誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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後日談 片翼をもがれた不死鳥

A6.新しい命

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「どうしましたか、お二人とも!?同時にティーカップを落とされて!!」

 落ちたティーカップに意識を割く余裕はない。私もロギルジョーも、新しい命があるだろうそこに目を向けていた。

「う、う、う、嘘だ!!何故お前にそんなことが分かるんだ!!」
「え!?ひょっとして妊娠されていること、認識されていなかったのですか?」

 ライゼル王子曰く、初めて出会った時点でお腹に子供がいることに気が付いていたという。彼は生命探知も得意らしい。そのため、最初はロギルジョーが父親と思ったが、話を聞くに複雑な関係で、困惑していたそうだ。それはそうだ。

「つ、つまり、兄貴の子供がここにいるっていうことか!?俺は叔父になるということか!?」
「アウレリウスの子供・・・?待て、アウレリウスは私の息子で、ここにいるのはあの子の子供?じゃあつまり、私の孫?」
「子供だよ!!あんたはつまりは母親だよ!!・・・にしても、あんたのここ最近の情緒不安定、妊娠初期症状だったっていうことか。急に泣くし怒るし、完全にキャラ精神崩壊したと思ってたぜ・・・」

 い、いつだ。いつやったのが決定打になったのだ。駄目だ。心当たりが多すぎる。あっちにいる間に散々中に出されたんだ。奥は避けても、それで避妊が出来る保証はない。なんなら最終日の夜に至っては、腰を密着させて、好き放題に中出しされた記憶しかない。

「ろ、ロギルジョー。王家は代々胎生か?それとも卵生か?」
「あんたは俺が卵生に見えるのか?」
「お前は胎生に見えるな。でも、アウレリウスは・・・卵生じゃないか?」

 刷り込みのように私の後ろをてちてち付いてきたアウレリウス。羽根をしゅばっと渡してくれたアウレリウス。すりすりと私に身を寄せてきたアウレリウス。

「つまり私は、卵を産むのか・・・?私は人間だが、温めるにはどうすればいいのだろうか」

 怖い。出産なんて言う未知の世界、あまりにも怖すぎる。私は自分の身を自ら抱きしめ、震えていた。一方のロギルジョーは「胎生に決まってるだろ!」と言いながら私の頭を叩いて突っ込む。

「すると、あのまま馬に乗って旅をしてたら、妊娠してるあんたにとってはかなりまずかったな。最近のやけ酒もやばかった。早めに気が付けてよかったぜ・・・」

 全くだ。「アウレリウスと距離を置いて羽根の契約を見届けること」、「ジェルドを見つけること」という二大タスクに、まさか「無事出産すること」が加わるとは。
 視線を下におろす。

「私という存在がアウレリウスから黒歴史扱いをされている以上は、無事生まれたとて子供の存在は知らせるわけにもいかんな。この子には父親がいないことになってしまう。それは本当に申し訳なく思う」
「そうだな。兄貴は別の奴を妃にするだろうから、お腹の子は表には出来ねえもんな」

 私はお腹をさすりながら落ち込む。生まれてくる子は十中八九、深紅の髪を持って生まれてくるだろう。すると、アークランド関係者に見られた途端に、この子は継承権持ちとして命を狙われることになるだろう。本当に、つらい運命を背負わせることになってしまい、不甲斐ない。

「叔父たんが守ってやるからな・・・!!」

 ロギルジョーは私の腹に向かって語り掛ける。気が早いな。顔が近いロギルジョーを押しやり、遠ざけた。

「でも、あんたも兄貴を想って泣いてる場合じゃねえぞ。これからはあんた一人だけの命じゃねえんだから」
「そうだな、本当に」

 子供、か。そういえばアウレリウスは、自分に子供が出来た時を考えて、名前を考えていると言っていたな。

「この子は男の子だろうか、女の子だろうか」
「ああ、男の子ですね」

 驚いた。ライゼル王子はそこまでわかるのか。男の子は突起物があるからわかりやすいというが、そこまで正確に分かるのもなのか。

「すると、『ラークウィル』、という名前はどうかと言っていたな」

 星辰の祝祭で、もし男の子だったらラークウィルという名前がいいと言っていたのを思い出す。
 あの子が考えた名前をそのまま使うと、いずれは危険かもしれない。けれど、この子の父親から貰えるだろう唯一のプレゼントだと思うと、私はその意を汲みたい。優しく腹を撫でた。

「おいおい、まずは無事に出産することが大事だぜ。はー・・・。俺が叔父になるのか・・・」

 滅茶苦茶興奮している。ライゼル王子は、そんな私たちを優しく見守っていた。おそらく、この件は口を閉ざしてくれるのだろう。だというのに、最初は交渉決裂と言って申し訳なくなる。

 私達は談義を終え、一度宿に戻り荷物を取りに行くことにする。王子曰く、明後日から授業を始めるとのことだ。





 男性が妊娠しても、女性よりも筋肉がある関係で腹はまだまだ目立つことは無いらしい。ただ、やはり男性が妊娠すると膨らんだ腹に視線を集めやすいため、腹帯のようなものを手渡された。これを付けていると、腹が出ている部分が異空間に収納できるらしい。つまり、平らに見えるし、腹を気にせず寝ることもできる。福祉の充実がすさまじいな、この国。

