紡ぐ者

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【第5章 八岐大蛇討伐戦線】

第3節 大蛇討伐 始

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 立ち昇る煙の中に巨大な蛇の姿が見えた。
「あれば……まさか…」
「間違いないだろう。8つの頭を持つ巨大な蛇、八岐大蛇だ。」
八岐大蛇の大きさはロビンたちが散策していた山を包み込むほどに巨大だ。
「あんなものがこちらに来たらこの世の終わりだぞ。」
「………やるしかないか。」
春蘭は納めていた刀を抜く。
「奴の弱点は8つの頭のどれかにある逆鱗だ。行くぞ、みんな!」
「まじで行くの?」
疾風が弱気な発言をする。
「流石の君でも今回ばかりかは分が悪い。一旦作戦を立て直すのが賢明だ。」
春蘭は樫茂に諭される。
「そうだなすまない。」
「謝る必要はないわ。それで、どうやってあんな奴の逆鱗を攻撃するの?」
純連が春蘭に聞く。
「逆鱗は竜種にある逆立つ鱗だ。確か、喉のあたりにある。」
「となるとかなり面倒な場所にあるな。あの大きさだ。探すだけでも一苦労だぞ。」
樫茂は八岐大蛇が少しずつこちらに近づいていることに気づく。
「一旦奴を足止めしよう。奴が近づいてきてる。討伐はできなくても足止めくらいならできるはずだ。」
「作戦を考えるとは言ったけど……結局こうなるのかよ!」
4人は八岐大蛇に向かう。

少し前 日本支部……
「………。」
ピピッ ピピッ ピピッ
「重症を負っていますが命に別状はないですね。」
「よかったぁ~。」
アリスから安堵の声が溢れ出る。
ドオォーーン!
「なんの音?!」
美桜が突然の大きな音に飛び跳ねる。
「大変です。外が…」
轍がアーロンドに報告にくる。
「まさか……」
アリスたちは外に向かう。

「っ!あれはまさか!」
アリスたちの視線の先には巨大な蛇の姿が見えた。
「まさか……あれが…」
「えぇ、その通りです。あれが八岐大蛇でしょう。」
アーロンドは険しい表情で答える。
「なんて大きさだ。あんなの倒せるのか?」
琉は少し弱気になる。
「生き物である以上、必ず倒すことはできます。ただし、奴との戦いは今まで以上に過酷でしょう。」

医務室……
「ん…?」
ロビンは目を覚ます。
(あれ?ここは?)
目を動かして見える範囲で見渡すが誰もいない。
カタカタ
「ん?」
音のしたほうを見るとロビンの持っていた刀が不気味に動いている。
「え?え?ポルターガイスト?!」
ロビンは驚くが体を動かせない。すると刀から紫色の何かが飛び出してロビンの体に吸収される。
「は?!なんだよこれ?!」
ロビンは特に何も感じなかった。
「なんだよ怖がらせやがって……」
ロビンは普通に起き上がる。
「?!」
ロビンは起き上がっていることに驚く。先程まで怪我のせいで起き上がることができなかったが、何故か起き上がっている。
「は?え?なんで?!」
ロビンがテンパっている中、医務室にアリスたちが戻ってきた。
「「あ…」」
「なんで起きてるのー?!」
アリスはロビンをベットに寝かせようとする。しかしロビンはびくともしない。
「あ、ごめん。力入れすぎた。痛むところはない?」
「いや、特にない。」
アリスたちはポカーンと口を開ける。
「あんた、肋骨が折れてたんでしょ?なんで普通に動ける?」
美桜の言葉を聞きアリスがロビンの肋骨を確認する。
「これ…どういうこと?肋骨が……治ってる?」
「へ?」
「ほう。」
「え?」
「嘘……」
全員、声が出ない程驚く。
「もしかして、あれか?」
「あれって?」
「さっき、俺の刀から紫色の変なものが飛び出て俺の体に入ってきたんだよ。」
「そしたら体が今みたいになったんだ。」
美桜が刀を手に持ちロビンの近くに行く。
「どうやら、この妖刀に封印された奴は、完全に封印されてなかったみたいね。」
「いい忘れてたけど、妖刀って物騒な名前のわりに持ち主を護るっていう役目があるの。」
美桜の発言にあまりついていけないロビン。
「もう一度聞くけど、本当に何も感じないの?」
「感じない。強いて言うならいつもより力が溢れてくるぜ。」
「本当に大丈夫?」
美桜は心配そうに話しかける。
「大丈夫なら問題ないでしょう。おかげで役者は揃いました。」
「役者?俺のこと?」
「迫りくるは出雲も脅かさんとする八岐大蛇、迎え討つは大魔統制会の新星。この壮大な映画にあなたの手で終止符を打ってください。」
(俺の声は無視かよ。てゆうかなんで映画に例えるんだよ!)
ロビンは口に出さず、ため息をつく。

