紡ぐ者

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【第22章 人智を超える者】

第3節 決闘

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「……来たか。」
ギルガラントは斧を床に突き刺す。椿は薙刀を持たず、刀を腰にかけているだけだった。
「お前のいつもの武器はどうした?」
「今回は必要ない。」
椿は刀に触れる。魔力は安定している。
「俺が斧を引き抜いたら開始の合図だ。引き抜いた瞬間に攻撃をしても構わない。」
「あんた……戦闘になると性格が変わるの?」
ギルガラントは斧に手をかける。
(聞いてないし……。)
少ししてからギルガラントは斧を引き抜き肩に乗せる。椿は動こうとしない。ギルガラントは椿の行動に少し驚く。
(ほう、思っていたより好戦的ではないようだな。なら……)
ギルガラントは椿に向かって斧を振り下ろす、斧から巨大な斬撃が椿に向かって放たれる。斬撃は椿に衝突し、突風が巻き起こる。
「これで終わりではないだろう。」
突風の中に椿の姿が見える。突風が晴れると、椿は無傷で立っていた。
「ふっ、まさか、刀を抜く必要さえないとはな。」
椿は刀を抜く気配はない。ギルがランドに向かってゆっくりと歩み寄る。
「ほう、格闘か。面白い!」
ギルガラントは椿に向かって拳を放つ。椿はギルガラントの拳を受け流し、ギルガラントを床に蹴り倒そうとする。ギルガラントは床に手をついて態勢を整える。
「中々の体術だ。だったら、こいつはどうだ?!」
ギルガラントは床に手をつく。地面から無数の岩が飛び出し、椿に向かって飛んでいく。椿は刀で岩を弾き落とす。
「刀を抜かずに使うやつは初めて見たな。」
ギルガラントは斧を取り、椿に向かって投げる。椿が斧を躱すと同時に、ギルガラントは椿の周りの床から岩を突き出す。椿は床を蹴り、宙に跳んで岩を躱す。
「………。」
椿はギルガラントを見下ろす。ギルガラントは空中の椿に向かって岩を飛ばす。椿は岩を躱すと、岩を蹴ってギルガラントに向かって突っ込む。
「ぐうぅぅっ!」
ギルガラントは椿に蹴飛ばされる。
(なんて威力だ……。)
椿の足から魔力が消え去る。
「魔纏を使えるのか?」
「どうかしら?」
「なら、俺も手を緩める必要はないな。」
ギルガラントは斧を振りかざす。斧に魔力が集まりだす。
「これが、裁定者ギルガラントだ!」
ギルガラントは椿に向かって斧を振り下ろす。凄まじい衝撃が裁判場全体を襲う。
「ぐっ……。」
ギルガラントの目には、刀で攻撃を受け止める椿の姿が映る。
「まだ鞘から抜かないか!ならば、これは……どうだ!」
椿の周りの床から、無数の鋭い岩が飛び出す。椿は刀を振り、岩を粉砕する。ギルガラントは斧を椿目掛けて振り回す。椿は斧を刀で受け流す。斧と刀がぶつかる度に重厚な音が辺りに響く。
(一撃が重い。連続で受け続けるのは危険。どうやって抜け出すのやら……。)
椿は斧が振り下ろされた瞬間、受け流すのではなく左へと跳び斧を避ける。斧は床に振り下ろされる。その一瞬の隙を椿は見逃さない。椿の手に魔力が集まり、椿はその手でギルガラントの背中に
触れようとする。
「まだ……終わる気はないぞ!」
ギルガラントは斧を振り回す。椿は咄嗟に斧の軌道から脱出する。
(……とんだ馬鹿力ね。どういう筋肉の使い方してるわけ?)
