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【第21章 紡ぐ者】
第3節 合同訓練ー1
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ゲートを抜けた先は、広いロビーだった。
「フランス支部は直接本部と繋がってるんだ。」
階段の上から誰かが降りてくる。
「お待ちしておりました、イギリス支部の皆様。私がここ、フランス支部の最高責任者である
ホーリー・サラブレットです。到着して早々申し訳ありませんが、これから1日目の訓練の詳しい説明を行います。」
従者がホーリーの横に机と2つの箱を運んでくる。
「こちらの箱には1から20の番号が書かれた紙が、それぞれ入っています。赤い箱からはこちらが、青い箱からはイギリス支部の皆様が1人ずつ紙を取り出します。同じ番号の者同士で、本日の訓練に臨んでもらいます。何か不明な点があれば、遠慮なくお聞き下さい。」
団員たちは、1人ずつ箱から紙を取り出していく。
「何番だった?」
「13番よ。あんたは?」
「4番だ。誰とタッグを組むことになるのか楽しみだ。じゃあ、訓練が終わったらまた会おう。」
サーミルは同じ番号の者を探しに行く。
「よぉ嬢ちゃん。君の番号を教えてくれないか?」
「13番。」
「はっはっ、どうやら俺のタッグは君のようだな。よろしく頼むぜ!」
男はそう言って美桜の肩に手を置く。
「なんでそんなに馴れ馴れしいの?てか誰?」
「おっとすまねぇな。俺はカタレット・ナーブ。お前と同じ、13番の紙を引いた男だ。」
「違うそうじゃない。」
「ん?お前……」
カタレットは美桜の匂いを嗅ぐ。
「アメジストと一緒にいたか?」
「なんでわかるの?怖っ……」
「あいつがいつもしてる香水の匂いがしたからな。」
「いや怖っ!ただの変態だった!」
美桜は背筋が凍る。
「誰が変態だ?」
「あんただよ!」
「まあいい、訓練に向かうぞ!」
カタレットは1人で駆け出す。
「嵐みたいな男ね。」
美桜はあとをゆっくりとついて行く。
「着いたぞ。」
2人は訓練会場に辿り着く。
「山、というよりかは壁じゃん。」
「訓練の内容は至ってシンプル。ここを登って、頂上にある紋章を取ってくる。とのことらしい。」
「登れるの?」
「よく見ろ、出っ張りがある。登れないことはないだろう。俺についてこい!」
カタレットはそう言って崖に飛びつく。
「ちょっ、待って!」
美桜はあとを追うが、予想以上に苦しい。腕にかなりの負荷がかかる。
「キツイか?手を貸すぜ。」
カタレットは美桜に手を伸ばす。掴まった美桜を引き上げる。
「キッッッツ……」
「おいおい、まだ上があるってのに、もうへばったか?」
カタレットは上を指差す。
「ちょっと甘く見てただけ。次からは本気出す。」
「最初から出してくれたほうが助かるけどな。」
2人は再び崖を登り始める。美桜は崖を登っている最中、所々に旗が刺さっているのが気になる。
「この旗は何?」
「それは風向きを調べるための目印だ。それがないと、思わぬところで足をすくわれるかもしれないぞ。」
カタレットは次の段差に到達する。美桜も少し遅れて登る。
「今更だけど、命綱とかないんだね。」
「この辺り一変には、落下した際の衝撃を軽減する結界が貼られている。俺たちは一般人よりも強靭な体を持ってるから、結界さえあれば命綱がなくても平気なんだ。この結界なら、100メートルの高さから落ちても問題ない。」
話していると、美桜の横からサーミルが登ってくる。
「あなたもここにいたのか。」
「合流することなんてあるんだ。あんたの相方は?」
「あぁ、それなら……」
サーミルは上を指差す。
「私より先に行ってしまった。どうやら彼は、この手のことには慣れているらしい。」
サーミルは服をはたいて汚れを払う。
「そちらの方は?」
「俺はカタレット・ナーブだ。君は、サーミルだな?」
「なぜ私の名前を?」
「アメジストからお前のことを聞いたことがある。服装等の特徴から推測したが、当たりだったか。」
「だいぶいい時間みたい。」
美桜は時計を見せる。針は正午前を指している。
「昼食にするか。このスペースなら、3人は入るだろう。」
「僕もいいか?」
突然、上から1人の男が飛び降りてくる。
「うおっと?!ここで飛びおりるなんて、どういう神経してんだ?」
「単純に慣れているだけだ。先程の質問に答えてくれ。」
「別に構わないぜ。」
男はカタレットの隣に座る。
「お前、少し速すぎないか?」
「そうだ、僕が速すぎるだけだ。お前は自分のペースで登れ。」
男はサーミルから昼食を受け取る。
「こいつは……誰なんだ?」
「私のペアの……」
「自分で言える。僕は晴 祭鷹(せい さいよう)だ。祭鷹と憶えてくれ。」
「そうかい。確か、こちらの名簿にそんな名前があったな。見た感じ、武道の達人と見た。どうだ?」
「7割正解、とだけは言っておこう。」
祭鷹は黙って昼食を口にする。
「おいおい、もうちょっと喋ろうぜ?折角の飯の時間がつまらねぇじゃねえか。」
「僕は多くを語るつもりはない。実践訓練が控えているというのに、自分の手札をベラベラと喋るやつがいるか?」
「そんなやつはいないな。」
「まぁこの話は一旦置いとくか。それより、レディを置いて先に行くとは……紳士としてどうなんだ?」
「人には自分のペースがある。僕が得意なだけで、彼女は不慣れなだけだ。経験がなければ強くなれない。ここで手を貸すと、彼女は経験するという機会を失ってしまう。そうなると、訓練の意味がないだろ?」
