誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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後日談 片翼をもがれた不死鳥

A1.お尋ね者

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「お前たちは夫婦か?」
「はい。移住のために、このエデンリーフに妻と訪れました。とても美しい国と聞いております」
「はは、そうだよ。是非この国を楽しんでいってくれ。それにしても、随分美人な嫁さんだな。羨ましいよ。じゃあ、いいエデンリーフ生活を」

 国境の警備兵は私たち夫婦を見送り、ふと何かつぶやいた。

「・・・空色の髪と、臙脂の髪?いや、そんなわけないよな」

 国境を越え、私とロギルジョーはアークランドの隣国のエデンリーフへと移動する。アークランドでジェルドの魔力を感知しようとしたものの、全く引っ掛からず。けれどもう少しこの国で詳しく調べようかと二人で相談していたところでアウレリウスの戴冠の日がやってきた。

 一度王都まで行き、私の我儘で民を見下ろすアウレリウスを見た。荘厳な装いを身にまとい、本当に精悍な姿だった。

「あれが成人式を迎えた子供を見送る親の気持ちなんだなと、今でも感動が忘れられないよ・・・」
「おい、喋るなって!あんた今、女装中なんだから!偽装夫婦ってバレるだろ!!」

 互いに馬に跨り直し、走らせる。
 そう、私は今、顔の半分下をヴェールで隠し、頭に花飾りをつけていた。完全なる女装である。前にロギルジョーと雑貨屋に入ったことがあるが、あの時こいつが悪ふざけで買った女装セットが役に立つ時が来たのだ。一方のロギルジョーは変装眼鏡をかけている。

 私とロギルジョーは、お尋ね者になっていた。

 アークランドのある街を二人で呑気に歩いていたら、領地の衛兵たちが殺到してきたのだ。じりじりと距離を詰めてきたが、流石に悪の大魔王たるこの私に挑むのは怖いのか、互いに連携して魔道具を構え、ゆっくり囲むように距離を詰めてきた。やがて指揮を執っているらしき人物がしびれを切らしたのか「構わん!!殺せ!!」と号令がかかっていたので、私たちは生死を問わず、本格的に追われているとここでやっと気が付いたのだ。

 なんとか転移で逃げてきたが、予定を早めて国外脱出を決める。

「それにしても、その命令が、アウレリウスから出ているとはな。羽根を返したことで、正気に戻って、私という黒歴史を消そうとしているのか。・・・グスッ、グスッ」

 学園滞在中、あれほど二人で親睦を深めたというのに、そんな私を生死を問わないお尋ね者にまでランクを下げるとは、落ち込むどころではない。そのためここ数日勝手に涙が零れ、ロギルジョーに引きずられるように旅をしていた。

「あのな、いい加減情緒不安定やめてくんね?一応俺たち夫婦ってことで誤魔化してるけど、街行くたびに嫁を泣かすやべえ旦那っていう視線が痛いんだけど」
「アウレリウスぅ・・・。私たち、あんな、仲睦まじかったのにぃ・・・グスグス」
「こんないい歳扱いてグズッてるやつがアークランドの恐怖の支配者だったって、俺はどういうリアクションすればいいんだ。ほら行くぞ!!」

 心がぐちゃぐちゃになっては酒を飲み、そのたび戴冠式の美しいあの子を思い出しては少し落ち着き、やがてそんな子が私を殺そうとしている事実にまた心が折れる。負のスパイラルだ。

「でも、兄貴に羽根を返してよかったな。この状況だと、本当に羽根には洗脳の効果があったっぽいからな」

 私は何度もコクコクと頷いた。それだけは不幸中の幸いだった。あの子の一生を私への懸想という勘違いで縛らずに済んだ。距離を置いたのもいい判断だろう。距離が近ければいつでも会える黒歴史としてアウレリウスは恥ずかしさの余り、廊下でグサッと刺してきた可能性もあったかもしれない。別にあの子になら殺されてもいいのだけれど、なるべく殺人歴のない王様になってくれた方が、民たちも嬉しいだろう。

 私は本当にアウレリウスを騙して洗脳したつもりはないのだが、時間を置けば落ち着いてくれると願っている。

 ・・・手紙には羽根の洗脳の話をちゃんと記載した。そのうえで追ってくるというのだから誤解も何もないはずだ。闇の魔法使いは、殺すと呪ってくるという凄惨な事件が昔にはあったのに、それでもなお私を殺そうとするなんて、アウレリウスはどれだけ私のことが嫌いになったのか。

 けれど頭で分かっていても、心はついていかない。頭の中は私に微笑んでくれる優しいアウレリウスで一杯だ。

「すげえ、こんなに全力で泣いてる成人男性を俺は見たことがないんだけど」
「うぐぅ・・・スン、スン」
「あんたがそんな調子だから馬の速度を加減してるんだけど!?これ、今日中に街までつけるか怪しいな」

 双眸からは涙がこぼれるが、しかし探知も忘れない。ジェルドの魔力は引っ掛からず、私たちは街へとむけて駆けていく。悲しいことに旅がいつまで続くか分からない以上は、派手に金銭を使うことが出来ない。街を経由して金銭を稼ぎつつ、各地を回る。

「・・・ロギルジョー、グス、周囲に敵が、うう・・・」
「だからもう泣きや・・・敵!?」

 開けた場所を走っていたが、しかし魔物の群れを感知する。ワイバーン、狼、イノシシ、そういった魔物の群れがこちらに向けて走ってきていた。

「あれ、向こうに人がいねえか?馬車が走ってら」
「私が避難誘導するから、お前は、魔物を殲滅・・・してこい・・・ヒクッ」
「ああ、これも修行ってことか。あんたも女装中だから、なるべく言葉は発するなよ?じゃあ迎え撃つ!」

