誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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後日談 片翼をもがれた不死鳥

A2.エデンリーフの王子

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「マシュマロは、とてもおいしいな。でも、アウレリウスの手料理の方が比べようもないくらいにうまかった・・・」
「キノコも中々いけるぜ。マシュマロ以外もちゃんと食えよ」
「キノコか。アウレリウスが一生懸命作ってくれたキノコの炒め物はこの世のものとは思えないほど絶品だったなあ・・・」
「あの、ローゼルアリオン殿?だ、大丈夫ですか?」

 ライゼルは私の隣へ座り、優しく腰をさすってくる。
 私たちは野営をしていた。どのみち今日は町までは間に合わないと判断し、火を起こしては周辺でキノコを拾って焼いて食べている。雑貨屋でロギルジョーが大量に購入していたマシュマロも、三人で頬張っていた。

「ああ、そいつは気にしないでくれ。愛しの旦那が恋しくて忘れられないんだよ。・・・・・・息子!!そうだな!!息子だな!!分かったから殴るな!!」
「な、なるほど?息子さんがいらっしゃって、恋しいのですね。するとロギルジョー殿がローゼルアリオン殿のご主人ということなのですか?」
「グス、いや、こいつは私の息子の弟、つまり他人だよ・・・グス」
「ごめんなさい。混乱が混乱を生むのですが」

 私とこいつが偽装夫婦であるという旨を簡単に説明し、この国にやってきた経緯も雑に説明する。

「つまり、息子さんと仲たがいすることがあって、結果追われて殺されかけているということですか。それまでは仲は良かったのですか?」
「恋人に見まがうくらいにはこいつらはラブラブだったぜ。世間からも騒がれてたよな。黎明戦争でローゼルアリオンへの見方が大きく変わったし、婚姻秒読みまで言う新聞社まであったんだけどなあ」
「そんなゴシップ紙があったのか・・・?」

 私は一度マシュマロを食べる手を止め、ロギルジョーを見た。

「ああ、あんたがアリオンとして学園に潜入してただろ?そのとき仲睦まじく兄貴といたってことを生徒が証言して、世間からのローゼルアリオンへの恐怖の印象が薄れていったんだよ。悪い奴じゃなくってただの口下手で不器用な奴だってな」

 行くところまで行った結果、いわゆるアウレリウスだけにはデレデレの、闇のツンデレという人物像に収まったらしい。何もかも間違っとるわ。なんだ闇のツンデレって。

「・・・立木心愛の処刑も、イメージ向上に関わってそうだがな」
「聖女を殺せば闇魔法への不当な差別も無くなる、っていうやつか。闇魔法は恐れて然るべきだと俺は思うんだけどな。まあ、あんたへの不当な疑いが晴れたのは弟子として嬉しいよ」

 火はパチパチと燃え、私は薪を火の中に投げる。三人以上での野宿はしたことが無いため、新鮮だ。

「弟子?お二人は師弟関係なんですか?」
「そうだぜ。まったく、王宮を出ただけで追われちまって、人気者は大変だよな~。あ、今夜のことは頼むから内緒にしててくれよ」

 ライゼルは、かなり温和な印象の青年だ。気を抜くとすぐに個人情報を喋ってしまいそうになる穏やかな空気を持っていた。なんでも、エデンリーフ国最大の魔法学校に通っているらしい。

「僕は光魔法に適性があるんです。特に治癒が一番得意なんですよ」
「それは凄いな。いいかロギルジョー。治癒が得意な魔法使いとの縁は貴重だ。こういう出会いを大事にしろ」
「損得勘定がはっきりしすぎじゃないか?まあでも、こういう縁を大事にしたいよな。確かに」

 私は基本的に光魔法は一番苦手なので、本当にうらやましい。光魔法は持っているだけで称賛される一方で、闇魔法は持っているだけで人生がハードモードになる。そんな私を偏見せず、純粋に慕ってくれたアウレリウス。私の後ろをてちてちついてきたアウレリウス。愛らしい表情で笑ってくれたアウレリウス。

「うう、アウレリウスぅ・・・。そりゃ、私は初期には子供の頃のお前を忘れるという、育児放棄をした父親失格の人間だけれど、そんな、殺しに来るほど恨むなんて・・・ウギュ・・・」
「折角話題を遠ざけたのになんでそこに戻ってくるんだよ!!天才か!?」
「あの、今すぐ王宮へ帰って急いで謝れば許してくれるのではないでしょうか」
「悪いな、それは出来ねえんだよ。探し人もいてな。そうだ、赤銅色の仏頂面の男を知らないか?20代の男性なんだが」

