誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

文字の大きさ
104 / 124
後日談 片翼をもがれた不死鳥

A8.決闘

しおりを挟む
 マイラは、次の授業で自分がロギルジョーに勝てば、部屋を交換したい旨を申し出た。私もロギルジョーもアバラも、突然の申し出に驚く。けれどロギルジョーよりも、私の方が先に口を開いた。

「いや、すまないが、私は諸事情あって、こいつと同部屋でなくては困るんだ」

 マイラは驚いた顔をして私をじっと見ている。まさか私が断りをいれるとは思わなかったのだろう。

「諸事情、とは?」
「その・・・だな」

 妊娠しているから、というのが理由だが、果たしてこんなところで言っていいものなのだろうか。前世の職場の人は、妊娠五か月で報告していたな。すると私の場合はまだ早いか?男の身のせいでよくわからん。ふーむ・・・。まあ、迷いはするが、どうせいずれはわかることか。

「・・・・・・その。実はな、私は妊娠していてだな・・・」
「・・・ッ!!」

 アバラもマイラも、驚きのあまり絶句する。マイラに至っては、青ざめていた。まあ、男が妊娠すると聞けば、それくらい驚くのも無理はないだろう。しかしこの反応は傷つくな。

「き、聞いてええ?相手って・・・」
「・・・まあ、想像通りの人物だな」
「すると・・・。そういうことか・・・」

 四人で歩きながらも、奇妙な沈黙が流れる。マイラは私を握る手が震えていた。

「悪いな。男が妊娠だなんて、気持ち悪いだろ」

 私はそっと手を離そうとしたが、マイラは離さないとばかりに握り返す。

「先生は綺麗です。僕が出会った人間の中で、一番綺麗です!妊娠だって、先生なら出来てもなんらおかしくありません!」
「でも、手が震えてるぞ」
「怒ってるんです。ええ」

 怒る?よくわからないな。私が妊娠して何故他人のお前が怒るんだ。

「まあ、そういうわけだから、部屋の交換は出来ないんだ。悪いな」
「嫌です!妊娠のサポートというのが焦点でも、僕の方が絶対にお役に立てます!」
「頑固だな」

 ロギルジョーを一瞥すると、やれやれという反応をしていた。まあ、ロギルジョーが決闘で負けることはない。それも雷の分野において。すると、一度コテンパンにしたほうが、マイラも諦めるだろう。

 マイラは不思議な魔力を持っていると私の感知は伝えるが、特別警戒すべきというわけでもなさそうだ。

 私たちはそうして魔法実技学のエリアにたどり着く。教師である私がいることに生徒たちは首をかしげていたものの、担当する教師に報告を入れると、喜んで歓迎してくれた。この私を歓迎する教師がいるとは、本当にアークランド魔法学園とは雲泥の差だな。あの時は生徒であっても魔塔主であっても化け物を見る目で恐れられていたからな。

 やがて簡単な説明の後、実践することになる。アバラは一生懸命雷を模型に落としているが、静電気レベルの変化しか起きていない。私が近寄ってコツを見せると、うなずいてからまた練習に励みだした。

 一方のマイラとロギルジョーはというと。

「手袋、俺に投げていいのか?」
「ええ、決闘を申し込んでいますので」

 改めて決闘を始めようとしていた。担当教師は突然のことに慌てだす。それはそうだ。つい一昨日に伝手で入ったやつと、昨日編入で入ったやつが今からおっぱじめようとしているのだ。

「私が見守りますので、お気になさらず。授業をお願いします」

 そう告げると私に何度も頭を下げ、ほかの生徒たちの方へ指導に回る。しかし、ほかの生徒の面々も決闘という単語に興味を抱き、わらわらと集まり始めた。ギャラリーには被害がいかないように周囲に防御魔法を張っておく。二人がこれから使用するのは雷魔法だ。逸れる可能性も十分ある。事故は起こしたくない。