「で?これどうするんだ?」
春蘭たち4人は八岐大蛇の近くの林で身を隠していた。
「目標は奴の頭部、胴体から走っていくぞ。」
「まじかよ……まあ方法はそれぐらいしかないか。」
「純連は、そうだな……あの高台から魔法で支援を頼む。」
春蘭が指差した先に高台がある。八岐大蛇からみて東側だ。
「はいはい、すぐ行くわ。」
純連は高台に向かう。
「行こう。」
3人八岐大蛇の背中に飛び乗る。八岐大蛇が3人のほうを見る。
「やっぱり気づかれるか。みんな!走れ!」
3人は胴体に向かって走り出す。八岐大蛇は振り払おうと体を身震いさせる。
バキバキッ!メキッ!
木が折れる音がする。
「くっ…」
疾風が体制を崩す。八岐大蛇は噛みつこうとする。
「させるか!」
樫茂が八岐大蛇の頭部を斬りつける。頭部が大きく後ろに下がる。
「悪い、助かった。」
樫茂は険しい顔をする。
「下手に斬っても手応えがないな。逆鱗を狙うしかないようだ。」
「おい、またくるぞ!」
今度は3つの頭部が襲いかかる。
「今度は……俺の番だ!」
疾風は剣を振り突風を巻き起こし3つの頭を追い払う。そのうち1つの頭を切断する。しかし、あまり効果が見られない。
「首を斬っても意味ないのか?」
「弱体化させることはできるはずだ。切断する意味はある。」
しかし奴の攻撃が緩む気配がない。
「春蘭はとこだ?」
いつの間にか春蘭の姿がなかった。後ろから1つの頭が襲いかかる。
「しまっ……」
ザシュッ!
突然、八岐大蛇の頭部が切断される。首の上に春蘭の姿があった。
「斬れないことはないか……だけど皮膚が分厚すぎるな。」
「疾風、樫茂、一旦こっちに来てくれ。」
後ろから2つの頭が襲いかかる。
「この状況でそれは難しいんだ…よ!」
「そうだね!」
疾風と樫茂は2つの頭を斬り落とし、春蘭のもとに向かう。
「問題なさそうだったけど?」
「簡単に見えるけどすっげぇ斬るの大変なんだよ!」
「今4つ斬ったのか。残ってるのはあと半分。逆鱗を探しやすくはなった。」
作戦について話していると疾風と樫茂の後ろから1つの頭が現れる。
「いつの間に!」
ボンッ!
八岐大蛇の頭が爆破される。
「純連がやったか…というか威力ヤバいな。こんなの遠くから連発されたらたまったもんじゃねえぞ。」
純連の魔法の威力は並の爆弾では到底及ばないほど強力だ。突然、3人が立っている首が揺れだした。
「なんだなんだ?!」
八岐大蛇が首を大きく振り上げる。3人は振り落とされてしまう。
「おいおい、嘘だろ?!」
なんと春蘭が斬ったはずの八岐大蛇の頭部が再生していた。
「こりゃあぁ逆鱗を貫く以外方法はなさそうだな。」
「この再生力……逆鱗を貫くだけで倒せるのか?」
樫茂の表情が曇る。
「同感だ。こいつは逆鱗を貫いても死ぬのかわからなくなってきた。」
疾風は険しい表情で共感する。
「やらないと分からない。気を引き締めろよ。」
「はあ…結局こうなるのかよー!」
疾風は音を上げながら2人について行く。

