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【第21章 紡ぐ者】
第7節 同士討ち
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「ここが迷宮?」
美桜は不思議な空間にいた。レンガでできた一本道だ。辺りは薄暗く、曲がり角の陰には何かが潜んでいそうな気がした。手のひらを見ると、黒いコインが持たされていた。
「ん?」
美桜の足に何かがあたる。その直後、美桜の目の前から槍が生えてくる。
「ひいっ?!」
槍はスルスルと地面に引っ込む。
(ガチすぎるでしょ……)
美桜の首を冷や汗がつたう。青が罠のスイッチに触れる。
「ちょっ?!」
しかし罠は作動しない。
「なるほど、1回だけしか発動しないらしいな。」
「はぁ、ビックリした……」
美桜は胸を撫で下ろす。同時に、青に嫌悪の目を向ける。
「わかったわかった、勝手なことはしない。」
青は逃げるようにして美桜の中に戻る。
「ホントにわかったの?」
青は返事をしない。
(はぁ、なんでこうも扱いが難しいのやら……)
美桜が進んだ先には分かれ道があった。
「う~ん、そうだ。こんなときは……」
美桜は薙刀の柄を地面につけて手を離す。薙刀は左に倒れる。
(適当だな……)
青は心の中でため息をつく。
「だいぶ歩いたよね?」
美桜は青に聞く。
「ん?あー……そうだな。」
「……寝てた?」
「いや寝てないぞ?!」
「いや、別に寝ててもいいんだよ?2回戦であんたたちを使うつもりはないし。」
「それはそれでなんか嫌だな。」
美桜は青の顔を掴む。
「おい離せ!」
「一回やりたかったことがあるの。」
美桜は青のたてがみに顔をうめる。
「やめろー、吸うなぁー!」
「すぅー、はぁ~♪」
美桜はスッキリした顔をする。
「水の匂いがする~♪」
「なぜ水?まず水の匂いってなんだ?」
青が戸惑っていると、通路の陰から誰かの気配を感じる。
「誰だ?」
青が問いかける。
「ははっ、やっぱり気づかれるか。」
カーネリアが笑いながら陰からゆっくりと出てくる。
「またあんた?」
「これが運命ってやつなんじゃないか?」
カーネリアはトランプをシャッフルしながら近づいてくる。
「どっか行ってくれない?あんたにかまってる暇なんてないんだけど。」
「そう嫌悪しないでくれ。僕は君に、朗報を持ってきたんだ。2回戦に勝つ方法をね。」
「それは気になるわね。話だけは聞いてあげなくもないわ。」
「ありがとう、それでこそ君だ。」
カーネリアはトランプを混ぜるのをやめる。
「2回戦に勝つ方法。それは、他の参加者を殺すことだ。」
「……は?」
美桜は言っている意味が理解できない。
「そのままの意味だ。理解は難しくないだろう。」
「いや……その考えに至る理由が分かんないんだけど?」
「最初に言わせてもらおう。この迷宮から出るのは、ハッキリ言ってほぼ不可能だ。」
「なんでそう言い切れるの?」
「君に会うまでに、僕はかなりの距離を歩いたんだ。まず、白いコインが見当たらない。それに道中、他の参加者も見つからなかった。1人ぐらいは見つかると思ったが、見つかる気配がなかった。おそらく、この迷宮はとんでもないほど大きいんだろう。」
「で、他の参加者を殺すと。……狂ってるの?」
「いいや、これは元から仕組まれていたことだろう。つまり、元から迷宮から脱出させるつもりなんてなく、参加者同士で殺し合いをさせるのが目的だったんだ。」
「なんでそうなるの?」
「彼女の言葉を思い出してみなよ。失格の条件はなんだった?」
「迷宮内で死亡したら。」
「そうだ。じゃあ、迷宮内から強制送還される条件は?」
「迷宮で死亡したら……だけ?」
「違う。もう1つ、特定の条件を満たしたらだ。」
「それがどうしたの?」
「これらを踏まえて、この迷宮の仕様を照らし合わせてみてくれ。なぜこの迷宮内での死亡は、現実には適用されないんだ?」
「うーん、ん?」
美桜はしばらく考えるが答えが分からない。
「答えは簡単だ。死人が出ることをわかっているんだ。そうなったとき、特定の条件の内容もわかる。」
「……内容は?」
「ふんっ。最後の4人まで、生き残ることだ。」
カーネリアはトランプを再び混ぜ始める。
「そう。じゃあ行くわ。」
「おいおい、僕の話はまだ終わってないぞ。」
カーネリアは美桜を呼び止める。
「僕とチームを組まないか?」
「なんで?」
「参加者同士の殺し合いが起こるんだ。だったら孤立するよりも、固まって行動したほうがいいんじゃないか?」
「はぁ、チームなんか組まないわよ。私は1人で勝ちたいの。」
「へぇ、そうかそうか。」
美桜は薙刀に手をかける。
「僕はもう行くよ。くれぐれも、僕以外に殺されないように。」
カーネリアは美桜に背を向けると、あることを提案する。
「そうだ。これを1枚引いてくれ。」
カーネリアは美桜にトランプの束を裏向きにして見せる。
「なんで引かなきゃいけないの?」
「ちょっとした占いだと思ってくれたらいい。ほら、朗報を教えてあげただろ?」
美桜は渋々トランプを引く。美桜が引いたのはクイーンだ。
「これになんの意味があるの?」
「特に意味はないよ。」
美桜はトランプを返して通路を先に進む。カーネリアは美桜が引いたトランプを見る。
「クイーン……僕の予想通りだ。」
「あいつ……結局何がしたかったの?」
「我に聞くな。」
美桜は再び分かれ道にぶつかる。左右に道が分かれている。
「どっちに行く?」
「右だ。」
美桜が足を踏み出すと、下にあったスイッチを踏む。
「あ……」
しかし何も起こらない。
「作動したのかな?」
美桜は進もうするが、スイッチを踏んだ足が中々動かない。足を見ると、何かが巻き付いていた。
「うえっ……なにこれ?ネバネバしてる……」
美桜は巻き付いているものを剥がそうとするが、気持ち悪いため触れる気が起きない。
