紡ぐ者

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【第9章 自由の国】

第3節 時すでに遅し

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「無敵の暗殺者《アサシン》?」
「彼の二つ名だ。これを聞いた者は、皆震え上がったという。」
ロビンは昔、二つ名に憧れていた時期があった。思い出すと少し恥ずかしくなった。
「そういえば、異常事態の内容を聞いてなかったな。」
「あなたはルアーザ様からお聞きしたと思います。」
「あれってそのまま伝えたんだ。」
ソールは書類を3人に見せる。
「これが被害報告だ。すでに一般市民にも被害が及んでいる。最も深刻なのは家畜の凶暴化だ。」
「さらに、最近は不可解な情報が舞い込んできている。」
「内容は?」
「最近、人間に襲われたというものだ。」
「人間に?」
美桜は不思議に思う。
「喧嘩じゃないのか?」
「どうやら被害を受けた人の話によると、その人間は皮膚が変色していて足取りが酔っ払ったかのようにフラついていたという。その姿はまるで……」
「"ゾンビ"のようだったという。」




「まさか……」
「グオオオ!」
人間は雄叫びをあげながら玖羽に襲いかかる。
ザンッ!
玖羽は人間の腕を切り落とすが、人間は足を止めない。まるで、切られたことを気にしていないかのようだ。
(こいつ?!狂ってるだろ!)
玖羽は首を切り落とす。人間の首が地面に転がる。
「これで……」
しかし胴体が止まらない。
「なっ?!」
玖羽は胴体を真っ二つにする。しかし、それでも襲いかかってくる。
「これじゃあ、まるで"ゾンビ"だ。」
「ん?ゾンビ?」
玖羽は頭部の脳天を短剣で貫く。
「があああ!」
人間は断末魔をあげながら塵になった。
「こんなB級映画みたいな展開ってあるんだな。なーんて、そんなの言ってる場合じゃねえな。」
玖羽はアメリカ支部を目指して走り出す。



「"ゾンビ"?いるのか?」
「いや、あくまで被害者の例えだ。」
「その被害者には会えるか?」
ソールは険しい顔をする。
「実は不可解なことに、その被害者とは音信不通になっている。」
ガーネットは立ち上がる。
「住所を教えて。調べに行くわ。」
「これには大きな危険が伴う可能性がある。それでも行くのか?」
「えぇ。そのために来たのだもの。」
ガーネットはソールから被害者の住所を教えてもらう。
「俺も行くぜ。」
「私は玖羽を待つわ。」
「承知した。2人共、くれぐれも注意を怠らないように。」
ソールは2人を見送る。


「ゾンビっていると思うか?」
「ゾンビ……魔獣としては登録されていないわ。現実にはいないからね。」
「そうなのか?初めて知ったぜ。」
2人は話していると被害者の家に着く。
「ここだな。」
ピンポーン♪
「………。」
ピンポーン♪
「………。」
「いない?」
ロビンはドアノブに手をかける。
ガチャ…
「開いてる……」
2人は家に入る。
「なんだ……これ?」
家の中は散らかっていた。壁や床には血痕がある。
「うっ……血なまぐさい。」
ガーネットは強烈な匂いに鼻を抑える。
「ここで何があったんだ?」
ドンドンッ!
2階から音がする。
「誰かいるのか?」
2人は2階に上がる。
(ん?)
ロビンは違和感を感じる。
「ガーネット。」
「わかってる。何かいるわ。」
2人は慎重に2階の部屋のドアを開ける。
「ここは……いない。」
「こっちにもいないわ。」
「となると、あの部屋か。」
2人は2階の奥の部屋を見る。
「開けるぞ。」
「うん。」
ガーネットは槍を構える。ロビンは恐る恐るドアを開ける。
「ぐるるる…」
中には女性がいたが様子が変だ。
「あれは……ゾンビ?」
女性はこちらに気づく。
「ぐあああ!」
女性は襲いかかってくる。
「危ない!」
ガーネットは槍を女性の腹部に刺して遠ざける。
「ぐらああぁぁ!」
女性は手を伸ばしながらおぞましい叫び声をあげている。ロビンは被害者の写真と女性を見比べる。
「同じだ。この人、被害者の女性だ!」
「えぇ?!でも、これだとまともな会話ができないわよ!どうするの?!」
「美桜に連絡してソールに聞いてみる。」
「できるだけ早くね。」
ロビンは美桜に電話をかける。
「どうしたの?」
「美桜!ソールはいるか?話したいことがある。」
「わかった。」
「おい、ロビン。お前今ゾンビと交戦中か?」
「え?玖羽?!」
「交戦中なら脳天を貫け!そうすれば倒せる。倒したらすぐに戻ってこい!」
ロビンは電話を切って刀を抜く。
「すまん!」
ロビンは女性の脳天を貫く。
「ああああぁぁぁ!」
女性は絶叫しながら塵になった。
「戻るぞ。」
「う、うん。」
帰り道、ガーネットは少し怯えていた。