 ライゼルは困った顔をして首を横に振る。まあ、そうだよな。エデンリーフと言えど広い。そもそもこの国にあいつが復活したのかさえ分からないのに、そんな簡単に情報は出てこないだろう。

 やがて私は泣き疲れ、眠りに入ることになった。

「助けられた恩です、見張りは私がやります」
「いや、不要だ。俺は雷の魔法が得意でな、周辺にトラップを作れるんだよ。これも修行のおかげだけどな」

 瞬間的な地雷作りや、敵意の信号を受け取ると雷が落ちるという陣を、ロギルジョーは旅の間に習得した。その甲斐もあってこいつにも野宿を任せられるようになって師匠冥利に尽きる。

 とはいえ精度としてはまだ不安な時も多いため、私も周辺に使い魔を放つ。

「アークランドは、凄いなあ。本当に」

 ライゼルはロギルジョーの魔法の罠をじっと見た後に、何か決意を固めたような、そんな表情をした。

 やがて火が消えるとともに全員寝静まり、夜間は襲撃といった事件は特に何も起こらず、やがて朝が来る。私の眠りは、緊急信号によって覚醒する。

「ッ・・・!!誰かこっちに来る!!」

 念のために周辺に解き放っておいた蝙蝠の眷属に反応を感知した。すぐ後にロギルジョーの罠がぱちぱちと弾ける音もした。まだ夜が明けきっていないタイミングだ。覚醒しきっていない体を無理やり起こし、隣のロギルジョーをたたき起こす。

「起きろ!誰かこっちに来る!」
「んん・・・むにゃ・・・俺は・・・スウスウ、結婚式の進行なんて・・・むにゃ・・・したことない・・・」
「たわけ!!起きろ!!緊急事態だ!!」

 微妙に敵意を感じるのだ。私は杖を出してロギルジョーを強打した後、周囲に警戒を巡らせる。

 やがて遠くから一台の馬車が視認できるようになった。周囲には甲冑を纏った騎士たちだ。まだ距離はある。ロギルジョーは寝ぼけている状態で、じっと遠くを見た。

「あれぇ・・・。エデンリーフの王家の紋章が刻まれてる馬車だな・・・?なんでここに・・・?」
「エデンリーフ、王家?ライゼル・・・。ライゼル、まさかこいつ!!」

 エデンリーフ王国のライゼル王子。得意魔法は不明ということで、おそらく攻撃魔法は不得手なのだろうと噂をされていた、この国の王子だ。名前が一緒だとは聞いたときに思ったものの、まさか王子ご本人とは流石に思わなかった。どうして連れ去られて、あんな場所にいたのか。

「ロギルジョー。逃げるぞ」
「え?でもライゼルの奴は寝てるし、起こして事情を説明してくれれば謝礼金出ると思うぜ?」
「たわけ。ライゼルはおそらく、盗賊に誘拐されていたんだ。すると騎士の視点では、我らは誘拐犯になる。話も聞かずに戦闘が開始するぞ」

 誘拐犯から助けたと伝えられたらいいが、大事な王族がいるのに、事情を聞こうとして最悪の事態になるよりはたとえ白でも殺したほうが相手視点はお得になる。

「くそ、別れの挨拶は、してる余裕がねえな」
「ああ、いくぞ」

 荷物を急いでまとめて、馬に乗る。

「隠密の魔法は使えるか?」
「使えなくもないけどよ。動きながらだと座標がずれるから、俺では無理だ」
「分かった。私がやる。『幻光衣げんこうい』」

 幻を服のように纏い、姿をくらませる魔法。名前に光は入ってるが、れっきとした闇魔法だ。主に暗殺で使う魔法になる。自分とロギルジョーに着せ、そのまま急いで騎士団とは別の方向へ馬を駆け巡らせる。

「流石は魔塔主に上り詰めただけあるよな。こうして自分が魔法を上達させていくと、あんたのヤバさの境地がやっと理解出来る。対象の座標が常に動いているのに、なんでこんなに滑らかに出来るんだよ」
「まあ音や足跡までは消せないがな。とはいえ、これで追ってはこれんだろ」
「うう、眠い。街に付いたら寝足りない分、もうちょっと寝ようぜ」

 ライゼルとは突然の別れにはなったが、やがて3時間ほど馬を駆けさせると、街が見えてくる。私たちは何とか門番を言いくるめ、無事に街に入っていくのだった。
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