「めちゃめちゃな正論をぶつけられたんだが…」
祭鷹は昼食を食べ終えると、すぐに崖に手をあてる。
「もう行くのか。少しは休んだらどうだ?」
「確かに休憩は大事だ。しかし、今の僕には必要ない。」
「はいはい、これ以上は深追いしないぜ。」
祭鷹はすぐに崖を登り始める。
「さて、俺たちもそろそろ行こうぜ。ここからはさらに険しくなる。気を引き締めろよ。」
カタレットは岩肌に手をかける。2人はカタレットのあとを登る。
「ここのやつは気をつけろ。脆くなっているぞ。」
カタレットは飛び出た岩を甲で叩く。岩の破片がボロボロと下に落ちる。
「安全確認とかしないのか?」
「それは俺の仕事じゃねえ。それに、ここは今回の合同訓練のために探した場所だ。とうやら上のやつらは、旗を設置するぐらいしかできなかったらしい。」
美桜が段差に足をかけた途端、段差が崩れて美桜は下に落下する。
「うわあぁぁっ?!」
美桜は咄嗟に下にあるもう1つの段差に手をかけ、なんとか転落を免れる。
「危なっ……」
美桜は崖の上を見る。頂上がうっすらと見えている。
「もう頂上なんだ。」
「へぇ、思ったより高くないのか。」
カタレットは崖を一気に登り切る。あとに続いて美桜とサーミルは登る。頂上にはすでに、何名かの団員たちが到着していた。祭鷹は木の上でくつろいでる。
「何をしてるんだ?」
「バレたか。」
祭鷹は木から飛び降りる。手には紋章が握りしめられている。
「そりゃバレるだろ。」
「他のやつらは気付かなかったけどな。」
集まった4人に、誰かが近づいてくる。
「おや?すでに到着されていたのですね。流石と言うべきでしょうか。」
「アメジスト?!なんであんたがここにいるの?」
「なんでと言われましても、私も参加者の1人なのですから。」
「あんたたちの実力って、一般市民より少し強い程度なんでしょ?」
「ふふっ、お忘れでしょうか?それは一部の従者は除いた場合の話です。私がハッキリと言わなかっため、記憶に残らなかったのでしょうか?それに……」
アメジストは美桜に近寄ると、美桜の顎を上に上げる。
「あなた様は、私の本当の実力に気づいているはずです。」
「何を言って……」
「体では分からなくとも、本能がそう言っている。違いますか?」
美桜は胸に手を当てて精神を落ち着かせる。
「何も。少なくとも、あんたを見ても、何も感じない。」
アメジストはニコッと笑うと美桜から手を離す。
「すみません、ちょっとした演技をしてしまい。やはり、あなた様の目は誤魔化せませんね。」
アメジストはカタレットのほうを見る。
「久しぶりですね。カタレット。」
「そうだな。何年ぶりだ?」
「ちょうど3年です。何か邪なことはしていませんよね?」
カタレットはアメジストから圧を感じる。
「俺はこう見えて、結構一途な正確なんだぜ?」
「本当にそうかしら?3年もあれば、どこかの馬の骨と親しくなるのは容易だと思いますが?」
「だからそんなことしねぇよ!だいたい、なんで急にそんな話になったんだ?」
「ふふっ、なんとなくですよ。」
「はぁ……お前の扱いには本っ当に困るな。」
カタレットは頭をかきながら地面に膝をついてアメジストの手を持つ。
「俺の運命の人は、お前以外にありえないんだ。だから、俺は最低なことなんかしない。もし最低なことをしてしまったら、命は差し出す覚悟だぜ。」
(何言ってんだこいつ?)
祭鷹は呆れた目でカタレットを見ていた。
「ふふっ、冗談で言ったつもりが、まさかここまでするなんて。これは私の予想を超えてきましたね。」
「ん?どういうことだ?」
「すみません、試すような真似をして。あなたの反応が気になって仕方なかったのですよ。」
「あぁ、いつものか。なんかエスカレートしてるような気もするけどな。」
「ふふっ、気のせいです。」
「ねぇ。アメジストって何考えてるか分かんないよね?」
「同感だ。あいつは昔からそういうやつだった。」
サーミルと美桜はコソコソと話す。
「おい、無駄話をするな。さっさと戻るぞ。」
祭鷹は崖から飛び降りる。
「俺たちも行こうぜ。紋章は回収したしな。」
「少しお二人と話をしてもよろしいですか?」
「そっちの嬢ちゃんはいいぜ。」
カタレットは美桜を指さしながら崖際に座る。
「私のペアは先に行ってしまった。話を聞く時間はある。」
「私もいいよ。」
アメジストは2人を少し離れた場所に連れて行く。
「私の知っている限りだと、3日目では2つの支部に分かれて模擬戦を行います。彼、カタレットとあたる可能性があるかもしれません。特にサーミル様。あなたは注意したほうがいいかもしれません。」
「注意とは?」
「彼はフランス支部の中でも上位の実力を持っています。知っての通り、フランス支部はエリート揃いです。その中でも上位の実力ということもあり、美桜様は分かりませんが、サーミル様だとかなり困難な相手になるかもしれません。」
アメジストが会話を聞いていると、美桜は何者かの気配を感じる。
「誰?」
美桜は茂みの木の方を向いて呼びかける。
「おや?気配を完全に消したつもりだったが、やはり天級だ。僕の隠密を簡単に見ぬくとは……見事と言う他ないな。」
1人の男が手を叩きながら木の裏から出てくる。
「カーネリア様ですか。なぜ木の裏に?まさかとは思いますが、盗み聞きをしていたわけではありませんよね?」
「君は知っているはずだ。僕がどんな人間か。」
「えぇもちろん。カーネリア・デジィール。デジィール家の主。世界的なセレブにして、超有名俳優。そして、フランス支部において上位の実力を持つ男。」
「その通りだ。そんな僕が、盗み聞きなどするわけがないだろう?」