「やっと来たか。」
入口付近にはソールとマールド、玖羽、美桜が立っていた。
「君たちのところで何があった?」
「被害者の女性はゾンビ?になっていた。音信不通になったのはこれが原因だ。」
「ゾンビ……」
「俺は私用が終わったときに見つけたな。脳天を貫いたら死んだ。だが、そうでもしないと死なない。首と腕、なんなら胴体まで切ったのに死なかった。」
「まさにゾンビですね~。」
マールドは目を光らせる。
「私は周辺に調査に向かいます。」
「ああ。よろしく頼む。油断はするなよ。」
「かしこまり~。」
マールドは街に出て調査に向かう。
「俺たちも行こうぜ。」
「そうするか。ここにいても時間を無駄にするだけだしな。」
「賛成♪」
「意義なし。」
4人も調査をすることにする。
「支部のことは私に任せろ。何かあったらすぐに連絡するように。」



「ここは?」
4人は先程玖羽が来た場所に来る。
「さっき俺が私用で来た場所だ。」
「何があったんだ……」
ロビンは地面に横たわっている人を見て不気味に思う。
「ん?血痕?」
玖羽は地面の血痕に気づく。それは先程の戦いでついたものではなかった。まだそれほど乾いていない。血痕はどこかに続いている。
「行くぞ。」
血痕を辿ると、何かを引きずったような痕跡があった。
「これ、何を引きずったんだ?」
「ふぅ……これは、人間を引きずった跡だな。皮膚がついてる。」
「そんなのわかるの?」
「俺が何年こういう仕事をしてたと思ってる。人間に関することは大体わかる。」
美桜は少し血の気が引く気がした。ガーネットが何かに気づく。
「見てください。足跡が。」
「どこに続いてる?」
「あの建物の近くだ。それに……足跡の数からして1人じゃないな。」
4人は足跡を辿る。道中、大量の血痕を見つけながら。
「おえ……ちょっと吐き気が……」
「お前は血なんか見慣れてないもんな。気にするな。」
ガーネットは相変わらず鼻をつまんでいる。
「ねえ。あそこに何かいない?」
ガーネットは遠くを指差す。岩陰に何かが動いているように見える。
「見てくる。あまり動くなよ。」
玖羽は3人のもとを離れて、岩陰の様子を見に行く。
「なっ…!」
玖羽は驚愕する。なんと、3体のゾンビが1人の男に噛みついていたのだ。男は痙攣している。噛まれた場所から徐々に皮膚が変色している。ゾンビ達は玖羽に襲いかかる。
「失せろ!」
玖羽は3体のゾンビの脳天を貫く。玖羽は噛まれた男の様子を見る。
「ぐわ……あああ!」
男は不気味に叫んでいる。
「何があったの?!」
「来るな!」
玖羽は美桜を止める。男はゾンビとなり、玖羽に襲いかかる。
「ぐらあああ!」
玖羽は脳天を貫く。
「さっき何があったの?」
「人がゾンビになる瞬間を見た。」
美桜の顔から血の気が引く。
「一応聞くけど……どうやってなったの?」
「ゾンビに噛まれたらなる。さっきは3体のゾンビが噛みついていた。」
美桜は吐き気がして口を抑える。
(美桜ってこういうのに弱いんだな。見ていて気分がいいものじゃないのは間違いないけど。)
ロビンは美桜に同情する。
「何か騒がしいわね。」
ガーネットが周りを見渡す。
「ゾンビ……」
遠くにゾンビを見つける。こちらに近づいてきている。
「こっちにもいるぞ。」
「こっちもだ。」
「こっちにもいるわ。」
4人の方向にゾンビがいる。
