私のための小説

桜月猫

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8話

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 朝、起きた公は右手の違和感に布団をめくると、そこには公の右手に抱きついて寝ている薫の姿。

"どういうことだ?"

 公は考える。

"昨日の夜。確かに薫は自分の部屋で寝たはずだ。それがなぜ俺の部屋にいる?"

 わかってるくせにわからないフリをするのは止めたらどうだ?

 俺の言葉に公は反応しない。なら、さらに言ってやろう。

 昨日の昼の薫の言動からいえば理由なんて簡単に分かることだろ。薫が夜中に忍び込んできたんだよ。それに、パジャマ着てるだけマシだろ。

"あぁ。そうだな"

 ようやく認めた公は薫のおデコにデコピンを打ち込んだ。

「うっ。おはよう、公」
「おはようじゃねーよ。なに勝手に入り込んでるんだよ」
「公と一緒に寝たかったから」

 薫の笑顔にため息を吐きながら公はまたデコピンをした。

「えへへ」

 リア充爆発しろ!ということで爆弾ドーン!

 着替えの最中で、スカートを穿こうとしていた桜を召喚した。

「えっ?」
「なっ!」
「へっ?」

 3人は三者三様の驚き方で固まった。直後、1番に動き出したのは公だった。
 公は布団を投げて桜に被せると逃げるために走り出したのだが、布団から出てきた桜の腕がラリアットのように首かかって足が浮き、床に背中から落ちた。

「公!」

 慌てて公に駆け寄った薫は公を起こすと頭を膝の上に乗せて撫でた。その横では布団の中で桜がごそごそ動いていた。

「ごほっごほっ」
「大丈夫?」
「あぁなんとかな」

 公が首をさすっていると、着替えを終えた桜が布団から出てきた。

「公。あとで話を聞くから。作者。ちょっと話しましょうか?」

 はいはい。


          ☆


「で、どういう理由で着替え中の私を公の部屋に飛ばしたのかな?」
「公が朝からイチャイチャしていてムカついたからだな」
「そんな理由だけで私は公の部屋に飛ばされたわけ?」
「そうだぞ」

 ため息を吐いた桜は拳を握りしめた。

「ちょっと待て。俺を殴るのか?」
「当たり前じゃない。そのためにここに来たんだから」

 迫ってくる桜に俺は後ずさる。

「軽く殴られれば済むんだから」
「アハハ。2話のことを考えれば軽くでは済まないと思うけど………。と、いうわけで強制退場してもらおうかな」
《マスターは痛い目にあったほうがいいんです》
「なぜロマが出てくるんだよ!」
《強制退場はさせません》
「ありがとうロマ」
《いえいえ》

 ロマに裏切られ、絶体絶命な俺。

「優しくお願いします」

 腹をくくって覚悟を決めた俺に笑顔で振り上げられた桜の拳が迫ってき…………。


          ☆


《すっきりしましたか?》
「えぇ。あとは」

 桜はまだ薫に膝枕をしてもらっている公のお腹を踏みました。

「ぐぇっ!」
「どういうことか、説明してくれるんでしょうね」

 咳き込みながら起き上がった公は頭を掻きました。

「こいつはいとこの薫だよ。桜も昔会ったことあるだろ」
「あ~。会うたびいつも公にべったりくっついていたあの薫なの?」
「久しぶり、桜」

 薫が手を振ると、桜も手を振り返しました。

「で、その薫がなんであんたの部屋にいるのよ」
「薫も今年から小説高校に通うからうちに居候してるんだよ」
「えっ?そうなの?」

 桜が驚きながら薫を見ると、薫から肯定の頷きが返ってきました。

「これから同じ学校に通うからよろしく」
「こちらこそよろしく」

 驚きはしましたが、薫が公の家にいることに桜は納得しました。しかし、納得いかないと部分がまだあります。

「薫が公の家にいる理由はわかったけど、なんでそれを昨日言わなかったの?」
「それは俺も知らなかったからな。昨日帰ってきたらいたから驚いたよ」
「ふ~ん。で、なんでさっきあんたは私に布団を被せたの?」
「お前が着替えの最中だったからだよ」
「それに、私と一緒に寝ていたところを見られたくなかったから」

 もっともらしい公の言い訳を、爆弾発言で薫は吹き飛ばします。

「へぇ~。一緒に寝ていたの」
「うん」
「ふ~ん」

 突き刺さる桜の視線に公は冷や汗をかいていました。

「公」
「はい」

 どんな判決がくだされるのか、公がヒヤヒヤしながら待っていると、桜は大きなため息を吐いた。

「薫は相変わらずあんたにべったりみたいね」
「あぁ。困るぐらいにな」
「そうなの。薫。自分の部屋に戻って着替えてきなさい。公も着替えなさいよ」

 おとがめなしという結果にホッとしつつも、おとがめがないことに公はなんともいえない不安に襲われました。しかし、ここでムダなことを言ってやぶ蛇になると困るので、公は素直に着替えることにしました。
 薫も部屋に戻り、2人きりになった瞬間、桜は公を蹴りました。