ガサガサッ
「これ…どうすんだ?」
ロビンは八岐大蛇を見上げて唖然とする。
「逆鱗を貫けと言っていたけど……届くの?」
「登ればいけるんじゃね?」
「無理でしょ。」
美桜はロビンの提案を一蹴する。
「振り落とされるのがオチよ。」
「それもそうか。じゃあ……」
「直接飛び移るのはどうだ?」
「食われたいの?」
ロビンは「うぎっ!」と変な声を出す。
「でもそうなると、登るしかなさそうね。」
「振り落とされるのがオチじゃないのか?」
「そうだけど、それはもう気合で耐えるしかないと思うわ。」
「まじかよ…」
ロビンは肩を落とす。
メキメキメキッ!
「え?」
八岐大蛇の頭の1つが4人の頭上を通過する。4人は木の陰に隠れて難を逃れる。
「危ねー、一息つく暇もねえな。」
「近くで見るとどれだけ大きいかよくわかるな。」
「関心してる場合か。」
ロビンは琉にツッコミをいれる。
「しかしあれほどの巨体となると、逆鱗に傷をつけるのも一苦労だろう。」
「まず逆鱗を探す必要がある。この巨体に登って探すのは得策とは言えないな。」
「せめて飛ぶことができれば……」
ロビンはアリスに目を向ける。
「え、何?」
「アリス。お前、飛行魔法は使えるか?」
「一応使えるけど、そんなに長くは飛べないよ。」
ロビンは顎に手を当てる。少しして口を開く。
「俺の作戦は、俺、美桜、琉であいつの注意を引く。その隙にアリスが飛行魔法を使って逆鱗を探す。これでどうだ?」
「う~ん、無しではないけどアリスの安全面が保証されてない。私だったら首を1つずつ斬り落とすわよ。」
ロビンはピンときていないようだ。
「その作戦は微妙じゃないかな。あの巨体だ、簡単には斬り落とせないと思うよ。」
アリスが上を見上げる。
「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!気づかれた!」
「嘘だろおい!」
4人はその場を離れる。上から八岐大蛇の頭が突っ込んできた。

「ん?」
純連は八岐大蛇が山の中に頭を突っ込むのを発見する。
(あの辺りに誰かいるの?)
純連は気になったが持ち場を離れることができない。
「どうやら、自分のことを気にしたほうがいいみたいね。」
八岐大蛇の頭が純連に噛みつこうとしてくる。純連は結界を張る。
「攻撃を防ぐなら結界で十分ね。」
ドオォーーン!
純連は頭を魔法で吹き飛ばす。
(魔法はかなり有効ね。逆鱗を貫くことにはむいてないけど。)
「だけど、もう少し人手が欲しいわね。」
右下の方に何かが見えた。
「あれは…」
視線の先には前線部隊の姿が見えた。
「やっと来たわね。下は任せたわよ、前線部隊隊長 原時 新沙《はらどき しんさ》。」

「しっかしでかいっすねぇ~。本当にこんなのをやるんですかぁ?」
1人の男が新沙にチャラチャラした感じで話しかける。
「団長の命令だ。やるからには最後までやり遂げろ。」
「はいはい、隊長には頭が上がんないっすよ。」
新沙が男を睨みつける。
「全く……お前はもう少し本気を出したらどうだ?伊馬真木 白兎《いばまき はくと》。」
「俺がいなくても最後は隊長が終わらすんですから。」
「ふんっ。」
新沙は隊員の方に顔を向ける。
「今から八岐大蛇に攻撃を開始する!危険を感じる、負傷した場合はすぐに下がれ!無茶な行動はするな!」
「一応聞く。死にたくないやつは支部に戻れ。これは今までとは違う。」
新沙の目に慈悲が感じられる。
「私たちは今まで殉職者を出すことなくこういった大事を乗り越えてきた。」
「だが今まで通り殉職者が出ないという保証はない。それでも来るやつは残れ。」
新沙は八岐大蛇に向かい歩き出す。
「ツーツー」
「はいっ。こちら前線部隊隊長原時です。」
「現在地から西側に八岐大蛇に襲撃されている魔道士3名と一般人?を確認しました。至急、そちらに向かってください。」
観測隊からの連絡だ。
「わかった、すぐに向かう。連絡に感謝する。」
通信が切れる。
「白兎、西側に襲撃されている魔道士がいるようだ。迎えるか?」
白兎は髪を掻き上げる。
「はいはいすぐ行くぜ。」
白兎は西に向かって走り出す。