「いや思いっ切りしてたでしょ。なんで木の裏にいたの?」
「あぁそれは。」
カーネリアは3人を木の裏に連れて行く。木の裏には1輪の花が咲いていた。
「この花を見ていたんだ。実に美しく、悲しくもある。まさに、自然が生み出す芸術と言えるだろう。」
「それだけ?」
「それだけさ。」
美桜はどこにもぶつけられない、気持ち悪い感情が体に充満するのを感じた。
「紋章は手に入った。あとは帰るだけだ。おっとそうだ。君たち2人とは、3日目の模擬戦であたるかもしれないね。そのときを楽しみにしてるいよ。」
カーネリアは崖を背中から落下する。アメジストは2人に軽く頭を下げてから崖を降りる。サーミルは美桜と言葉を交わして崖を降りる。
「行くよ。」
美桜はカタレットに話しかける。
「待ってたぜ。」
2人は崖を降り始める。
「本当にお一人で?」
「あぁ、俺だけでいい。」
男はドアを開けて客室に入る。
「俺のところに来るとは……どういう風の吹き回しだ?椿。」
客室では椿が優雅に紅茶を飲んでいた。
「余生をじっくり楽しみたいからよ。仲間に会うくらい、普通だと思うけど?」
椿は男のほう見る。
「髪切ったの?」
「多少な。よく気づいたな。」
「仲間の顔は忘れない。だから少しの変化にも気づける。」
椿は窓際に向かい、窓の外を見下ろす。
「やっぱりいいわね。パリの街並みは。」
「街を見るためだけに来たのか?」
「まさか。私の弟子が合同訓練に参加してるから滞在してるだけよ。」
「弟子?お前、いつから弟子をとるようになった?」
「ニグレードを倒す前から。」
「一体いつの話だ……」
椿は外の景色をまじまじと見る。
「あんたも飲んだら?」
「俺はいい。」
「飽きたから?」
「そんなわけないだろう。」
男はドアに手をかける。
「もう行くんだ。」
「俺には俺の仕事がある。お前のように、弟子をとる暇はない。」
「ちょっと怒ってる?」
椿の言葉に、男は足を止める。
「何か私に文句があるんじゃない?」
「そんなわけ……」
「あんたは昔からそうだった。私に文句があるときは、物事を早く終わらせようとする。」
「だから……」
「まぁ別に、文句くらい、いってもいいわよ。ストレスが溜まる一方だからね。」
男は椿視線を向けられて動きが止まる。
「もう一度言おう。文句はない。」
男はそう言って部屋を出る。
「まったく、あんたは変わってない。アーロンドもそう。あんたら2人は何も変わってない。まっ、そのほうが話しやすいけどね。」
「ここが私の部屋か。」
美桜はベッドに触れる。
(ふかふかだ。これは熟睡できる。)
「そういえば、夕食っていつだろう。」
美桜は部屋から出て、夕食の時間を確かめに向かう。
「君も夕食が気になるのかい?」
美桜は後ろから誰かに話しかけられる。振り返ると、カーネリアが立っていた。
「ここのディナーは非常に絶品だ。楽しみにしているといい。」
美桜は驚いたような表情をしている。
「そうだ。君に渡したいものがあるんだ。」
そう言って、カーネリアは美桜に名刺を渡す。
「もし君が願うなら、僕は力になろう。それじゃ、ディナーの時間になったらまた。」
カーネリアはそう言ってその場から去る。美桜は名刺に視線を落とす。
(今の……感じ。気配を……感じなかった?)
美桜はしばらくして冷静になる。
「私、疲れてるのかな?」
額に手を当てながら廊下を進む。廊下の角でアメジストと出くわす。
「いかがなさいました?あまり体調がよろしくないように見えますが?」
「ごめん、なんでもないから。夕食の時間を調べに行くだけだから。」
「夕食のお時間になり次第、私がお迎えに参ります。それまでは部屋でお休みになって下さい。」
「わかった……」
美桜は足を引きずるようにしてゆっくりと進む。
「うん……」
美桜は部屋に戻ってベッドに飛び込む。
「顔色が悪いな。薬とかはないのか?」
「都合よくあると思う?」
美桜は額に腕をあてる。熱はないようだ。
「なんでだろ?」
美桜は体を起こす。ドアが開いてアメジストが部屋に入ってくる。
「お体のほうは大丈夫ですか?」
「どうなんだろ?医者じゃないから分かんない。」
「軽い診断ならできますが、いかがなさいますか?」
「お願い。」
アメジストは美桜の体を調べる。
「詳しくは分かりませんが、おそらく、呪いに近いものかと。」
「呪い?なんで?」
「分かりません。」
美桜はドアに視線を向ける。ドアの向こうから気配を感じる。
「誰かいるの?」
「なんだ、君の部屋だったのか。」
そう言ってカーネリアが部屋に入ってくる。
「呪いの気配を感じてね。種類を調べていたのさ。」
「部屋の前に立つのはどうかと思ういますが。」
「ははっ、そうだね。紛らわしい真似をしたことを、悪く思うよ。」
美桜はカーネリアのほうを見る。
(気配を感じた。さっきとは違う?私の状態は同じ。こいつ、何かが変。まるで別人のような。)
カーネリアは美桜の前に膝をつく。
「なるほど。この呪いは神経に異常をもたらすもののようだ。僕なら解除できる。」
そう言って、カーネリアは美桜の手を持つ。少しして、美桜は体が楽になるのを感じる。
「これでいい。君の体から呪いは消えた。」
「あなた様は、聞いていたよりも親切なお方のようですね。」
「当然さ。3日目の模擬戦に支障が出たら困るからね。」
カーネリアは部屋から出る。
(胡散臭い……)
美桜はそう思いながらベッドに寝転がる。
「おや?どうやら、ディナーの用意ができたようです。」
「わかった。」
美桜はベッドから降りて服装を整える。
「どうした?ずいぶん遅かったじゃないか。」
「ちょっとトラブルが……」
