誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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後日談 片翼をもがれた不死鳥

A3.魔導依頼所

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 朝、目を覚ます。

 広いベッドには、僕しかいなかった。

 愛しい人は僕を置いて突然消え、本当であればこの場所で夫婦仲睦まじく寝起きを共にする予定だった。一日の始まりに愛しい人に口づけをし、名残惜しいけれどベッドから出る。そしてまたここに返ってくるために、仕方なく一日の活動を始める。そんな場所になるはずだった。

 鳥のさえずりに起こされ、強引に目を開ける。目の前には誰もいないというのに。手を伸ばしても空しか掴めない。

 ・・・アリオンが消えてから数日は、僕は部屋に籠っては気が狂いそうになっていた。嗚咽、涙。すでに冷えたベッドの、ありもしない温度を求めて掻きむしっては、現実を受け止めきれずに、城の窓から身を投げようかとも思った。

 でも、留まった。アリオンは命を落としたわけじゃない。僕の目の前からいなくなっただけ。生きていれば必ず会える。

 だとすれば保護して、正しい場所、そう。彼が本当にいるべき正しいこの場所に戻す必要がある。アリオンの残した手紙には僕が洗脳されている云々書いてあった。洗脳によって僕はアリオンに恋していて、それを解くために羽根を返して自分は去るのだと。
 悔しいけれど、僕が羽根を渡したタイミングと僕がアリオンに恋を自覚したタイミングは後者が後だった。だからこそ反論が出来ない。

 けれど。
 

 そう、この思いは洗脳などではない。本当に、心の底から湧いた、ただの純愛なのだ。

 故に、間違っているのはアリオンで、正しいのは僕。

「ここに、連れ戻さねば。アリオン、アリオン、アリオン、僕の、唯一の、つがい・・・!!」

 僕は王になった。
 王になった方が、手っ取り早く追っ手を回せる。

 今度は僕の愛しい人が絶対にこの王宮から逃げられないように、天鳥宮の王の私室の隠し部屋を整備をした。かつて王が愛人を囲うために作ったとされる秘密の部屋だ。
 ここに閉じ込める。閉じ込めて、僕以外が目に入らないようにしなくては。ここを巣にして、番が間違った行動をしないように、躾なくては。

 鏡を見ると、僕の目に生気など無くなった。ただ、番を失った哀れな男が映っていた。顔には涙が通った水の一筋も確認できる。涙を流していることにさえ気が付けないほどに、僕の心は大きく黒ずんでいた。










「ちょっと、あんた旦那かい?奥さんのベッド、ものすごく濡れてるのだけど、この頃レスなのかしら?駄目よ、そのうち捨てられるわよ?」
「いや、違えんだ。こいつはその、息子が恋しくて嘆いているんだ」
「あら・・・そうなの。それじゃあおばちゃん余計なこと言っちゃったわね」

 ロギルジョーが一生懸命女将に言い訳をしているが、構っていられる余裕がない。
 ここ数日、何もしてないのに勝手に涙が出る。ここは鏡を置いてくれている宿泊場所だが、自分の姿を見たらブラック企業で酷使され完全に魂が抜け落ちたサラリーマンの顔になっていた。顔を触ると少し濡れており、意識していないのに泣いてしまったようだ。不甲斐ない。こんな無意識に涙をこぼしている姿を見れば、アウレリウスも私にゴミのような目を向けてくるだろう。ああ、ただただアウレリウスが恋しくて仕方がない。
 ロギルジョーに引きずられるまま、席に座る。そして女将が持ってきたモーニングプレートに手を付けた。ロギルジョーの物も一緒で、スモークサーモン、ポテトサラダ、目玉焼き、パンが乗っていた。

「さて、これからどうするよ。余裕はあれど、これからの宿代と食事代を考えると、そろそろ金を稼ぎたいんだが」
「ああ、魔導依頼所に行って仕事を探すか」

 仕事に困っている元魔塔主と元王子ってすごい字面だな。とはいえ、ロギルジョーの魔法の上達を考えると仕事を請け負うのは悪い案ではない。そうして仕事で培った縁がジェルドに繋がることだってあるのだ。

「魔導依頼所って、ひと昔前で言うギルドみてぇな奴だよな?俺、行ったことないんだよな」
「おや、あんたたち、夫婦そろって魔法使いなのかい」

 私たちが話し込んでいると、女将が話に入って来た。

「ここの街の中央にエデンリーフ魔法学校ってあるだろ?あそこ、今教師を募集しているんだよ。魔法に自信があるのならいいんじゃないかい?」
「女将さん。折角だけど悪いな。俺たち、定職に就くつもりはなくて、日銭を稼げればそれでいいんだ」
「やめときなよ日銭なんて。あんた、そのうち定職についてる男に美人な嫁さん取られるわよ?」
「いやだから、違うんだよ・・・」

 ロギルジョーの言う通り、私達は定職に就いていられる余裕はない。故に、その案は呑めない。

「女将、ここらで魔導依頼所の場所は知っているか?」
「嫁さん随分勇ましい喋り方をするね。ああ、この店を出て南に行くと丁度あるよ」
「礼を言う。行くぞ」

 私達は食事を終え、席を立った。そしてそのまま外に出る。

「危険でも一気に稼げる奴がいいよな!ドラゴン討伐とか、俺やってみてえ!!」
「たわけ、お前程度にドラゴンはまだ早い。分厚い皮膚はお前の雷ごときでは通らん。せいぜいそこらのワイバーンが限界だ」
「ちぇー。お、あれが魔導依頼所だよな?」