「剥がして……」
「嫌だと言ったら?」
美桜が剥がそうとすると、突然、巻き付いていたものが動き出して、美桜の体にまで巻き付いてくる。
「ぎゃーっ?!」
美桜は叫び声を上げる。すると、今度は床に穴が開く。
「え?嘘ぉぉぉぉっ?!」
美桜は穴の底へと落下する。
「……広すぎだろ。」
玖羽は迷宮内を彷徨っていた。壁沿いを慎重に歩いている。
(くそっ、参加者の1人も見当たらねぇ。)
玖羽は壁を手の甲で叩く。1つのレンガだけ、叩いたときの音が違う。
「これが罠のスイッチか?」
玖羽はレンガを短剣で押してみる。ガコッ、という音がして後方と前方の地面から柵が飛び出してくる。
「……閉じ込められたか。」
玖羽は柵に触れる。普通の金属でできている。
「これぐらいなら……」
玖羽は柵を蹴破って脱出する。
「ひゅぅー、脆い脆い。」
玖羽が走っていると、目の前の曲がり角からサーミルが飛びだしてくる。
「うおっ?!」
「うわっ?!」
2人はぶつかって地面に転がる。
「痛てて……」
「おい大丈夫か?」
玖羽はサーミルの手を引っ張る。
「すまない、あまり前を見ていなかった。」
「俺も注意してなかった。」
玖羽はサーミルの行動に注意する。
「お前は何をしていたんだ?」
「私はコインを探していた。あなたは?」
「俺は他の参加者を探してたぜ。」
「……今一瞬、寒気がしたのは気のせいか?」
「気のせいだろ。」
玖羽はサーミルの目を見て話を始める。
「そんなことより、ぶつかったお詫びとして、コインを探すのを手伝ってやるぜ。」
「いいのか?」
「あぁ。どうせ、ろくでもねぇ罠があるからな。1人で行動するより、複数で行動したほうが合理的だ。」
2人は一時的に協力関係となり、コインを探して迷宮を進む。
「おい。さっきから僕をつけているだろ?早く出てこい。」
祭鷹(サイオウ)は背後からついてきている参加者に向かって、地面に落ちていた瓦礫を投げつける。
「危ねぇじゃねぇか!人に物を投げるなと習わなかったのか?あぁっ?!」
「ちっ、うるさいのがでてきたな。」
祭鷹の背後にはノコギリを担いだ女性が立っていた。ノコギリには血痕が付着している。
「カトラリー、お前のお気に入りのライフルは没収されたのか?」
「あぁそうだよっ!有利すぎるからって没収されたよ!まったく……私だけ全力を出せないってどういうことだ?!」
(僕にあたるな……)
祭鷹はため息をついてから、カトラリーを威圧する。
「あぁもうっ!めんどくさいめんどくさいめんどくさい!お前を殺す!絶対にな!」
カトラリーはノコギリを手に取る。カトラリーは狂気じみた目をしている。
「はぁ、避けられそうにないな。」
祭鷹は指を鳴らす。
「武器を置け。フェアじゃないだろ?」
「うるせぇ!男なんだからそんなん気にすんな!」
カトラリーはノコギリを振り回しながら襲いかかってくる。祭鷹はカトラリーの下を滑って避ける。
「てめっ……人の股の下をくぐってんじゃねえ!」
「お前のタッパがでかいからだ。」
祭鷹は立ち上がると、カトラリーを地面に倒す。
「私を襲うとは……いい度胸だなぁ!」
カトラリーは祭鷹に向かって拳を突き出す。祭鷹はカトラリーの拳を簡単に受け流す。
「僕に格闘で勝てるとでも?」
「てめっ…調子に乗ってんじゃねえ!」
カトラリーは祭鷹に頭突きをする。
「つっ?!お前ぇ……」
祭鷹の景色が一瞬歪む。その隙に、カトラリーは祭鷹を突き飛ばす。
「死ねっ!」
カトラリーは祭鷹に向かってノコギリを振り下ろす。
「お前は怒るとすぐに周りが見えなくなる。そういうところは、直したほうがいいぞ。」
祭鷹はカトラリーの肩に手を置く。
「黙れっ!てめぇには関係ねえことだ!」
「そうか?」
祭鷹はカトラリーの真横の壁を足で踏みつける。
「お前は案外、僕の好みの女性なんだけどなぁ……」
「てめっ…なんでこんなときに口説こうとしてんだ?頭イカれてんのか?」
「あれおかしいな?お前にそんなことを言われるなんて。」
「うるせぇ。そもそも、なんで私よりタッパが低いのに口説こうとしてんのかが意味分かんねえよ!」
「僕が低いんじゃない。お前がでかいだけだ。」
「はあぁっ?!」
「僕のタッパは176だ。お前はどうだ?」
「てめぇはプライバシーってもんを知らねえのか?あぁ?!」
カトラリーは祭鷹の胸ぐらを掴む。
「182。」
「はっ?」
「お前のタッパだ。」
カトラリーの何かが切れる音がした。カトラリーは祭鷹を地面に投げ倒す。
「あぁイライする。ほんっとにプライバシーを知らないみてえだな!お前を殺す私が可哀相だ!」
カトラリーは腹を立ててどこかへ行ってしまう。
(やっぱりあいつは、単純だな。だが、まともに相手にするのは悪手なのは間違いない。彼女は仙級だが、天級相当の実力を持っている。いくら僕でも、かなり苦しい相手になる。)
祭鷹は立ち上がって汚れを払う。
「さて、面倒なやつは消えた。できれば平和的にクリアしたいが、最悪、他の参加者を倒すしかないな。」
カトラリーは爪を噛みながら歩いていた。
「ちっ、あの野郎……現実に戻ったら半殺しにしてやる。」
目の前に広い空間が現れる。部屋の真ん中には台座がある。
「まさか……」
台座には白いコインが置いてあった。
「よっしゃぁ!あとはでるだけだ!」
カトラリーはコインを回収すると、すぐさま出口を探しに走り出す。
「そんなに走ってどうしたんだい?」
カトラリーは誰かに声をかけられる。
「誰だてめぇ?」
「初対面の人に対して口が悪すぎないか?」
「っるせえ!邪魔すんな!」
「少し落ち着け、カトラリー。」
カトラリーの動きが止まる。
「なんで私の名前を知ってんだ?」
「僕は参加者全員の名前を把握している。当然、君のことも知っている。カトラリー。仙級魔道士。本名は不明。風の噂では孤児だったと聞いている。」
「どこの噂だよ……」
カトラリーはノコギリに手をかける。
「僕と戦うのはやめておいたほうがいい。」
