紡ぐ者

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【第20章 運命の選択】

第4節 皮肉な現実

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 ロビンはゆっくりと目を開ける。辺りに黒い炎が燃え盛っているが、徐々に小さくなっている。
「倒した……のか?」
気が緩んだのか、ロビンの体から炎が消える。同時に、ロビンは地面に座り込む。
「歩けねぇ、魔力切れだ。九尾、連れて行ってくれ。」
しかし、九尾からの返事はない。
「九尾?」
九尾の気配は感じる。どうやら、眠っているようだ。
「自分で歩かないとだめか……」
ロビンは立ち上がって歩き出そうとする。しかし瞬きをした瞬間、地面に倒れていた。
(えっ……?)
ロビンは状況を理解できず戸惑う。立ち上がろうとするが、腹部に激痛が走って立ち上がることが出来ない。遠くから足音が近づいてくることに気づく。
「はぁ……最初からこうすればよかったな。」
男の声が聞こえるが、その声は聞き覚えのあるものだった。ロビンは目で男の姿を捉える。
「なんで………生きてんだ?……死んだ……はずだ。」
ロビンは口の中に鉄の味がすることに気づく。
「確かに、お前たちから"見れば"俺は死んだことになっている。」
「どういう……意味……だ?」
ロビンは意識がハッキリしないのがわかる。
「お前たちが俺を殺した。それは事実だ。しかし、俺が生きているのもまた事実。」
「言ってる意味が………分からねぇ……」
「ようするに、物事は客観的に見たほうがいい、というわけだ。」
男は背を向けてその場から立ち去ろうとする。
「待て……お前だけは……行かせない……」
ロビンは男に手を伸ばすが、その手が届くはずはない。ロビンの視界がゆっくりと狭まっていく。



「いた!」
美桜はロビンを見つけて指を指す。青は急いでロビンのもとに降り立つ。
「……どういうこと?」
そこには、地面に倒れて動かないロビンだけがいた。
「大丈………」
美桜はロビンに触れ、状況を瞬時に察する。
「………離れなさい。」
椿は視線を逸らして美桜に話しかける。椿はロビンの状態を確認する。
「……だめね。」
そう言って首を横に振る。美桜はその場に膝から崩れ落ちる。
「腹部のこの傷が致命傷でしょうね。死因は、たぶん大量出血。」
「一体……誰が……」
美桜の声から驚きが感じられる。
「分からない。けど、1つだけ言える。ニグレードの以外の誰かが犯人ってこと。」
「なんで断言できるの?」
「魔力が付着していない。黒い炎で殺されたなら、ある程度の魔力が残っているはず。そもそも、あの状態のニグレードが黒い炎で鋭利な物を作れるかは定かじゃない。」
青は美桜に顔を擦り付ける。
「何?」
「なんでも。」
青と目があった瞬間、美桜は睡魔に襲われる。
(あれ?なんだか……眠くなって……)
美桜はその場に座り込んで眠ってしまう。
「良い判断ね。美桜は立っているだけでやっとの状態だったから、眠らせるのは正解よ。」
「こいつはどうする?」
青はロビンのほうに視線を向ける。
「どうするかは、美桜が決める。私が決めることじゃない。」
「わかった。乗れ。戻るぞ。」
椿は眠った美桜とロビンを連れて青に乗る。






