誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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後日談 片翼をもがれた不死鳥

A14.海岸沿いの家

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「はあ、はあ、悪ぃ、魔力不足に、なっちまった」
「かまわん。最初からこうした方が早かったな」

 私の箒の後ろに、ロギルジョーが乗り込む。途中でこいつは地上に降り、私も続いて降りた。そして拾ってからまた再出発に至った。なお、箒に男二人が余裕で乗れるほどの長さはないため、まるでコアラのように私にしがみつく形でロギルジョーは箒に乗っている。

「ああ、怖え。他人の運転する箒って、なにするか分かんねぇからまじで怖え」
「私は以前お前に浮遊魔法で王にぶつけられたことがあったが、こういう気持ちだったんだからな」
「あれは俺が全面的に悪かったよ!!」

 林を抜け、森を抜け。飛行であらゆる地形を無視し、やがて地図に記載された場所にたどり着く。

「降りるぞ」
「ゆっくりだぞ。ゆっくりだからな!!」

 先ほど上空に急上昇したのを根に持っているのだろう。初めての飛行機で慌てる子供か?

「村に入ってから降りてもよかったんじゃねえか?」
「先遣隊に襲われた直後だぞ。そんな中私たちが空からやってきたら、噂の人物が万が一ジェルドでなければ落とされる」

 ジェルドであれば顔見知りとして落としはしないだろうが、賭けとしてはあまりにハイリスクすぎる。

 私たちはライゼル王子の説明に会った岩壁を抜ける。すると、海沿いに段づくりになっている村が広がっていた。

「すげえ、周囲が天然の壁で囲われてる・・・」
「海からも陸地からも攻めにくい。だからこそ拠点にするには便利な場所だ。これはガイストが狙うのも分かるな」

 地面は当然補装されておらず、歩きにくい。こけることがないように、ロギルジョーは私の腕を掴んで心配そうに支える。なかなか妊婦に優しい男だな。

 そんな私たちの元に、女性が一人やってくる。フライパンをもって、その表情は険しい。彼女の足元には娘もいて、そっとどこかに逃がす。

「あなた方は、どちら様でしょうか。この村へ、何用で」
「ああ、警戒させて申し訳ない。私たちはライゼル王子の使いだ」

 ここは王族から逃れた一族の村であり、王家と言っても疑いの目でしか見られないだろうが、少なくともガイスト側の人間ではないというアピールをする。とはいえライゼル王子からは身分を証する者は何も受け取っていないため、魔法学校の職員であることを表すバッジを掲げた。こういうときに教職者というのは一番信用を得られやすい。すると、女性は安心したように一息つく。

「疑って申し訳ございません」
「いえ、同じ立場でしたら同じことをしていたでしょう」

 女性は頭を下げる。私もゆっくり言葉を紡ぎ、怖い印象を取り除いていく。

「怪しい奴らだー!!俺が倒してやるーッ!!」

 そんな私たちのもとに、6歳くらいの男児が駆け寄ってきた。怪しい奴ら、というのは私たちのことを言っているのだろう。両腕をぶんぶんと振り回し、こちらに走り寄ってくる。
 そんな私の前を、咄嗟にロギルジョーが塞ぐ。そして男児を抑えた。

「やめろ!!こいつは妊婦なんだ!!」
「え、妊婦!?」

 隣に立つ女性は、珍しそうに私の腹部を見る。今やってきた男児はこの女性の子ではなく、別の家の子なのだろう。女性は子供のことを気にする素振はない。一方子供の方は鼻で笑って、ロギルジョーに掴まれながらじたばたと暴れる。

「妊婦ー?ぜーんぜん腹出てねえじゃん!!嘘つき!!」
「腹帯で隠してんだよ!!いいか、離すが絶対ぇにあの目つきの悪いお兄さんに触るなよ!!悪い子供を食べちゃうくらい怖いお兄さんだからな!!」

 そんな健康に悪そうなガキを食べるわけないだろ。
 とはいえ少年は不服そうにうなずき、やがてロギルジョーの拘束を外れるとどこかへ走り去っていった。女性も、ぺこりと頭を下げてどこかへ行く。

「さて、無事に潜入できたことだしあいつを探すとするか」

 私は目をつぶり、周囲の感知を行う。小さな村ではあるが、それなりに人数はいる。一般人をふるい分け、強い魔法使いの存在は・・・。

 いた。

「海岸沿いの、家か?そこに懐かしい気配がある。周囲にもたくさん気配があるな。大勢に囲まれているのか?」
「囲まれてる!?危ない状況にいるっつーことか!?」
「いや、気配は小さいな。子供に囲まれてる」