「なぜだ?」
「お互いのためだからだよ。」
「そんなん知るかっ!」
カトラリーはカーネリアをノコギリで切りつける。カーネリアは軽やかなステップでノコギリを躱す。
「危ないなぁ。僕は君と話がしたいだけなんだ。」
「じゃあさっさと話せ!」
(君が凶暴だから話せなかったんだけどなぁ。まぁ、変に口にしたら更に面倒になりそうだから言わないでおこう。)
「僕と協力するか、僕にコインを渡せ。おっと、殺し合うという選択もあるね。」
「やっぱり殺し合うのが一番だろ!って言いたいが、今は状況が状況だ。癪に障るが、協力してやるよ。」
カトラリーはノコギリから手を離す。
「ありがとう。君と僕の実力なら、2回戦の突破なんて容易だよ。」
「とは言ったが、私は出口を探すだけなんだよ。それまでだぞ。」
「あぁ、構わない。」
「んんっ……」
美桜は目を開ける。地面にうつ伏せに倒れていた。
「ここは?」
美桜は上を見ると、穴は閉じている。体に巻き付いていたものも消えている。
「大丈夫ですか?」
美桜は横にいたアメジストに声をかけられる。
「いつからいたの?!」
「美桜様を見つけてから、ずっとですよ。」
(え、怖っ……失礼だけど、怖っ……いや笑顔やめて。ほんとに怖い。)
「……えと、私の体に……何か巻き付いていたりしてなかった?」
「えぇ。ですので、処理しておきました。」
「ありがとおぉぉー!」
美桜はアメジストに飛びつく。
「ほんっっっとに気持ち悪くて仕方なかったのおぉぉっー!」
「よしよし、怖かったですねぇ~。」
「子供扱いするなぁー!」
「してませんよ。」
美桜は微笑みながら否定するアメジストに向かって叫ぶ。
「そういえば、巻き付いていたものを処理していたときに、美桜様の体に触れさせていただきましたが……」
美桜はキョトンとする。
「その……思ったよりあるんですね。何がとは言いませんが。」
美桜にはピンとこなかった。
「まぁ、あなたが着痩せするタイプだと言う事を理解させていただきました。」
「着痩せ……はっ!」
美桜はアメジストの言いたいことに気づく。
「あんたっ、触った?!何がとは言わないけど!」
「まぁ、処理するときに少し触れた程度ですが。」
「思いっ切りがっついたりしてないでしょうね?!」
「流石にそこまではしませんよ。」
「そこまではしなくても、その……掴みはするの?!」
美桜は少し興奮気味に問いかける。
「いえ、私が掴むのは……」
「わぁぁぁ!ストップストップ!発言がコンプラ的にヤバい!」
美桜は話を止める。
「丁度面白くなりそうなところだったのですが……」
「はいはい、そういうのはいいから。」
美桜はアメジストの口を塞ぐ。
「ほら行くよ。」
アメジストは美桜について行ことしない。
「……どうしたの?」
美桜はアメジストを見た瞬間、無意識に薙刀に手をかける。
「やはり、気づかれますか。誠に申し訳ありません。ですが、これは勝つためには、仕方のないことです。あなた様も、薄々感じてることでしょう。勝つためには……他人を殺す覚悟が必要だと。」
「だったら助けなんかせずに、最初から殺せばよかったじゃない。」
「それでは、私のプライドが許さないのです。私は魔道士ではありますが、本職はあくまで従者です。魔道士であるあなた様を不意打ちで殺すことなど、許されることではありません。ですので、あなた様と正々堂々戦えるよう、あなた様のそばにいたのです。」
美桜はアメジストの強い意志を見抜く。
「……あんた、勝算はあるの?」
「私があなた様に適うはずがありません。」
「そう……じゃあ、全力で来なさい。」
アメジストは短剣を手に持って、美桜に切りかかる。美桜は体を反らして短剣を躱すと、柄をアメジストの脇腹に打ち付ける。
「はっ!」
美桜はアメジストを地面に押し倒す。アメジストは短剣を振って美桜を追い払う。美桜との間合いは取れたが、一瞬で美桜に接近される。アメジストは美桜が接近してきたところを反撃するが、美桜は体勢を低くして簡単に避ける。そのまま足払いを仕掛けてアメジストのバランスを崩す。
「しまっ……」
アメジストが地面に倒れたところを、美桜は薙刀を地面に向かって突き刺す。薙刀はアメジストの顔の真横に突き刺さる。
「私の負けです。やはり、お強いですね。」
アメジストは美桜の目を見る。
「早く、トドメをさしてください。あなた様に逆らった罰を与えると思って。」
美桜は歯を食いしばりながら、アメジストの首に薙刀を刺す。
「ごめん…………」
美桜はしばらくその場から動くことができなかった。
「で、いつから俺を疑っていた?」
玖羽はサーミルの首筋に短剣をあてる。
「最初からだ。」
「はぁ、やっぱ俺、演技下手だな。」
サーミルは玖羽の視線が逸れた隙を見て逃げ出す。
「逃がすか!」
しかし、玖羽にすぐに回り込まれる。
「なんで私を狙う?コインを探すつもりはないのか?」
「簡単なことだ。コインを探さなくても、クリアすることができる。」
「なんだと?」
「その方法はな、参加者が残り4人になるまで生き残ることだ。」
「だから他の参加者を殺すのか……正気か?」
「いや、とんでもないくらいの抵抗があるぜ。でも、仕方のないことだ。」
玖羽は短剣を抜く。
「この迷宮から出るのは容易じゃない。お前も気づいてるかもしれないが、この迷宮は広すぎる。徒歩でまともにクリアするなんて、ほぼ不可能だ。」
「そう言われて、ただで負けるわけと思うなよ?」
サーミルは剣を抜いて玖羽に向ける。
「先に言わせてもらうが、俺は暴れるつもりはない。」
「じゃあなんで私に奇襲を仕掛けたの?」
「お前が近くにいたからだ。」
玖羽は短剣を構えるが、その場から動こうとはしない。
「おっと、腕が片方ないからって、舐めないほうがいいぜ。これでも天級なんでね。」
(そう、そこが問題。逃げようとしても回り込まれるし、普通に攻撃しても勝てるわけがない。もしかして詰み?)
