紡ぐ者

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【第21章 紡ぐ者】

第8節 律令(りつれい)の元に

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「じゃあ、行ってくる。」
美桜は会場に向かう。サーミルとアメジストは美桜を見送る。
「よぉ、元気か?」
会場にはすでに玖羽が待機していた。
「そういえば、あんたも参加していたわね。」
「会うのはこれが初めてだけどな。」
2人は出会って早々、武器に手をかけながら睨み合う。美桜は玖羽を見てあることに気づく。
「あんた、その腕……どうしたの?」
玖羽の失ったはずの左腕が治っていた。
「まあ色々あってな。」
玖羽ははぐらかすように答える。美桜は薙刀を玖羽に向ける。玖羽は短剣を回転させながら美桜に向かってゆっくりと歩く。
「わかってると思うが、勝負ってのは、最初が大事だ。初動によっては、あとの展開が大きく変わる。」
「分からないとでも?」
美桜は薙刀を振る準備をする。
(お前はそう来るか。なら俺は……)
玖羽は美桜から離れるのではなく、近づいて様子を伺う。美桜は薙刀を自身の左方から大きく薙ぎ払う。美桜は玖羽の真ん中より下の辺りを狙った。
(その位置は対処がかなりめんどうだ。どこを狙えば相手を追い込めるか、次に繋ぎやすいか、それらを計算して振っている。次来るのは……)
美桜は体を回転させて、薙刀を下から振り上げる。
(だろうな。ここで突きとかこられたら、対処が難しかったが……)
薙刀を振り上げた美桜は、無防備な状態になる。
(狙うなら今だが、何をしてくるか分からないのが天級の魔道士だ。俺だったら、魔法を使うか、普通に振り下ろすかだな。)
玖羽は美桜の背後から魔力を感じる。直後、美桜の背後から風の刃が玖羽に襲いかかる。
「魔法を選んだか!」
玖羽は短剣で風の刃を受け流す。風の刃は向きを変えて、玖羽の背後から突撃する。
「何っ?!」
玖羽は刃の隙間をくぐり抜ける。
(魔法の技量が上がったのか?)
玖羽は美桜に向かって短剣を投げつける。美桜は薙刀で短剣を弾き返す。短剣は離れた場所に落下する。
「なんで投げたの?」
「なんとなく。」
玖羽はもう1つの短剣を美桜に向ける。
「今度はお前から来いよ。」
「やだ。」
「即答かよ……まぁいいぜ。その代わり、容赦はしねえっ!」
玖羽は短剣を逆手に持って美桜に切りかかる。美桜は短剣を躱して、玖羽と距離をとる。
「簡単にいくと思うな!」
玖羽は地面を蹴って、美桜の目の前に接近する。
(速っ……)
美桜が反応したとき、玖羽の短剣は美桜の右腕をかする。
「いっ……」
美桜は風を発生させて玖羽を吹き飛ばす。青はすかさず、美桜に治療魔法をかける。しかし、治るのが遅い。
「くそっ、なぜ効果が薄いんだ?!」
(青の魔法が効かない。)
美桜は玖羽のほうを見る。
「何をしたの?仮に魔法の一種だとしたら、なんで今まで使わなかったの?」
「ノーコメントで。」
玖羽は美桜の質問に答える気はないようだ。
(意地でも吐かせてやる……)
美桜は薙刀を強く握る。薙刀に魔力が集まりだす。玖羽はそれを見逃さなかった。
(立て直すと同時に攻撃の準備をする。並の魔道士なら、同時に行うのは難しい。ほんとに、強くなったな。)
玖羽は短剣に自分の顔を映す。
「じゃっ、やるだけやりますか。」
玖羽は短剣に魔力を集める。
(あれは……)
玖羽は霊撃を放とうとしている。
「行くぜ…」
玖羽は集めた魔力を解き放つ。霊撃は美桜に外傷を与えることはない。しかし、命中した直後に、美桜は凄まじい衝撃に襲われる。
「っ?!」
美桜は倒れそうになるが、必死に堪えて攻撃に移る。
(すぐ動けるのか。だが……)
玖羽の左手には弾いたはずの短剣が握られていた。
(さっきの攻撃に紛れて回収したのね。)
美桜は薙刀を玖羽に向かって振る。薙刀は風を切るように玖羽に迫る。玖羽は短剣で美桜に向かって切りかかる。
(さっきよりも威力は低い!)
薙刀は玖羽を壁へと吹き飛ばす。玖羽は壁に勢いよく打ち付けられる。
「がはっ……」
玖羽の手から短剣が落ちる。美桜は地面に薙刀をついて息を切らす。
(やばい、霊撃の衝撃が……)
玖羽は立ち上がって美桜に近づく。玖羽は美桜に手を差し伸べる。
「今回は俺の負けみたいだな。」
玖羽は美桜を立ち上がらせると、会場から出ていこうとする。
「ちょっ、怪我は?!」
玖羽は逃げるようにして会場を去る。美桜は唖然とする。玖羽は走りながら美桜を一瞬だけ見る。
「これぐらい……今の俺なら、すぐに治る。」
玖羽は小さな声で誰にも聞こえないように呟く。


