私のための小説

桜月猫

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9話

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 家を出て駅に向かっていると薫が腕に抱きついてこようとしたので公は避ける。

「なんで避けるの?」
「くっつく必要はないだろ」
「イヤなの?」
「歩きづらいからな」
「ぶ~」

 薫は頬を膨らませるが、公は取り合う気も甘やかす気もないので無視する。すると、薫は再度腕に抱きつこうとするが、公も避ける。
 そんな攻防をしながら駅に着いた公を楓に暁、それに息切れしている桜が待っていた。

「大丈夫か?桜」

 公は桜と話しやすくするために薫の頭を掴んで止めた。

「え、えぇ」
「なんでそんなに息切れしてるんだ?」

 1度家に帰らないといけないので遠回りになるとはいえ、普通に歩いても公達とそれほど変わらないはずなので、ここまで息切れしているのは不思議でしかたなかった。

「家に帰った時にお母さんに捕まっていろいろ聞かれたのよ」
「あぁ。作者のせいでいきなり家から消えたからな~」
「おかげでムダに時間がかかって走らないといけなくなったのよ」

 ようやく息がととのった桜。

「ね~ね~。2人で話してるところわるいんだけど~公が頭を掴んでいるのって公のいとこの薫だよね~?」
「あぁ。そうだ。よく覚えていたな、暁」
「えへへ~」

 誉められて嬉しそうな暁の隣では楓が驚いていた。

「ホントに薫なの?」
「あぁ。薫だぞ」

 そこでようやく公は薫の頭を離しました。

「公。ヒドイ」
「しつこい薫が悪い」
「ぶ~」
「はいはい。電車の時間があるから早く行くわよ」

 桜がうながすと公達は改札を抜けてホームにやって来た。直後、タイミングよく電車が入ってきた。
 扉が開いて中に入ると蛍と光がいた。

「やぁおはよう」
『おはよう』

 蛍とは挨拶をかわしたが、光は蛍にくっついて挨拶をしようとしない。

「それで、その少女は?」

 挨拶を終えた蛍の興味は当然薫に向くわけで、蛍は薫を見た。

「俺のいとこの薫だ。薫、こっちはクラスメートの蛍と蛍の妹の光だ」
「よろしく」

 薫が笑顔を向けると蛍も笑顔で返す。

「でも、昨日はいなかったよね?」
「薫も今年小説高校に入学してたんだが、それを俺が知ったのは昨日、家に帰ってからなんだよ」
「公を驚かせるサプライズ大成功!」

 してやったりとピースする薫にため息を吐く公。

「そういえば~、薫の住んでるところってここから2時間くらいかかるはずだよね~?」
「だから、今は公の家で同棲中」
「同棲じゃなくて居候だろが。わざと勘違いをうむような言い方するんじゃねーよ」

 薫の発言を訂正しながら薫の頭を叩く公。

「添い寝して寝るくらいなんだし、同棲っていうのも間違いじゃないでしょ」

 桜という思わぬところからやって来た爆弾に公は驚いた。しかし、桜の爆弾発言に蛍は驚いていなかった。

「へぇ~。添い寝するぐらい仲いいんだ」

 桜としては、朝の報復という意味も込めた爆弾発言だったのに、あっさりと受け入れられてなんともいえない気持ちになった。

「あれは勝手に薫が入ってきやがったんだよ」
「公と一緒に寝ると快眠」
「昔から薫は公にべったりだったけど、今も変わらないのね」

 朝の桜と似たようなことをいう楓。それだけ薫は昔も今も公にべったりなのだ。

「2人は付き合っているのかな?」
「相思そういたっ」

 薫が嘘を言おうとしたので公はチョップして止めた。

「ただのいとこだよ」
「いけず~」

 でも、2人の親は公認してるから、付き合えば一気にイケるところまでイケる!

「いくか!ってか、入ってくるんじゃねーよ!作者!」
「私はいつでもカムカム」
「薫も黙ってくれ」

 額に手をあててため息を吐く公。しかし、薫は黙る気はない。

「やっぱり付き合う?」
「付き合わない」
「なら、私と付き合う?」

 なぜか楓がノッてきた。

「なんでそうなる」
「なら僕かな?」

 蛍までノッてくる状況に、公は頭を抱えた。

「蛍。やめてくれ」
「ハハハ。ごめんごめん」

 蛍が笑いながら謝ると公はため息を吐いた。その隙をみて薫が抱きつこうとしたが、桜が間に入りこんだ。

「むっ」
「蛍は今日も早いのね」

 睨む薫など無視して桜は蛍に話をふった。

「僕は体が弱いし、光は人見知りであまり人混みは好きじゃないから、通勤時間帯は避けてるんだよ」

 今の時間帯だと車内には4割ほどしか人が乗っていないので余裕があった。

「そういう桜達も早いよね」
「私達も通勤時間帯を避ける意味もあってこの時間なのよ」

 無視をする桜の腰を薫が肘でつついた。それすら桜が無視するので薫が再度つつこうとしたが、桜は腕でガードする。

「薫。やめてくれる?」
「桜。どいてくれる?」

 軽く睨みあう2人。

 アハハ。勝手に修羅場が始まったよ~。

"たよ~、じゃねーよ!こんな電車の中で始めさせるなよ!"

