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平原と山の境目のような土地。その中にあった道を進んでいた二人と一体であった。徐々に自然の景色に変化が現れる。石の気配がちらほらと、そして鉄の気配が混ざっていく。鉄と石の割合が全体の半分を越えた辺りで、クーゲル・ズーセはオーカサスを止めた。進行方向の一部を指差して、クーゲルはマサミに語った。
「あれが、あんたの目的地の塔だよ。ここは通称『鋼鉄の夢広場』。何でそう呼ばれているか解らないけど、そんな名前がしっくりくる場所だ。ここを抜ければ『千の葉の森』そこから、塔に登れる」
「うん」
「私が一緒に行けるのはここまで。この先はあんた一人だよ」
「うん。ここまで、ありがとう」
クーゲルはオーカサスから降り、地面に立つマサミの肩に両手を置いて、視線を合わせて語り出した。マサミの両目は、クーゲルの両目にしっかりと対応している。
「ねえ、ワタナベと闘った後、彼に何か言われた?」
「うん。言われた」
「そうか。それならいい。内容は聞かない。だけどね、ここを通る時に困ったことがあったら、あの人から受け取った言葉を思い出してほしんだ。これは最後の餞別だよ」
「うん。わかった。困探だね」
「え?」
「行ってきます」
「あ、ああ、うん。行って……行ってらっしゃい! 気を付けるんだぞ!」
マサミは手を振って答え、そのまま鋼鉄の夢広場の奥へ歩いて行く。クーゲル・ズーセはその後姿をじっと見ていた。オーカサスにもたれ、緑と灰色が混ざった世界。そして、遠くにそびえる塔を見ていた。マサミの姿が見えなくなっても、彼女はそうしていた。
「私の時は、ここじゃ無かった。それは確かだ」
マサミの姿は、もう見えない。クーゲルはそんな呟きを空に放った。
「なあ、どこかに居るのか? 私のナイトの片割れ」
少しだけ、声は大きくなった。
「マサミが出会った老人とか、渡された手紙って、あんたが何かやったんじゃないのか?」
感じる風を吸い込んで、声はもう一つ大きくなった。
「あの荷物、マサミの力を何処かの誰かに残すためのものなのか? 私のは、あの娘の力になったのか? 繰り返しじゃないんだよな。何かが変わっているんだよな」
聞こえるのは風の音だけ。鋼鉄の夢広場は暗く、静かに、揺らめていている。
「また、どこかで会おう」
クーゲルはそう言ってオーカサスに乗り込み、鋼鉄の夢広場から去って行く。オーカサスの放つ音を、打ち付ける風に合わせてみたくなった。
<グオゥ、グオゥ、グオゥ>
三度吼えて、加速。振り返ることは無かった。
マサミは鋼鉄の夢広場を歩いていた。奥に進むほどに、鉄と石の割合は増してくる。一面にゴツゴツとした感覚が脈打っている。この広場には彫像や彫刻が存在していた。人や獣、何を表しているのかよく解らない何か。そんなものが立っている。マサミが歩みを進めるほどに、彫像の姿は増えていく。人をかたどったものは手に何かを持ち、装飾品を身に着けているものもある。腕組みをしてマサミを睨んでくるような姿もある。どこか遠くを見つめている姿、下を向いて物憂げな表情をしている姿、獣と人が混ざり合った何かが、口を大きく開いて叫んでいる姿もある。マサミは、恐ろしくなりながらも、荷物の重さを確かめつつ、歩みを進める。
この広場に来てから、どれくらいの時間が経ったのか。マサミには解らなかった。お腹もすかないし、眠くもない。それならば、それほど時間は経っていないのだろう。しかし、マサミは歩みを止めた。近くの彫像の台座にもたれ掛かり、休むことにした。マサミは上を見て「ちょっとだけ、一緒に居させてください」と言った。もちろん、返事は無かった。
広場は鈍色。空にも雲が多い。マサミは老人から渡された書を読むことにした。最初の光尽は、今は難しくなってしまったかもしれない。しかし、この書が読めるという事は光があるということだ。その力を少しだけ感じておくことにした。二つ目、自場如。ここには自分しかい無いはずだ。それでも不安が強い。この状況で恐怖を感じるのは当然ではないか? 三つ目、困探。困ったこととは、不安であることだ。不安の原因は、自分がここに居る事だ。これでは解決策が無い。どうすればいいのか。
マサミは彫像にもたれ掛かりながら、自分の行く先を見た。暗い空の中、塔が高くそびえたつ。その後、自分が来た方向を見た。もう、クーゲルと別れた場所は見えない。自分はそれなりに長く歩いてきたのだろう。戻りたくもあり、戻りたくもない。マサミは顔を上げ、彫像を見る。広場には鈍色が広がり、マサミはそこに佇んでいる。
ほんのわずかな時間だったが、クーゲルと過ごした時間がとても愛おしく思えた。彼女と出会い、衣服をはぎ取られ、風呂に入れられ、眠り、走った。それがさっきまでの出来事。その間に、何をしたのだろう。自分は何もしなかったのではないか? 彼女に与えられただけ。自分は何をしたのだろう。
マサミは考え続けていた。
(私は何をした?)
