誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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後日談 片翼をもがれた不死鳥

A13.調査団

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「先遣隊?」
「ええ、統制領ガイストから、国境近くの海岸沿いの、小さな村に送られたとのことです。あの村は陸地以外の手段として国境を渡って来られる場所ではありますから狙われたのでしょう。とはいえ激しい波と風のせいで簡単に侵入できるものでもありませんから、我々も楽観視しておりましたが、飛行魔法で強引に入られたとのことです」

 私とライゼル王子たちは急遽集まって議論を交わす。統制領ガイストは、軍事国家。であれば、出来立てほやほやの軍事国家が何をするかというと、まあ、領土拡大しかない。指導者は丁度、媚売りのために周囲から全力よいしょされている時期だろう。

 それにしても、軍国主義を打ち砕いたのはアークランドで、エデンリーフよりもはるかに脅威のはずだ。加えてアークランドは軍部が再編成中であるため、安定していない。落とすなら格好の的とも思えそうだが。

「アークランドには大魔王としておそれられるあんたと、破壊王のマラカイ殿がいる。もし攻め入ったとしても、最強の守護者である兄貴だっているんだ。いくら政治でごたごたしてるからって、個人が強すぎて、いずれは侵攻するにしてもまずは段階を踏みたいって思うもんだよな」

 おそらく、ガイストがエデンリーフに攻め込むことは、ライゼル王子は分かっていたのだ。けれど、私の説得をするためには「アークランドに利がある」と話を持っていくしかなかった。これはまんまと一杯食わされたな。
 私の膝の上に、マラカイが頭をのせていた。自分の頭を私の太ももにぐりぐり押さえつけながら、話に加わる。

「先生のお腹の子供は僕の子じゃありませんけどー。無事に産んでもらわないと母体が心配ですからね。エデンリーフここで戦争が起こるのは困るなあ」

 マラカイは応戦に意欲的だ。それは非常に助かる。他国の話ではあるが、もしエデンリーフがガイストに乗っ取られでもしたら、アークランドは周辺を軍国主義で半分囲まれることになる。すると、遅かれ早かれアークランドでも確実に戦争が起こる。

 エデンリーフが狙われているのは、他人ごとではない。

「こちらとしても安全に産みたい。できうる限り協力させてもらう」
「ありがとうございます。ご協力いただけて、王子として心より御礼を申し上げます」

 王子は頭を下げた。国が眼前の危機に晒されている最中、妊娠している私と出会った。国防として、ローゼルアリオンの名はあまりにも強い。ライゼル王子から見て、私の存在は光明に思えたのだろう。故に、あれだけ一生懸命私を引き止めたのだ。

「マラカイ。まずはガイストの調査に行ってくれ」
「はーい!!お望みとあらば指導者をぶち殺しますが、いつしましょう?」
「まだいい。情報だけ探ってこい」

 本当にやりかねないのが怖いな。ただ、指導者だけ始末しても、すぐに別の指導者がすり替わるだろう。ここまでくると、国ごと制圧することが求められる。
 マラカイは幼い体を私にすりすりさせた後、惜しむようにこの場を去る。子供の姿であれば私が少々甘いと気が付いたのか、調子に乗ってるな。
 一方場にはロギルジョーと王子と私の三人が残った。

「じゃあ我々は早速、先遣部隊が現れた地点の調査に向かうとするか」

 私が立ち上がると、ロギルジョーは慌てて止める。

「いやいや、あんたはもう、一人の体じゃねえんだから、荒事に首を突っ込まないでくれ」
「安心しろ。私は本気の時に傷を負ったことは一度もない。杖にだって、軽量術式組み込んでいるのだから、問題はなかろう」
「いやいやいやいや、傷を負うしれないだろ!!それに、万が一の時、激しい動きをして子供に何かあればどうすんだよ!!」

 アウレリウスには、そしてお腹の子には平和な治世の元で生きていて欲しい。故に、私が出来うることは、動けるうちに少しでもしたいのだ。であれば、余裕のあるうちに不安な目を自らの手で潰しておきたい。

「なあライゼル王子。先遣隊を追っ払った兵っていうのは練度は高いのか?妊婦が行ってもある程度は大丈夫な場所か?」
「いえ・・・。先遣隊の現れた地点に、兵はおりません。村人が自力で片付けたとのことです」
「・・・村人が?」

 ただの村人が?エデンリーフの村人は、他国の軍人相手に戦えるほど強いのか?しかしライゼル王子の顔を見るに、いまいち彼も状況が分かっていないようだ。

「海から行くには荒波が、陸地から行くには狭い岩壁が。隠れ里のような村です。50年前に王家から逃れた一族が隠れ住み着いた場所で、国が送り込んだ兵への警戒心が強く、今でも干渉は最小限にしている場所です。ただ、腕の立つ魔法使いが荒波と突風を同時に起こし、村を守ったと報告にはありました」
「腕の立つ魔法使い・・・」

 訓練されている軍人を倒すなど、並大抵では出来ない。それを、エデンリーフでは珍しい、腕の立つ魔法使いがやった。通常実力のある魔法使いであれば、素材集めのために都市に行きたがるものが多いのに、その魔法使いは隠れ里にいる。それも魔法を同時に発動させて。

「・・・まさ、か・・・」

 その村人は、ジェルド?