「順調に育てば、12月が出産予定日なんだってよ」

 細かい手配はライゼルが請け負ってくれるとのことで、とりあえず私は明日からの準備をする。早速今日から大賢者リオンの授業の宣伝をしているそうだ。
 そう、リオン。身を隠している私の名前は、しばらくの間リオンになる。

「ローゼルが取れ、ついにアも取れてしまった。仕方がないとはいえ、最終的に私の名前はンに縮みそうだな」
「俺も、生徒としてここにしばらく通うことにするぜ。とりあえずこれからはリオン先生って呼ぶからな」

 同様に私も、ここにいる間は「ロギル」と呼ぶことにした。
 身を隠している状態だが、女装はやめにしておく。どうせ声までは隠せないため、遅かれ早かれ性別はばれるだろう。

「なあなあ、一緒に学校を見て回らねえか?新築だし、探検してみてえ!!」

 年相応の男子らしく、ロギルジョーは目を輝かせている。王族ではあるが、こいつもまだ10代。冒険心は抑えられないのだろう。

「ふむ、一理あるな。どれ、いくか」
「おう!」

 割り当てられた部屋を出ると教室に出て、さらにそこから出ると廊下が広がっていた。この学校では制服はないため、各々が着たい服を着ている。

「私服かー。でも俺は、元の魔法学園の制服のほうが好きだったな。毎日何を着ていくか考えなくていいから楽だったんだよな」
「そこに気が付けるとは、お前センスいいな」

 その日に何を着ていくかを考えるのにも、人間は体力を使うものである。故に、制服とは、朝に考えるべき思考を一つ取り除ける素晴らしいシステムと言える。この良さが、中々伝わらない物なのだ凡人には。

 すれ違う生徒たちは、私たちを見て驚いた顔をする。そして、近くの友人となにやらぼそぼそと喋る。私はそのようなことをされるのは日常茶飯事だったために気にせず歩くが、ロギルジョーは驚く。

「なんか俺たち、目立ってね?」
「お前の髪が半端に赤いから目立つんだろ」
「いや、視線はあんたと俺、半々な気がするぜ?」

 ひそひそと喋っている連中に目をやると、パッと目を逸らす。

「悪口だな。気にするな。私にとっては生まれてこの方日常茶飯事だ」
「でもさー。ちょっと頬を染めてない?ほれ」

 ほれと言われても。ロギルジョーが指を指した方向を見ると、男子生徒らしき面々と目が合う。すると目を背け、どこかへ行ってしまった。

「見ただろ。私を見ると大抵の奴は呪いが怖くて、絶対に目を逸らすんだ。私はにらめっこ強者の男だぞ」
「いや、頬が紅潮してただろ。あれは、あんたの容姿が綺麗だから見惚れてたんだよ」

 ・・・き・・・・?

「綺麗・・・?」
「アークランドではあんたは恐怖の大王だったが、そういう前情報さえ抜いてみてみれば、綺麗な部類なんだよ」
「私が、綺麗?」

 そういえば、ここが小説だと気が付いたときに、鏡を見た時の自分の顔が綺麗だとは確かに思った記憶がある。ただ、それ以上に毒々しい上に、自分の結末の方に気がとられていた。

「そうか。私は綺麗なんだな」
「自分で言うなよ。にしても悲しいよな。見た目が良いっていうのは人生におけるアドバンテージになるはずなのに、あんたの場合、全く役に立たっていないもんな」

 人間というのは、中身がクソでも外見がよければ異性にモテるものである。外見が良いのにモテませんということはよっぽどない。そのよっぽどのことが私には起きていた、と。

「なんかさ。あんた、生まれる国を間違えた可能性あるよな」
「私もそんな気がしてきた」

 このエデンリーフに生まれていれば、殺されることもなく、闇魔法も個性として受け入れられていたかもしれない。周囲から嫌われて過ごすこともなかったかもしれない。

「でも、アウレリウスに会えた。それだけでアークランドには価値がある」
「その兄貴に刺客を差し向けられているのに?・・・・・・悪かったよ!!泣くなって!!」

 その事実を思い出すたびにハラハラと涙がこぼれる。感情にふりまわされるこの感じ。これが妊娠初期症状なのか・・・。

「しばらくはここを拠点に頑張ろうぜ?な?さすがの兄貴も、他国まで簡単に刺客は送り込めねえんだからよ」

 アークランドにはこれから平民が力を持つ時代がやってくるが、しかしすぐにというわけにはいかない。しばらくはアウレリウスが王として動かすが、やがて議会が開かれるようになり、あの子の権力は分けられていくだろう。
 現状は貴族が大きく間引かれ、結果的に王の権威が増しているだけの状態だ。

 とはいえ、エデンリーフにまで人を送り込むことは、統制領ガイストといがみ合っている現状では出来ない。そう、この時の私たちは楽観視していた。
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