「お疲れ様です。」
控室に戻ると、アメジストが紅茶を淹れて待っていた。
「決勝進出、おめでとうございます。」
「……決勝で勝ってから言ってくれない?まぁ、悪い気はしないけど。」
美桜は紅茶を飲み干す。
「そうだ。決勝は誰が相手なの?」
「カーネリア様です。」
「え?」
美桜は妙に驚いた様子を見せる。
「そんなに意外ですか?」
「なんというか……胡散臭いし、実力もよく分かんないしで……」
「私から1つ提案があります。ガーネット様にカーネリア様の特徴を聞いてみてはどうでしょう?」
「なんでそうなるの?」
「実は昨日、ガーネット様はカーネリア様と戦ったそうです。何か決勝で役に立つ情報が手に入るかもしれませんよ。」
「まぁ、聞いてみる価値はあるわね。じゃあ、部屋まで案内して。」
「ですが、1つだけ問題があります。ガーネット様と連絡がつかないのです。」
「いやだめじゃん!」
美桜とアメジストが話してると、決勝が始まる合図が聞こえてくる。
「じゃ行ってくる~!」
美桜は急いで控室を出る。
「ご武運を。」


「あれ?いるじゃん。」
会場に向かう途中、ガーネットが美桜を待っていた。
「決勝進出を祝いに来たわけじゃない。少し、警告をしに来たわ。」
「ちょうどいいわね。私もカーネリアについて聞きたかったかし。」
ガーネットは指で髪をいじりながら話し始める。
「昨日のことだけど……」


昨日……
「はっ!」
ガーネットの槍がカーネリアの攻撃を突き破る。カーネリアは突風の中を勢いよく引き下がる。
「流石は神級の魔道士だ。人間離れした実力を持っているだけはある。だけど君は、まだ全力じゃないな?」
「どうしてそう言えるの?」
「僕も同じだからだ。」


「まあその後、すぐに私が勝ったけど。」
「つまり……カーネリアは本気で戦ってなかったわけ?」
「そう。格上の相手と戦ってるのに、本気で戦わないのは少しおかしいと思うの。だって実践だったら、普通に死んでもおかしくないわよ?」
「そう考えれば確かに……」
美桜はガーネットにあることを聞いてみる。
「そういえば、トランプって引いた?」
「トランプ?あー、カーネリアと戦う前、なんか引かされたわね。」
「何を引いたの?」
「キングよ。あなたは?」
「クイーン。」
ガーネットは考え事をしている。
「ガーネット?」
「あわっ?!な、何?」
「いや、ボーッとしてたから。」
「ふぅ……」
ガーネットは深呼吸をしながら髪を撫でる。
「まぁ、油断するなってことよ。」


「おや?もう行くのかい?」
グリモワールはカーネリアにへばりつくように聞く。
「あぁ。早く行かないと、僕の負けになってしまう。」
「へぇ、負ければいいのに。」
「僕は負けるのは嫌いだ。」
カーネリアはグリモワールのほうを見ずに、トランプを持って部屋から出る。
「本当に、つまらない男だ。はぁ……」
グリモワールは少しガッカリしたようにため息をつく。
「まあいいさ。ニグレード様さえいれば、全部関係ない。」