 ひょっとしてあいつ、ここでも先生をやっているのか。あの手のまじめな男は、どちらかというと子供に怖がられるタイプだと思うのだが。いや、逆に純真な子供だからこそ、害を加えてこない大人を見分けられるのか。私とロギルジョーは海岸沿いの家に向けて歩み始める。

「ジェイせんせいー!!」
「せんせいー!!遊んでー!!」

 村の子供たちは、私たちを追い越して走っていく。「ジェイ先生」とは、やはり・・・。

 私は足を止めた。

 海岸沿いの家。庭付きで、どこにでもありそうなただの一軒家。そんな家の前にはペンチらしきものが置いてある。そこに、一人の男が座っていた。

 本を読んでいる。

 子供たちはその男の穏やかな語り口の読み聞かせに興味津々で、楽しそうに聞いていた。

 男の髪色は赤銅色で、前髪は下ろしていた。まるで学園時代・教授時代とは別人と思ってしまうくらいに、その表情に威厳は無く、ただただ穏やかだった。

「・・・ジェルド」

 ここからベンチまで距離はおよそ30メートル。故に、向こうはこちらに気が付いていない。

「あれ、ジェルド教授・・・だよな」

 前と違いオールバックではないため、少しあどけなくも見える。子供がジェルドの襟を掴んで引っ張るが、それに対して叱ることもなく、ただ優しく頭を撫でていた。

 それは、とても穏やかな空間だった。
 まるでおとぎ話の一シーンを切り取ったかのような、ゆっくりと時間が進む空間。

 もしあいつが、男爵の家の生まれではなく、父親が軍部と取引しているわけではなく、私と婚約者でさえなければ。きっとなにかが一つでもずれていれば、最初からあのような温かい時間を過ごせていたのだろうか。

 そう思わせるほど、踏み入ってはならない神聖な空気を感じる。
 見入ってる私の背中を、ロギルジョーはそっと押した。

「・・・よければ俺は席を外すよ。折角来たんだ、あんたは会って来いよ」

 会って、何を話せばいいのだろうか。会えば言葉が自然に湧くと思っていた。

「いや、いい。私はあいつと話に来たんじゃない。無事を確認しに来ただけだ。目的は達成した」

 ・・・いや、本当は違う。もう一度会いたかった。会って、話をしたかった。私たちを取り巻く悲しい誤解の連鎖は、もう一度話をしなければ完全には解消できないと、そう思い込んでいた。そのためにここに来たんだ。

 けれど子供たちに囲まれる幸せそうなジェルドを見て、悟ってしまった。あいつがああまで追い詰められ、やがて命を落とすことになったのは、きっと私が婚約者だったからだろう。ジェルドの不幸の原因は、私だ。

 私に出会わなければ、いや、私さえいなければきっとあいつはもっと穏やかな道を進めていた。それをたったいま思い知らされた。私の存在は、あいつにとって異物でしかないのだ。ジェルドはそれを否定するだろうが、事実は変わらない。

 だからそう思うと、ジェルドの方へ進む足が重くなる。

 あの空間に、私は入ってはならない。

「帰るぞ」
「え!?いや、ええッ!?勿体ないだろ!!ああ、もう!!」

 ロギルジョーは折角視線の向こうに待望の目標がいるにも関わらず、踵を返す私を見て動揺する。しかし、師の意志を尊重し、渋々後ろから付いてきた。

「ここを去るのはいいけどよ、まだ学園には戻れないよな。レオ達調査隊が来てるらしいし」
「そうだな。・・・出来ればこの村を出て一泊したい」

 ジェルドには悟られず、この村から出ていきたい。故に、出来ればこの村で宿泊も避けたい。仕方ないが、野宿になるな。

「いやいや、野宿は駄目だ!!あんたは身重だっつってんだろ!!せめて学園近くの宿に転移とかさあ」
「それこそ調査隊の根城になってる可能性が高いだろ。いいから野宿するぞ」
「あー!!もう!!」

 ロギルジョーを片手で引きずり、来た道を引き返す。たまに通りすがる子供たちからは不思議そうな目で見られていた。こういう村は噂が出回りやすいから、早めに出るに越したことは無い。私と思しき特徴の人間が村にいたなんて知ったら、あいつはきっと心穏やかに過ごすことは難しくなる。





「ジェイ先生、さようなら!!」
「ああ、また明日も来い」

 赤銅色の髪に男は、小さな子供たちに手を振って見送る。

「そういえば先生、さっき、村の中によそ者がいたよ!!怪しい奴らだった!!」
「怪しい奴ら?ひょっとしてガイスト軍のやつか?」
「軍?ってのは分からないけど、空色の長い髪を三つ編みにした男だったよ!」

 子供は何が起こったか一連の経緯を説明すると、自分の家に帰るために走り去った。

「空色の、長い髪・・・?」
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