 私は前方の馬車に馬を加速させては並走し、緊急事態を知らせる。

「そこの御者、グス、魔物が、スンスン、いるから・・・」
「ど、どうしたんだい綺麗なお嬢さん。どうして泣いているんだい?」
「私のことはいいから、早く・・・」

 よく見るとこの馬車の前方からも魔物の群れがいる。エデンリーフに来るのはこれが初めてだが、こんなに魔物と遭遇するものなのだろうか。

 後方では迎え撃つロギルジョーの雷魔法が炸裂している。この旅であいつの雷魔法は更にワンランク上がった。殺傷レベルは向上し、範囲も広がった。風に乗って魔物の肉が焦げる匂いがここまでする。

 さて、私もこっちの敵を片付けるか。一度この馬車の前に馬を出し、背後に守るようにして迎え撃とうとするが、とある違和感に気が付いた。

 この馬車、速度を落とさない。

 目の前に魔物の群れがいるにもかかわらず。

 同時に隣から、

「アビス・コード」

 服従の魔法、アビス・コード。
 咄嗟に隣の御者に放つ。そのまま操って馬車を減速させ、止めた。私も馬を急停止させ、直感のままに急いで馬車の中に入る。すると、猿轡を付けて拘束されている一人の男性がいた。黄緑の髪を七三分けにして、顔の両端で髪を緩く結んだ、18歳くらいの少年だ。

 助けを求めるそのまなざしを受け、私は闇の魔法で刃物を作り、ロープを切った。

「ありが、とう、ございます・・・」
「馬車から降りて、風上の赤毛男の元へ行け。私は前方の魔物を蹴散らしてくる」
「いえ、お気になさらず。私が捕まったのは集団で動くガイストの犯罪組織。ですので加勢を・・・」

 私は周辺に探知を使うと、馬車が止められたことに気が付いたのか、複数人が集まって来ようとしていた。御者の仲間だろう。迎え撃つ必要がある。

「私も魔法使いです。加勢します」
「いらん、足手まといだ」
「ですがそんな、目が腫れている女性に多人数の制圧なんて・・・」

 不安そうにこちらを見てくる。私はため息をつき、馬車から外に出た。すると、スキンヘッドやドレッドヘアをした、いかにも野蛮な毛皮を身にまとった男たち8名が私たちを囲む。

「よお嬢ちゃん。正義の味方にでもなったつもりかい?」
「随分別嬪だなあ、ぐへへ。売れば金持ちの性奴隷になれるんじゃないかあ?せいぜい頑張って足を開いて媚びろよ!」
「ふむ、なるほど。エデンリーフの盗賊は、魔物を従えて、旅人を襲っているのか。のどかで素晴らしい国と聞いていたんだが、とてもじゃないがそうは思えないな」

 まあ、アークランドの場合は私が怖くて誰も襲い掛かってこなかったというのが正しいか。すると、私の顔が知られていないだろうこの国とは比較しようもないだろう。治安はお互いさまだ。

「嬢ちゃん、何調子こいてんだ?お前、今から俺たちに味見されるんだぞ?あっちの旦那は捕まえて、嬢ちゃんが犯される様子を見ててもらおうかな、キャハハ!!」
「メフィスト・タンツ」
「キャハハ・・・ハハ・・・?」

 私の呪文の直後、盗賊たちの足は、勝手に動き始める。自分たちの意思とは関係なく。右足、左足というようにステップを繰り返し、飛び跳ね、手を叩く。くるりと回り、仲間とハイタッチ。それを何度も、何度も。

 異様な光景だ。どこかの部族がやりそうな踊りを、盗賊たちは一斉に踊り始めた。

 動きはループし、けれど止まることはない。

「おーい、こっちは終わったぜ・・・。な、なんかすごいキモイ光景が広がってるんだが?盗人みたいなやつらが踊り狂ってる」
「ああ、永遠に踊り続ける魔法をかけた。初めて使ったが、中々気持ち悪いな」
「お、おいッ、と、止めろ、止めてくれ!」

 意識はあるようで、何とか喋ることも出来るようだ。表情は強張っていて、けれど体は止まらない。

「おっと。あっちの魔物の群れもどうにかせんとな。『夜天の業火』」

 黒い大杖から生み出された炎は魔物の群れを飲み込み、全てを燃やし尽くす。何の苦労もなく、一瞬で場は制圧完了した。

「ちょっとお師匠。その技強ぇのは分かんだけどよ。魔物の素材も全くとれねえだろうが。売ったら金になるのによ」
「そういえばそうだな。次からは凍らせるか。お前も魔物を焦がすのをやめるんだぞ」
「やべ、墓穴掘っちまった・・・」

 会話している私たちを、少年は遠くからじっと見ていた。

「闇の魔法、あっという間の制圧、空色の長い髪・・・」

 黄緑髪の少年は、こちらに駆け寄ってくる。

「あ、貴方はまさか、あのアークランドの闇の支配者と言われたローゼルアリオン殿でしょうか?」

 私とロギルジョーは顔を見合わせた。私の人相は知られていないが、しかしこの国にも私の特徴は知られているのか。

 捕まっていた少年の名前はライゼル。この少年との出会いで、私たちは数奇な運命をたどることになる。
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