ギルガラントは斧を担ぎ、椿の攻撃に備える。
「カウンターでもするつもり?」
「攻めが得意なお前には、カウンターは有効な手段だろう?」
「確かにそうだけど……、あんたが私の攻撃を殺しきれるという根拠はあるわけ?」
「ふんっ、気合で耐えるまでだ!」
(こいつ……、裁定者とかいうわりにとんだ脳筋じゃない。でも、その脳筋が私の1番嫌いな相手なんだけど……。)
椿は刀に手を掛けるが、抜くのを惜しむ。
(またか……。)
椿は手に魔力を集め、ギルガラントに接近する。椿はギルガラントに向かって拳を突き出す。ギルガラントは椿の攻撃を押し払い、受けた攻撃の衝撃を椿に向かって放つ。椿は態勢を崩すが、すぐに立て直しギルガラントに連続で刀を振る。ギルガラントは斧で攻撃を防ぎ反撃に転じようとするが、椿の連撃を前に、攻撃をすることができない。
(まったく隙がない……。継続的な攻撃はカウンターの明確な弱点だ。それを理解しての攻撃か。)
椿は攻撃の手を緩めない。ギルガラントの体が少しずつ後退している。
(早くガードを崩せ……。)
椿は何かを焦っている。それに気づいギルガラントは、ガードを解き斧を振りかざす。椿はその隙を狙おうとするが、咄嗟にギルガラントから距離をとる。
「どうした、攻撃は終わりか?」
「あんた……、今、何をしようとしたの?」
「何も?」
「あっそ。」
椿はギルガラントの動きに警戒する。幸いにも、ギルガラントはすぐにこちらに攻めかかってきた。2人のぶつかり合いが再び始まる。
「腕が痺れてきたんじゃないか?」
「それは、あんたでしょ!」
椿は斧を弾く。ギルガラントは斧の重さでバランスを崩す。椿はギルガラントを踏み倒し、刀を首に当てる。
「あんたの負けよ。」
「そうか?まだ負けていないと思うが?」
「何を言って……」
椿が困惑していると、背後からギルガラントの斧が椿目掛けて飛んでくる。椿はなんとか反応でき、刀で斧を防ぐ。ギルガラントにはその隙に逃げられてしまう。
「まだ刀を抜かないのか?」
椿は刀に視線を落とす。
「抜かない。」
「そうか……。なら悪いな。俺は更に力を解放させてもらう。」
ギルガラントの斧が光だし、斧が2つに分裂する。1つは魔力でできているようだ。
「今度は2つで行かせてもらおう。」
椿は刀を構えるが、鞘から抜くことはなかった。ギルガラントは椿に向かって魔力の斧を投げつける。椿は斧を躱すが、ギルガラントがもう1つの斧を振り下ろしてくる。椿は斧を刀で受け止めるが、投げた斧がこちらに飛んでくる。椿はギルガラントを押しのけ、魔力の斧を刀で破壊する。
「こんなもの?」
椿が刀を見ると、少し魔力が溢れている。椿は咄嗟に刀の魔力を抑える。
(なんで?鞘に負担をかけすぎた?そもそも、私の魔力で抑えてあるから鞘は関係ない。)
椿は冷静になれと自分に言い聞かせる。ギルガラントは斧を再び分裂させる。今度は3つに増えた。
「さぁ、この数をいなせるか?!」
2つの魔力の斧が左右から襲いかかる。椿は刀で薙ぎ払うが、斧を遠くに飛ばしただけで破壊することができなかった。
「ちっ、壊すたびに頑丈になるのか……。」
「御名答。よって、斧は壊さないほうがいいぞ。」
椿は魔力の斧を避けるが、ギルガラントの持つ斧がいつ飛んでくるかにも警戒する。しかし、ギルガラントはいつになっても仕掛けてこない。
(私を消耗させる気?だったら、今が叩き時か……!)