「来たか。さぁ、始めようじゃないか。僕たち2人のショーを。」
会場に入って早々、美桜はカーネリアの言葉に困惑する。
「何言ってるの?」
「結構ストレートに言うねえ。」
カーネリアはトランプを取り出す。
「もう一回、好きなカードを引いてくれないかい?」
「なんで?」
「別にお金をとるわけじゃないんだ。」
美桜は嫌々トランプを引く。
「これは……」
美桜が引いたのはクイーンだ。よく見ると、前に引いたものとまったく同じだ。
「……イカサマ?」
「イカサマなんかじゃない。これはすでに決まった結果なのさ。」
「結果?」
「このトランプについて説明しよう。これは運命のトランプだ。これにはとある呪いがかけられているんだ。」
「呪い?!なんてもの持ち歩いてるの!」
「呪いとは言っても、人間に危害はない。このトランプは、引いた者の実力を表している。君の実力は、トランプでいうクイーン程度ということだ。」
「じゃあ、あんたは何を引いたの?」
「へぇ、僕が引いたってわかるんだ。」
「自分の実力を知りたくて、絶対一回は引いてると思っただけよ。」
カーネリアはトランプをしまう。
「……僕が引いたのは、エースだ。」
「エース……」
「ちなみに、このトランプはポーカーの強さで表しているらしい。つまり、僕の実力は君より高いということになる。」
「でもそれ、ガーネットよりも強いことになるけど?だったら、なんで昨日の試合は負けたの?」
カーネリアは目を閉じて、しばらくすると口角を上げる。ゆっくりと目を開けてから発言する。
「僕が本気で戦っていないからだ。」
「……それだけ?」
美桜は薙刀をカーネリアに向ける。
「戦う準備はできているみたいだね。さっきの話している時間に、武器に魔力を集めていたのか。」
「あんたを全力で潰す。」
「おぉ怖い。」
カーネリアは余裕そうな笑みを浮かべる。
「せいぜい、足掻くといいさ。」
カーネリアは美桜に向かって魔力でできた鎖を放つ。美桜は鎖を薙刀で弾きながらカーネリアに接近する。
「えっ?」
弾いた鎖が、方向を変えて美桜の足に巻き付く。美桜は鎖に引っ張られて地面に叩きつけられる。
「僕の鎖から、簡単に逃げられると思わないことだ。」
立ち上がった美桜を、カーネリアは鎖で追尾する。
「ちっ、しつこいっ!」
美桜は鎖を薙刀で切り刻む。鎖はバラバラになって消滅する。
「壊したところで、僕の魔力でいくらでも直せる。」
鎖はカーネリアの魔力を受けてすぐに元通りになる。美桜は迫りくる鎖を再び壊すが、先程よりも壊すのに時間がかかった。
「何度壊しても無駄だ!」
鎖はその場ですぐに再生すると、美桜に向かって突撃し、地面に突き刺さる。
「今のを避けるか。」
「これだけ?」
「ふっ、僕のターンは、まだ終わっていない!」
鎖は地盤を持ち上げながら美桜に襲いかかる。
「どんだけ頑丈なのよ?!」
鎖から地盤の一部が剥がれ落ちる。美桜は薙刀で切り刻む。地盤の一部は、瓦礫となって周りに散らばる。
「まだまだぁっ!」
カーネリアは鎖を美桜に向かって飛ばす。美桜は地面に刺さった鎖の間を駆け抜ける。
「君は逃げられない。」
突然、鎖は地面を引っ張って美桜を宙に吹き飛ばす。
「空中では避けられないだろ?」
鎖は美桜の腕に巻き付いて、美桜を地面に叩きつける。衝撃で砂煙が舞う。
「まだ終わっていないだろう?」
カーネリアは鎖を自身の周りに漂わせる。
「っ?!」
カーネリアの頬を風の刃がかする。次の瞬間、砂煙を突き破って美桜がカーネリアに切りかかる。
「くっ……」
カーネリアは鎖で薙刀を止める。
「へぇ、無傷か。なら、これはどうだ?!」
カーネリアは鎖を1つにまとめて美桜に向かって振り下ろす。美桜は鎖の束を薙刀で受け止める。
「鎖をまとめて鈍器にしたわけね。中々面白いことをするじゃない。だけど、単純すぎる!」
美桜は鎖の束を押しのけて、カーネリアを突き飛ばす。カーネリアは鎖を地面に突き刺して飛ばされないようにするが、美桜にその隙を狙われる。
「ちっ、おまっ……」
カーネリアは鎖を美桜に巻きつけるが、美桜は簡単に切り刻む。カーネリアは胸ぐらを掴まれて、地面に向かって投げ飛ばされる。カーネリアは汚れを払いながらゆっくりと立ち上がる。
「……。」
美桜は黙っているが、警戒を解かない。カーネリアは不敵な笑みを浮かべている。
「何を企んでるの?」
「企んでる、か。君の予想は間違っていない、とだけは言っておこう。」
美桜は薙刀を握る力を強める。
「僕は戦場をカードゲームに例えている。互いの手札をぶつけ合う。同じだろ?」
「……つまり?」
「ここで1つ聞こう。戦場での勝率を上げるためには何をすべきだ?」
「……鍛錬?」
「それも大事だ。だけど違う。」
カーネリアは1枚のトランプを取り出す。
「答えは、相手の意表を突くことだ。」
美桜は薙刀をカーネリアに向ける。
「君も最初から、自身の手の内を全て見せることはないだろ?適切な場面で適切な持ち札を切る。これが戦闘というものだ。」
カーネリアはトランプを消す。
「そして、ここぞというときに、切り札を使う。」
カーネリアは消したトランプを再び出現させる。
「切り札は、状況を一転させるほどの力を持つ。」
カーネリアはトランプの表を美桜に見せる。
「これが僕の切り札。これを使えば、僕の勝ちだ。」
「じゃあ最初から使えばよかったのに……」
「僕は切り札を使うのに躊躇っていたんだよ。この力はあまりにも強大すぎる。なんせ、あの神宮寺 椿に匹敵するほどの力を扱うんだ。まっ、椿が隠し玉を持っていない場合だけどね。」
カーネリアはカードを燃やす。直後、カーネリアの内側から魔力が溢れ出す。
「さぁ、刮目しろ。これが……」