「なら呼んでくれればよかったのに。あなたに何かあったら大変だ。」
「並の事ではどうもならないけど?」
美桜はサーミルに先程のことを説明する。
「呪いだって?魔獣がいたのか?」
「いなかったよ。」
「となると、カーネリアが怪しいな。あの男と出会った直後に体調が悪くなったんだろ?」
「そう。その後、まるで知っているかのようなタイミングで私の前に現れた。そして私の呪いを解いた。怪しいにも程があるでしょ。」
「おや?僕の話をしてるのかい?」
2人の後ろからカーネリアが顔を覗かせる。
「急に女性の会話に入ってくるなんて……どういう神経してるんだ?」
「そんなことを気にしてたら、器の小さい人間かと思われちゃうよ?」
カーネリアは美桜の隣に座る。
「先に言っておこう。僕が君に呪いをかけた。君はそう思っているんだろう?残念だけど、その答えは違う。」
カーネリアはカップに注がれた紅茶を飲み干すと、雰囲気を変える。
「君たちは"グリモワール"という悪魔を知っているか?」
「悪魔?グリモワール?知らない。」
「私も同じだ。まず、グリモワールは本の名前じゃないのか?」
「その通り。グリモワールとは本の名前だ。話が逸れるが、僕は呪いについて研究している。これまで、幾つもの呪いの解読法を世に広めた。」
「じゃあやっぱりあんたが呪いをかけたんじゃ……」
「話は最後まで聞くものだ。僕は呪いについて調べていくうちに、あることを発見した。」
カーネリアは指で机をなぞる。
「呪いを使用した者は、少しずつ人間性を失う。それ以外にも、呪いは使用者によって効果も威力も異なる。中には即死級で強力な呪いも存在することがわかった。」
「じゃああんたが呪いをかけたんだ。そんなに詳しいなら、呪いの扱いぐらいは容易でしょ?」
「確かに、使うのは簡単だろう。ただ先程も言ったように、使用すれば人間性を失う。僕にはそんな勇気はないね。」
「話が逸れ過ぎだろ。グリモワールのことを話せ。」
サーミルはいつの間にかディナーを食べ終えていた。
「そう慌てるな。慌てるだけ時間の無駄だ。」
カーネリアはディナーに手をつけ始める。
「グリモワールは、元々ただの本だった。しかしある日、グリモワールの中に悪魔が忍び込んだんだ。中に入った悪魔は、本の中から呪いを撒き散らした。当然、人々はパニックに陥った。僕は呪いを解こうと奮闘した。しかし、僕はグリモワールの呪いについて何も知らなかった。つい先程まではね。」
「先程までは?」
「君にかけられた呪いを見た時、一目でわかった。あれこそ、グリモワールの呪いだと。」
「何か違いがあるの?」
「僕は今まで、様々な呪いを見てきた。そして、その中で最も強力な呪いこそ、君にかけられた呪いだった。」
カーネリアは立ち上がる。
「そこでだ。君にグリモワールを見つけてもらいたい。」
「はあっ?」
美桜は呆れたような声を出す。
「グリモワールは今も呪いを撒き散らしている。それに、君は一度グリモワールの呪いにかかっている。そのため、ある程度の耐性がついている可能性が高い。君なら安全にグリモワールを探せるというわけだ。」
「一応聞くが、それは本部に報告してあるのか?」
サーミルはカーネリアを警戒しながら質問する。
「するわけないだろ。証拠がなさすぎる。だからといって、行動しないわけにはいかない。これは極秘の調査なんだ。」
「はぁ、わかった。探しはするよ。」
「あなたがそう言うなら、私も時間があれば協力する。」
「助かるよ。さて、だいぶ待たせてしまったね。ディナーが冷める前に食べてくれよ?」
「本当に協力するのか?」
「被害が出てるらしいから一応ね。」
「まぁ確かに、フランスでは呪い関連の報告が多いとは思ったが、まさかそんなものがあるとは。」
サーミルはどこかに向かおうとする。
「どこに行くの?」
「このあと時間があるだろ?グリモワールを探しに行く。」
「そう。じゃあ、お願いね。」
「探さないのか?」
「私は別の用事があって……」
「そうか。わかった。アメジスト、ついて来てくれ。」
サーミルとアメジストは夜の街へと踏み出す。美桜は2人とは逆のほうに進む。
美桜は訓練場へと足を踏み入れる。中ではガーネットが待っていた。
「来たね。時間がないから、簡単に教えるよ。まずは、あなたがよく使う魔法を教えて。」
美桜は手に風を集める。
「風魔法ね。」
「あまり使わないけど……」
「風魔法は竜巻を発生させる魔法。じゃあ、早速使ってみて。」
美桜は風魔法を放つ。訓練場内に竜巻が発生する。
「威力はそれなりに高いわね。」
ガーネットは美桜の手を握る。
「魔力の流れは安定している。さっきの感覚で、もう一度。」
美桜は風を集め始める。ガーネットは魔力の流れを調べている。
(すごい。全く乱れていない。やっぱり、魔法の才があるんだ。)
「魔力は安定してる。じゃあ、竜巻を2つ作ってみて。」
「えっ?」
美桜は集めた風を放つが、竜巻は1つだけだ。
「2つなんて、できるの?」
「普通は無理だよ。改良すれば可能だよ。」
美桜はもう一度風魔法を使うが、何も変わらない。
「あなたは魔力が安定している。安定しすぎてるの。だから、少し難しいかもしれない。すうねぇ……」
ガーネットは方法を少し考える。
「魔力を適当に集めてみて。」
美桜は手に魔力を集めて風を生成する。風は先程とは違い、荒ぶっている。美桜は風を中央に向かって放つ。竜巻は一瞬2つに分かれるが、すぐに消えてしまう。
「要領はそんな感じね。あとは、維持するだけなんだけど、風魔法はこれが難しいからね。明日は魔法の訓練をするから、その感覚を明日の訓練で活かしてね。」