椿は魔力の斧を踏み台にして、一気にギルガラントに近づく。刀がギルガラントに触れる直後、椿は刀を捨てて咄嗟に退避しようとする。
(しまっ……間に合わっ……。)



「…………。」
「私の………負け……だ。」
1人の神が沈んだ。椿は自分の腹部に手を当てる。手には生暖かい感触がある。空から神の声が聞こえてくる。
「よく私を倒した。褒美に、貴様が望むものをなんでも1つだけ与えよう。」
「……いらない。」
「は?」
「いらないって言ってるでしょ?聞こえてる?」
「ふむ……お前みたいなやつは初めてだ。私と戦った者はいずれも何かを求めてここに来た。しかし………貴様は何も求めていない。神である私を倒して、何もいらぬとは……とんだ狂人だ。」
「狂人?誰のこと?」
「貴様しかおらんじゃろ。」
椿は傷を確認するが、いつの間にか治っている。
「こんなところで死人を出したいほど私は腐っておらん。それで、貴様は何を望む?」
「………1つ聞くが、何かをあんたに渡すこともできるか?」
「もちろん可能だ。だがそれでは、貴様にとってなんのメリットにもならん。」
椿は自分の手を見る。手を強く握ると、椿は神に話しかける。
「私は強くなりすぎた。もう俗世では、人として生きていくのは無理だろう。」
「貴様のような人間はいくらでも見た。だが、貴様のように強すぎることを嘆くやつは1人としていなかった。まさか……力を奪うとでも言うのか?」
「そんなことは言わない。ただ、私から2つのものを奪ってほしい。1つはここでの記憶と、もう1つ……」


「私から、"覚悟"を奪ってほしい。」



(そうか……私は一度、神を殺したのか……。その時、私はこの刀を抜いた。私はその戦いの末、そこでの記憶と、己の覚悟を捨てた。)
「覚……悟………。」
椿は刀に手を触れる。刀からは魔力が溢れている。
(魔力が溢れている……。私が覚悟を取り戻しつつあるからなのか……。)
椿は目を開けようとするが、瞼を固まっているかのようにピクリとも動かない。
(私は……死んだ……のか?いや、体が………痛い。死んではいない……。)
天垣とアーロンドは今の状況に目を疑う。
「椿が………負けた……?」
「流石の椿でも、相性には敵わないようですね。」
アーロンドは険しい表情を崩さない。どうやら相当動揺しているようだ。
「嘘……でしょ……?」
美桜は自分を落ち着かせようとするが、一向に落ち着かない。
「ふぅ、うるせぇな。」
美桜はコンパルゴの言葉で体が固まる。
「あの女が、これでくたばるようなやつに見えるか?」
「えっ?」
「少なくとも、俺にはそうは見えねえ。あいつは、正真正銘、本物のバケモノだ。」
椿はゆっくりと立ち上がる。体中に血液が付着している。椿が倒れていた場所はボロボロに砕けている。
「立った……」
ギルガラントは椿に向かって魔力を斧を飛ばす。次の瞬間、魔力の斧は椿に破壊される。ギルガラントはその光景に驚きを隠せない。
(今……何が起きた……?刀を振ったか?俺には……振っているようには見えなかった……。)
椿はゆっくりとギルガラントに向かって歩く。
「くそっ……」
ギルガラントは斧を分裂させ、5つの魔力の斧を椿に飛ばす。椿は2つの魔力の斧を刀で破壊する。残りの3つは謎の力で破壊される。椿の視線がギルガラントに向けられる。ギルガラントは椿に見られた瞬間、体が凍りつくような感覚に襲われる。
(なんだ……!今の感覚は?!いや……集中しろ……。)
次の瞬間、椿は刀に手をかけ、柄を強く握る。
「まさか……抜く気か?!」
ギルガラントは攻撃しようとするが、本能的に防御に徹する。椿は深呼吸すると、刀を少しずつゆっくりと引き抜き出す。刀身が出てくるにつれて、溢れる魔力が増えてくる。刀が完全に抜かれた瞬間、刀から抑えられていた魔力が全て解き放たれる。魔力は爆発するように広がる。
「くっ……ぐおぉぉぉっ!」
ギルガラントは斧の後ろに隠れる。天垣とアーロンドは傍観席全体に結界を張り、全員を守る。
(なんだこの魔力は……。あまりにも濃度が高すぎる。常人が受ければ簡単に失神するぞ。)
広がった魔力が一箇所に集まりだす。魔力は椿に集まっているようだ。
「まさか……魔力を吸収しているのか?!」
「やめろ!それではお前の体が保たない!」
ギルガラントは椿を止めに入るが、魔力に阻まれて椿に近寄ることができない。
(もう……覚悟はできた。)
椿は広がった魔力を全て吸収する。裁判場は静寂に包まれる。
「何も……起きない?」
ギルガラントが様子を見ていると、椿の体から魔力が溢れ、椿の体に纏わりつき始める。
「今度はなんだ?!」
ギルガラントが戸惑っていると、纏わりついた魔力が刃の形となってギルガラントに襲いかかる。ギルガラントは斧で防ぐが、遠くへと吹き飛ばされる。
(ただの魔力の攻撃に、なぜこれほどの威力が……?)
椿はゆっくりと瞼を開く。椿の右目から魔力がオーラのように溢れている。
「……来なさい。あんたに、絶望を見せてあげる。」
ギルガラントは一瞬躊躇するが、斧を構えて椿に接近して振り下ろす。斧と刀がぶつかった音が裁判場に響く。椿は斧を掴み、そのままギルガラントを壁に向かって放り投げる。ギルガラントは咄嗟に受け身をとる。この行動に、ギルガラントは困惑する。
(どこにそんな力が……まさか、あの魔力か?!)
