紡ぐ者

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【第21章 紡ぐ者】

第4節 合同訓練ー2

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 カーネリアの部屋のドアからノックがする。
「入りたまえ。」
ドアを開けて、女性と男性が1人ずつ入ってくる。
「君たちが彼の同業者か??」
「あぁ、元同業者、だがな。あいつはどこにいる?」
「彼は今、客室でぐっすりと眠っていることだろう。」
「客室か。行くぞ。」
「待ちなさい。こうも簡単に場所を教えるなんて、絶対に裏がある。」
「今ここでは、イギリス支部との合同訓練を行っている。よって、客室はほぼ満室の状態だ。その中から彼を探すなんて、迷惑極まりない。それに……」
カーネリアはグラスに注がれたワインを飲み干す。
「彼の部屋には、もう1人面倒な者がいる。いくら君たちがプロでも、そいつには勝てないだろう。」
「俺たちはその道のプロだ。2人がかりならなんとかなるだろう。」
「それを考慮しての答えだ。君たち2人がかりでも、あいつには勝てない。というか、今この支部にいる者では、誰も奴には敵わない。」
「会わせるというのは嘘だったわけ?」
「僕は嘘はつかない。僕の言う事を聞けば、ちゃんと会わせてあげるよ。時が来たら、教えてあげよう。」
カーネリアはグラスを2つ取り出してワインを注ぐ。
「はぁ……お前の指示に従うのは癪に触るが、今は仕方ない。」
男性はワインを飲んで、窓の外を見る。
「今日は満月だな。そういえば、あいつが逃亡したときも満月だったな。」



 美桜は布団の中でモゾモゾと動く。布団がめくれて、カーテンの隙間から溢れた光が顔に当たる。
「もう……朝?」
美桜はベッドから降りて顔を洗う。
(そろそろ髪切ったほうがいいかな?)
「ん?」
部屋の外から誰かがノックする。ドアを開けると、サーミルが立っていた。
「どうしたの?」
「さっきロビーに行ったら、今日の訓練のペアが発表されていた。今日は双方の参加者の中からランダムでペアを作ったらしい。」
「あんたが目の前にいるってことは、私のペアはあんたってこと?」
「そうだ。それと、もう1つ言うことがある。どうやら今日の訓練は正午には終わるらしい。」
「なんで?」
「明日の模擬戦に備えて、個人の時間を設けたそうだ。万全の状態で戦ってほしいとのことだ。」
美桜は髪を結びながら話を聞く。
「そこでだ。午後からはグリモワールを探さないか?」
「確かに、探すとは言ったけど、昨日はあんたに任せきりだったしね。流石に今日は探さないと。」
「グリモワールについてなんだが、実はいくつか怪しい場所を見つけたんだ。詳しいことは訓練が終わったら話す。」
「わかった、じゃあ準備してくる。」
美桜は支度をする。髪をといている時、青が話しかけてくる。
「グリモワールにはあまり関わらないほうがいい。」
「なんで?」
「俺の知っている限りだと、グリモワールは全ての呪いを扱うことができる。しかも奴の能力はそれだけじゃない。奴だけが扱う特殊な呪いがある。古い書物にはそう記されていた。もし調査をするのなら、絶対に慎重さを欠くな。」
「わかった、肝に銘じておくよ。」
青は引っ込む。同じくらいのタイミングで、美桜は支度を終える。
「行こう。」
美桜はサーミルと共に、訓練へと向かう。