「僕の全てだっ!!!」



「何が……起きたの……」
美桜が上空を見上げると、カーネリアは宙に立っていた。体からは圧倒的とも言える魔力を放っている。カーネリアの姿を見るやいなや、青と赤は姿を現す。
「気をつけろ。あいつから異常なほどの力を感じる。」
「それはわかってる。」
美桜は自分の手を見る。無意識に震えていた。
(本能?)
美桜は薙刀を強く握りしめる。
(逃げるつもりはない。)
「どうだ?圧巻だろう。」
カーネリアはゆっくりと地面に降りてくる。
「龍神が2体、だが、今の僕の敵ではない。」
カーネリアはコインを取り出して美桜と重ねる。その後、コインを投げて手で取る。
「君の選択はなんだ?」
「倒す。逃げたりはしない。」
カーネリアは手の中にあるコインを見る。コインは表向きだった。
「ここまでは、全て予想通りか。さて、ショーはここからだ!」
カーネリアは無数の鎖を放つ。鎖は勢いよく美桜に向かって飛ぶ。美桜は鎖を弾くが、鎖は先程よりも速く、重い一撃となっている。
(何度も受け続けると手が痺れる。避けるしかない!)
美桜は前方に飛び込んで鎖を躱す。
「まだまだぁっ!こんなものじゃない!」
鎖は急に止まって、カーネリアに向かって集まる。美桜は鎖に巻き込まれてカーネリアの近くに引き寄せられる。
「はあっ!」
カーネリアは美桜を鎖の束で吹き飛ばす。青は美桜を受け止める。
「くそっ、鎖が邪魔で近づけない。」
「普通に壊すのはだめなの?」
「ああいうタイプの魔法は、壊すと使用者が有利になる可能性が高い。」
「え?何回も壊してるけど?」
「それはもう仕方のないことだ。」
美桜は立ち上がって鎖の動きを見る。
(動きに規則性はない。予想外の動きに注意しないと。)
美桜は迫りくる鎖を弾く。一回弾くごとに、腕に衝撃が伝わる。美桜は鎖を躱して宙に翔ぶ。鎖は下から美桜を追う。
「はっ!」
美桜は鎖を弾いて、鎖の上を滑ってカーネリアに近づく。
「あまいっ!」
鎖はすぐに美桜に向かって動き出す。青が鎖から美桜を庇う。
「この程度では、我らを傷つけることはできんぞ。」
「そうだろうね。想定内のことだ。」
カーネリアは鎖を青に巻きつける。青は振りほどこうとしない。鎖を壊すことを躊躇っているのだ。
「壊しなよ、君なら簡単だろ?」
「鎖を壊せば、貴様が有利になるのだろ?」
「それは分からないよ。」
カーネリアは接近してきた美桜の攻撃を鎖で防ぐ。
「僕が気づかないとでも思ったかい?」
「そんなわけないで、しょっ!」
美桜は鎖を振り払って、カーネリアを踏みつけて後ろに翔ぶ。美桜が視界から消えた直後、赤が魔力砲を放つ。
「そう来たか!」
カーネリアは鎖を集めて魔力砲に備える。魔力砲はカーネリアの包み込む。鎖が砕ける音が聞こえる。魔力砲が消えると、カーネリアはその場に立って攻撃を耐えていた。
「へぇ、思ったより強いわけではないんだね。」
カーネリアの周囲からは、新しい鎖が生成される。
「言っただろう?鎖は僕の魔力があれば、何度でも直せると。」
「ちっ、厄介だな。」
青は舌打ちをする。
「……あんた、側は変わっても、攻撃は変わんないんだ。」
美桜の言葉に青は疑問を持つ。
「なぜそんなことをあいつに聞く?」
「まだ手札を隠してる可能性があるの。流石に攻撃がワンパターンすぎる。」
美桜は青の耳元でコソコソと話す。
「あぁ、変わんないさ。なんせ僕が使えるまともな攻撃魔法は、これだけだからね。」
「つまり、まだ他に手札があると?」
「そういうことさ。まぁ、使うことはないかもしれないけどね。」
カーネリアはトランプを1枚引く。引いたカードを見るやいなや、カーネリアは目を瞑る。
「いや、訂正させてもらう。僕は使うだろうね。」
カーネリアは鎖を生成する。今度の鎖には、先端にトゲがついている。
「これを受ければ重症は免れない。さぁ、どう対処する?」
鎖は地面に潜ると、地面を突き破って美桜の足元から飛び出してくる。美桜は鎖を躱す。トゲに自分の顔が移る。美桜は鎖を掴むと、思い切り引っ張る。
「ん?何をしているんだ?」
カーネリアは鎖を引っ張る美桜を引き剥がそうと、様々な方向から鎖を飛ばす。青と赤は、鎖から美桜を守る。
「青!」
青は鎖を掴む。美桜は鎖に掴まって青と共に飛ぶ。青はカーネリアに向かって鎖を投げる。
(鎖が制御を失っている。あの龍神め……何か細工をしたな?)
カーネリアは鎖を破壊する。美桜はそのままカーネリアに突っ込む。
「僕に近づくことは、君にとっては非常に危険なことだ。」
カーネリアは美桜を鎖で捕まえる。
「なぜ急に近づいてきたんだ?」
「後ろに気をつけたら?」
「後ろ?」
カーネリアは後ろを向く。赤がカーネリアに掴みかかってくる。カーネリアは鎖で赤の腕を掴んで別の場所に引っ張る。
(しまった!)
美桜はその隙に抜け出し、カーネリアに向かって薙刀を突き出す。カーネリアは美桜の前に無数鎖を作り出す。美桜は鎖などお構い無しに攻撃を仕掛ける。
「砕けろ。」
カーネリアの言葉で、鎖が爆発を起こす。美桜は瞬時に反応して爆発から逃れる。
「何が起きた?」
「あいつが鎖を爆破した。」
カーネリアは鎖を美桜に向かって飛ばす。美桜は体を反らして鎖を躱す。鎖が光りだして、すぐに爆発する。
「ふっふっふっ、さっきみたいに仕掛けてきたらどうだ?」
カーネリアは美桜を挑発する。
「こんなのを見せられてするとでも?」
「ははっ、そうだね。」
カーネリアは美桜の足元に鎖を落とす。美桜はすぐにその場から離れる。鎖は美桜の後を追うように、次々と落ちてくる。
「さぁ、舞台を盛り上げよう!」
カーネリアが指を鳴らすと、鎖が順番に爆破していく。美桜は爆風に飛ばされて壁に打ち付けられる。
「ふふふっ、この程度で終わり、なんてことはないよね?まだショーはこれからだ。」
カーネリアは美桜を会場の中央に投げる。美桜のそばに、青と赤が飛んでくる。
「爆風でお前の姿を隠された。すまん。」
「謝る必要はないわよ。」
美桜は薙刀を地面についてゆっくりと立ち上がる。
(どうすればいいわけ?鎖に近づくことができない。避けたとしても、起爆されたらそれまで。それに、あいつの言葉……まだ何か隠してるわけ?)
美桜は赤の魔力を薙刀に集める。
「やっと立ち上がったか。早速だが、これはどうする?!」
カーネリアは無数の鎖を飛ばす。美桜は鎖を薙刀で切り刻む。カーネリアは鎖を爆破しようとする。
「青っ!赤っ!」
青は美桜に向かって雷を落とす。雷は散らばった鎖をかき消す。美桜は赤の加護で雷から身を守る。
「そんな使い方があるのか……」
カーネリアは感心しながら次の手を考える。
「なら、数を増やしてあげるよ!」
美桜は鎖を薙刀で確実に切り刻む。砕けた鎖を、青は雷でさらに破壊する。
(ちっ、鎖の弱点に気づかれてるな。この鎖は一定まで破壊されると、爆破させることができなくなる。)
美桜はカーネリアに十分に近づくと、集めていた魔力を斬撃として放つ。カーネリアは鎖で防ごうとするが、威力が高く、鎖は簡単に撃ち破られる。
「くっ……」
カーネリアは斬撃を自身の横に弾く。斬撃の端がカーネリアの頬をかする。
(防ぎ切ることできないか。)
美桜はカーネリアの死角から薙刀を振る。鎖が薙刀を受け止める。
「ふん、仕方ないみたいだな。」
カーネリアは美桜を突き放して距離を取る。
「僕の力が、これで全てだと思ったかい?」
「………。」
美桜は黙ったまま様子を見ている。
「そうか。気づいているみたいだね。」
カーネリアは黄金のカードを取り出す。
「僕がこれを消したらどうなるか……君に想像ができるかな?」
「できると言ったら?」
「それだと、この力を知っていることになる。この場にいる者全員が、この力を知らない。」
(なんせこれは、"呪いの悪魔の力の一部"だからな。)
カーネリアはカードを焼き尽くす。カーネリアに力が集まりだす。それは神聖なものではなく、呪いに近い、邪悪なものだ。
「君が、僕を打ち負かすことはできない。」
カーネリアの体に鎖が巻き付く。鎖は魔力となって吸収されていく。