「イテッ。なにしやがる」
「もう子供じゃないんだから、あんたがしっかりしなさいよ」

 その言葉の意味を理解した公は頭を掻いてから桜を見て頷きました。

「わかったるならいいわ」

 そう言って桜は部屋を出ていきました。1人になった公は小さくため息を吐くと着替えを素早く終えてダイニングへ。

「おはよう、公。いつの間に桜ちゃん連れ込んだの?」

 マザーの一言に公は呆れていましたが、桜はむせていたした。

「おはよう、母さん。そしてどうした、桜。これぐらいで反応して」
「なんでもないわよ。それにおばさんもさっき説明しましたけど、私がここにいるのは作者のせいなんですからね」
「はいはい。そういうことにしておきますね」
「ホントのことですから!」
「それよりお義母さんって呼んでくれてもいいのよ?」
「呼びません!」
「お義母さん!」

 着替えを終えた薫がやって来ました。

「あらあら、薫おはよう。昨日はよく眠れたかしら」
「はい、お義母さん」
「ちょっと、薫。あんたなに普通にお義母さんって呼んでるのよ」
「お義母さんが呼んでいいって言ったから」

 桜は頭を抱えた。その様子を見ながら1人朝ごはんを食べていた公は"反応しなけりゃいいのに"と思っていました。しかし、このまま放置するわけにもいかないので声をかけることにしました。

「朝ごはん食べる時間なくなるぞ」
「はぁ、そうね」

 ため息を吐いた桜は公の隣に座った。

「おばさん。私も朝ごはんもらえますか?」
「お義母さん」

 笑顔のマザーからかかる無言の圧力に桜は困りましたが、呼ばないと先に進まないのはわかっていたので内心ため息を吐きました。

「お義母さん。私も朝ごはんもらえますか?」
「えぇ。いいわよ」

 マザーは笑顔でキッチンへ行きました。

「薫は座らないのか?」

 羨ましそうに桜を見ていた薫だが、渋々といった感じで公の前に座った。それからすぐにマザーが2人の前に朝ごはんを並べた。

「そういえば、薫は何組なの?」

 桜の問いに公はそういや何組かを聞いてなかったなと思いました。

「8組。公は3組だったけど、桜は?」
「私は1組よ」
「1組」

 そう呟いて朝ごはんを食べ始めた薫を見て桜は首を傾げましたが、気にすることなく朝ごはんを食べ始めました。

「桜。あんまりのんびり食べてると遅刻するぞ」

 先に食べ終えた公の指摘に桜は再度首を傾げました。

「どうして?」
「鞄を家に取りに帰らないといけないだろ?」

 公の一言に桜が固まりました。

"そういえば、作者が着替えの最中に無理矢理私を公の部屋に飛ばしたから鞄は家に置きっぱなしになってるのよね~"

「はぁ~」

 ため息を吐きながら桜は作者への怒りを積もらせていくのでした。

「そうね。早く食べて帰って鞄取ってくるから、駅でね」

 桜は残りの朝ごはんを素早く食べきると食器を流しに持っていって水に浸けてから玄関のほうへ勢いよく出ていきました。

「作者のせいで朝から慌ただしいな~」

 食後のコーヒーをのんびりと飲んでいると、しょぼーんとした桜が帰ってきました。

「どうした?」
「誰か靴貸してくれない?作者に飛ばされて来たから靴もないの」
『あ~』

 3人は同情の視線を桜に向けました。

「桜は靴のサイズ何センチ?」
「24センチ」
「じゃあ、私のじゃ小さい」
「私の靴も小さいわね~」
「だったら俺の靴しかねーか」

 立ち上がった公は桜とともに玄関に行き、下駄箱から靴を1足取り出しました。

「これ履いていけ」
「ありがとう。学校から帰ってきたら返すわ」
「普段あんまり履かない靴だから急ぐ必要はねーぞ。あと、サイズあってねーんだがら、無理して走ったりしてコケるなよ」
「わかってるわよ。じゃあ駅でね」
「おう」

 桜を見送ってからダイニングに戻ってきた公を、マザーはニヤニヤ顔で、薫は少し頬を膨らませて出迎えました。
 ため息を吐いた公はマザーを無視することを決めて薫の頭に軽いチョップを落としました。

「俺達も準備するぞ」
「はーい」

 手を上げた薫は食器を流しに持っていって水に浸け、ダイニングから出ていきました。公も同じように食器を流しに持っていくと、

「うまいことやらないと痛い目をみるわよ、公」

 マザーの意味深な言葉に公はマザーを見つめました。公の目を真剣な表情で見つめ返したマザーはにっこりと微笑みました。

「公なら問題ないとは思うけど、いちようね」
「わかったよ」

 頷いた公の頭をマザーが撫でました。


          ☆


「はっ!」
《ようやく起きましたか》
「ロマ。今どこまで進んだ?」
《もう8話は終わりましたよ?》
「なに!?」

 まさかのことに俺は驚きで固まった。

「いつの間に!」
《ついさっきです》
「なぜ起こしてくれなかったんだよ!」
《邪魔ですから》
「作者が邪魔!?」
《はい》
「ガーン!」

 俺が落ち込んでいてもロマは慰めてもくれない。

《それでは9話をお楽しみください》
「おい!!!」
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