「可能性はあります」

 こんな断片的な情報だけでは判断が付かない。けれど、あいつなんじゃないかと、つい思ってしまった。

「どうする、師匠。こんな気になる情報を前にしたら、もうあんたは止まんねえよな」
「ああ。行くぞ。確かめに」

 私とロギルジョーは立ち上がる。先ほどまで私を止めようとしていたロギルジョーも、目の前の光明を前に、私のサポートをする気満々の表情をしていた。

 しかし。

 丁度同じタイミングで、部屋の周囲からは何やら騒がしい音が聞こえ始めた。パタパタと、何かが近づいてくる気配。ライゼル王子は扉を睨んだ。

「・・・まさか。アークランドから地割れの調査隊が来るには、まだ早いはずでは」

 複数人の足音が聞こえる。それがこっちに向かうように、だ。

『レオ、こんなところで会えるなんて奇遇ね!!ねえ、久々に姉さんとお茶はどうかしら?』
『姉さん、僕は今仕事で来ているんだよ。アバラも、話は後で聞くから』
『やらー!!俺は久々の友人と今!!沢山話したいんやー!!』

 レオ、イヴリン嬢、アバラの声が聞こえる。イヴリン嬢とアバラについては、レオの居場所が私たちにわかるように、わざと大きめの声を出してくれているのだろう。しかし、レオはそれに対して突き放すような言い方だった。
 なんとしてでも、私を確保しに来ているかのよう。

「兄貴と言えども、エデンリーフに簡単に人は送れねえっていう話じゃなかったか!?」
「ひょっとすると、エデンリーフとガイストの先遣隊の件を聞いて、エデンリーフが現段階でアークランドを無下にできないと踏んだのでしょう。ただでさえガイストと対立している状態で、アークランドに抗議文を送るのはリスクが高すぎる。・・・アウレリウス王は、本当に頭が切れるお方だ」

 そしてさらに、アバラやイヴリン嬢がこの学校に留学していると聞いて、白羽の矢を立てたのだろう。私がもしここにおらずとも、二人が接触している可能性は高い、そう考えた。

「お二人は、急ぎ村へと向かってください。ここは私めらが誤魔化しますから」
「礼を言う。行くぞ、ロギル!!」

 王子から渡された地図を片手に、この部屋の外へ飛び出る。と同時に、誰かが押し入ってくる音が聞こえた。

「誰もしゃべりたがらないけど、アリオンのことを匿っているんでしょ?早く出して」

 冷たい声。明らかに友人に向けるものではない。タッチの差だったが、身を隠すのは間に合った。探るような視線がこちらを凝視しているのだろう。本当に、心臓に悪い。

『どうすっかな。あんたは身重で馬には乗れないんだよな』
『飛空許可をライゼル王子からもらってきた。箒は・・・これだ』

 私はぱっと魔法で箒を取り出した。各々跨る。

『げ、飛行魔法か。死ぬほど魔力を消費するうえ、魔力循環を計算することも多いから嫌いなんだよな。しかも、自分の魔力ストックの読みを外すと転落死するし』

 飛行魔法は見た目にそぐわず、非常に難しい。まず自分の体を持ち上げるのに魔力を大量消費し、それを維持し続ける魔法を展開し続けなければならない。体は箒の上でバランスをとりつつ、風速風向きを考量してそれらを展開。なおかつ、勿論上空でガス欠になれば下に落ちる。
 アークランド魔法学園では転落事故が起こっていたが、あれはほぼ毎年起きている。もはや風物詩レベルの出来事なのだ。

 簡単に見えて実に難しい。
 ロギルジョーは転移のように、発動が難しくとも一瞬で済むものは得意なようだが、浮遊のように常に集中する必要があるものについては苦手意識が強い。まあ、なんとも瞬殺がお得意の雷魔法の使い手らしい話だが。

『行くぞ。死ぬ覚悟で来い』
『おう!』









「ジェイせんせい!今日は何を教えてくれるのー?」
「ああ、ジェイ先生。いつも孫を見てくれてありがとうございます」
「いいえ、俺のようなどこの誰かも知れぬ人間を、拾っていただき本当に感謝しています」

 隠れ里。赤銅色の髪をした青年は、村のベンチで風を楽しんでいた。

 前方には、他国の戦闘服を着た人間が拘束されている。だというのに、青年の表情はとても穏やかだった。

「雲一つなく、綺麗な青空だな」
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