「どうするんだよこれ~!」
4人は八岐大蛇の頭から逃げていた。
「止まるな!逃げることだけ考えろ!少しでも遅れたら食われるぞ!」
「なんでこうなるの~!」
アリスは音を上げながら懸命に走っている。
「ん?前から人が…」
誰かが前から走ってきた。
「でっりゃあぁぁぁ!」
男は背丈ほどある大きな剣を八岐大蛇めがけて振り下ろす。大蛇の頭部を切断する。
「大丈夫かぁ?」
「あなたは?まさか……」
琉は男のことを知っているようだ。
「誰?」
「彼は前線部隊副隊長 伊馬真木 白兎。僕たちより1つ高い上級の魔道士だ。」
「センキュセンキュ、自己紹介の手間が省けたわ。」
「時間がない。行くぞ。」
「どこ行くんだよ?」
「決まってるだろ。俺たちの隊だ。」
4人は東側にいる前線部隊と合流するため白兎について行く。

「ハァァ……ハァァ……ハァァ……」
疾風は長い間戦い続けたせいで体に疲れが溜まっている。
「こいつ……逆鱗が見当たらない。何回首を斬ったか覚えてないぞ。」
「それに心做しかコイツの首が硬くなってるような……」
疾風は不穏な言葉を口にする。
「そうかもしれないね。先程から全く首が斬れていない。」
樫茂は刃こぼれした刀を見せる。
「こんな感じに、下手に攻撃すればこちらが不利になる。」
ドオォーーン!ドオォーーン!
純連の魔法の爆発音が響きわたる。
「魔法は影響を受けないっていいよな。」
「何呑気なこと言ってるんだい?」
「あんなの見せられたら誰だってそうなるだろ!」
疾風と樫茂は少し雑談している。2人の後ろから2つの頭が顔を出す。
「おっと、雑談してる場合じゃないようだ。」
「俺は右をやる。お前は左を。」
「わかったよ。ちなみにもう1つきたら?」
「その時は近いやつが相手にするでいいか?」
「問題ない。」
2人は再び八岐大蛇の頭を相手にする。春蘭は八岐大蛇の首の上からその様子を見ていた。
「樫茂の言う通り、下手に攻撃するのは悪手だな。」
春蘭は八岐大蛇の首に刺した刀を抜く。
「さてと、前線部隊のところに向かうとするか。」
春蘭が振り返ると2つの頭が襲いかかってくる。
「そう簡単には行かせてくれないか。」
春蘭は2つの頭の攻撃をいなす。斬りつけるがあまり刃が通らない。
「この感じだと前線部隊の攻撃はあまり意味ないかもしれない。」
「なら、"あれ"を使おう。」
春蘭は刀に魔力を纏わせる。
「いつぶりだろう。魔纏を使うのわ。」
1つの頭が襲いかかるが、春蘭は軽く斬り捨てる。先程とは違い紙のようにあっさりと斬れる。
(魔纏があれば影響を受けづらいか。)
春蘭はもう1つの頭も斬り落としたのち、前線部隊との合流に向かう。

「隊長、連れてきましたぁ~。」
「ご苦労。」
新沙は4人に近づく。
「誰かと思えば神宮寺家のお嬢様か。なぜここに?」
「人手が足りないから急遽、八岐大蛇討伐に加えられたのよ。団長直々にね。」

