誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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後日談 片翼をもがれた不死鳥

A11.追跡

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 マラカイとの揉め事から2か月経過した。

「は~まったく。攻撃することばっか考えて、相手の動きを読むのがド下手糞なんですよ~。ほら」
「うわーッ!!死ぬ、死ぬって!!」
「マイラ!!やりすぎだ!!」

 マラカイは子供の姿をした状態で、ロギルジョーに向けて風の刃を沢山投げつける。一応はロギルジョーを殺さないと約束はしたものの、やはりむかつきはするのか、「今日は先生の代わりにクソガキに稽古をつけてあげます~」と言っては、一つ間違えたら死にかねないレベルの稽古をつけていた。いざというときは事故にするつもりだこいつは。

「はぁ、はぁ、し、死ぬかと思った・・・」

 私はマラカイの頭を叩く。

「それは修行じゃない。いじめだ。いじめという方もよくないな。殺人未遂だ」
「兄弟子による愛の鞭ですー。だってほら、この程度簡単に避けられないで、いつ魔法の攻撃を撃つんですか。甘いこと言ってると強くなれないんですよー」
「ま、まあ確かに当たったら大怪我って言うのは本当だけどよ。でもおかげで相手の予備動作を読む訓練はついたぜ」

 ロギルジョーは訓練の成果を私に示すため反復横跳びをしているが、確かにいつもより速い気がする。いや、鍛えるところおかしくないか?

「皆さん、ここで修業されていたのですね!」
「ライゼル王子」

 私たちは他の生徒が寄り付きにくい学校の一角でたむろっていたが、王子はなんとか見つけ出したようだ。なお、マイラの正体がマラカイであると伝えると、王子本人は喜んでいた。学校に滞在する代わりに、有事の際には協力してほしいとのこと。・・・有事、という突飛な単語から、差し迫った問題でもあるのだろう。そういった話をしたのが、つい2か月前のことだ。

「実はアークランド王家から、我が王家へと書状が届きました」

 王子は一枚の便箋を私たちの前に見せる。

「アウレリウスの!?見る、見せてくれ!」
「兄貴のことだから食いつきすげえな。でも、王家への書状ってことはそうそう部外者には見せられないだろ」

 私が手紙に飛びつこうとするのを、ロギルジョーが止める。

「腹帯で隠してるとはいえ、あんた最近腹のふくらみも目立つようになってきたんだから、頼むから落ち着いてくれ!」

 そう、私の下腹部はふくらみが分かるようになってきた。一応外野からは見えづらいように装備はしているが、無茶な動きは控えなくてはならない。マラカイもそれを察して、ロギルジョーの稽古を肩代わりしてくれているのだろう。

「あ~それ、地割れの調査のやつですよね~。うちにも届いてました」
「地割れの調査?」
「ええ、僕と先生が荒野でランデブーしたあれです。小僧が魔塔宛てに、説明要求をしてきました」
「お前の仕業とばれているのか?」

 確かにエデンリーフにはこれという著名な魔法使いはいない。地割れクラスとなると、更に難しい。しかし、アウレリウスはまるでマラカイがやったと確信を持っているように手紙を送ったという。

「いえー、おそらくはカマかけでしょうね~。今こうしてそこの王子にも届いているらしいですから~」

 ライゼル王子はマラカイの話を受けてこくりと頷く。マラカイの予想は当たっているようだ。

「私のもとに来た手紙は、アークランドからの調査員の派遣です。アークランドの魔法使いの仕業の可能性が高いため、わが国が責任をもって犯人を追及する、という文面でした」
「それにしては届くまでに随分かかったな。2か月前の話だよな」
「現在大陸は緊張状態で、手紙も簡単には行き来できなくなっているのです。とはいえ一度皆さんに情報共有をすべきと思ってはせ参じた次第です。それか・・・」
 
 何か機をうかがっているか。
 言葉にせずとも、皆の中でなんとなく予想は付いている。

 

 そ、そうか、アウレリウス・・・。他国にまで行った私を追跡しなくてはならないほど、徹底的に消さなくてはならない、恥ずべき過去と思っているのか・・・。お父さん、そこまで憎まれるのは想定外で、今日もまた夜中こっそり泣いてしまいそうだな・・・。

 私が落ち込んでいることを察してか、ライゼル王子は慌てる。

「も、もちろんリオン殿は国賓と言っても差し支えないお方ですから、調査隊は拒否する予定ですよ!?」
「いや、いい。それだと実質的に私の存在を隠していることを肯定することになるからな。おそらく最も現場から近いだろうこの街にも調査隊はやってくるだろうから、その間だけ私は避難することにするさ」

 アウレリウスが私のことを許してくれるまで何年かかるのだろうか。10年、いや、もっとだろうか。あの子が別の誰かを愛するようになれば、きっと愛が私への憎しみを上回ってくれると今は期待するしかない。できれば私のこともパパとして愛してほしいとは切実に願っているが。

「にしても、調査隊って絶対に兄貴の独断だよな。王権って段々弱まっていくはずじゃなかったっけ?」
「平民に権力を与える施策は進んでいますが、あの小僧は民衆からの人気は抜群ですからねー。ぶっちゃけると、小僧が在位中までは王が存分に権力をふるうでしょうね。それを国民が許すという流れです。その間に平民に譲渡するシステムを構築していく算段でしょう」
「なるほど、軍部の改革も、魔塔の立ち位置も変わってくる大事な時期に、いきなり平民に決定権が与えられてもそれこそ一番困るのは平民だもんな。信頼性抜群の兄貴のほうが国民的には今は安心できるよな」