サーミルは深呼吸をして、玖羽に向かって斬りかかる。
「遅え!」
玖羽はサーミルの剣を弾き飛ばす。剣はサーミルの背後に落下する。
(しまっ……)
サーミルの視線が逸れた途端、玖羽はサーミルの首筋を切り裂く。
「がっ?!」
サーミルは切られた場所を手で押さえる。
「悪いな。恨むなら、この迷宮を作った人を恨んでくれ。」
「おい……出口はどこだ?」
カトラリーはイライラしながらカーネリアに聞く。
「僕が知ってるわけないだろ?僕も参加者なんだから。」
「ちっ……」
カトラリーは舌打ちをして地面に座る。
「疲れた。」
カトラリーはノコギリを取り出して刃を整える。
「そのノコギリ、対生物用の特注品か?」
「だからなんだ?」
「別に。ただ聞いてみただけさ。」
カトラリーはノコギリに自身の顔を映す。
「暇だ……戦いたい。」
「その感じ、一体、どれだけ他の参加者を殺したんだ?」
「ざっと10人だ。」
「へぇ……」
カーネリアは通路の先を見る。そこには2人の参加者がいた。
「どうやら、僕たちと同じことをしている奴らがいるらしい。」
カトラリーの目が変わる。
「よっしゃぁ……でかい方は私が殺る。お前は女の方を殺れ。」
「まぁ、僕も体を動かしたかったんだ。2回戦を突破するついでに、準決勝の準備運動といこう。」
「ほんとに何もないわね。」
美桜は迷宮を進んでいるが、コインや出口はまったく見当たらない。かなり歩き続けているため、疲労が溜まっている。
「あ……」
美桜は祭鷹と出くわする。
「まだ生きていたのか。」
祭鷹はいつでも戦える準備をしている。
「何?戦うの?」
「あぁ。コインを探すのは、もはや不可能だ。僕は他の参加者を殺す。勝つために心に決めた。」
祭鷹は手に魔力を集める。
「どうやら、やるしかないみたいね。」
美桜は薙刀を祭鷹に向ける。祭鷹は美桜に素早く近づいて拳を突き出す。美桜は体を反らして拳を躱す。祭鷹は美桜を追うように、回し蹴りを仕掛ける。
「うわっ?!」
美桜はバランスを崩して尻餅をつく。祭鷹はかかと落としを仕掛ける。美桜は右に転がって避ける。
「そこだっ!」
祭鷹は美桜の背後に移動して拳で殴りつける。美桜は祭鷹の間を蛇のようにすり抜ける。
「ちょこまかと……」
美桜は祭鷹に向かって薙刀を突き出す。祭鷹はゆっくりと避けて反撃に移る。
(速いっ……)
祭鷹は美桜の胸ぐらを掴んで地面に投げ倒す。その後、美桜に向かって拳を振り下ろす。美桜は首を曲げて拳を躱す。
(武術じゃ勝てない!)
美桜は祭鷹を押しのけようとするが、遠ざけることができない。祭鷹は続けざまに拳を突き出す。
(くっ……どうすれば……)
美桜は拳を防ぎながら方法を考える。
「そろそろ終わりにする。悪く思うなよ。」
祭鷹は美桜の腕を掴んで壁に押し付ける。祭鷹は拳を突き出して、あらかじめ手に集めた魔力を美桜にぶつける。
「赤!」
美桜の手に赤の魔力が集まる。赤の魔力は、祭鷹の攻撃をかき消す。
「何っ?!」
祭鷹は魔力を強めるが、赤の魔力に勝てるはずがない。赤の魔力は迷宮の壁を破壊しながら祭鷹を包み込む。
「……終わった?」
煙幕が晴れるが、祭鷹の姿はなかった。
「えっ?」
美桜の足元に穴が現れる。美桜は穴の中に吸い込まれるように落ちていく。
「えっ?うわっ!」
美桜は穴から出た瞬間、重力が反転する感覚に襲われる。
「あれ?」
美桜は会場に戻っていた。会場には、美桜、玖羽、カトラリー、カーネリアの4人だけたがいた。
「よく生き残った。お前たちは準決勝へ進むことができる。健闘を祈るぞ。」
椿はすぐに去って行った。
「やっぱり、僕の勘は正しかった。さてと……」
カーネリアは美桜に近づく。
「君と決勝で戦えることを楽しみにしてるよ。くれぐれも、負けないように。」
「お疲れ様です。」
部屋に戻ると、アメジストとサーミルがティータイムの準備をしていた。
「なんでいつも私の部屋にいるの?」
「さぁ、なんででしょう?」
「集まりやすいから、じゃないか?」
「どういう理由?」
美桜はため息をつきながらソファに座る。
「それにしても、2回戦は結構苦しかったな。」
「まさか、参加者同士で殺し合いをさせるとは……ちなみに、サーミル様はどういうふうに殺させれたのですか?」
「首を切られた。正確には、切り裂かれた。」
「あらら……」
「……なんか反応軽くない?」
「私は美桜様に首を貫かれました。」
「いや私の名前を出さないで!」
「……マジですか?」
「ちょっと?!変な空気になったじゃない!」
「はぁ、やっと帰ってきたか。早くケーキを僕にくれよ。」
「悪いけど、僕はまだ用事があるんだ。それが終わったら、持ってきてあげなくもない。」
「へぇ、僕にくれる気はないんだ。だったら、暴れまわるしかないみたいだね。」
「暴れたら、本当に渡さなくなるけど?」
「うぅっ……それは困るな。」
グリモワールは頭を悩ませる。カーネリアは紅茶を横に置く。
「そういえば、なんで君は僕に物を要求するんだ?」
「ずっと本の中にいるのも暇なんだ。その上、封印までかけられてて出られない。」
「あぁそうだったね。君は封印されているんだった。なら、暴れようにも暴れないね。」
「まさか……ケーキを持ってきてくれないわけじゃないだろうな?そ、それは困るぞ!」
「ケーキケーキって、少し飽きてきた頃合いじゃないか?」
「飽きる?甘いものを飽きるわけないじゃないか。」
「僕だったら、うんざりするけどね。」
カーネリアはカップに紅茶を注ぐ。
「ケーキがないんだったら、僕にも紅茶をくれよ。」
「君にあげるのはケーキだけと約束したはずだけど?」
「このっ……君はケチだね。」
「忠実だと言ってほしいな。」
グリモワールは拗ねて黙り込んでしまう。
(思ったより扱いが簡単で助かるな。)