数日後……
 団長室のドアを誰かがノックする。
「どうぞ。」
ドアが開いて椿が部屋に入ってくる。
「あなたでしたか。ノックをするという常識はあるみたいですね。」
「私を反社の人間かなんかと勘違いしてる?」
「忘れたんですか?昔のあなたは、ドアを蹴破って入ってきてたんですよ。その度にドアを修理する羽目になりました。」
椿はアーロンドの話を聞く意思はない。
「話を変えましょう。今後は、どちらが団長を務めるのですか?」
「えっ、あんたじゃないの?」
椿は当たり前と言わんばかりの表情で問い返す。
「今は私が団長ですが、立場上はあなたが私の上司にあたる存在になるので、一応聞いてみました。」
「別に私がなる必要はないわよ。今の団員からすれば、ぽっと出の私が団長になるのもおかしな話でしょ?」
「それもそうですね。では、もう1つ聞きたいことがあります。」
椿は椅子に座って足を組む。
「あなたはこれからどうするのですか?」
「そうねぇ………自由に余生を楽しむわ。その前に、やるべきことがあるけど。」
「と言うと?」
アーロンドは純粋な疑問を投げかける。
「美桜に助言をするだけよ。」
椿は椅子から立ち上がると、背を向けて部屋を出る。
「助言、ですか……」



 美桜が目を開けると、そこはベッドの上だった。
(どこ……ここ?)
美桜は体を起こす。
「痛っ……」
体中にズキズキと痺れるような痛みが走る。
「やっと起きた。」
ドアの近くの壁にもたれかかっていた椿が話しかけてくる。
「私……寝てた?」
「数日は寝てたわよ。かなり疲れていたみたいね。」
美桜はベッドから降りようとするが、痛みで上手く動くことができない。
「安静にしてなさい。過度の疲労、魔力切れ、黒い炎の侵食等、あんたを寝かしつけたときには体はボロボロだったわよ。よくもまぁ、その状態で動けたわね。」
椿は机に牛乳瓶と飾り切りしたリンゴが盛ってある皿を置く。
「なんで牛乳?」
「なんとなく。」
美桜はリンゴを食べながら椿に質問する。
「ロビンはどこ?」
「それは教えられない。」
椿は部屋の隅から椅子を持ってきて美桜の横に座る。
「彼に何か言いたいことがあるんじゃない?」
「ぶふぉ?!」
美桜は牛乳を吹き出す。
「ゲホッ、ゲホッ、急に何?!」
「質問に答えて。あるの?ないの?」
「…………ない。」
「ホントに?変な間があったけど?」
美桜は椿から視線を逸らす。椿は美桜に顔を近づける。椿は笑みを浮かべるが、その奥から恐怖を感じる。
「ホ・ン・ト・に・?」
「………あります……」
美桜は椿の圧力に押し負ける。
「そうそう、最初から自分に素直になればいいの。」
「でも、ロビンはもう帰ってこないじゃん。」
椿は美桜の言葉に首を数回ほど縦に振る。
「うんうん、確かにそうだねぇ~。」
椿は立ち上がると、窓際の壁にもたれかかる。
「もし私が………"死者を蘇生する方法"があるって言ったら信じる?」
「蘇生魔法なら流石に知ってるわよ。だけど、あれは……」
「成功するかも分からないし、蘇生に成功しても後遺症が残るかもしれない。更には世界の循環にも干渉するから、世界の秩序が乱れるかもしれない。そうでしょ?」
美桜は無言で頷く。
「私が言ってるのは"完璧な蘇生魔法"よ。」
「そんなものが実在するの?」
「話が逸れるけど、"古代魔術"って知ってる?」
「なにそれ?聞いたことない。」
「そりゃそうよね。この魔法を知ってるのは、現在では数えるほどしかいないもの。」
椿は再び椅子に座る。
「現在の魔法は、全て、古代魔術が原型となっている。現在の蘇生魔法も例外じゃない。」
椿はどこからか一冊の本を取り出す。
「だけど、蘇生魔法の原型となった魔法は、どの文献にも記されていない。それに、探そうとしても確実に時間が足りない。人間の寿命では見つける前に死んでしまう。」
「じゃあ無理じゃん。」
「それが無理じゃないの。」
椿は美桜の前に立つ。
「1つだけ……1つだけ、方法がある。」
美桜は唾を飲み込む。
「あなたが……"紡ぎ人(つむぎびと)"になるのよ。」
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