「ここだ。今日は魔力の訓練か。はぁ……」
サーミルはあまり乗り気じゃないようだ。
「私、魔法を使うの得意じゃないんだ。」
「なんの魔法が使えるの?」
サーミルは手に水を作り出す。
「水魔法なんだ。」
「作れるのは少量だけだ。鍛えたところであまり変わらない。」
「私も魔法はあまり得意じゃない。」
美桜は風を生み出す。
「これってもう、使っていいの?」
「一応、目標がある。あの的だ。」
サーミルは上にある的を指差す。
「あれに当てればいいの?」
「そうらしいが……」
的は2人よりも遥かに高いところにある。
「……届く?」
美桜は試しに風魔法を的めがけて放つが、途中で消えてしまう。
「何かにあたった?」
「結界があるのか。」
「じゃあつまり、的の近くに魔法を遠隔で発動しないといけないわけ?無理でしょ。」
2人が悩んでいると、背後からガーネットが話しかけてくる。
「できた?」
「いえ、まだ。あなたは?」
「まだよ。私がよく使う魔法が貫通魔法だから、結界が邪魔で仕方ないの。この結界は、魔法を通さないみたい。まぁ、突破法は自分で見つけるわ。」
ガーネットは美桜の耳元で呟く。
「昨日の復習だと思って。竜巻を2つ作ることを忘れずに。」
美桜は黙って頷く。
(魔力を乱す、魔力を乱す、魔力を乱す。)
美桜はあることに気づく。
(魔力を乱したら狙えなくない?)
美桜は魔法を消す。どうすればいいのか分からないのだ。
「そういえば、この道具たちは何?」
美桜は足元にある箱に入った様々な道具を指差す。
「訓練で使用していい道具らしい。これは……」
サーミルは箱からピストルを取り出す。
「そこの弾を取ってくれ。」
美桜はサーミルに弾を渡す。サーミルは弾丸をしげしげと見つめる。
「これなら……」
サーミルは弾に細工をし始める。弾には魔力が込められた。
「それでいいの?」
「物は試しだ。」
そう言って、サーミルはピストルを構える。引き金が引かれると、的めがけて弾が放たれる。弾は結界をすり抜ける。
「え?なんで?」
「今だ!」
サーミルは弾に込められた魔力を解き放つ。弾から水が溢れ出し、的を覆う。
「何をしたの?」
「このタイプの結界は、魔法は通さないが純粋な魔力は通すんだ。簡単な話、何かに魔力を込めて的の近くまで投げれば、あとは魔力を解放して魔法を使うだけ。気づければ簡単だが、気づかないと中々難しい。」
サーミルが説明をしていると、どこからか、何かが割れる音がする。
「あ、割れた。」
上を見ると、結界に穴が開いている。どうやら、ガーネットが魔法で結界を貫通したようだ。
(もしかしてこの結界、そんなに頑丈じゃない?)
美桜はフルパワーで風魔法を使うが、結界はびくともしない。青が小さな声で助言する。
「当たり前だ。あいつとお前とでは、魔法の扱いに差がありすぎる。魔法が不得意なお前が、結界を割れるわけがない。」
美桜は正論を言われ、心に何かが刺さる。
「どうすればいいの……」
美桜はかなり悩んでいる。
(普通に使うだげだと、絶対に当たらない。)
美桜は試しに、魔法を連続で放つ。結界をずっと見ているが、表面上の変化はない。美桜は結界のある部分に注目する。
(あの辺りだけ魔力が薄い?)
しかし、変化はすぐになくなってしまう。
(まさか…)
美桜は同じ場所に魔法を当て続ける。見間違いでなければ、魔力が薄くなっている。
「もしかして、ずっと当て続ければ割れんるじゃ……」
美桜は魔力を乱しながら風魔法を使用する。竜巻は2つ発生するが、やはり、すぐに消える。
(2つの竜巻を維持できれば……)
美桜は風魔法を放ったあと、2つの竜巻が崩れないように魔力の流れを調整する。
「なぁ、少しいいか?」
サーミルが美桜に話しかける。
「どうしたの?」
「なんというか、あなたに合ってないんじゃないか?魔法の種類じゃなくて、魔法の形が。」
「魔法の形?」
「あなたの風魔法は、原型から殆ど変化していない。どことなしか、窮屈に見えるんだ。」
美桜は顎に手を当てて少し考えてみる。
「風魔法は、魔力を散らばらせて維持するものだ。たぶんあなたは、魔力を分散させるのが苦手だと思う。」
美桜は風魔法を放つ時、魔力を一箇所に集めて放つ。魔法は鋭利な刃物のようになり、ムチのようにしなる。
「風の刃……」
「助言ありがと。これで、的に当てれる。」
美桜は魔法を唱える。風はどんどん鋭くなり、一振すると、地面に傷ができる。美桜は風の刃を結界に向かって突き出す。風の刃は、結界に大きな衝撃を与える。
「もっと!」
美桜は風の刃を幾つ作って結界にぶつける。結界は徐々に弱まっていく。そして、ヒビが入り、攻撃し続けた部分が割れる。そのまま、風の刃は的を断ち切る。
「やった……やった、よ?」
美桜の体は急激な疲労に襲われる。
「魔力を消費しすぎたみたい。少し休ませて。」
サーミルは美桜に肩を貸す。
「次の場所に向かおう。」
「ゆっくりね。」
2人はゆっくりと次の場所に向かう。