 一方その頃、グリモワールは本の中でくつろいでいた。
(はぁ、暇だなぁ……)
グリモワールがため息をついていると、誰かが部屋に入ってくる。入ってきた人物はグリモワールは手に持つ。
「うわあっ?!急に持つな!」
グリモワールは驚いて声をあげる。すると、冷たく、見透かしてくるような声が聞こえてくる。
「へぇ、ほんとにいるんだ。」
グリモワールの全身に身に覚えのある感覚が表れる。
「き、君は誰だ?僕に……なんの用があるんだ?」
(この感じ……僕を封印した男に似ている。この女、只者じゃない。)
「私は椿。あなたは、グリモワール。そうよね?」
「なるほど、僕のことを知ってるんだ。だったら、少し態度が大きいんじゃないかな?」
「文句ある?」
「いや、ないです。」
(だめだ、この女も同じだ。あの男のように、口で言い聞かせることはできない。)
グリモワールからは戸惑っている雰囲気が溢れている。
「私が怖いの?」
「いやぁ、そんなわけないだろう?だって僕は、偉大な悪魔の1人なんだから。」
「ボロが出てるけど?」
「あっ……」
グリモワールは焦ったように黙り込む。
「あんた以外にも悪魔がいるの?」
「そ、そんなわけないだろぅ?きっと、君の聞き間違いだよ!」
「そう……」
椿から疑いの眼差しが向けられているのを、グリモワールは肌で感じた。
(うぅ……怖すぎるだろ。これじゃまるで尋問じゃないか……)
椿は悩んでいるグリモワールを見て、笑みを浮かべる。
(戸惑ってるわねぇ。もっと戸惑いなさい。そして、もっと情報を吐きなさい。)
「そ、そうだ。そこにケーキがあるだろう。少しお茶でもしないかい?」
「悪いけど、そんな時間はないわ。あんた、あの男を狙ってるでしょ?」
「あの男?この部屋の主のことかい?」
「そうよ。」
椿はグリモワールの上に指を置く。
「あんたの力の一部が欠落している。誰かに奪われたように。」
グリモワールは言葉を発さない。
「神呪の律令(しんじゅのりつれい)。」
「そ、それは……」
グリモワールは驚いたように声をあげる。
「あんたが失った力の一部よ。」
「君は、それについてどこまで知っているんだい?」
「あんたの力の一部ということ。あとは、呪法連合の幹部たちがその力を分けて持っている。これぐらいよ。あんもそれを知ってて、あの男の側にいたんでしょ?」
「はぁ……その通りさ。そこまで見抜かれているんじゃあ、認めざるを得ないね。」
グリモワールは落ち込んでため息をつく。
「だけど、僕だって無策というわけじゃない。」
「でも封印されているせいで何もできない、と。残念ね。」
椿は哀れみの目を向ける。
「まあいいや、君に教えてあげるよ。神呪の律令がなくても、僕の力は絶大なものだ。」
「ふーん……封印を強めたほうが良さそうね。」
「あぁっ!それだけはやめてくれ!」