美桜は不思議な空間にいた。レンガでできた一本道だ。辺りは薄暗く、曲がり角の陰には何かが潜んでいそうな気がした。手のひらを見ると、黒いコインが持たされていた。
「ん?」
美桜の足に何かがあたる。その直後、美桜の目の前から槍が生えてくる。
「ひいっ?!」
槍はスルスルと地面に引っ込む。
(ガチすぎるでしょ……)
美桜の首を冷や汗がつたう。青が罠のスイッチに触れる。
「ちょっ?!」
しかし罠は作動しない。
「なるほど、1回だけしか発動しないらしいな。」
「はぁ、ビックリした……」
美桜は胸を撫で下ろす。同時に、青に嫌悪の目を向ける。
「わかったわかった、勝手なことはしない。」
青は逃げるようにして美桜の中に戻る。
「ホントにわかったの?」
青は返事をしない。
(はぁ、なんでこうも扱いが難しいのやら……)
美桜が進んだ先には分かれ道があった。
「う~ん、そうだ。こんなときは……」
美桜は薙刀の柄を地面につけて手を離す。薙刀は左に倒れる。
(適当だな……)
青は心の中でため息をつく。
「だいぶ歩いたよね?」
美桜は青に聞く。
「ん?あー……そうだな。」
「……寝てた?」
「いや寝てないぞ?!」
「いや、別に寝ててもいいんだよ?2回戦であんたたちを使うつもりはないし。」
「それはそれでなんか嫌だな。」
美桜は青の顔を掴む。
「おい離せ!」
「一回やりたかったことがあるの。」
美桜は青のたてがみに顔をうめる。
「やめろー、吸うなぁー!」
「すぅー、はぁ~♪」
美桜はスッキリした顔をする。
「水の匂いがする~♪」
「なぜ水?まず水の匂いってなんだ?」
青が戸惑っていると、通路の陰から誰かの気配を感じる。
「誰だ?」
青が問いかける。
「ははっ、やっぱり気づかれるか。」
カーネリアが笑いながら陰からゆっくりと出てくる。
「またあんた?」
「これが運命ってやつなんじゃないか?」
カーネリアはトランプをシャッフルしながら近づいてくる。
「どっか行ってくれない?あんたにかまってる暇なんてないんだけど。」
「そう嫌悪しないでくれ。僕は君に、朗報を持ってきたんだ。2回戦に勝つ方法をね。」
「それは気になるわね。話だけは聞いてあげなくもないわ。」
「ありがとう、それでこそ君だ。」
カーネリアはトランプを混ぜるのをやめる。
「2回戦に勝つ方法。それは、他の参加者を殺すことだ。」
「……は?」
美桜は言っている意味が理解できない。
「そのままの意味だ。理解は難しくないだろう。」
「いや……その考えに至る理由が分かんないんだけど?」
「最初に言わせてもらおう。この迷宮から出るのは、ハッキリ言ってほぼ不可能だ。」
「なんでそう言い切れるの?」
「君に会うまでに、僕はかなりの距離を歩いたんだ。まず、白いコインが見当たらない。それに道中、他の参加者も見つからなかった。1人ぐらいは見つかると思ったが、見つかる気配がなかった。おそらく、この迷宮はとんでもないほど大きいんだろう。」
「で、他の参加者を殺すと。……狂ってるの?」
「いいや、これは元から仕組まれていたことだろう。つまり、元から迷宮から脱出させるつもりなんてなく、参加者同士で殺し合いをさせるのが目的だったんだ。」
「なんでそうなるの?」
「彼女の言葉を思い出してみなよ。失格の条件はなんだった?」
「迷宮内で死亡したら。」
「そうだ。じゃあ、迷宮内から強制送還される条件は?」
「迷宮で死亡したら……だけ?」
「違う。もう1つ、特定の条件を満たしたらだ。」
「それがどうしたの?」
「これらを踏まえて、この迷宮の仕様を照らし合わせてみてくれ。なぜこの迷宮内での死亡は、現実には適用されないんだ?」
「うーん、ん?」
美桜はしばらく考えるが答えが分からない。
「答えは簡単だ。死人が出ることをわかっているんだ。そうなったとき、特定の条件の内容もわかる。」
「……内容は?」
「ふんっ。最後の4人まで、生き残ることだ。」
カーネリアはトランプを再び混ぜ始める。
「そう。じゃあ行くわ。」
「おいおい、僕の話はまだ終わってないぞ。」
カーネリアは美桜を呼び止める。
「僕とチームを組まないか?」
「なんで?」
「参加者同士の殺し合いが起こるんだ。だったら孤立するよりも、固まって行動したほうがいいんじゃないか?」
「はぁ、チームなんか組まないわよ。私は1人で勝ちたいの。」
「へぇ、そうかそうか。」
美桜は薙刀に手をかける。
「僕はもう行くよ。くれぐれも、僕以外に殺されないように。」
カーネリアは美桜に背を向けると、あることを提案する。
「そうだ。これを1枚引いてくれ。」
カーネリアは美桜にトランプの束を裏向きにして見せる。
「なんで引かなきゃいけないの?」
「ちょっとした占いだと思ってくれたらいい。ほら、朗報を教えてあげただろ?」
美桜は渋々トランプを引く。美桜が引いたのはクイーンだ。
「これになんの意味があるの?」
「特に意味はないよ。」
美桜はトランプを返して通路を先に進む。カーネリアは美桜が引いたトランプを見る。
「クイーン……僕の予想通りだ。」
「あいつ……結局何がしたかったの?」
「我に聞くな。」
美桜は再び分かれ道にぶつかる。左右に道が分かれている。
「どっちに行く?」
「右だ。」
美桜が足を踏み出すと、下にあったスイッチを踏む。
「あ……」
しかし何も起こらない。
「作動したのかな?」
美桜は進もうするが、スイッチを踏んだ足が中々動かない。足を見ると、何かが巻き付いていた。
「うえっ……なにこれ?ネバネバしてる……」
美桜は巻き付いているものを剥がそうとするが、気持ち悪いため触れる気が起きない。
「剥がして……」
「嫌だと言ったら?」
美桜が剥がそうとすると、突然、巻き付いていたものが動き出して、美桜の体にまで巻き付いてくる。
「ぎゃーっ?!」
美桜は叫び声を上げる。すると、今度は床に穴が開く。