「で、これは何?」
着いた場所には、透明な箱が机の上に置いてあった。箱の中には紋章が入っている。サーミルは、箱の横に立ててある看板を読む。
「なるほど。どうやら、紋章を手を使わずに取り出せばいいらしい。ペアの1人が取り出せば終わりらしい。」
「魔力で動かせと?」
美桜は体をほぐしながらサーミルに聞く。
「おそらくそうだろう。試しにやってみる。」
サーミルは紋章に魔力で掴む。持ち上げようとするが、紋章が思っているより重い。しかし、力を込めすぎると紋章を掴むことができない。
「だめだ。緻密な魔力操作と集中力が必要みたいだ。」
美桜もやってみるが、紋章を持ち上げることはできなかった。
「いっそのこと、足じゃだめ?」
「絵面的にだめだ。」
美桜は腕を組んで床に腰を下ろす。
「箱と机を壊すのはだめ?」
「何も言われてないからな。」
「まぁ、取れればいいでしょ。」
美桜は箱の上部を魔法で壊す。そのあと、机の足を切断する。机はこちら側に倒れて、箱の中から紋章が床に転がる。サーミルは紋章を拾う。
「さぁ終わった。撤収。」
(本当にこれでいいのだろうか……)
サーミルは少し心配になりながら美桜の後ろをついて行く。



 部屋に戻った美桜は、ソファに飛び込む。
「ちょっと休憩。」
美桜はカバンの中から茶菓子を取り出す。青が出てきて美桜を指でつつく。
「さっき昼飯を食ったばかりだろ。」
「食後のティータイムよ。」
青はため息をつく。美桜は青にクッキー食べさせようとする。青は口を閉じて拒否する。
「何も食べなくていいの?」
「我は龍神だ。普通の食い物で満足できるわけがないだろう。我が食らうのは魔力だけだ。」
青は誰かの気配を感じて、美桜の中に戻る。その直後にサーミルがドアを開けて入ってくる。
「ノックぐらいしなさいよ。」
「悪かったな。でも、今はそういう場合じゃない。召集がかかった。今すぐロビーに来いとのことだ。」
美桜は紅茶を飲み干すと、カップを机に置いて部屋をあとにする。



「全員揃ったようですね。」
ロビーでは、ホーリーが団員を集めていた。
「何かあったのかな?」
「たぶんな。」
「皆さんにお伝えしなければならないことがあります。」
ホーリーは話し出す。
「明日が最終日となっていた合同訓練ですが、急遽、延長することとなりました。」
団員たちからは戸惑いの声があがる。
「急なことで申し訳ありませんが、これは上層部の判断のもと決まったことです。どうかご理解のほどをよろしくお願いします。今後のスケジュールについては、もうしばらくお待ち下さい。」
団員たちはそれぞれの部屋へと戻る。
「なんで延長になったの?!」
部屋に着いた美桜はサーミルに向かってそう叫ぶ。
「それを私に言われても……上層部が決めたと言っていたが、あの人よりも上部の人間の指示なのか?」
2人が話し合っていると、部屋の外から誰かがノックする。美桜がドアを開けると、カーネリアが立っていた。
「またあんた?」
「今回はちゃんとノックをしたんだ。別にいいだろ?」
「そういう問題じゃない。」
カーネリアは部屋に入って、机の上に1枚の紙を置く。
「さっきの召集の裏で、スケジュール表を作っていたらしい。」
2人は紙を覗き込む。
「4日目が追加された。内容は、そうだな……明日のものを団体戦とすれば、4日目は個人戦だ。」
「これって、参加者全員なのか?」
「あぁ、今日と同じだ。全員がランダムで割り振られてトーナメントを行う。」
カーネリアは紙を回収すると、ソファに座って足を組む。
「話を変えるが、グリモワールの件はどうなった?」
「怪しい場所を幾つか見つけた。今日、美桜さんと調査しに行くところだ。」
「もうそこまで進んだのか。どうやら君たちは、非常に優秀な人材らしい。」
「いや、昨日は私、用事があって探してないよ。」
美桜が申し訳無さそうにカーネリアに告げる。
「どちらにせよ、君たちに頼んで正解だったよ。報酬は豪華にしておかないと割に合わないな。」
「じゃあ私たちは、グリモワールを探してくる。」
サーミルは美桜を引っ張って部屋を出る。
「それじゃあ僕も、調査を再開しよう。」
カーネリアは部屋を出て、廊下を進む。