 すると、アウレリウスの子にあたる人物から平民主導の時代となるのだろう。

「では~僕は魔塔の仕事がありますのでこれで。せんせ、行ってらっしゃいのちゅ~」
「早く帰れ」
「前はあんなに僕の唇を貪ってくれてたのに!!先生のいけず!!好き!!」

 わめきながら帰っていった。

「ところで話は変わるんだがライゼル王子、の捜索は進んでいるか?」

 あいつとはもちろんジェルドのことである。私たちはジェルドの捜索を、エデンリーフ側に委任しているという状態だからだ。

「しらみつぶしに捜索しております。申し訳ございません、進んではいますが、お時間を要します」

 人間一人を探すのは相当な労力だろう。私は持ってきていたジェルドの遺品である羽ペンをライゼルに渡したが、それを元に追跡をしてくれている。この国にいなかったとしても、それもまた重要な情報になる。今は信頼して待つべきだろう。

「捜索も大事だけどよ。あんたは腹の子供を考えてくれよ。ただでさえ追われる立場なんだしよ」
「ああ、分かっている」

 ここ数日、お腹の子供ラークウィルがぽこぽこ動いているような感じがする。つわりは軽い部類だったおかげでつつがなく授業に勤しんでいるが、周囲の面々は気を使ってくれている。

「よし、では私は散歩をしてくる。軽い運動が安産に繋がるそうだからな」
「俺もついていくよ。じゃあ、ライゼル王子。これで」
「ええ、また何かわかりましたらまたお知らせいたします」

 ライゼル王子と別れ、私たちは鍛錬場を出て、花壇のあるエリアに向けて歩いていく。すると、そこには珍しくアバラがいた。

「あれ、おチビとロギルやん!どしたん、花を見るようなタイプじゃないやろ」
「それはこちらのセリフだ」
「いや、俺は食べられる花があるって聞いて、探しに来たんよ」
「花壇の物を食うな!!」

 アバラは図鑑を片手に花を選別していたようだ。金欠らしく、なるべく生えているものを抜いて食べているらしい。あとでキノコを見分ける魔法でも教えてやるか・・・。

「おチビはいつ出産なんやっけ?」
「予定通りなら12月だ。・・・我ながら全然想像出来んがな」
「なんでも、出産のときには男性の妊娠に詳しい専門家を呼ぶらしいぜ?」
「ん?それは初耳だな。男性の妊娠に詳しい専門家?」

 エデンリーフでは、非戦闘系魔法を使うものが多い。レオの侯爵家の何代か前だったか。エデンリーフに行った際に同性での妊娠技術を伝授したところ、アークランド以上に浸透したという背景がある。故に、こと福祉においてはアークランド以上に信頼が出来る国なのだ。

「エデンリーフ内のベテランでも呼んでくれるのか?助かるな」
「いや、アークランドから呼ぶらしいぜ?」
「アークランドから?またどうして」

 エデンリーフではこの分野で遅れは取っていないと認識していたのだが。

「たとえ表沙汰にせずとも、あんたのお腹に宿っているのは他国の王族だからな。これを口実に最悪戦争の可能性だってあるんだ」
「ええ・・・。あの陛下がそんなことする?」
「するかしないかはともかく、万が一の時の言い訳は国として備えておくもんなんだよ」
「は~お偉いさんは大変やわ~」

 アバラとロギルジョーは、私の腹をちらちらと見ながら歩くが、外見上はひらぺったいので見ても無駄だぞ。

「で?誰がくるんやろ」
「ああ、イヴリン令嬢らしいぜ?」
「え?」
「ええ!?」

 イヴリン、という名前に私とアバラは同時に驚くの声を上げた。ものすごく知り合いだからだ。友人であるレオの姉。
 そのイヴリン嬢が私の出産を手伝いに来る?

「私の出産を、イ、イヴリン嬢が担当する?わ、私は、年ごろの令嬢に下半身を広げる・・・?い、嫌だッ!絶対に嫌だッ!!」
「世のご婦人はみんなそうしてるんだよ!!嫌だとか我儘言うな!!俺は無事にあんたの出産が終わったのちに甥っ子に会いてえんだよ!!」
「嫌だ!!な、何故だ!!普通立場が逆ではないか!?何故男の私が、な、何故・・・!?」
「もう決定事項だから諦めろ!!」

 一度はアウレリウスの嫁にと思った女性に、私は出産を担当してもらうのか?

「い、イヴリン嬢は、アウレリウスの妃候補に、なる、令嬢、なのに・・・。そんな女性に、アウレリウスの隠し子を担当させるなんて・・・道理的に駄目だろう・・・」
「相手方からは『まあ!かしこまりました!!これは内密のお話ですわね。いいですわ。わたくし、陛下とアリオン君が、かわいいかわいい赤ちゃんに出会えるように力を尽くしますから!』と乗り気だったらしいぞ」

 イヴリン嬢・・・違う、違うんだ・・・。
 悲嘆にくれる私と、私を叱咤激励するロギルジョー。
 そんな私たちの後ろで「ええ~なら久々にレオにも会えるんかな~」とアバラがウキウキだったため、鳩尾に一発入れてやった。
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