「え?嘘ぉぉぉぉっ?!」
美桜は穴の底へと落下する。
「……広すぎだろ。」
玖羽は迷宮内を彷徨っていた。壁沿いを慎重に歩いている。
(くそっ、参加者の1人も見当たらねぇ。)
玖羽は壁を手の甲で叩く。1つのレンガだけ、叩いたときの音が違う。
「これが罠のスイッチか?」
玖羽はレンガを短剣で押してみる。ガコッ、という音がして後方と前方の地面から柵が飛び出してくる。
「……閉じ込められたか。」
玖羽は柵に触れる。普通の金属でできている。
「これぐらいなら……」
玖羽は柵を蹴破って脱出する。
「ひゅぅー、脆い脆い。」
玖羽が走っていると、目の前の曲がり角からサーミルが飛びだしてくる。
「うおっ?!」
「うわっ?!」
2人はぶつかって地面に転がる。
「痛てて……」
「おい大丈夫か?」
玖羽はサーミルの手を引っ張る。
「すまない、あまり前を見ていなかった。」
「俺も注意してなかった。」
玖羽はサーミルの行動に注意する。
「お前は何をしていたんだ?」
「私はコインを探していた。あなたは?」
「俺は他の参加者を探してたぜ。」
「……今一瞬、寒気がしたのは気のせいか?」
「気のせいだろ。」
玖羽はサーミルの目を見て話を始める。
「そんなことより、ぶつかったお詫びとして、コインを探すのを手伝ってやるぜ。」
「いいのか?」
「あぁ。どうせ、ろくでもねぇ罠があるからな。1人で行動するより、複数で行動したほうが合理的だ。」
2人は一時的に協力関係となり、コインを探して迷宮を進む。
「おい。さっきから僕をつけているだろ?早く出てこい。」
祭鷹(サイオウ)は背後からついてきている参加者に向かって、地面に落ちていた瓦礫を投げつける。
「危ねぇじゃねぇか!人に物を投げるなと習わなかったのか?あぁっ?!」
「ちっ、うるさいのがでてきたな。」
祭鷹の背後にはノコギリを担いだ女性が立っていた。ノコギリには血痕が付着している。
「カトラリー、お前のお気に入りのライフルは没収されたのか?」
「あぁそうだよっ!有利すぎるからって没収されたよ!まったく……私だけ全力を出せないってどういうことだ?!」
(僕にあたるな……)
祭鷹はため息をついてから、カトラリーを威圧する。
「あぁもうっ!めんどくさいめんどくさいめんどくさい!お前を殺す!絶対にな!」
カトラリーはノコギリを手に取る。カトラリーは狂気じみた目をしている。
「はぁ、避けられそうにないな。」
祭鷹は指を鳴らす。
「武器を置け。フェアじゃないだろ?」
「うるせぇ!男なんだからそんなん気にすんな!」
カトラリーはノコギリを振り回しながら襲いかかってくる。祭鷹はカトラリーの下を滑って避ける。
「てめっ……人の股の下をくぐってんじゃねえ!」
「お前のタッパがでかいからだ。」
祭鷹は立ち上がると、カトラリーを地面に倒す。
「私を襲うとは……いい度胸だなぁ!」
カトラリーは祭鷹に向かって拳を突き出す。祭鷹はカトラリーの拳を簡単に受け流す。
「僕に格闘で勝てるとでも?」
「てめっ…調子に乗ってんじゃねえ!」
カトラリーは祭鷹に頭突きをする。
「つっ?!お前ぇ……」
祭鷹の景色が一瞬歪む。その隙に、カトラリーは祭鷹を突き飛ばす。
「死ねっ!」
カトラリーは祭鷹に向かってノコギリを振り下ろす。
「お前は怒るとすぐに周りが見えなくなる。そういうところは、直したほうがいいぞ。」
祭鷹はカトラリーの肩に手を置く。
「黙れっ!てめぇには関係ねえことだ!」
「そうか?」
祭鷹はカトラリーの真横の壁を足で踏みつける。
「お前は案外、僕の好みの女性なんだけどなぁ……」
「てめっ…なんでこんなときに口説こうとしてんだ?頭イカれてんのか?」
「あれおかしいな?お前にそんなことを言われるなんて。」
「うるせぇ。そもそも、なんで私よりタッパが低いのに口説こうとしてんのかが意味分かんねえよ!」
「僕が低いんじゃない。お前がでかいだけだ。」
「はあぁっ?!」
「僕のタッパは176だ。お前はどうだ?」
「てめぇはプライバシーってもんを知らねえのか?あぁ?!」
カトラリーは祭鷹の胸ぐらを掴む。
「182。」
「はっ?」
「お前のタッパだ。」
カトラリーの何かが切れる音がした。カトラリーは祭鷹を地面に投げ倒す。
「あぁイライする。ほんっとにプライバシーを知らないみてえだな!お前を殺す私が可哀相だ!」
カトラリーは腹を立ててどこかへ行ってしまう。
(やっぱりあいつは、単純だな。だが、まともに相手にするのは悪手なのは間違いない。彼女は仙級だが、天級相当の実力を持っている。いくら僕でも、かなり苦しい相手になる。)
祭鷹は立ち上がって汚れを払う。
「さて、面倒なやつは消えた。できれば平和的にクリアしたいが、最悪、他の参加者を倒すしかないな。」
カトラリーは爪を噛みながら歩いていた。
「ちっ、あの野郎……現実に戻ったら半殺しにしてやる。」
目の前に広い空間が現れる。部屋の真ん中には台座がある。
「まさか……」
台座には白いコインが置いてあった。
「よっしゃぁ!あとはでるだけだ!」
カトラリーはコインを回収すると、すぐさま出口を探しに走り出す。
「そんなに走ってどうしたんだい?」
カトラリーは誰かに声をかけられる。
「誰だてめぇ?」
「初対面の人に対して口が悪すぎないか?」
「っるせえ!邪魔すんな!」
「少し落ち着け、カトラリー。」
カトラリーの動きが止まる。
「なんで私の名前を知ってんだ?」
「僕は参加者全員の名前を把握している。当然、君のことも知っている。カトラリー。仙級魔道士。本名は不明。風の噂では孤児だったと聞いている。」
「どこの噂だよ……」
カトラリーはノコギリに手をかける。
「僕と戦うのはやめておいたほうがいい。」
「なぜだ?」
「お互いのためだからだよ。」
「そんなん知るかっ!」