「わかった。」
2人は訓練場から離れて部屋に戻る。美桜は明日の訓練に備えて眠りについた。
「フランス支部は直接本部と繋がってるんだ。」
階段の上から誰かが降りてくる。
「お待ちしておりました、イギリス支部の皆様。私がここ、フランス支部の最高責任者である
ホーリー・サラブレットです。到着して早々申し訳ありませんが、これから1日目の訓練の詳しい説明を行います。」
従者がホーリーの横に机と2つの箱を運んでくる。
「こちらの箱には1から20の番号が書かれた紙が、それぞれ入っています。赤い箱からはこちらが、青い箱からはイギリス支部の皆様が1人ずつ紙を取り出します。同じ番号の者同士で、本日の訓練に臨んでもらいます。何か不明な点があれば、遠慮なくお聞き下さい。」
団員たちは、1人ずつ箱から紙を取り出していく。
「何番だった?」
「13番よ。あんたは?」
「4番だ。誰とタッグを組むことになるのか楽しみだ。じゃあ、訓練が終わったらまた会おう。」
サーミルは同じ番号の者を探しに行く。
「よぉ嬢ちゃん。君の番号を教えてくれないか?」
「13番。」
「はっはっ、どうやら俺のタッグは君のようだな。よろしく頼むぜ!」
男はそう言って美桜の肩に手を置く。
「なんでそんなに馴れ馴れしいの?てか誰?」
「おっとすまねぇな。俺はカタレット・ナーブ。お前と同じ、13番の紙を引いた男だ。」
「違うそうじゃない。」
「ん?お前……」
カタレットは美桜の匂いを嗅ぐ。
「アメジストと一緒にいたか?」
「なんでわかるの?怖っ……」
「あいつがいつもしてる香水の匂いがしたからな。」
「いや怖っ!ただの変態だった!」
美桜は背筋が凍る。
「誰が変態だ?」
「あんただよ!」
「まあいい、訓練に向かうぞ!」
カタレットは1人で駆け出す。
「嵐みたいな男ね。」
美桜はあとをゆっくりとついて行く。
「着いたぞ。」
2人は訓練会場に辿り着く。
「山、というよりかは壁じゃん。」
「訓練の内容は至ってシンプル。ここを登って、頂上にある紋章を取ってくる。とのことらしい。」
「登れるの?」
「よく見ろ、出っ張りがある。登れないことはないだろう。俺についてこい!」
カタレットはそう言って崖に飛びつく。
「ちょっ、待って!」
美桜はあとを追うが、予想以上に苦しい。腕にかなりの負荷がかかる。
「キツイか?手を貸すぜ。」
カタレットは美桜に手を伸ばす。掴まった美桜を引き上げる。
「キッッッツ……」
「おいおい、まだ上があるってのに、もうへばったか?」
カタレットは上を指差す。
「ちょっと甘く見てただけ。次からは本気出す。」
「最初から出してくれたほうが助かるけどな。」
2人は再び崖を登り始める。美桜は崖を登っている最中、所々に旗が刺さっているのが気になる。
「この旗は何?」
「それは風向きを調べるための目印だ。それがないと、思わぬところで足をすくわれるかもしれないぞ。」
カタレットは次の段差に到達する。美桜も少し遅れて登る。
「今更だけど、命綱とかないんだね。」
「この辺り一変には、落下した際の衝撃を軽減する結界が貼られている。俺たちは一般人よりも強靭な体を持ってるから、結界さえあれば命綱がなくても平気なんだ。この結界なら、100メートルの高さから落ちても問題ない。」
話していると、美桜の横からサーミルが登ってくる。
「あなたもここにいたのか。」
「合流することなんてあるんだ。あんたの相方は?」
「あぁ、それなら……」
サーミルは上を指差す。
「私より先に行ってしまった。どうやら彼は、この手のことには慣れているらしい。」
サーミルは服をはたいて汚れを払う。
「そちらの方は?」
「俺はカタレット・ナーブだ。君は、サーミルだな?」
「なぜ私の名前を?」
「アメジストからお前のことを聞いたことがある。服装等の特徴から推測したが、当たりだったか。」
「だいぶいい時間みたい。」
美桜は時計を見せる。針は正午前を指している。
「昼食にするか。このスペースなら、3人は入るだろう。」
「僕もいいか?」
突然、上から1人の男が飛び降りてくる。
「うおっと?!ここで飛びおりるなんて、どういう神経してんだ?」
「単純に慣れているだけだ。先程の質問に答えてくれ。」
「別に構わないぜ。」
男はカタレットの隣に座る。
「お前、少し速すぎないか?」
「そうだ、僕が速すぎるだけだ。お前は自分のペースで登れ。」
男はサーミルから昼食を受け取る。
「こいつは……誰なんだ?」
「私のペアの……」
「自分で言える。僕は晴 祭鷹(せい さいよう)だ。祭鷹と憶えてくれ。」
「そうかい。確か、こちらの名簿にそんな名前があったな。見た感じ、武道の達人と見た。どうだ?」
「7割正解、とだけは言っておこう。」
祭鷹は黙って昼食を口にする。
「おいおい、もうちょっと喋ろうぜ?折角の飯の時間がつまらねぇじゃねえか。」
「僕は多くを語るつもりはない。実践訓練が控えているというのに、自分の手札をベラベラと喋るやつがいるか?」
「そんなやつはいないな。」
「まぁこの話は一旦置いとくか。それより、レディを置いて先に行くとは……紳士としてどうなんだ?」
「人には自分のペースがある。僕が得意なだけで、彼女は不慣れなだけだ。経験がなければ強くなれない。ここで手を貸すと、彼女は経験するという機会を失ってしまう。そうなると、訓練の意味がないだろ?」
「めちゃめちゃな正論をぶつけられたんだが…」
祭鷹は昼食を食べ終えると、すぐに崖に手をあてる。
「もう行くのか。少しは休んだらどうだ?」
「確かに休憩は大事だ。しかし、今の僕には必要ない。」
「はいはい、これ以上は深追いしないぜ。」