「ん?」
ゾンビの後ろから次々とゾンビが出てくる。
「なんかすごい数いないか?!」
少なくとも見える範囲だけで数百体のゾンビがいる。
「なぁ、これどうする?」
「決まってるだろ。全部倒す。倒し方はさっき言ったように脳天を貫くこと。」
玖羽はゾンビに向かって走り出す。
「あ、待てよ!」
「行くわよロビン。」
美桜もゾンビへと向かう。
「九尾、起きろ。」
「なんだ?って、なんだこの状態?」
「説明は後だ。今は戦闘に集中する。」
ロビンは魔纏と太陽の炎を使う。最初から本気だ。
「青。出番よ。」
美桜は青を呼ぶ。
「こいつらを蹴散らせばいいのか?」
「雷でこいつらの動きを止めて。」
「そんなことか。しかし、こいつらを見ていると吐き気がするな。」
青はゾンビ達に雷を落とす。
「え?!龍?!」
ガーネットは青に驚く。
(まーそうなるはな。)
「おい!次が来るぞ!」
奥からゾンビがワラワラと出てくる。
「どんだけいるんだよ!」
「青、もっと雷を!」
「言われなくとも!」
青の雷で動きを封じることができ、かなり楽に倒すことができる。しかし数が多すぎる。
「きりが無い。」
「みんな、こっちに集まって!」
ガーネットが3人を呼ぶ。足元には魔法陣が描かれている。
「ゾンビが多すぎて、そっちに行けそうにない!」
「じゃあ……目をつぶって!」
ガーネットが魔法を唱えると、辺りは光に包まれる。
「ぐぎゃっ!」
「があぁぁ!」
ゾンビ達は目が眩んで苦しんでいる。
「閃光魔法か。」
3人はガーネットの魔法陣の内側に入る。
「何をする気だ?」
「この辺りを吹き飛ばすわ。」
「お前って脳筋?」
「そのほうが早いでしょ?」
ガーネットの純粋な目に言葉が詰まる。
「魔法陣から出ないでね。出たら命の保証はないよ。」
ガーネットは詠唱を終えて魔法を上空に放つ。魔法は上空で分裂してゾンビ達に降り注ぐ。魔法は落下地点で爆発を起こす。
「爆発魔法の応用か。」
先程まで大量にいたゾンビのほとんどはガーネットの魔法で吹き飛んだ。
「あと数十体程か。」
玖羽は魔法陣から飛び出して残ったゾンビの処理に向かう。
「ばあぁぁぁ!」
ゾンビ達は狂ったかのように襲ってくる。
「数で押せると思うなよ!」
玖羽は確実に仕留めていく。
「そういえば……ゾンビ達はどこから来たんだ?」
「確かに。発生源を突き止めないと。」
ザッ……
3人の後ろから足音が聞こえる。ロビンは嫌な予感がした。振り返るとゾンビ達がこちらに歩いてきている。
「どっから出てきた?!ほんとにきりが無いな!」
(ちっ、またかよ!)
玖羽はすぐに3人のもとに向かう。
「あ……あぁぁぁ…」
ゾンビ達の様子が変だ。何故か苦しんでいる。
「襲ってこない?」
「気をつけて。何か変よ。」
ゾンビ達は何かの力によって一箇所に集められている。ゾンビ達は互いにくっつき始めた。
「な、何が起きてるんだ?」
ゾンビ達の塊はみるみるうちに巨大化していく。
「止めるぞ!」
玖羽はロビンと共に巨大化を止めにかかるが、ゾンビが多すぎて近づけない。
「?!上!」
ロビンは何かの気配に気づく。上空から何かが地面に向かって飛び込んでくる。
「お前は……!」
「よぉ。久しぶりだなぁ!」
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