才、シリウス・ルーヴだ。
僕たちは十歳の頃王立の魔法学園で出会った。
シリウスは天才だ。だけど性格は無鉄砲で無計画で大雑把でとにかく甘えた、それに加えて我儘と来た。それに比べて僕は冷静で落ち着いていて、体よりも先に頭が働くタイプだったから気が付けば周りの大人たちの策略にはめられてシリウスの世話係を任されることになっていた。
二人組を作る時も、食事の時も、部屋だって同じのまま十八で学園を卒業する年まで僕たちは常に一緒に居て──そしてそれは就職先でも同じだった。
配属された辺境の地でも僕はシリウスの世話を任され、日々を慌ただしく過ごしていたそんなある日、国境の森に魔物が発生した。それを掃討すべく現場に向かうと何やら魔物の様子がおかしいことに気が付く。
その原因を突き止めたシリウスが掃討に当たったのだが、魔物の攻撃を受けてしまい重傷を負ってしまう。
初めて見るシリウスの姿に僕は動揺し、どうしようもなく不安だった。目を覚ますまでの間何をしていていも気になっていた男が三日振りに目を覚ました時、異変が起きた。
「…シリウス?」
「アルはさ、優しいから」
背中はベッドに押し付けられて、目の前には見たことが無い顔をしたシリウスがいた。
いつだって一等星のように煌めいていた瞳が、仄暗い熱で潤んでいた。とても友人に向ける目では、声では無かった。
「──俺のこと拒めないでしょ?」
おりてきた熱を拒む術を、僕は持っていなかった。
その日を境に、僕たちの関係は変わった。でも、僕にはどうしてシリウスがそんなことをしたのかがわからなかった。
これは気付かないうちに八年間囲われて、向けられている愛の大きさに気付かないまますったもんだする二人のお話。
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる