誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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後日談 片翼をもがれた不死鳥

A9.嫉妬

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「もー、せんせーってば僕の体を操ったでしょー。おかげで格下相手に負けるなんていう、大恥かいちゃったじゃないですか~。キスしてくれなきゃぜーったい許しませんからね?」
「いくぞロギル。こいつのことは二度と構わなくていい。さっきの実質敗北も気にするな」
「え?え?」

 戸惑うロギルジョーの肩を引き、持ち場に戻ることを促そうとする。しかし、マラカイは認めないようだった。地面に突っ伏しながら、私に追及する。

「先生。そいつ、なんですか?なんで僕を差し置いて、先生から直接手ほどきを受けているんですか?」
「その前にお前、どうして私たちがここにいるってわかったんだ?魔塔主の仕事はどうした?」
「企業秘密ですー。魔塔主については、ちゃあんとこなしてますからご心配なく。僕のことは良いんです。それよりそのクソガキですよ」

 マラカイは小さい体ではあるものの、ロギルジョーを睨む目はやめない。一方のロギルジョーはまさか相手がマラカイだったとは思わず、驚愕している。


「・・・私が目をかけているだけだ。ロギルのことを気に入った」

 ぎょろり、とマラカイの目はこちらに向いた。

「僕は、先生が乳臭いガキが好きだと思って魔法で子供の体にしました。僕は先生の好みでしょう?ねえ、もっと僕のことを見てください。そんなガキより、僕の方が先生の好みでしょう?」
「別に私は特別子供が好きというわけではない」
「じゃあどうして小僧や、そこのクソガキに愛情を注いで、僕には目もくれないんですか?僕の一体何が駄目なんですか?先生、先生、先生」
「まさかお前、私がお前を選ばずにロギルを選んで国を抜け出したことを根に持ってるのか?」

 マラカイは無言になる。図星なのだろう。

「小僧が先生を孕ませたと聞いたときは発狂しそうでした。でも、ハハハ!!!!あはは、あっはははは!!!だから先生の一番はこの僕、先生の弟子という唯一の立場は僕だけ!!」
「そのうちあの国には戻るつもりでいたし、お前にも会うつもりでいた。だから気に病むことも、嫉妬することもない。だから安心して、お前は魔塔に帰れ」
「・・・もう一度聞きますが、先生とそこのクソガキの関係は何なんですか?まるで師弟関係にみえるのですが」

 殺気。
 やはりと思ったが、マラカイは弟子という立場に固執している。故に、自分の唯一の立場を脅かす存在にかなり敏感になっているのだ。
 いや、大丈夫だ。契約で弟子に取れるのは一人だけ。マラカイ視点でそれに例外はない。

「仮にあいつが弟子だったとして、契約が出来ない以上は形式的になるだろ。どうしたって私にとってお前以上の弟子にはなれる奴はいないだろ」
「じゃあ、どうして僕の大好きな先生をあいつが独占しているんですか?」
「お前は私よりも攻撃魔法は強いだろ。無詠唱も出来るのだから、教えることもない」
「無詠唱なんてできません!だからそれは先生の勘違いって言ってるじゃないですか!!」

 こいつ・・・。無詠唱については頑なに嘘をつくんだよな。お前が使えるのは知ってるんだよ!!

「僕だって、先生にもっと沢山教わりたいです」
「いらん。お前はもう、魔法使いの頂点に立っているんだ。免許皆伝の人間に教えることなど何もない」

 というか、私よりも魔法展開が早い奴が、わざと自分を弱く見せて弟子入りを志願してきた私の身にもなれ。

「僕は攻撃魔法が出来るだけのイノシシなだけで、先生のような制圧は出来ません!精神攻撃だってできませんし!教わることは沢山あるんです!」
「一生懸命捻りだして言ってるだろ」
「違います!本心です!」

 マラカイはまだ体に力が入らないようで地面でもがいている。私はマラカイを抱え、医務室に飛ぶ。そしてベッドに放り込んだ。

「ここで寝てろ。回復したら魔塔へ帰れ。いいな、命令だ」
「嫌です!お願いです先生、あんな奴じゃなくて、僕と一緒に動いてください!待って、行かないで」

 付き合っていられない。私は踵を返して自室の方向へ戻る。後ろからは縋りつくような叫びが聞こえるが、無視をする。いい大人なのだから、後輩が出来たくらいで一々突っかからないで欲しい。師弟契約の情報すら知らないのに、あれだけロギルジョーに執念を抱いていた。これは、契約のことを知ったら絶対に殺しに来るだろう。不安が確定事項になったな。