「マイラ、っつったか。俺は雷が適正なのに雷で喧嘩を売っていいのか?」
「ええ。もちろんです」

 マイラはにこりと笑う。ただ、その目は笑っていない。どうしてこの少年はここまでロギルジョーを目の敵にするのか。

「攻撃魔法は雷魔法のみ。ただし、無属性魔法の使用は許可する。雷は強力ゆえに死亡事故につながる。故に両者の魔法には私が上限を設ける。いいか?」

 2人ともコクリと頷く。私はエリア掌握の為に闇魔法を放つが、周囲のギャラリーから小さく歓声が湧いた。

「あの先生、非常勤の先生だよね?あんなことも出来るんだ!」
「詠唱はや!格好いい・・・!!」

 凄いな。私が闇魔法を撃って罵られない世界線って存在するんだな・・・。まあ、レベルが低いため、今使用したのが闇魔法とすらイマイチわかってないのだろうが。

「では始め!」

 ・・・あれ?この戦いって、何で勝敗が付くんだ?まあ、星辰魔導議会のルールと一緒でいいか。つまり、相手を戦闘不能にさせればいい。二人の顔を見るに、ルールの意思疎通は取れているように見受けられる。

 さて、無属性魔法の使用がOKとはつまり、防御魔法を使っていいということだ。これをOKにせねば、雷魔法の戦いなど先制攻撃で終わってしまう。ロギルジョーは開始の合図とともに、私直伝の高速詠唱であっという間に魔法を完成させる。
 元来詠唱というのは長ければ長いほど威力が高い。故に、威力を維持しつつこれをどれだけ短縮できるかにかかっている。通常適性魔法であればあるほど詠唱は早く終われるが、私のような高速詠唱持ちは、たいていの魔法を一言ぐらいの魔法名を呟くだけで打てるために強力なのだ。実際の戦闘というのは、何より早さが求められる。

 しかし。

 。自分が発動しようとしていた雷魔法の展開を中断してまで。

 刹那、ロギルジョーの頭上に雷魔法が落ちる。

「なっ・・・!!」
「え?え?おチビ、今何が起こったん!?」

 気が付けば隣にアバラがいて二人を見守っていた。私も今の状況が理解できなかった。ロギルジョーは雷の適性持ちで、なおかつ高速詠唱を持っている。

 ロギルジョーも今の一撃で冷や汗をかく。自分の適正であるはずの雷で先制攻撃を上回られたということは、つまり、相手の方が基本的にすべて早い。
 

 マイラは手袋をしている方の手をロギルジョーに向けている。

「聞きましたよ。『千雷のロギルジョー』、でしたっけ?あはは、僕の方が速くて強いじゃないですか」

 嘲笑。美少年が霞むほどの歪んだ笑み。
 この学校の面々はアークランド魔法学園よりはレベルが低く、今起こったことの理解は及んでいない。けれど、すさまじい戦いが広がっていることは感じ取っているようだ。ギャラリーは静かに行方を見守る。

 ロギルジョーは冷や汗をかく。これは、雷同士の正面一騎打ちでは分が悪いと、一度で悟った。咄嗟に生成したプラズマで鞭を作るものの、マイラの防御魔法の展開のほうが早い。雷魔法は速度も攻撃性も一級品で、普通の魔法使いがこうもホイホイと対処出来うるものではない。

 それを、こんな、年端もいかない子供がいとも簡単にやってのけたのだ。

 年端も・・・いかない・・・。

 な、なんだろう。嫌な予感がするな。
 ロギルジョーはなんとか隙を探っては雷の高速詠唱を展開する。マイラには沢山の雷が降り注ぐが、しかし連続で落としたとしても防御魔法をずっと張り続ければいい。もちろん攻撃がヒットすればそれだけヒビも入るし、魔力も持っていかれる。
 だというのにマイラは顔色一つ変えない。ただ余裕そうに笑みを浮かべている。周囲のギャラリーにも、二人の間になる圧倒的なレベルの違いが伝わったのだろう。