祭鷹はすぐに崖を登り始める。
「さて、俺たちもそろそろ行こうぜ。ここからはさらに険しくなる。気を引き締めろよ。」
カタレットは岩肌に手をかける。2人はカタレットのあとを登る。
「ここのやつは気をつけろ。脆くなっているぞ。」
カタレットは飛び出た岩を甲で叩く。岩の破片がボロボロと下に落ちる。
「安全確認とかしないのか?」
「それは俺の仕事じゃねえ。それに、ここは今回の合同訓練のために探した場所だ。とうやら上のやつらは、旗を設置するぐらいしかできなかったらしい。」
美桜が段差に足をかけた途端、段差が崩れて美桜は下に落下する。
「うわあぁぁっ?!」
美桜は咄嗟に下にあるもう1つの段差に手をかけ、なんとか転落を免れる。
「危なっ……」
美桜は崖の上を見る。頂上がうっすらと見えている。
「もう頂上なんだ。」
「へぇ、思ったより高くないのか。」
カタレットは崖を一気に登り切る。あとに続いて美桜とサーミルは登る。頂上にはすでに、何名かの団員たちが到着していた。祭鷹は木の上でくつろいでる。
「何をしてるんだ?」
「バレたか。」
祭鷹は木から飛び降りる。手には紋章が握りしめられている。
「そりゃバレるだろ。」
「他のやつらは気付かなかったけどな。」
集まった4人に、誰かが近づいてくる。
「おや?すでに到着されていたのですね。流石と言うべきでしょうか。」
「アメジスト?!なんであんたがここにいるの?」
「なんでと言われましても、私も参加者の1人なのですから。」
「あんたたちの実力って、一般市民より少し強い程度なんでしょ?」
「ふふっ、お忘れでしょうか?それは一部の従者は除いた場合の話です。私がハッキリと言わなかっため、記憶に残らなかったのでしょうか?それに……」
アメジストは美桜に近寄ると、美桜の顎を上に上げる。
「あなた様は、私の本当の実力に気づいているはずです。」
「何を言って……」
「体では分からなくとも、本能がそう言っている。違いますか?」
美桜は胸に手を当てて精神を落ち着かせる。
「何も。少なくとも、あんたを見ても、何も感じない。」
アメジストはニコッと笑うと美桜から手を離す。
「すみません、ちょっとした演技をしてしまい。やはり、あなた様の目は誤魔化せませんね。」
アメジストはカタレットのほうを見る。
「久しぶりですね。カタレット。」
「そうだな。何年ぶりだ?」
「ちょうど3年です。何か邪なことはしていませんよね?」
カタレットはアメジストから圧を感じる。
「俺はこう見えて、結構一途な正確なんだぜ?」
「本当にそうかしら?3年もあれば、どこかの馬の骨と親しくなるのは容易だと思いますが?」
「だからそんなことしねぇよ!だいたい、なんで急にそんな話になったんだ?」
「ふふっ、なんとなくですよ。」
「はぁ……お前の扱いには本っ当に困るな。」
カタレットは頭をかきながら地面に膝をついてアメジストの手を持つ。
「俺の運命の人は、お前以外にありえないんだ。だから、俺は最低なことなんかしない。もし最低なことをしてしまったら、命は差し出す覚悟だぜ。」
(何言ってんだこいつ?)
祭鷹は呆れた目でカタレットを見ていた。
「ふふっ、冗談で言ったつもりが、まさかここまでするなんて。これは私の予想を超えてきましたね。」
「ん?どういうことだ?」
「すみません、試すような真似をして。あなたの反応が気になって仕方なかったのですよ。」
「あぁ、いつものか。なんかエスカレートしてるような気もするけどな。」
「ふふっ、気のせいです。」
「ねぇ。アメジストって何考えてるか分かんないよね?」
「同感だ。あいつは昔からそういうやつだった。」
サーミルと美桜はコソコソと話す。
「おい、無駄話をするな。さっさと戻るぞ。」
祭鷹は崖から飛び降りる。
「俺たちも行こうぜ。紋章は回収したしな。」
「少しお二人と話をしてもよろしいですか?」
「そっちの嬢ちゃんはいいぜ。」
カタレットは美桜を指さしながら崖際に座る。
「私のペアは先に行ってしまった。話を聞く時間はある。」
「私もいいよ。」
アメジストは2人を少し離れた場所に連れて行く。
「私の知っている限りだと、3日目では2つの支部に分かれて模擬戦を行います。彼、カタレットとあたる可能性があるかもしれません。特にサーミル様。あなたは注意したほうがいいかもしれません。」
「注意とは?」
「彼はフランス支部の中でも上位の実力を持っています。知っての通り、フランス支部はエリート揃いです。その中でも上位の実力ということもあり、美桜様は分かりませんが、サーミル様だとかなり困難な相手になるかもしれません。」
アメジストが会話を聞いていると、美桜は何者かの気配を感じる。
「誰?」
美桜は茂みの木の方を向いて呼びかける。
「おや?気配を完全に消したつもりだったが、やはり天級だ。僕の隠密を簡単に見ぬくとは……見事と言う他ないな。」
1人の男が手を叩きながら木の裏から出てくる。
「カーネリア様ですか。なぜ木の裏に?まさかとは思いますが、盗み聞きをしていたわけではありませんよね?」
「君は知っているはずだ。僕がどんな人間か。」
「えぇもちろん。カーネリア・デジィール。デジィール家の主。世界的なセレブにして、超有名俳優。そして、フランス支部において上位の実力を持つ男。」
「その通りだ。そんな僕が、盗み聞きなどするわけがないだろう?」
「いや思いっ切りしてたでしょ。なんで木の裏にいたの?」
「あぁそれは。」
カーネリアは3人を木の裏に連れて行く。木の裏には1輪の花が咲いていた。
「この花を見ていたんだ。実に美しく、悲しくもある。まさに、自然が生み出す芸術と言えるだろう。」