 ロギルジョーが指を指した方向に、周辺とは少し趣の違う建築スタイルの家が建っていた。魔法使いらしきローブを着ている者も建物に入っていき、確かにそこが魔導依頼所だとわかる。ドアを開けると、まるでバーのような空間が広がっていた。円形の机がいくつか置いてあり、魔法使い達が喋りながら次に請け負う仕事を吟味している。

「こういうところ、俺は初めてなんだけどよ。どうやるんだ?」
「フリーの魔法使いとして働く場合はこういう場所に登録する。それで達成した階級によって仕事の難易度が上がっていく」

 さながらファンタジーにおける冒険者ギルドのようなものだ。とはいえ、この魔導依頼所にやってくるのは、魔法使いでなければならない依頼が多いため、護衛や研究といった方面が多いのが特色だ。

「へー。魔法生物の調教なんてのもあるんだな」
「ああ、だがそういうのは信用を得ていないとそもそも受注すら出来ん」

 まるでお上りさんのようにキョロキョロと周辺を見渡すロギルジョー。私たちに気が付いた周囲の魔法使いは侮った視線を向けてくる。

「すると、俺たちは見習いしか受注できねえってことか?」
「確かに残念なことに、私も魔導依頼所は初めて利用する」

 魔法使いは見習い、術士、中級魔導士、上級魔導士、大魔導士、大賢者というように分類分けされている。ロギルジョーは見習いの表記をちらちら確認しながら、報酬の安さに絶望している。

 一方の私はカウンターに向かう。

「仕事を受注したい」
「かしこまりました。本協会に登録はお済みでしょうか?」

 ロギルジョーが周囲を確認していた時点でこちらが初心者であることは明白。しかし業務上確認せざるを得ないのだろう。

「なあ、ここまで来てあれだけどよ。見習いの報酬が安すぎるから、他の手を考えようぜ?上げるにも多少は時間かかんだろ?」
「案ずるな。私を誰だと思っている」

 懐をまさぐり、真珠の服飾を取り出す。ロギルジョーはぽかんとしている一方で、これが何かを知っている周囲の面々は凝視した。

「・・・・・・、大賢者様、ですね。かしこまりました」
「大賢者様?」
「お前はボンボンだからこういう場所を知らんのだな。あのな、私を誰だと思っているんだ」

 アークランド王国は魔法先進国。さらにそこの魔塔主とは、魔法使い達のトップである。つまり、魔塔主だった称号のこの真珠のブローチは、魔導依頼所にも通じる、最強の身分なのだ。

「どうだ?尊敬するか?」
「す・・・すげえ!!国内だけで見るとよくわからん評価も、他国に通じると知った瞬間興奮する感じだぜ!!あんたすげえな!!」
「よくわからん評価とはなんだ。それ目当てにお前は私の弟子となったのだろうが」

 とはいえ、元の世界のスポーツ選手も、国内の評価だけではいまいち報道されないが、海外で功績をあげると手のひらを返したようによいしょされる。それと似たようなものだ。映画でも全米が泣いたと言った方がピンとくる奴に近い。
 アークランドは言わずとしれた魔法先進国だが、直にこうして凄さを見るのはロギルジョーも初めてなのだろう。
 一方周囲の魔法使いは、私がそれほど強い魔法使いなのかと恐れ半分、疑い半分だ。

「姉ちゃん・・・本当に大賢者なのかあ?疑わしいなあ」

 水を差すように、一人の男が近づいてくる。そういえば今の私は女装をしていたな。女性で高い地位に就くと男性よりも非常に目立つものではあるが、確かにパッとは名前が出てこない。すると、私が詐欺師であると疑っているのだろう。
 男は私の肩に腕を回し、荒い息を近づけてくる。なんだこいつは。

「汚い手をどけろ。私が大賢者であることなど、感知が使えるのなら魔力を読むことは可能だろう」
「でもなあ、俺は女の大賢者って聞いたことがねえんだよなあ」

 周囲のお仲間もにやにやとしている。

「詐欺はよくねぇよなあ。でも、俺たちに付いてくるなら、悪事を黙ってやってもいいんだぜ?」

 この調子だとこの場の誰も感知は使えないのか。よく見ると受付嬢も周りの空気に流され、疑いの目でこちらを見ている。それほどまでに大賢者は稀有な存在なのだ。
 男はそのまま私の胸に手を伸ばそうとする。が、しかし。

「うおっ、いてて」
「・・・・・・」

 ロギルジョーは私に静電気を纏わせ、男を避けさせる。おいおい、静電気だと私も痛いだろうが。

「しかし、初めてだな。私はあの国だとどこに行っても畏怖されてきたから、こんなに面と向かって馬鹿にされるのは初めてだ。面白いな」
「言ってる場合か?このまま疑われていると、俺たち日銭を稼ぐ手段がなくなるんだが」
「ふむ、それもそうだな。どうにかして証明せねばならんか」

 この国では闇魔法はアークランドほど厳しく規制はされていない。そもそも闇魔法が使える人間が生まれるほど、この国に魔法使いはいないのだ。隣国で闇魔法の被害の事例があっても、自国に入るまでは静観している。情報通信網の発達した現代社会でもそういうことはあったのだ。この世界だと猶更だろう。故に、威嚇でも見せてやれば、想像以上に心に来るものがあるとみた。

「男。表に出ろ。どれ、私が魔法の手ほどきをしてやろう」
「デカい口を叩いているようだが姉ちゃん、恥かくのはあんただぜ?」

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