カトラリーはカーネリアをノコギリで切りつける。カーネリアは軽やかなステップでノコギリを躱す。
「危ないなぁ。僕は君と話がしたいだけなんだ。」
「じゃあさっさと話せ!」
(君が凶暴だから話せなかったんだけどなぁ。まぁ、変に口にしたら更に面倒になりそうだから言わないでおこう。)
「僕と協力するか、僕にコインを渡せ。おっと、殺し合うという選択もあるね。」
「やっぱり殺し合うのが一番だろ!って言いたいが、今は状況が状況だ。癪に障るが、協力してやるよ。」
カトラリーはノコギリから手を離す。
「ありがとう。君と僕の実力なら、2回戦の突破なんて容易だよ。」
「とは言ったが、私は出口を探すだけなんだよ。それまでだぞ。」
「あぁ、構わない。」
「んんっ……」
美桜は目を開ける。地面にうつ伏せに倒れていた。
「ここは?」
美桜は上を見ると、穴は閉じている。体に巻き付いていたものも消えている。
「大丈夫ですか?」
美桜は横にいたアメジストに声をかけられる。
「いつからいたの?!」
「美桜様を見つけてから、ずっとですよ。」
(え、怖っ……失礼だけど、怖っ……いや笑顔やめて。ほんとに怖い。)
「……えと、私の体に……何か巻き付いていたりしてなかった?」
「えぇ。ですので、処理しておきました。」
「ありがとおぉぉー!」
美桜はアメジストに飛びつく。
「ほんっっっとに気持ち悪くて仕方なかったのおぉぉっー!」
「よしよし、怖かったですねぇ~。」
「子供扱いするなぁー!」
「してませんよ。」
美桜は微笑みながら否定するアメジストに向かって叫ぶ。
「そういえば、巻き付いていたものを処理していたときに、美桜様の体に触れさせていただきましたが……」
美桜はキョトンとする。
「その……思ったよりあるんですね。何がとは言いませんが。」
美桜にはピンとこなかった。
「まぁ、あなたが着痩せするタイプだと言う事を理解させていただきました。」
「着痩せ……はっ!」
美桜はアメジストの言いたいことに気づく。
「あんたっ、触った?!何がとは言わないけど!」
「まぁ、処理するときに少し触れた程度ですが。」
「思いっ切りがっついたりしてないでしょうね?!」
「流石にそこまではしませんよ。」
「そこまではしなくても、その……掴みはするの?!」
美桜は少し興奮気味に問いかける。
「いえ、私が掴むのは……」
「わぁぁぁ!ストップストップ!発言がコンプラ的にヤバい!」
美桜は話を止める。
「丁度面白くなりそうなところだったのですが……」
「はいはい、そういうのはいいから。」
美桜はアメジストの口を塞ぐ。
「ほら行くよ。」
アメジストは美桜について行ことしない。
「……どうしたの?」
美桜はアメジストを見た瞬間、無意識に薙刀に手をかける。
「やはり、気づかれますか。誠に申し訳ありません。ですが、これは勝つためには、仕方のないことです。あなた様も、薄々感じてることでしょう。勝つためには……他人を殺す覚悟が必要だと。」
「だったら助けなんかせずに、最初から殺せばよかったじゃない。」
「それでは、私のプライドが許さないのです。私は魔道士ではありますが、本職はあくまで従者です。魔道士であるあなた様を不意打ちで殺すことなど、許されることではありません。ですので、あなた様と正々堂々戦えるよう、あなた様のそばにいたのです。」
美桜はアメジストの強い意志を見抜く。
「……あんた、勝算はあるの?」
「私があなた様に適うはずがありません。」
「そう……じゃあ、全力で来なさい。」
アメジストは短剣を手に持って、美桜に切りかかる。美桜は体を反らして短剣を躱すと、柄をアメジストの脇腹に打ち付ける。
「はっ!」
美桜はアメジストを地面に押し倒す。アメジストは短剣を振って美桜を追い払う。美桜との間合いは取れたが、一瞬で美桜に接近される。アメジストは美桜が接近してきたところを反撃するが、美桜は体勢を低くして簡単に避ける。そのまま足払いを仕掛けてアメジストのバランスを崩す。
「しまっ……」
アメジストが地面に倒れたところを、美桜は薙刀を地面に向かって突き刺す。薙刀はアメジストの顔の真横に突き刺さる。
「私の負けです。やはり、お強いですね。」
アメジストは美桜の目を見る。
「早く、トドメをさしてください。あなた様に逆らった罰を与えると思って。」
美桜は歯を食いしばりながら、アメジストの首に薙刀を刺す。
「ごめん…………」
美桜はしばらくその場から動くことができなかった。
「で、いつから俺を疑っていた?」
玖羽はサーミルの首筋に短剣をあてる。
「最初からだ。」
「はぁ、やっぱ俺、演技下手だな。」
サーミルは玖羽の視線が逸れた隙を見て逃げ出す。
「逃がすか!」
しかし、玖羽にすぐに回り込まれる。
「なんで私を狙う?コインを探すつもりはないのか?」
「簡単なことだ。コインを探さなくても、クリアすることができる。」
「なんだと?」
「その方法はな、参加者が残り4人になるまで生き残ることだ。」
「だから他の参加者を殺すのか……正気か?」
「いや、とんでもないくらいの抵抗があるぜ。でも、仕方のないことだ。」
玖羽は短剣を抜く。
「この迷宮から出るのは容易じゃない。お前も気づいてるかもしれないが、この迷宮は広すぎる。徒歩でまともにクリアするなんて、ほぼ不可能だ。」
「そう言われて、ただで負けるわけと思うなよ?」
サーミルは剣を抜いて玖羽に向ける。
「先に言わせてもらうが、俺は暴れるつもりはない。」
「じゃあなんで私に奇襲を仕掛けたの?」
「お前が近くにいたからだ。」
玖羽は短剣を構えるが、その場から動こうとはしない。
「おっと、腕が片方ないからって、舐めないほうがいいぜ。これでも天級なんでね。」
(そう、そこが問題。逃げようとしても回り込まれるし、普通に攻撃しても勝てるわけがない。もしかして詰み?)