 始めたのは2人なんだから俺に言われても困るんだけど。

"作者なんだから止めるぐらいすぐにできるだろーが"

 できるよ。でもやらない。その方が面白いから。

"テメェ!"

 公が俺にキレている間も2人の睨みあいが続いたのだが、電車が小説駅のホームに着くとさすがに睨みあいを止めて電車を降りた。

「公。ボーっとしてないで早く降りなさい。電車行っちゃうわよ」

 楓に言われてハッとした公は慌てて電車を降りた。直後にドアが閉まって電車は走り去っていった。

 チッ!せっかく公だけ乗りすごさそうと思ったのに。

"作者!"

 望み通り、2人の争いを止めたんだから文句は言うなよ。

"ぐっ!"

 言い返せない公は内心悔しがっている。その姿を見て俺はしてやったりとニヤニヤした。

「はぁ」

 いろいろと疲れた公の口から自然と漏れるため息。さらにはその足取りはどこか重そうだった。

「なにため息なんて吐いてるのよ」
「このあとの実力テストとかを考えたら憂鬱なんだよ」

"このあとの展開とかも考えるともっとな………"

「確かに~、実力テストは憂鬱だよね~」

 足取りが重い公にあわせて歩く暁・蛍・光とは違い、桜は薫を連れて先を歩き、楓もそれについていった。周りを歩く生徒達の中にも足取りが重い人がちらほらいた。

「蛍は大丈夫そうだけど、憂鬱じゃないのか?」
「そうだね。憂鬱とまではいかないけどいきなり実力テストはめんどうだとは思うかな」
「だよね~」

 そんな話をしながら校門のほうを向くと、校門には4人の男子が立っていて、先を歩いていた桜達が話しかけられていた。

「あれは?」
「なんだろうね?」

 公達が近づくと声が聞こえてきた。

「アメフトのマネージャーに!」「いや!ラグビー部に!」「柔道部に!」「剣道部に!」

"なるほど。マネージャー勧誘と"

「どうするの?」

 蛍は公を見た。

「なぜ俺を見る?」

 すると、蛍は暁と光を見てから公をみて苦笑する。

「対応できそうなのが公しかいないからね」

 そう言われるとなにも言い返せない公はため息を吐いて桜達のもとへと行った。

「どうした?みんな」
『公』

 振り返った3人は困った表情だったので公は3人の前に出て男子達と向かい合った。公と向き合った男子達は公を睨み付けた。

「彼女達になにか用ですか?」
「男に用はない!」
「どけ!」
「ジャマだ!」
「どっかいけ!」

 男子達からとんできた罵声。だからといって公はどく気はない。

「彼女達が困ってるのがわかりませんか?」

 それはわかっているらしく、男子達は黙りこみ、申し訳なさそうにした。

「そういうわけなので、通してもらえませんか?」

 しかし、そこは譲れないのか、男子達はいっこうにどこうとしなかった。

「はぁ」

 男子達に聞かせるように公が大きくため息を吐くと、男子達は鬼の形相で公を睨み付けた。

「そもそも、お前は彼女達のなんなんだ!」
『そうだそうだ!』
「なんだと聞かれたら、幼なじみですけど?」

 公の答えを聞いた男子達は一筋の涙を流した。そして一言。

『こんな可愛い幼なじみがいるなんて羨ましい!』

 公達は呆れるしかなかった。

『くそ!どうして野球部やサッカー部とかには可愛いマネージャーが入るのにアメフト部(ラグビー部)(柔道部)(剣道部)には可愛いマネージャーが入ってこない!』

 同情する気もおきない男子達の叫び声を聞いていると、校舎のほうから5人の少年少女が走ってきた。

「やべっ!執行部だ!」
「逃げるぞ!」

 慌てて逃げていく男子達を4人が追っていき、少年が1人、公達のもとにやって来た。

「君達大丈夫だったかい?」
「えぇ。後ろの3人がしつこくマネージャーの勧誘を受けただけですから」
「はぁ。部活への勧誘解禁は明日の放課後からだっていうのにあいつらは」

 少年は男子達が逃げていったほうを睨み付けた。

「俺達はもう行ってもいいですか?」
「あぁ。足止めしてすまなかったな」

 少年は男子達を追うために走り去っていった。

「災難だったみたいだな」

 その声に公達が振り返ると、いつの間にか庵・朧月・蛙の3人が増えていた。

「桜達がな」

 桜達のほうを指差すと、庵の目が大きく開かれた。

「公!この可愛い少女は誰なんだ!?」
「同い年のいとこの薫だよ」
「羨ましいぞ!公!」

 先ほどの男子達と同じことを言っている庵。そんな庵の頭を押さえつけて黙らした朧月は公に疑問をぶつけた。

「同い年ってことは今年入学なんだよな?」
「そうだぞ」
「なら、なんで昨日はいなかったんだ?」
「いろいろあってな」

 朝から同じ説明ばかりしている公は苦笑しながら曖昧な答えを返した。

「なんでお前の周りばかり!」

 押さえ込まれていた庵が朧月の手を押しのけて勢いよく迫ってきたので、公はチョップで迎撃した。

「ぐはっ!」
「その手の文句は作者に言え。決めたのは作者なんだからな」

 俺に話をふった公は校舎へ歩きだした。それにならうように桜達も校舎へ向かい、庵1人が残された。

「作者ー!」

 俺を恨む庵の叫びが朝の校門で響いた。
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