「ロギルの奴、や、やばない?あいつって俺らの国でも有数の魔法使いなんやろ?それがあんな手のひらで転がされるようになんて・・・」
「・・・そうだな。これは、私も手を貸す必要があるか」
「え?え?」

 アバラが戸惑っている中、私はロギルジョーに手を貸すことにする。仮説が正しければ、マイラは子供ではない。大人が子供に化けている。

 私はマイラの体に直接、電気信号を操る魔法を送り込む。すると、マイラは自分の体の異変を感じ取り、一瞬姿勢が崩れた。けれどロギルジョーはその隙を見逃さない。

「ショック・パルス」

 気絶をさせる程度の魔法。マイラはそれに直撃し、倒れる。

「やめ!!勝者、ロギル!!」

 何が起こったのかよくわからないが、とりあえず周囲の面々は拍手をした。ロギルジョーは私が手を貸したことに気が付いたのか、恨めしそうな目を向ける。

『おいおい、確かに俺一人じゃ勝てなかったけどよ、決闘に水を差すのは駄目だろ!』
『いや、確かに生徒同士の決闘だったら私も止めなかった。生徒同士、であればな』
『え?』

 周囲のギャラリーは各々の持ち場に戻っていった。私は地面に倒れながら、興奮しているマイラに近づく。

「マラカイ、何やってんだ?お前」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ラストダンスは僕と

中屋沙鳥
BL
ブランシャール公爵令息エティエンヌは三男坊の気楽さから、領地で植物の品種改良をして生きるつもりだった。しかし、第二王子パトリックに気に入られて婚約者候補になってしまう。側近候補と一緒にそれなりに仲良く学院に通っていたが、ある日聖女候補の男爵令嬢アンヌが転入してきて……/王子×公爵令息/異世界転生を匂わせていますが、作品中では明らかになりません。完結しました。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

【完結】星に焦がれて

白(しろ)
BL
気付いたら八年間囲われてた話、する? わんこ執着攻め×鈍感受け 「お、前、いつから…?」 「最初からだよ。初めて見た時から俺はお前のことが好きだった」  僕、アルデバラン・スタクにはどうしても敵わない男がいた。  家柄も、センスも、才能も、全てを持って生まれてきた天才、シリウス・ルーヴだ。  僕たちは十歳の頃王立の魔法学園で出会った。  シリウスは天才だ。だけど性格は無鉄砲で無計画で大雑把でとにかく甘えた、それに加えて我儘と来た。それに比べて僕は冷静で落ち着いていて、体よりも先に頭が働くタイプだったから気が付けば周りの大人たちの策略にはめられてシリウスの世話係を任されることになっていた。  二人組を作る時も、食事の時も、部屋だって同じのまま十八で学園を卒業する年まで僕たちは常に一緒に居て──そしてそれは就職先でも同じだった。  配属された辺境の地でも僕はシリウスの世話を任され、日々を慌ただしく過ごしていたそんなある日、国境の森に魔物が発生した。それを掃討すべく現場に向かうと何やら魔物の様子がおかしいことに気が付く。  その原因を突き止めたシリウスが掃討に当たったのだが、魔物の攻撃を受けてしまい重傷を負ってしまう。  初めて見るシリウスの姿に僕は動揺し、どうしようもなく不安だった。目を覚ますまでの間何をしていていも気になっていた男が三日振りに目を覚ました時、異変が起きた。 「…シリウス?」 「アルはさ、優しいから」  背中はベッドに押し付けられて、目の前には見たことが無い顔をしたシリウスがいた。  いつだって一等星のように煌めいていた瞳が、仄暗い熱で潤んでいた。とても友人に向ける目では、声では無かった。 「──俺のこと拒めないでしょ?」  おりてきた熱を拒む術を、僕は持っていなかった。  その日を境に、僕たちの関係は変わった。でも、僕にはどうしてシリウスがそんなことをしたのかがわからなかった。    これは気付かないうちに八年間囲われて、向けられている愛の大きさに気付かないまますったもんだする二人のお話。

ルピナスの花束

キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。 ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。 想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

処理中です...