少し前…
「美桜君に折り行ってのお願いがあるのですが。」
「なんですか?」
アーロンドは腰を低くして美桜にお願いをする。
「突然ですが、あなたに八岐大蛇討伐のメンバーに加わってもらいたいのですよ。」
「本当に突然ね。魔力は大量に持ってるけど私は魔道士じゃない。できることといったら薙刀を扱うことぐらいよ。そんなのでも戦力になるの?」
「今は人手不足ですからね。少しでも戦力が欲しいのですよ。」
「それに、あなたの武術は上級に匹敵するほどのものですからね。急遽加わえる戦力としては十分ですよ。」
美桜は顎に手を当て考え込む。
「ちなみに加わった場合、私はどこに配属されるの?」
「あなたはロビン君、琉君、アリス君の3人と共に八岐大蛇の逆鱗を探してもらいます。見つけ次第、戻ってきていいですよ。」
「やるわ。」
「即答かよ!」
美桜の言葉にロビンはツッコミをいれる。
「決まりですね。」

「ということが……」
「なるほど。なぜ逆鱗を探す必要があるのだ?」
「それは俺から説明するぜ。」
ロビンが話を割って入る。
「逆鱗を貫くことが八岐大蛇を倒す唯一の方法だ。それを早く見つけるために俺たちは西側にいたんだ。」
「まあ見つかって意味なかったが。」
ロビンは苦笑いをする。アリスはそっぽを向き、人差し指で頬を搔く。
「この大きさの相手から1つの弱点を見つけるのは至難だぞ。」
「どうするんすか?隊長。」
新沙は考え込む。
「なあ琉。あの隊長って言われてる人って…誰だ?」
「彼女は原時 新沙。若くして前線部隊の隊長に属された天才だ。知らないの?」
「知らん。」
琉はポカーンとする。
「みんな、作戦が決まった。」
全員の注目が新沙に集まる。
「今回の作戦だが……」
「その話、僕にも聞かせてくれないかい。」
上から春蘭が降ってきた。
「え、春蘭?!お前今までどこにいたんだよ!」
ロビンは驚いて飛び上がる。
「さっきまで八岐大蛇の背中にいたよ。作戦について話してたみたいだけど、1つ伝えないといけないことがある。」
「なんでしょう?」
春蘭は刀をしまう。
「八岐大蛇には魔法が有効だ。武器による攻撃は特殊な者じゃない限りかなり苦しいだろう。」
「特殊な者……"魔纏"か?」
「勘がいいねロビン。」
ロビンは春蘭の刀を抜く。その刀には魔力が纏われていた。
「そりゃあこんなもん見せられたらそうとしか思わないだろ。」
「あはは、そうかそうか。話に戻ろう。」
「武器での攻撃が苦しい理由は、あいつの首を斬ってわかったことだが、八岐大蛇の首は斬れば斬るほど硬質化するようだ。」
「しかしロビンが言った"魔纏"を扱える者なら硬質化の影響を受けづらい。」
「ふむ。私の部隊のメンバーは武器での攻撃が主体、八岐大蛇との戦闘ではあまり役に立たないというわけか。」
新沙はそっぽを向く。
「でも、君の部隊の後方隊員は魔法が主体だったはずだ。」
「わかった。後方隊員を主戦力とする。前方隊員は何をすればいい?」
「そうだな。後方隊員に放たれる攻撃を防ぐ、とか?」
「ッ?!」
新沙は少し驚いた表情をする。
「でもそれでは前方隊員が……」
「そのあたりは安心していいよ。この作戦を行う場合、僕の友人が君の隊員を守ることになる。その内の前方隊員は友人が防ぎきれなかった攻撃、不意打ちなどを防いでもらうのが役割だ。」
「零れ玉の駆除ならまあ…」