「見つけたぞ。」
先日、カーネリアと話していた2人の人物は、1人の魔道士を呼び止める。
「久しぶりだな。一体何年ぶりだ?
……カーリス。」
玖羽はカーリスに反応する。
「左腕を失ったのは本当らしいな。一体どんな修羅場に遭遇したんだ?」
玖羽はただ睨むだけで口を開かない。
「おい、少しは喋ったらどうだ?」
男は玖羽に近づく。玖羽はその場から動こうとしない。
「消えろ、俺の前から。」
玖羽は男に向かって殺意に満ちた眼差しで言葉を投げる。
「変わっちまったな、お前は。」
「さっさと失せろ。死にたいのか?」
玖羽は男のほうを振り向く。男は咄嗟に後ろに跳ぶ。
「お前……なんだ……それは?」
2人が玖羽の顔を見た瞬間、2人は後ろから誰かに殴られる。
「やっぱり、あんたを1人にしておくと、面倒な奴らに絡まれるわね。」
玖羽は一言も喋らず、前に進み出す。
「私との約束は守れてるみたいね。その制限はもう少しで終わる。それまでの辛抱よ。」



「ここだ。」
2人はサーミルがメモした怪しい場所に着く。
「廃墟じゃん。」
「こういうところには、よく変なものが転がってるんだ。」
「そう言って、何個の廃墟を探索した?今まで探した場所、全部何もなかったじゃん!」
サーミルは気まずそうに廃墟に入る。美桜は蜘蛛の巣を払いながらしぶしぶ中に入る。
「見ろ、書斎だ!」
サーミルが指さした先には、たくさんの本棚があった。
「ここならあるかもしれない。」
「まあ確かに。さっきまでの場所は、本一冊もなかったからね。ここまであると、少し期待するかも。」
2人は本を漁る。本を動かす度にホコリが舞う。
「一体……どれくらい……放置されてた……わけ?」
美桜はホコリを吸わないよう、袖で口と鼻を覆いながら探す。
「さぁな、私にも分からない。」
サーミルは本を一通り見尽くす。
「見た感じ、こっちはない。」
美桜は本をしまっていると、本棚の奥にある何かに気づく。美桜は本棚の中を漁る。
「何をしているんだ?」
「なんか、空間がある。」
「1人でいけるか?」
「一応。」
「なら私は、別の部屋を探してくる。」
サーミルは2階へと登る。美桜は本棚の奥を手探りで漁る。
(何もない?ただ空間があるだけ?)
美桜が不思議に思っていると、青が美桜に提案する。
「本棚をどかしてやろうか?」
「じゃあお願い。」
青は本棚を軽々と持ち上げる。本棚の奥には、四角い穴ができていた。中には1つの箱が置いてあった。箱を開けると、1本の鍵が入っていた。
「なんで?」
美桜は青を戻し、サーミルを探す。
「あ、いたいた。」
「どうした?何かあったのか?」
「鍵があったよ。」
「鍵か。そういえば、廊下の突き当りに鍵のかかったドアがあったんだ。」
2人はドアの前に向かう。ドアの鍵穴には鍵がきれいに入る。
「開いた……」
ドアの先には、一冊の本が机の上に置かれていた。
「これ?」
美桜は本を手に取ってホコリを払う。他の本とは違い、異質な感じがする。
「何か変わったところはあるか?」
「触ってみて。私の間違いじゃなければ、魔力が流れてる気がする。」
サーミルは本を受け取る。思ったよりズッシリとしている。
「確かに流れているな。しかしこれは、いくらなんでも少なすぎるような?」
「でも他のとは違うでしょ?」
「一応持って帰るか。」
2人は廃墟から出て支部に帰る。