美桜は警戒を強める。カーネリアは美桜のほうを見下ろす。体からは魔力が溢れ出て、羽のようになっている。
「……魔法じゃない。」
美桜はカーネリアを観察しながら武器を振るタイミングを探る。
「どうした?早く仕掛けてきたらどうだ?」
カーネリアは見下すように挑発する。
「そうかそうか。怖気づいたのか?なら、こちらからいかせてもらおう!」
「気をつけろ。何をしてくるか分からんぞ!」
カーネリアは鎖を集めると、1つの巨大な手を作り出した。
「君たちを叩き潰してやろう!」
巨大な手は美桜に向かって振り下ろされる。
「くっ……」
(これは、圧倒的な質量で叩き潰しにきてる!まともに喰らえば致命傷は免れない……)
美桜は鎖の手を攻撃するが、鎖が壊れるだけで形が崩れる気配はない。鎖の手は握りこぶしを作ると、美桜に向かって突撃する。
「危ねえな!」
青と赤が鎖の手を受け止める。
「ようやくでてきたか。待ちくたびれたぞ!」
カーネリアは鎖で青と赤を囲う。
「ふんっ、こんな鎖……簡単に壊してくれる!」
青は鎖を引き千切る。
「そうかい。じゃあ、こいつはどうだぁ?!」
カーネリアは鎖を集めて鉄球にし、青に向かって投げる。
「こんなもの……」
青は鉄球を破壊する。鉄球の中から黒い鎖が現れ、青に絡みつく。
「また面倒なものを!」
青は引き千切ろうとするが、鎖はびくともしない。
「貴様、なんだこの鎖は?!」
「そいつは"戒めの鎖"。絡みついた相手の何かを一時的に封じるものだ。君の場合は、動くことを封じられたみたいだね。大人しく、僕の攻撃の的になるといい!」
無数の鎖が青に向かって放たれる。美桜は青を引き戻す。
「あぁそうか。君のほうでも動かせるのか。」
カーネリアは美桜にも戒めの鎖を放つ。美桜は鎖を断ち切る。
「うん?そんな簡単に切れるはずはないが?」
薙刀には、赤い魔力が溢れていた。
「なるほど。龍神の魔力を込めたのか。確かにそれなら、戒めの鎖を破ることができる。しかし、切ったのことを後悔するなよ!」
砕けた鎖から、黒い魔力が美桜に降り注ぐ。
「何っ?!」
黒い魔力はすぐに地面へとこぼれ落ちる。
「ふふっ、さぁ、苦しむといい。」
「後ろだ!」
美桜は赤の声で背後から迫る鎖に気づく。同時に、違和感を覚えた。
(鎖を探知することができなかった?)
美桜は感覚が鈍っていることに気づく。
「これもあの鎖の力?」
「君は今、感知能力が低下している。どこまで耐えられるかな?!」
鎖は集まりだして、2つ目の鎖の手を作り出す。2つの手は美桜を挟み込むように襲いかかる。
「ぬあぁぁっ!」
赤は2つの手を受け止める。その隙に、美桜はカーネリアに切りかかる。
「接近したことを後悔するんだなっ!」
カーネリアは周囲に鎖を張り巡らせる。美桜は咄嗟に範囲から出ようとするが、鎖に捕らえられる。
「ふっふっふっ。どうだ、自分の弱さに気づいたか?それで僕に勝てると思っているのかい?」
「勝てると思うじゃない。勝つの。」
「その状態からか?抜け出せたとしても、感知能力が下がっているようじゃあ、僕の的に過ぎない。まぁ、せいぜい足掻くといいさ!」
カーネリアは美桜を地面に何度も打ち付ける。
「あっ……」
美桜は一瞬眩暈がするが、すぐに立ち上がる。
(鎖をほどかないと……)
美桜は腕を動かして抵抗するが、鎖がほどける気配はない。
「さぁ、閉幕の時間だ!」
鎖が会場に張り巡らせられる。
「まずい!」
青は出てきて結界をはる。鎖にそって、無数の斬撃が放たれる。