新沙は安堵の表情を浮かべる。春蘭は通信機を取り出して純連に連絡する。
「あーおけおけ。私の支援はなくなるけどまあ大丈夫だよね。」
「ありがとう。恩に着る。」
春蘭は通信を切る。
「承諾してくれた。すぐにこちらに向かうとのことだ。」
「こちらの陣形は整いつつあるが1つ問題があるんだ。」
「問題?その顔を見るに、何かとんでもなく面倒なことがあるようですね。」
「琉にはお見通しか。そう、かなり面倒なものだ。」
春蘭は深刻な表情で話しだす。
「僕は市内に派遣されて魔獣を討伐してから先程まで八岐大蛇と戦っていた。その間に逆鱗を探していたのだが、肝心の逆鱗がどこを探しても見当たらないんだ。」
「え?どゆこと?」
「そのままの意味だ。本当に逆鱗が見当たらないんだ。」
「それって倒せるの?」
アリスが心配そうな声で春蘭に聞く。
「倒せないことはないだろうけど……ほぼ不可能と言っていいだろう。」
「そういえば、先程首を斬るたびに硬質化すると言っていましたね。"斬るたび"ってことは、まさか再生するんですか?!」
「流石に憶測だよな?!」
アリスの言葉にロビンの声にも不安が出てくる。
「その通りだ。八岐大蛇の首は……何度斬っても再生するんだ。そのうえ……斬れば斬るほど再生が早くなる。」
「………。」
ロビンたちは声が出ない。
「……考えるだけ無駄だな、行こう。戦ってたら何かわかるかもしれない。」
「ロビン…」
ロビンは八岐大蛇に向かって進み出す。
「ロビンの言う通りだ。止まっていては何も始まらない。」
「兄上。」
美桜が春蘭を呼ぶ。
「ロビンが考えていた作戦を一応伝えておきます。」
美桜は春蘭に作戦を伝える。
「なるほど。危険が伴うがその分得られるリスクも大きい。やるかどうかは本人次第だけどね。」
春蘭と美桜はアリスの方を見る。
「私はやってもいいわ。魔道士は元々、危険と隣り合わせだもの。」
「そうだったね。危険と隣り合わせ……魔道士として基本のことを忘れていた。」
「アリスは本気です。どうしますか?」
「……わかった。彼女の意思を尊重しよう。」
春蘭は前線部隊の隊員の方を向く。
「アリスは…、彼女には戦闘が始まり次第、飛行魔法を使い八岐大蛇の逆鱗を探してもらう!」
「八岐大蛇が彼女に近づかないよう、できるだけ注意を引くんだ!」
「「はい!」」
隊員は声を揃えて返事をする。
「作戦は決まった。僕たちも取り掛かろう。美桜と琉は作戦通り、ここで後方隊員の支援を頼む。」
「うん。」
「わかったわ。……気を付けて。」
「ああ、気を付ける。」
春蘭はロビンの後を追う。その直後に純連が到着する。
「兄妹で共闘……とはならなかったわね。残念っ。」
純連がニヤニヤしながら上空から降り立つ。
「人数は……問題ないわね。この人数なら私の結界で防げるわ。」
「それって私たちがいる意味あるの?」
美桜が少しぶっきらぼうに聞く。
「さっき上空から八岐大蛇の様子を見てたけど、何か違和感があるのよね。」
「違和感?一体どういうことですか?」
「私も同感だ。地上から見る分には何も感じないが。」
「なんというか動きが鈍いのよね。寝起きみたいな感じ。」
美桜は寒気を感じる。
「何か"嫌な予感"がしたのは私だけ?」
「僕もしたね。」
「私もだ。」
純連は八岐大蛇の方を見上げる。
「この"嫌な予感"が現実にならないといいけどね。」
「でもそれは……時間の問題かもしれないわね。」