その後、マサミには老人から手渡された書の意味が解った。解ったと言っても、大して今までと変わっていないのであるが。
「自分の足で立ってみろ」
マサミは、そう呟いた。そして、立ち上がる。
「私は、歩ける」
そう言ってから、マサミは歩き出した。今まで自分がもたれ掛かっていた彫像に一礼し、「ありがとうございました」と礼を言い、塔の方へと歩き出した。
「お前は、歩けない」
自分のものではない声が、広場に響いた。
「あれが、あんたの目的地の塔だよ。ここは通称『鋼鉄の夢広場』。何でそう呼ばれているか解らないけど、そんな名前がしっくりくる場所だ。ここを抜ければ『千の葉の森』そこから、塔に登れる」
「うん」
「私が一緒に行けるのはここまで。この先はあんた一人だよ」
「うん。ここまで、ありがとう」
クーゲルはオーカサスから降り、地面に立つマサミの肩に両手を置いて、視線を合わせて語り出した。マサミの両目は、クーゲルの両目にしっかりと対応している。
「ねえ、ワタナベと闘った後、彼に何か言われた?」
「うん。言われた」
「そうか。それならいい。内容は聞かない。だけどね、ここを通る時に困ったことがあったら、あの人から受け取った言葉を思い出してほしんだ。これは最後の餞別だよ」
「うん。わかった。困探だね」
「え?」
「行ってきます」
「あ、ああ、うん。行って……行ってらっしゃい! 気を付けるんだぞ!」
マサミは手を振って答え、そのまま鋼鉄の夢広場の奥へ歩いて行く。クーゲル・ズーセはその後姿をじっと見ていた。オーカサスにもたれ、緑と灰色が混ざった世界。そして、遠くにそびえる塔を見ていた。マサミの姿が見えなくなっても、彼女はそうしていた。
「私の時は、ここじゃ無かった。それは確かだ」
マサミの姿は、もう見えない。クーゲルはそんな呟きを空に放った。
「なあ、どこかに居るのか? 私のナイトの片割れ」
少しだけ、声は大きくなった。
「マサミが出会った老人とか、渡された手紙って、あんたが何かやったんじゃないのか?」
感じる風を吸い込んで、声はもう一つ大きくなった。
「あの荷物、マサミの力を何処かの誰かに残すためのものなのか? 私のは、あの娘の力になったのか? 繰り返しじゃないんだよな。何かが変わっているんだよな」
聞こえるのは風の音だけ。鋼鉄の夢広場は暗く、静かに、揺らめていている。
「また、どこかで会おう」
クーゲルはそう言ってオーカサスに乗り込み、鋼鉄の夢広場から去って行く。オーカサスの放つ音を、打ち付ける風に合わせてみたくなった。
<グオゥ、グオゥ、グオゥ>
三度吼えて、加速。振り返ることは無かった。
マサミは鋼鉄の夢広場を歩いていた。奥に進むほどに、鉄と石の割合は増してくる。一面にゴツゴツとした感覚が脈打っている。この広場には彫像や彫刻が存在していた。人や獣、何を表しているのかよく解らない何か。そんなものが立っている。マサミが歩みを進めるほどに、彫像の姿は増えていく。人をかたどったものは手に何かを持ち、装飾品を身に着けているものもある。腕組みをしてマサミを睨んでくるような姿もある。どこか遠くを見つめている姿、下を向いて物憂げな表情をしている姿、獣と人が混ざり合った何かが、口を大きく開いて叫んでいる姿もある。マサミは、恐ろしくなりながらも、荷物の重さを確かめつつ、歩みを進める。
この広場に来てから、どれくらいの時間が経ったのか。マサミには解らなかった。お腹もすかないし、眠くもない。それならば、それほど時間は経っていないのだろう。しかし、マサミは歩みを止めた。近くの彫像の台座にもたれ掛かり、休むことにした。マサミは上を見て「ちょっとだけ、一緒に居させてください」と言った。もちろん、返事は無かった。
広場は鈍色。空にも雲が多い。マサミは老人から渡された書を読むことにした。最初の光尽は、今は難しくなってしまったかもしれない。しかし、この書が読めるという事は光があるということだ。その力を少しだけ感じておくことにした。二つ目、自場如。ここには自分しかい無いはずだ。それでも不安が強い。この状況で恐怖を感じるのは当然ではないか? 三つ目、困探。困ったこととは、不安であることだ。不安の原因は、自分がここに居る事だ。これでは解決策が無い。どうすればいいのか。
マサミは彫像にもたれ掛かりながら、自分の行く先を見た。暗い空の中、塔が高くそびえたつ。その後、自分が来た方向を見た。もう、クーゲルと別れた場所は見えない。自分はそれなりに長く歩いてきたのだろう。戻りたくもあり、戻りたくもない。マサミは顔を上げ、彫像を見る。広場には鈍色が広がり、マサミはそこに佇んでいる。
ほんのわずかな時間だったが、クーゲルと過ごした時間がとても愛おしく思えた。彼女と出会い、衣服をはぎ取られ、風呂に入れられ、眠り、走った。それがさっきまでの出来事。その間に、何をしたのだろう。自分は何もしなかったのではないか? 彼女に与えられただけ。自分は何をしたのだろう。
マサミは考え続けていた。
(私は何をした?)
その後、マサミには老人から手渡された書の意味が解った。解ったと言っても、大して今までと変わっていないのであるが。
「自分の足で立ってみろ」
マサミは、そう呟いた。そして、立ち上がる。
「私は、歩ける」
そう言ってから、マサミは歩き出した。今まで自分がもたれ掛かっていた彫像に一礼し、「ありがとうございました」と礼を言い、塔の方へと歩き出した。
「お前は、歩けない」
自分のものではない声が、広場に響いた。
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