「おや?」
砂煙が晴れると、美桜は肩で息をしながら立っていた。
「そうか、龍神を盾にしたか。もう降参したらどうだ?君1人で、僕に適うはずがない。」
「確かにそうね。だけど、あんたの致命的な弱点を見つけたわ。後ろを見てみなさい。」
カーネリアの後ろの壁には、何かがぶつかった跡がある。
「あんたの攻撃のとき、あそこに魔力を撃ってみたの。そしたら、あんたはまったく気づいていなかった。あんたは攻撃してるとき、魔力を感知することができないんでしょ?」
「それがどうした?そんな不確定な事実を知って……まさか、勝った気でいるわけじゃないだろうな?第一、君の言う攻撃に気づいたか否かは、僕にしか分からない。」
「なら、もう一度試すまで!」
美桜は足に力を入れて強く踏み込み、一気にカーネリアの近くまで移動する。
「試すと言ったのに、近接戦にするのか?まぁ僕としては嬉しいが。」
美桜は薙刀を連続で振るが、カーネリアの鎖に邪魔をされる。その都度、背後から風の刃で不意打ちを狙うが、これも全て鎖にはばまれる。
(あの鎖……こいつが動かしているように見えるけど、少し動きが変。まるで、自立して動いているような……)
美桜は鎖を振り払って距離を取る。鎖は地を這ったり、宙を飛びながら美桜を追う。
「このっ……」
鎖は薙刀を躱して美桜を転ばせる。美桜は地面に手をついてすぐに立て直す。
(鎖をどうにかしないと……)
鎖は無数に存在し、それぞれ予測不能な動きをするため対処が難しい。中には戒めの鎖も混ざっている。
「休んでいる暇はないぞ!」
鎖は美桜の周りの地面に突き刺さる。美桜は鎖の間から縫うようにして逃げ出す。
「逃げられたと思うな!」
カーネリアは突き刺した鎖を、美桜に向かって地面を抉りながら引っ張る。鎖が地面から離れた瞬間、鎖の下をくぐって避ける。今度は前方から鎖の手が襲いかかる。
「っぶない!」
美桜は鎖の手の下を滑り抜ける。もう1つの手が美桜を掴もうと、上からのしかかってくる。
「つっ……」
美桜は地面を転がって鎖の手の指の隙間を通り抜ける。
「転がってばかりでは、何も変わらない!」
カーネリアは美桜に向かって鎖の鉄球を振り下ろす。美桜は薙刀で受け止めて、力を込めて押しのける。美桜は鉄球の陰から、カーネリアに向かって風の刃を放つ。
「思い通りにいくか!」
カーネリアは鎖で風の刃をかき消す。鎖は美桜に向かって放たれる。鎖は次々と地面に突き刺さる。美桜は鎖を躱しながらカーネリアに向かって走る。
「せいっ!」
美桜は薙刀を突き出す。
「馬鹿め。」
美桜は左右から鎖の手に挟まれる。



 椿が廊下を歩いていると、背後から来た2人の人間に話しかけられる。
「よぉ、前はよくもやってくれたな。」
「またあんたたち?今度は何?」
そこには、先日、椿が気絶させた玖羽の元同業者の2人がいた。
「カーリスはどこだ?言えば命だけは助けてやる。」
「教える必要はないと思うけど?」
「何を言って……」
「うっ?!」
男の後ろにいた女が突然倒れる。
「何をした?!」
「私は何もしてないわ。さっ、あんたたちが用がある人間が出てきたわよ。」
男は辺りを見渡すが、玖羽の姿はない。
「俺はここだ。」
玖羽は男の顔を掴んで壁に押し付ける。
「お前は、カーリス……なのか?」
「あぁそうだ。俺に用があるんだろ?」
男は玖羽の姿を見る。
「なんだ……その姿は?お前は……本当に、カーリスなのか?それではまるで……バケモノだ。」
「バケモノ、ねぇ……あながち、間違ってねえかもな。」
「その腕はどうした?左腕は失ったはずだ。」
「ふんっ、今の俺なら、腕を治すことくらい造作もねぇ。」
玖羽の体からは赤黒い魔力が溢れており、羽衣のようになっている。髪の毛は赤黒い魔力を纏い、炎のように揺らめいている。
「用は済んだか?」
「いや……やる気が失せた。」
「そうか……」
玖羽は男の意識を奪う。
「殺した?」
「気絶させただけだ。」
玖羽は元の姿に戻る。
「お前の研究は成功か?」
「えぇ、大成功よ。おまけに、おいしい収穫も手に入ったし。」
椿は玖羽にりんごを渡す。
「食べてていいわよ。」
「どこに行く?」
「……着いてくればわかる。」
玖羽は椿のあとを追って、どこかに向かう。
「観戦しなくていいの?」
「あぁ、結果は予想できてる。」