「ロビン、魔纏は使えるか?」
春蘭は走りながらロビンに話しかける。ロビンは刀を抜き魔力を纏わせる。
「使えるな。」
「よし、ならいい。」
2人は山の中にある高台に登る。
「ここからなら飛び移ることができる。」
「飛び移ると八岐大蛇が攻撃を仕掛けてくるはずだ。気をつけてくれ。」
「わかった。肝に銘じる。」
2人は互いに頷き合うと八岐大蛇に飛び移る。八岐大蛇の頭のいくつかがこちらを向く。
「くるぞ、走れ!」
2人は走り出す。頭が噛みつこうと襲ってくる。
「おっと?!」
ロビンは頭に飛び乗ると刀を抜き首を斬り落とす。
「皮膚厚っつ!あと鱗が馬鹿みたいに硬いな。」
「何回も斬ったことが仇になったか…」
「というかよく魔纏を使わずに斬ったね。僕でも魔纏を使わなかったらかなり時間がかかるのに。」
2人が走っていると前方に2人の人影が見えた。疾風と樫茂だ。
「やっと来たか!待たせすぎだろ!」
「僕も同感だ。」
疾風と樫茂は相変わらず首を相手にしている。疲れ具合からして相当な時間、戦っていたのがわかる。
「ん?ロビン君?!」
「え?!樫茂……さん?」
2人の話を聞いた疾風は春蘭に近寄る。
「あいつら、知り合いなのか?」
「ロビンは僕と初めて会った日の任務で樫茂に助けられてるんだ。」
「どこでそんな情報を仕入れた?」
「ロビンと会った日、本部で樫茂から聞いたんだ。ロビンが魔纏を扱えることもその時聞いた。」
「ふーん。」
疾風はあまり興味がなさそうだ。
「まあいい。魔纏使いが増えた分、かなり楽になるはずだ。問題はロビンが中級ということぐらいか。」
「その点は問題ない。ここに来る途中、ロビンは八岐大蛇の頭を魔纏を使わずに僕より早く斬り落としている。」
「なら問題ないか。」
疾風たちも戦闘に移る。
「春蘭!お前に言いたいことがある!」
「言ってみろ!」
「ずっと戦ってて気付いたが……コイツは逆鱗を持っていない!」
「僕もそう思っていたが、それは確実か?」
「間違いねえ!コイツは逆鱗を隠してるか、そもそも別の場所にあるかの二択だ!」
「ちっ、面倒くさいな!」
4人はとにかく頭を斬り続ける。八岐大蛇の近くを飛び回るアリスが安全に飛べるようにするためだ。
(ない……ない……ない……)
「逆鱗が見当たらない。どこにあるの?」
アリスは上空から逆鱗を探すが見つかる気配がない。
(うぅ、なんか……体が重い。)
それどころか体が徐々に悲鳴をあげる。その時だった。
「ん?何……この感じ?」
八岐大蛇から何かを感じる。それはまるで"鼓動"のようなものだった。
「……?」
ロビンも何かを感じた。ロビンは八岐大蛇の体に触れる。手に振動を感じた。
「……鼓動?」
グシャララララララ!
八岐大蛇が雄叫びをあげる。首を上に持ち上げる。
「急にどうした?!」
疾風は上を向きながら焦りぎみの声で喋る。
「分からない。一体何をしている?」
(誰も鼓動?に気づいていない。俺だけか?)
「それとも俺だから感じるのか?」
ロビンは小声で呟く。それが3人の耳に入ることはなかった。首を見上げると八岐大蛇は口をモゴモゴさせていた。口端から何か煙のようなものが漏れていた。
「何かしてきそうだ。みんな!僕の近くに!」
樫茂は3人を近くに呼ぶ。樫茂は詠唱を始め、結界を張る。
「なんか……赤くなってない?」
よく見ると八岐大蛇の首元が赤くなっている。
「嫌な予感がする。」
春蘭は通信機で純連に連絡する。
「純連、何か嫌な予感がする。結界を強めてくれ。」
「わかってるわ。もう強めてる。アリスも結界内にいるわ。」
「そこから絶対に動かないでくれ。できれば周辺の被害も減らしてくれると嬉しいけど。」
「はあ…」
純連は溜息をつく。
「まったく、人使いが荒いわね。被害を抑える努力はするわ。」
「ありがとう。」
春蘭は通信を切る。
「来るぞ!気をつけろ!」
八岐大蛇が今にも何かしてきそうな状態だ。
(何をするつもりだ?)
八岐大蛇は顔を下に向けると、灼熱の炎を吐き出した。
「嘘だろおいー!」
炎が辺り一体を覆い尽くす。それと同時に八岐大蛇の鱗と皮膚が赤黒く染まっていく。1つの頭には立派な3本の角と、首元に黒く輝く"逆立った鱗"が現れた。
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