「それだけ?」
「それだけさ。」
美桜はどこにもぶつけられない、気持ち悪い感情が体に充満するのを感じた。
「紋章は手に入った。あとは帰るだけだ。おっとそうだ。君たち2人とは、3日目の模擬戦であたるかもしれないね。そのときを楽しみにしてるいよ。」
カーネリアは崖を背中から落下する。アメジストは2人に軽く頭を下げてから崖を降りる。サーミルは美桜と言葉を交わして崖を降りる。
「行くよ。」
美桜はカタレットに話しかける。
「待ってたぜ。」
2人は崖を降り始める。
「本当にお一人で?」
「あぁ、俺だけでいい。」
男はドアを開けて客室に入る。
「俺のところに来るとは……どういう風の吹き回しだ?椿。」
客室では椿が優雅に紅茶を飲んでいた。
「余生をじっくり楽しみたいからよ。仲間に会うくらい、普通だと思うけど?」
椿は男のほう見る。
「髪切ったの?」
「多少な。よく気づいたな。」
「仲間の顔は忘れない。だから少しの変化にも気づける。」
椿は窓際に向かい、窓の外を見下ろす。
「やっぱりいいわね。パリの街並みは。」
「街を見るためだけに来たのか?」
「まさか。私の弟子が合同訓練に参加してるから滞在してるだけよ。」
「弟子?お前、いつから弟子をとるようになった?」
「ニグレードを倒す前から。」
「一体いつの話だ……」
椿は外の景色をまじまじと見る。
「あんたも飲んだら?」
「俺はいい。」
「飽きたから?」
「そんなわけないだろう。」
男はドアに手をかける。
「もう行くんだ。」
「俺には俺の仕事がある。お前のように、弟子をとる暇はない。」
「ちょっと怒ってる?」
椿の言葉に、男は足を止める。
「何か私に文句があるんじゃない?」
「そんなわけ……」
「あんたは昔からそうだった。私に文句があるときは、物事を早く終わらせようとする。」
「だから……」
「まぁ別に、文句くらい、いってもいいわよ。ストレスが溜まる一方だからね。」
男は椿視線を向けられて動きが止まる。
「もう一度言おう。文句はない。」
男はそう言って部屋を出る。
「まったく、あんたは変わってない。アーロンドもそう。あんたら2人は何も変わってない。まっ、そのほうが話しやすいけどね。」
「ここが私の部屋か。」
美桜はベッドに触れる。
(ふかふかだ。これは熟睡できる。)
「そういえば、夕食っていつだろう。」
美桜は部屋から出て、夕食の時間を確かめに向かう。
「君も夕食が気になるのかい?」
美桜は後ろから誰かに話しかけられる。振り返ると、カーネリアが立っていた。
「ここのディナーは非常に絶品だ。楽しみにしているといい。」
美桜は驚いたような表情をしている。
「そうだ。君に渡したいものがあるんだ。」
そう言って、カーネリアは美桜に名刺を渡す。
「もし君が願うなら、僕は力になろう。それじゃ、ディナーの時間になったらまた。」
カーネリアはそう言ってその場から去る。美桜は名刺に視線を落とす。
(今の……感じ。気配を……感じなかった?)
美桜はしばらくして冷静になる。
「私、疲れてるのかな?」
額に手を当てながら廊下を進む。廊下の角でアメジストと出くわす。
「いかがなさいました?あまり体調がよろしくないように見えますが?」
「ごめん、なんでもないから。夕食の時間を調べに行くだけだから。」
「夕食のお時間になり次第、私がお迎えに参ります。それまでは部屋でお休みになって下さい。」
「わかった……」
美桜は足を引きずるようにしてゆっくりと進む。
「うん……」
美桜は部屋に戻ってベッドに飛び込む。
「顔色が悪いな。薬とかはないのか?」
「都合よくあると思う?」
美桜は額に腕をあてる。熱はないようだ。
「なんでだろ?」
美桜は体を起こす。ドアが開いてアメジストが部屋に入ってくる。
「お体のほうは大丈夫ですか?」
「どうなんだろ?医者じゃないから分かんない。」
「軽い診断ならできますが、いかがなさいますか?」
「お願い。」
アメジストは美桜の体を調べる。
「詳しくは分かりませんが、おそらく、呪いに近いものかと。」
「呪い?なんで?」
「分かりません。」
美桜はドアに視線を向ける。ドアの向こうから気配を感じる。
「誰かいるの?」
「なんだ、君の部屋だったのか。」
そう言ってカーネリアが部屋に入ってくる。
「呪いの気配を感じてね。種類を調べていたのさ。」
「部屋の前に立つのはどうかと思ういますが。」
「ははっ、そうだね。紛らわしい真似をしたことを、悪く思うよ。」
美桜はカーネリアのほうを見る。
(気配を感じた。さっきとは違う?私の状態は同じ。こいつ、何かが変。まるで別人のような。)
カーネリアは美桜の前に膝をつく。
「なるほど。この呪いは神経に異常をもたらすもののようだ。僕なら解除できる。」
そう言って、カーネリアは美桜の手を持つ。少しして、美桜は体が楽になるのを感じる。
「これでいい。君の体から呪いは消えた。」
「あなた様は、聞いていたよりも親切なお方のようですね。」
「当然さ。3日目の模擬戦に支障が出たら困るからね。」
カーネリアは部屋から出る。
(胡散臭い……)
美桜はそう思いながらベッドに寝転がる。
「おや?どうやら、ディナーの用意ができたようです。」
「わかった。」
美桜はベッドから降りて服装を整える。
「どうした?ずいぶん遅かったじゃないか。」
「ちょっとトラブルが……」
「なら呼んでくれればよかったのに。あなたに何かあったら大変だ。」
「並の事ではどうもならないけど?」
美桜はサーミルに先程のことを説明する。
「呪いだって?魔獣がいたのか?」
「いなかったよ。」