椿の手を見ると、魔力が集まっている。ギルガラントは斧を持ってすぐに走り出す。椿はギルガラントに向かって集めた魔力を放つ。魔力は凄まじい速度の光線となって壁を突き破る。
(威力、範囲、速度。どれをとってもまったく隙がない……。人間ができる技とは到底思えない。)
椿はギルガラントの目の前に現れ、刀を勢いよく振り下ろす。ギルガラントは斧で防ぐが、とてつもない負荷が腕にかかる。ギルガラントが態勢を崩した瞬間、椿はギルガラントを蹴り飛ばす。ギルガラントの体は勢いよく壁に打ち付けられる。
「………っ?!」
ギルガラントは立ち上がって椿を見る。魔力の刃がこちらに向かって伸びてくる。
「まずい、なっ!」
魔力の刃は壁に勢いよく突き刺さる。ギルガラントは前方に飛び込んで魔力の刃を躱す。
「だあぁぁぁっ!」
ギルガラントは斧を椿目掛けて振り下ろす。椿が刀を振ると、魔力の波がギルガラントに覆いかぶさる。
「ぐっ……!」
ギルガラントは斧に掴まり、なんとか持ち堪える。魔力の波はドーム状に形を変えてギルガラントを包み込む。
「もう逃げられない。」
椿はギルガラントに刀を向ける。
「範囲を狭めた程度で、俺に勝ったと思うなよ!」
ギルガラントは椿に向かって斧を振り下ろす。刀と斧がぶつかりあい、空気が揺れるのを感じる。椿はギルガラントの斧を涼しい顔で受け止め続ける。
「このっ……」
ギルガラントは椿から距離をとる。椿はギルガラントを逃がすまいと、一気に距離を縮める。
「やっぱり、俺を逃がす気はないか……。」
椿が刀を振るが、ギルガラントは斧で刀を防ぐ。刀から受けた衝撃を、ギルガラントは宙に向かって解き放つ。天井付近から、巨大な魔力の斧が椿目掛けて降ってくる。
「………。」
椿は刀をしまう。魔力が刀に吸収される。全て吸収し終えると、椿は自身の頭上で刀を引き抜く。刀身が魔力に包まれている。椿が刀を抜き終えると、魔力の斧に向かって刀を振る。刀から出た魔力が斬撃となって魔力の斧と衝突する。その瞬間、空間を揺るがすほどの衝撃が裁判場全体を襲い、本部の至る所まで広がる。
「なんて威力だ……。」
裁判場の天井には巨大な穴ができてしまっている。
「まだ続けるつもり?」
ギルガラントは武器をしまう。
「もう勝敗は決まった。僕の負けだ。」
椿は刀を鞘にしまう。体に纏わりついていた魔力が霧のように消え去る。椿は薙刀を取り出して、杖の代わりにして自身の体を支える。
(流石に無理しすぎたかも……)
「おい、何か来るぞ。」
九尾が椿に危険を知らせる。椿は天井に開いた穴を見上げる。
「まさか……」
次の瞬間、建物全体が大きく揺れる。そして、天井の穴から異形の姿をした巨大な魔獣が侵入してくる。魔獣は床にベチャッという気味の悪い音を鳴らして着地する。
「邪魔だ…」
椿の刀が、魔獣を全身を斬り裂く。魔獣の体の所々が切断され、肉片がボロボロと床に降り注ぐ。
「はああっ!」
天垣は大剣に魔力を込めて渾身の一撃を魔獣にお見舞いする。魔獣は断末魔を上げて地面に倒れる。
「図体だけか…」
しかし魔獣は中々消えない。それどころか少し様子がおかしい。千切れた肉片が魔獣に集まりだし、みるみるうちに魔獣の体が再生していく。
「攻撃が……効いていない……?」
「こいつは私たちがなんとかできる相手じゃない。」
椿は戸惑う天垣を後退させる。
「あんたに任せるわ。鶴城 玖羽。」
魔獣の目の前に玖羽は勢いよく降り立つ。
「了~解。ちなみに、フルパワーで問題ないか?」
「思いっ切りやっちゃって問題ないわよ。」
玖羽は魔力を解き放つと、体に赤黒いオーラが現れる。赤黒いオーラは羽衣のように形を変える。
「さぁて、全て……ぶっ壊してやるよ!」
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