誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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終章 空色の君を思う

92.同時魔法術式

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 戦いは終わった。

 立木心愛は拘束され、収容されるとのこと。判決などなく、彼女は処刑が決まった。今回の件に関わった軍部の面々も、重い処分が下される。もちろん、年齢を問わず、ロキも等しく処刑となる。国家転覆を狙ったということは、それだけ重い罪になるのだ。半面、降伏が早かった平民たちについては、懲役を経て社会復帰できるという判決が下った。情状酌量の余地があったこともあるのだが、平民たちの神経を逆なですることを危惧したためだ。

 また、貴族の者で軍部に関与していたとなると、一族郎党の処刑は3割以上の貴族が当てはまってしまうことが判明した。家そのものはそんな方針はなかったとて、第二子以降や親族が関わっていたケースも少なくなかったためだ。故に大量処刑になりかねず、牢にも限界はあるため、罪の重さに応じて爵位返上もしくは一代限りの温情は下された。
 すると、民主化自体の動きは止めないアウレリウスの方針では、最小限の犠牲で済む。これは見方によっては偉業かもしれない。本来であれば、民主化を辿るのであれば貴族との戦いは避けられなかっただろうに、貴族たち自らの罪によって力をなくしたのだから。

 戦いを事前に知って、一人だけ逃げていた校長は、マラカイによって確保されたらしい。彼もこの件に関わっているために、処刑は免れないだろう。教育にまつわるものが、生徒を置いて逃げるというのは、それだけ重い罪である。

 我が実家の子爵家は、血筋的に軍部に行く者が多いため親類で関係者がいたが、私とロージの働きによって、爵位返上程度で済んだが、一方ジェルドの男爵家は関与は物資の供給という重罪と判断され、捜査の手が入るらしい。

 ・・・ジェルドは、あの戦いで戦死という扱いになった。私が罪人として扱いたくないとアウレリウスに懇願したため、渋々受け入れてくれたのだ。故に、ジェルドを思って泣いている生徒がちらほら見受けられた。たとえ男爵家が咎を責められても、ジェルド個人は栄誉ある戦死をしたと認識されるのだ。それは、今の私にとっては救いだった。あいつは止めようとした側なのだから。

 アウレリウスは急遽王宮に行くことになり、私を連れて行こうとしたが、まだ私はここでやりたいことがある。もう命を脅かす危険はないからと、強引に背中を押した。

 そして私は、ただ一人、地面を観察しながら歩いていた。もちろん、理由はただ一つ。

「ジェルドの体は・・・無い」

 血痕は地面にはないため、川に落ちたようだ。・・・魔物に食べられるよりは、まだ救いがある。

 生きている望みは無い。何故なら、私の魔力が戻ったということは、ジェルドは命を落としていなければ辻褄が合わないからだ。

 もっと話がしたかった。

 私たちは手を取り合って、支えあって生きていけた。

 だというのに、自分の強情によってその機会を全て失ってしまった。

 雨は降っていないというのに、地面がぽたぽたと水で濡れる。私は永遠にこの時を引きずって生きていくのだろうか。あいつの墓すら作れていないというのに。

 顔を雑に拭い、その場を離れようとした。

「せんせー!!せんせー!!先生の唯一の愛弟子であるマラカイが戻りましたー!!え、先生?ぼ、僕がいなくて寂しくて泣いていらした?」
「泣いてない!!」

 タイミング悪いなこいつはいつも!!

「あれ、学園がめっちゃくちゃ壊されてるんですけど、先生ってば派手に暴れましたね?」
「私ではない。ドラゴンだ」
「へー!!大層激戦が繰り広げられたことで!!でも僕も敵に囲まれて一人で一生懸命戦ってー。とーっても危なかったんですからね!!怖かった・・・せんせ・・・なでなでして?」

 後ろから私に抱き着くため、思わず鳥肌が立った。お前が危ないわけないだろうが!!そんな中、拘束してくるマラカイの腕にもがきながら、その左手首にふと目をやる。

「ん?お前、私があげたブレスレットはどうした?私の髪で出来た、水色の」
「・・・せんせ・・・せんせ、ごめんなさい。実は、アジトに入る直前にんです。僕、大事に扱っていたのに、本当にごめんなさい」
「燃えてなくなる?つまり、闇魔法の攻撃を受けたのか?」
「受けた記憶はないんですが・・・。ぐす、ごめんなさい」

 珍しく反省しているマラカイ。いや、あくまで守りの為に渡したのだから、その役目が果たせたのならそれでいい。

 ・・・・・・

「マラカイ、今おまえ、アジトの入る直前に燃えて消えたと言ったか?」
「はい。本当なんです。信じてください」

 マラカイがアジトに入る直前に何があったかというと、私がジェルドと対峙し、ジェルドは命を散らした。

 そういえば前に王都下町の闇市で、ジェルドはマラカイから白いお守りを受け取っていた。

 そしてお守りの身代わりが発動すると、最も愛している人物の体が燃えて灰になるという。

 ジェルドは身代わりについてまでは知らなかっただろう。単純に研究しようと思っただけだ。そして、お守りにはあいつの得意な同時魔法術式が組み込まれていたという。

 ひょっとすると、意図しない奇跡が起きて、あいつはどこかで、生きているのではないだろうか?