「となると、カーネリアが怪しいな。あの男と出会った直後に体調が悪くなったんだろ?」
「そう。その後、まるで知っているかのようなタイミングで私の前に現れた。そして私の呪いを解いた。怪しいにも程があるでしょ。」
「おや?僕の話をしてるのかい?」
2人の後ろからカーネリアが顔を覗かせる。
「急に女性の会話に入ってくるなんて……どういう神経してるんだ?」
「そんなことを気にしてたら、器の小さい人間かと思われちゃうよ?」
カーネリアは美桜の隣に座る。
「先に言っておこう。僕が君に呪いをかけた。君はそう思っているんだろう?残念だけど、その答えは違う。」
カーネリアはカップに注がれた紅茶を飲み干すと、雰囲気を変える。
「君たちは"グリモワール"という悪魔を知っているか?」
「悪魔?グリモワール?知らない。」
「私も同じだ。まず、グリモワールは本の名前じゃないのか?」
「その通り。グリモワールとは本の名前だ。話が逸れるが、僕は呪いについて研究している。これまで、幾つもの呪いの解読法を世に広めた。」
「じゃあやっぱりあんたが呪いをかけたんじゃ……」
「話は最後まで聞くものだ。僕は呪いについて調べていくうちに、あることを発見した。」
カーネリアは指で机をなぞる。
「呪いを使用した者は、少しずつ人間性を失う。それ以外にも、呪いは使用者によって効果も威力も異なる。中には即死級で強力な呪いも存在することがわかった。」
「じゃああんたが呪いをかけたんだ。そんなに詳しいなら、呪いの扱いぐらいは容易でしょ?」
「確かに、使うのは簡単だろう。ただ先程も言ったように、使用すれば人間性を失う。僕にはそんな勇気はないね。」
「話が逸れ過ぎだろ。グリモワールのことを話せ。」
サーミルはいつの間にかディナーを食べ終えていた。
「そう慌てるな。慌てるだけ時間の無駄だ。」
カーネリアはディナーに手をつけ始める。
「グリモワールは、元々ただの本だった。しかしある日、グリモワールの中に悪魔が忍び込んだんだ。中に入った悪魔は、本の中から呪いを撒き散らした。当然、人々はパニックに陥った。僕は呪いを解こうと奮闘した。しかし、僕はグリモワールの呪いについて何も知らなかった。つい先程まではね。」
「先程までは?」
「君にかけられた呪いを見た時、一目でわかった。あれこそ、グリモワールの呪いだと。」
「何か違いがあるの?」
「僕は今まで、様々な呪いを見てきた。そして、その中で最も強力な呪いこそ、君にかけられた呪いだった。」
カーネリアは立ち上がる。
「そこでだ。君にグリモワールを見つけてもらいたい。」
「はあっ?」
美桜は呆れたような声を出す。
「グリモワールは今も呪いを撒き散らしている。それに、君は一度グリモワールの呪いにかかっている。そのため、ある程度の耐性がついている可能性が高い。君なら安全にグリモワールを探せるというわけだ。」
「一応聞くが、それは本部に報告してあるのか?」
サーミルはカーネリアを警戒しながら質問する。
「するわけないだろ。証拠がなさすぎる。だからといって、行動しないわけにはいかない。これは極秘の調査なんだ。」
「はぁ、わかった。探しはするよ。」
「あなたがそう言うなら、私も時間があれば協力する。」
「助かるよ。さて、だいぶ待たせてしまったね。ディナーが冷める前に食べてくれよ?」
「本当に協力するのか?」
「被害が出てるらしいから一応ね。」
「まぁ確かに、フランスでは呪い関連の報告が多いとは思ったが、まさかそんなものがあるとは。」
サーミルはどこかに向かおうとする。
「どこに行くの?」
「このあと時間があるだろ?グリモワールを探しに行く。」
「そう。じゃあ、お願いね。」
「探さないのか?」
「私は別の用事があって……」
「そうか。わかった。アメジスト、ついて来てくれ。」
サーミルとアメジストは夜の街へと踏み出す。美桜は2人とは逆のほうに進む。
美桜は訓練場へと足を踏み入れる。中ではガーネットが待っていた。
「来たね。時間がないから、簡単に教えるよ。まずは、あなたがよく使う魔法を教えて。」
美桜は手に風を集める。
「風魔法ね。」
「あまり使わないけど……」
「風魔法は竜巻を発生させる魔法。じゃあ、早速使ってみて。」
美桜は風魔法を放つ。訓練場内に竜巻が発生する。
「威力はそれなりに高いわね。」
ガーネットは美桜の手を握る。
「魔力の流れは安定している。さっきの感覚で、もう一度。」
美桜は風を集め始める。ガーネットは魔力の流れを調べている。
(すごい。全く乱れていない。やっぱり、魔法の才があるんだ。)
「魔力は安定してる。じゃあ、竜巻を2つ作ってみて。」
「えっ?」
美桜は集めた風を放つが、竜巻は1つだけだ。
「2つなんて、できるの?」
「普通は無理だよ。改良すれば可能だよ。」
美桜はもう一度風魔法を使うが、何も変わらない。
「あなたは魔力が安定している。安定しすぎてるの。だから、少し難しいかもしれない。すうねぇ……」
ガーネットは方法を少し考える。
「魔力を適当に集めてみて。」
美桜は手に魔力を集めて風を生成する。風は先程とは違い、荒ぶっている。美桜は風を中央に向かって放つ。竜巻は一瞬2つに分かれるが、すぐに消えてしまう。
「要領はそんな感じね。あとは、維持するだけなんだけど、風魔法はこれが難しいからね。明日は魔法の訓練をするから、その感覚を明日の訓練で活かしてね。」
「わかった。」
2人は訓練場から離れて部屋に戻る。美桜は明日の訓練に備えて眠りについた。
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