「お、戻ってきたか。」
支部の中庭で、カーネリアがベンチに座っていた。
「とうだ?何か収穫はあったか?」
「これくらいだ。」
サーミルはカーネリアに本を渡す。
「魔力がこもってるな。これがグリモワールだろう。」
カーネリアは2人に券を渡す。
「これはなんだ?」
「最高級レストランのお食事券だ。今日のディナーを楽しみたまえ。」
美桜は腕時計を見る。
「時間もなかなかいい頃合いね。どうする?」
「折角だ。ありがたく使わせてもらう。」
2人は券に書いてあるレストランに向かう。
「行ったか。……さて、いつまで黙ってるつもりだい?息を潜めるのは嫌いだろ?」
カーネリアは本に話しかける。
「へぇ、君、意外と鋭いねぇ。」
本が怪しく光、中から女性の声が聞こえる。
「君は僕が誰なのか知っているのかい?」
「当然さ。君は呪いの悪魔、だろ?」
「はははっ!そう正解。僕は悪魔。君たち人間とは違う。」
悪魔はカーネリアをバカにするように笑う。
「本当に耳障りだ。流石は悪魔と言ったところか。」
「随分と冷静だねぇ。もしかして、僕に勝てると思ってる?」
「そんなことは思っていない。だけど、君の倒し方は考えていたね。」
悪魔は笑い声をあげる。
「君、本当に馬鹿だね。僕の能力は知っていても、実力を知らないんじゃ勝てないよ?それすら理解できないほど馬鹿なのかな?」
カーネリアは口角を上げる。
「やっぱり悪魔だな。人をバカにするのが本当に上手い。」
「ねぇムカついた?もしムカついたなら、いいことを教えてあげる。この本を燃やしてみてよ。そうしたら、そのイライラも解消されると思うよ?」
「燃やす?いいね、確かに面白そうだ。だけど、それは僕たちにとっては悪手だ。君を有利にさせてしまう。」
「ちぇっ、知ってるのかよ。話す相手を間違えたな。」
悪魔は本の中で暴れているようだ。
「まあその代わり、僕たちは君を殺せないけどね。本の中にいられては、手出しできない。だけど君は、本の中からでも呪いを撒き散らすことができる。」
「そうだったねぇ。じゃ、君には呪われてもらおっか。」
悪魔はカーネリアに向かって呪いを放とうとする。しかし、何も起こらない。
「あれ?不具合?いや、君、何をしたの?」
「この本にかけられた封印を強めた。よって君は、呪いを撒き散らすこともできなくなった。」
「はぁぁぁ?!ふざんけなよ!私のアイデンティティを奪ってんじゃねぇよ!」
悪魔は怒りをあらわにする。
「意外とすぐに怒ったね。怒ったら一人称も変わるんだ?」
「一人称が変わる?何言ってるの?僕も私も、両方とも僕の一人称だよ。」
(情緒が安定しないのか?まあそのほうが悪魔っぽいか。)
「今、悪魔っぽいって思ったでしょ?そういう君も、人間のくせに、だいぶ悪魔に近い感性をしている。悪魔として、理想の感性だ。」
「僕は悪魔になる気はない。ただ、頭のネジが飛んでるだけだ。だけど、君たちにとっては、僕みたいなのが一番嫌いなんだろ?」
悪魔は舌打ちをする。
「機嫌を損ねたか。君は、グリモワールは相当短気らしい。」
「グリモワール?あぁ、僕の仮称か。いいね、今日から僕はグリモワールと名乗ろう。名前がなかったから丁度いい。」
悪魔は機嫌がよくなったようだ。
「僕の名前を決めてくれたお礼として、僕が復活した時、一番最初に殺してあげるよ。感謝しなよ?」
そう言って、悪魔は静かになる。
「名前を決めたわけじゃないけどな。」
カーネリアは廊下をゆっくりと進む。廊下を少し進んだところで、誰かの気配を感じる。
「僕に何か用か?神宮寺 椿。」
廊下にある柱の裏から椿が姿を現す。
「君みたいな大物がここにいるなんて、一体何を考えているんだ?」
「単刀直入に言う。その本を私に渡せ。」
椿はカーネリアに手を差し伸ばす。
「渡すつもりはないけど?」
「私が持っていたほうが安全だ。お前と私とでは実力に大きな差がある。仮に封印が解けた時、どちらの近くにあったほうが安全かは一目でわかるだろう。」
「君を信頼していいという証拠はないけど?」
「私がお前より強いというのが証拠だ。」
カーネリアはため息をつく。
「君がなんと言おうと、僕はこの本を渡すつもりはない。それに、初対面の人間をいきなり信用するなんて、僕には無理な話しだ。」
「それもそうか。」
椿は背中を向けて、その場を去ろうとする。
「もう行くのかい?」
「奪う気が失せた。」
「そうだ、1つ聞かせてくれ。君はいつ、あの2人に気づいたんだ?」
椿は足を止める。
「あの2人が言うには、君がまるで、最初から知っているかのようだったらしい。」
「玖羽を監視していた。それだけよ。」
「ふぅん、そうか。時間を取ったね。」
椿とカーネリアはそれぞれ別の方向に進む。



 椿が部屋に戻ると、玖羽はソファに座ってくつろいでいた。
「体調に変化はあった?」
「ないぜ。」
「今のところは順調ね。しばらくは安静にしてなさいよ。」
「とは言っても、明日から実践だけどな。」
「どうするかはわかってる?」
「もちろんだ。」
玖羽はベッドに入る。
「夕食は?」
「起きたら食う。」
椿は窓の外を見下ろす。
「さてと、明日からは優秀な人材を探さないとね。」
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