サーミルは深呼吸をして、玖羽に向かって斬りかかる。
「遅え!」
玖羽はサーミルの剣を弾き飛ばす。剣はサーミルの背後に落下する。
(しまっ……)
サーミルの視線が逸れた途端、玖羽はサーミルの首筋を切り裂く。
「がっ?!」
サーミルは切られた場所を手で押さえる。
「悪いな。恨むなら、この迷宮を作った人を恨んでくれ。」
「おい……出口はどこだ?」
カトラリーはイライラしながらカーネリアに聞く。
「僕が知ってるわけないだろ?僕も参加者なんだから。」
「ちっ……」
カトラリーは舌打ちをして地面に座る。
「疲れた。」
カトラリーはノコギリを取り出して刃を整える。
「そのノコギリ、対生物用の特注品か?」
「だからなんだ?」
「別に。ただ聞いてみただけさ。」
カトラリーはノコギリに自身の顔を映す。
「暇だ……戦いたい。」
「その感じ、一体、どれだけ他の参加者を殺したんだ?」
「ざっと10人だ。」
「へぇ……」
カーネリアは通路の先を見る。そこには2人の参加者がいた。
「どうやら、僕たちと同じことをしている奴らがいるらしい。」
カトラリーの目が変わる。
「よっしゃぁ……でかい方は私が殺る。お前は女の方を殺れ。」
「まぁ、僕も体を動かしたかったんだ。2回戦を突破するついでに、準決勝の準備運動といこう。」
「ほんとに何もないわね。」
美桜は迷宮を進んでいるが、コインや出口はまったく見当たらない。かなり歩き続けているため、疲労が溜まっている。
「あ……」
美桜は祭鷹と出くわする。
「まだ生きていたのか。」
祭鷹はいつでも戦える準備をしている。
「何?戦うの?」
「あぁ。コインを探すのは、もはや不可能だ。僕は他の参加者を殺す。勝つために心に決めた。」
祭鷹は手に魔力を集める。
「どうやら、やるしかないみたいね。」
美桜は薙刀を祭鷹に向ける。祭鷹は美桜に素早く近づいて拳を突き出す。美桜は体を反らして拳を躱す。祭鷹は美桜を追うように、回し蹴りを仕掛ける。
「うわっ?!」
美桜はバランスを崩して尻餅をつく。祭鷹はかかと落としを仕掛ける。美桜は右に転がって避ける。
「そこだっ!」
祭鷹は美桜の背後に移動して拳で殴りつける。美桜は祭鷹の間を蛇のようにすり抜ける。
「ちょこまかと……」
美桜は祭鷹に向かって薙刀を突き出す。祭鷹はゆっくりと避けて反撃に移る。
(速いっ……)
祭鷹は美桜の胸ぐらを掴んで地面に投げ倒す。その後、美桜に向かって拳を振り下ろす。美桜は首を曲げて拳を躱す。
(武術じゃ勝てない!)
美桜は祭鷹を押しのけようとするが、遠ざけることができない。祭鷹は続けざまに拳を突き出す。
(くっ……どうすれば……)
美桜は拳を防ぎながら方法を考える。
「そろそろ終わりにする。悪く思うなよ。」
祭鷹は美桜の腕を掴んで壁に押し付ける。祭鷹は拳を突き出して、あらかじめ手に集めた魔力を美桜にぶつける。
「赤!」
美桜の手に赤の魔力が集まる。赤の魔力は、祭鷹の攻撃をかき消す。
「何っ?!」
祭鷹は魔力を強めるが、赤の魔力に勝てるはずがない。赤の魔力は迷宮の壁を破壊しながら祭鷹を包み込む。
「……終わった?」
煙幕が晴れるが、祭鷹の姿はなかった。
「えっ?」
美桜の足元に穴が現れる。美桜は穴の中に吸い込まれるように落ちていく。
「えっ?うわっ!」
美桜は穴から出た瞬間、重力が反転する感覚に襲われる。
「あれ?」
美桜は会場に戻っていた。会場には、美桜、玖羽、カトラリー、カーネリアの4人だけたがいた。
「よく生き残った。お前たちは準決勝へ進むことができる。健闘を祈るぞ。」
椿はすぐに去って行った。
「やっぱり、僕の勘は正しかった。さてと……」
カーネリアは美桜に近づく。
「君と決勝で戦えることを楽しみにしてるよ。くれぐれも、負けないように。」
「お疲れ様です。」
部屋に戻ると、アメジストとサーミルがティータイムの準備をしていた。
「なんでいつも私の部屋にいるの?」
「さぁ、なんででしょう?」
「集まりやすいから、じゃないか?」
「どういう理由?」
美桜はため息をつきながらソファに座る。
「それにしても、2回戦は結構苦しかったな。」
「まさか、参加者同士で殺し合いをさせるとは……ちなみに、サーミル様はどういうふうに殺させれたのですか?」
「首を切られた。正確には、切り裂かれた。」
「あらら……」
「……なんか反応軽くない?」
「私は美桜様に首を貫かれました。」
「いや私の名前を出さないで!」
「……マジですか?」
「ちょっと?!変な空気になったじゃない!」
「はぁ、やっと帰ってきたか。早くケーキを僕にくれよ。」
「悪いけど、僕はまだ用事があるんだ。それが終わったら、持ってきてあげなくもない。」
「へぇ、僕にくれる気はないんだ。だったら、暴れまわるしかないみたいだね。」
「暴れたら、本当に渡さなくなるけど?」
「うぅっ……それは困るな。」
グリモワールは頭を悩ませる。カーネリアは紅茶を横に置く。
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「まさか……ケーキを持ってきてくれないわけじゃないだろうな?そ、それは困るぞ!」
「ケーキケーキって、少し飽きてきた頃合いじゃないか?」
「飽きる?甘いものを飽きるわけないじゃないか。」
「僕だったら、うんざりするけどね。」
カーネリアはカップに紅茶を注ぐ。
「ケーキがないんだったら、僕にも紅茶をくれよ。」
「君にあげるのはケーキだけと約束したはずだけど?」
「このっ……君はケチだね。」
「忠実だと言ってほしいな。」
グリモワールは拗ねて黙り込んでしまう。
(思ったより扱いが簡単で助かるな。)
0
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