 ジェルドが最後に見たのは、綺麗な青空。すると、思い浮かんだのはきっと・・・。


「・・・ふふ、本当にしぶといやつだな」
「え?僕のことを言ってます?」

 マラカイは自分がしぶといと言われたのか、目を見開く。お前のことじゃない。
 そうしてマラカイは私の無事だけ確認すると、魔塔へと事後処理に戻っていった。一方の私は人が行き交うエリアへと戻る。私は半壊した学園を見上げた。

 学園はしばし閉鎖するらしい。早急に修復作業を行うらしいが、如何せん歴史のある建物であるがゆえに壁に組まれた魔法陣も複雑で、簡単には作業は進まないようだ。

 私は入学したあの時に、この学園に復讐すると誓っていたが、まさか別の形で実現するとは想像していなかった。思わず笑ってしまう。

「あ、アリオン、ここにいた!」
「ああ、レオか。どうした」

 私の正体が判明しようが、レオは以前と変わらぬ喋り方だ。それが心地よい。

「アバラは一緒じゃないのか?」
「そう、それなんだけどね。ほら、アバラは君のこと、入学したての最初の頃に結構ボロクソに言ってたじゃん?恥ずかしくて君に合わせる顔が無いんだって・・・」
「恥ずかしい?あいつに恥ずかしいという感情があるのか?」

 というかそんな前のこと、私は全然気にしていない。

「アバラだけじゃなくて、ほら、ロージ会長もあそこでアリオンをこっそり伺ってるでしょ?彼も気まずそうにしてる」
「私は気にしてないと言ってきてくれないか?」
「自分で言いなよ」
「はあ・・・」

 私と目が合うと、ロージはびくっと体を震わせた。その奥にはアバラもいるようだ。そのまま二人と話せるように近づく。

「言いたいことがあるなら早く言え」
「アリオン、そういう言い方するから誤解を招くんでしょ?」
「ちっ。べ、別に、お前たちが気にするようなことは無くてな。私にも、その、悪いところは沢山あったから・・・」

 2人とも、目を合わせない。

「気にしていたら、陰湿な私はお前たちを後ろから襲っていた」
「前に僕が兄さんのことを陰湿って言ったこと、聞いてたんですね・・・」

 ますます落ち込む。

「駄目だレオ、私は喋れば喋るほどに状況を悪化させる天才かもしれない」
「言葉に余計な修飾が多くて、必要な単語は一切入ってないからだよ!もっと、優しい心になって」
「私は被害者なんだが・・・?」

 けれど私が何かを言う前に、ロージは頭を深く下げた。

「ごめんなさい、兄さん。ずっと誤解をしていました。兄さんは僕らを守ろうとしてくれていた。本当に、ありがとうございました」
「・・・別に、誤解が解けたのならそれでいい」

 悲しいことに、兄弟としてのまともな会話はこれが初めてだ。互いに相手のことを都合のいいように認識し、勝手に溝を作っていた。だから、その溝を埋められ、ようやく本心を話すことができたのだ。

 私とロージの子爵家は、身分をはく奪される。しかしロージに悲壮感はない。

 表情は晴れ晴れとしていた。

 一方のアバラも、おずおずとこっちにやってくる。

「お前のことも、誤解が解けたから今の私はもう気にしていない」
「じゃあ、当時は気にしとったん?」
「当たり前だろ。殺そうと思った」
「キャーーーーーーーーッ!!!」
「冗談だ」

 いや、実のところ、当時は冗談などではなかったが、けれどおかげでアバラの緊張も解けた。四人の中に、以前のような朗らかな空気が流れ始める。

「おチビはこれからどうするん?学園が再開されても・・・」
「ああ、私の本当の年齢は24歳だ。戻れるわけがない」

 正体が発覚してしまった時点で私の退学も決まる。まあいい、既に学園には何年もいたのだ。ただ、こいつらと離れるのは少し寂しいが。

 レオが口を開く。

「僕は、学園復興中は王宮に行って、父さんたちのもとで政治を学ぼうと思ってるんだ。貴族制はやがて廃止されるだろうけど、すぐというわけにはいかないよね。だから、穏便に進められるように学んでくるよ」

 私たちはうなずいた。決して貴族の政治すべてが駄目というわけではないのだ。レオは、いずれ有名な敏腕宰相となるだろう。

「僕は生徒会長ですので、この学園が少しでも早く復興できるように尽力します。子爵家の身分が剥奪がされた今、順調に会長へ復帰できるかはわかりません。でも、そんなことは関係なく、力を尽くします。また再開後にお会いしましょう」

 ロージも宣言する。また会える約束とは、なんて心地いいのか。私は学園には戻れないが、けれど悪い気にはならなかった。

「ふふーん、俺はねぇ。決めた!!留学する!!隣国でー留学生になって勉強してくるで!!」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?なんで俺だけ反応がおかしいん?」

 アバラが、他国で、留学・・・?

「アバラ、悪いことは言わん。自国で微妙な奴は他国に行っても微妙だ。やめておけ」
「そうだよ、アークランドですら文化摩擦起こってたんだからさ」
「やめておいた方がいいですよ、その、やめておいた方がいいですよ」
「なんで俺だけそんな厳しい意見飛び交うん?」

 アバラはコホンと咳払いした。

「世界を見たいんや。やから、決めた!俺は大体誰とでも仲良くなれるで、どこに行っても大丈夫や!!」
「え?マダム・カルハからめちゃくちゃ睨まれてたのに、どこから出たのその自信」
「うるさい!!うるさいー!!」

 軽口をたたきあうこと。それは私が学園時代に出来なかったこと。遅くなってしまったが、学園には思い出がたくさんできた。私はそれで満足だ。ただ、すがすがしい気持ちで一杯だった。

「それで、肝心のアリオンはこれからどうするの?」

 戦いの終わり。
 私がアウレリウスへのプロポーズに答えを出すのは今晩だ。

「ああ、決めたよ。これからどうするか」

 私は空を見上げた。
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