「終わったな。」
鎖の手は美桜を挟んだまま微動だにしない。
(しかし、あっけなかったな。)
カーネリアが鎖を消そうとした時、鎖が粉々に切り刻まれる。美桜は地面に膝をついて薙刀を構えていた。
「ふっ、まだ倒れないか。」
美桜はゆっくりと立ち上がる。
「まだ終わってない。」
「ふむ……君は何を企んでいる?まるで、全て計算通り、みたいな顔をしているな。」
「えぇ、計算通りというか、予想通りと言うべきね。やっぱり、攻撃しているときは、魔力を感知することができていない。その腕の傷は何?」
カーネリアは左腕に切り傷があるのに気づく。
「ふーん、挟まれる前に魔法を使ったのか。だけどこの程度では、僕を倒すのに時間がかかる。それまでに、君の体力が尽きて終わりだ。」
「そんなのは関係ない。倒せればいいんだから!」
美桜はカーネリアに向かって斬撃を放つ。カーネリアは鎖で防ぐ。背後から風の刃を向かわせるが、鎖で妨害される。
「風魔法のパターンは概ね理解している。同じ手は通じないと思ったほうがいい。」
(ほんとにその通りね。弱点がわかったとはいえ、同じ手ばかりでは決定打にはならない。)
美桜は手に魔力を集める。
「無駄だっ!」
鎖が美桜の腕に巻き付く。美桜は鎖を掴んで、集めた魔力を解き放つ。魔力は鎖を粉砕する。美桜の手にはまだ魔力が残っている。
「捻り潰す!」
左右から鎖の手が迫る。美桜は鎖の手の隙間を通り抜ける。カーネリアは鎖で壁を作る。
「はあぁぁっ!」
美桜は鎖の壁を殴りつけて破壊する。
「くっ……君は何を考えているんだ!」
カーネリアは鎖を美桜に向かって飛ばす。美桜は鎖を弾きながら突き進む。薙刀の切っ先がカーネリアの胸に近づく。
「ふっ、かかったな。」
美桜の体に戒めの鎖が巻き付く。
「はっ…?!」
「僕が押されてると思ったかい?流石に攻め続けてくるのは予想外だったが、僕の思惑通りになってくれたね。」
美桜は急いでカーネリアから離れる。
(視界が……)
美桜は顔に手を当てる。視界がぼやけていてカーネリアとの距離感を掴むことができない。おまけに感知能力も低下している。
「まだ戦うかい?その状況では、まともに動くことさえ無理だろう。」
カーネリアは無数の鎖を飛ばす。美桜は音を頼りに鎖を躱す。
(青、動ける?)
「あぁ、可能だ。」
青は姿を現す。
「雷を落として。一回だけでいい。それが終わったら、私に魔力を貸して。」
美桜は薙刀に赤の魔力を集める。
「いいだろう。我に任せろ!」
青は力を溜め、カーネリアに向かって雷を落とす。カーネリアは鎖を避雷針の代わりにしてやり過ごす。美桜は薙刀に溜めた魔力を、斬撃として放つ。カーネリアは鎖で斬撃を打ち消す。鎖と斬撃がぶつかって、砂煙が発生する。
「受け取れ!」
青は美桜に魔力を渡す。美桜は魔力を手に集める。美桜は風の刃をカーネリアに向けて放つ。
(またか……)
カーネリアは鎖を砂煙の中に飛ばす。
(来た……チャンスは、今っ!)
美桜は鎖の音が聞こえた瞬間、集めた魔力を光線状にして砂煙に向かって放つ。
(何もしてこない?)
光線は砂煙を突き破って、カーネリアに迫る。
「くそっ……」
カーネリアは鎖で壁を作るが、光線は難なく突き破る。
「これなら……」
2つの鎖の手で光線を受け止める。しかし、鎖の手は長くは持たない。光線にすぐに突破される。
「ふっ……僕の、負けか。」
光線はカーネリアを包みこむ。
「……勝っ……た?」
美桜は気が緩んだのか、地面に膝をつく。
「ふっはっはっはっはっ!いい攻撃じゃねえか。我の魔力を使っているから、龍神砲とでも命名したらどうだ?」
砂煙が晴れると、カーネリアの前に何かが浮かんでいた。
「……花?」
美桜は少し近づいて花をよく見る。カーネリアのほうを見ると、まるで、花に守られているようだった。カーネリアは目を開ける。
「これは……一体……」
カーネリアも状況が分からないようだ。
「……灰色の……薔薇?」
美桜は言葉をこぼす。
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