『マラカイ殿、大丈夫だったか?滅茶苦茶俺にキレてたけど』
『ああ、気にするな。お前は私が認めた。引け目に感じる必要はない。あいつがもしも、これから先突っかかってくることがあるなら真っ先に私を呼べ』

 ロギルジョーの念話に応える。こいつもいずれはこうなることは分かっていただろう。故に、非常に落ち着いている。

『いや、魔法界の頂点と戦えるほどの魔法使いになりてえって思ったのは俺だからよ。俺がなんとかするよ』
『・・・いいや、今のお前ではあいつの対応は難しい。遠慮せず私のことは呼べ』

 それだけ言うと念話は切る。弟子は師匠離れが出来ずに後輩につっかかるし、息子は私のことを殺そうとするし、元婚約者は消えるしで本当にどういう状況だこれは。人間関係って難しいな。私も私で自分のやりたいことを優先して動いているから人のことは言えないが、それにしても自分の考えを押し付けてくる奴が多いな・・・。




 翌日。
 本日も授業はある。

 むすーッとした顔でマイラことマラカイはいつもの席に座っていた。しかし、ことあるごとにロギルジョーに睨みをきかせている。面倒だから無視をして本日の授業を終えたが、魔塔を放置されるのは私としても心配になるため、他の面々には聞こえないよう、マラカイに念話を繋いだ。

『おい、魔塔の仕事はどうした』
『だからちゃんとやってますよー。先生の授業を受けるために、一瞬抜けてるだけですー』

 やることをやっているのならこれ以上いちゃもんはつけられない。周辺の面々は次の移動のために去っていった。今いるのは私とマラカイとロギルジョーの三人。アバラは遠い教室の為に颯爽と立ち去っていった。
 今度はロギルジョーが念話で話しかけてくる。

『おいおい、昨日追い返したんじゃないのか?』
『ああ。でもそれであきらめるような奴じゃないからな・・・』
「念話」

 ガタリ、とマラカイは立ち、机をバンッと叩いた。そして青い瞳で私を凝視する。それはまるで、いかなる言い訳も認めないとでもいうように。

?」
「・・・・・・!?」

 ・・・ッ、しまった!!

 やってしまった、次から次に念話がつながるせいで、マラカイへのパスを切り忘れた状態でロギルジョーに話しかけてしまった・・・!!

 念話が出来るのは、師弟契約の証。そして私がロギルジョーに心の中で話しかけたということはつまり。



 それは、あのアウレリウスにさえ向けなかった憎悪の瞳。それをロギルジョーにぶつける。

 殺意だ。ロギルジョーにこれまで向けていた邪魔者への目は、絶対に殺さなくてはならない対象を見る目になった。

 全身に殺気を纏い、ロギルジョーへのろのろと近づく。私は咄嗟にロギルジョーの前に立ち、守りの姿勢に入った。

「ロギル、お前は逃げろ。これはまずい」
「いや、俺も加勢する。俺のせいで起こっていることだからな」
「なんで先生はそいつを庇うんですか?なんで?ねえなんで?」

 地を這うような声。
 マラカイは手袋を取り、自身の魔道具である爪を外気に晒す。

「あの小僧がね。もし先生と恋仲になれたとて、万が一夫婦になったとて、僕には勝てないんですよ。何故かって、人間が決めた夫婦の契りより、魔法使いにとっては生涯外せない師弟契約のほうが唯一無二ですから」
「・・・・・・」
「夫婦は離婚することもあります。けれど、師弟契約は絶対にそんなことはあり得ません。故に、婚姻よりも遥かに重い。婚姻は法律上の契約、でも師弟契約は魂の契約。本当は僕は先生の伴侶の枠にも収まりたかったけれど、僕は先生に嫌われることがこの世で一番怖いので、泣く泣く身を引きました。今でも諦めていません。大好きです。・・・」

 マラカイの雰囲気も口調も、一気に切り替わる。圧倒的強者の佇まいに、ロギルジョーの息を呑む声が聞こえた。

のその絶対の立ち位置を犯すクソ野郎がいて、殺意を抱かないなんて、無理に決まっているだろッ!!」

 風が吹き荒れる。・・・ここは新築の校舎だ。ここで戦闘を行うわけにはいかない。
 私は咄嗟にこの場の転移を行い、国境付近の高原に三人で飛ぶ。おそらく、ロギルジョーをあの場に置いていけば、マラカイは一人で戻って執拗に狙うと判断した。

 私達は向き合う。これは、ロギルジョーを守りつつ、力技を行使せねば、こいつは静まらないだろう・・・!!
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