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【第21章 紡ぐ者】
第9節 灰の薔薇
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「……灰色の……薔薇?」
美桜はその花に驚いている。なぜなら、灰色の薔薇など、存在しないのだから。
(造花……じゃない?)
薔薇は作り物ではなさそうだ。美桜の横を花びらが通り過ぎる。辺りを見ると、灰色の花びらが集まりだしていた。
「なぜ……ここに?」
カーネリアはゆっくりと立ち上がる。
「あんた……これについて知ってるの?」
カーネリアが答える前に、天垣が美桜の前に降り立つ。
「え?」
「俺の後ろにいろ。」
「なん……」
美桜は何かの気配を感じる。
(何か……来る?!)
集まった花びらが散り散りとなって、中から1人の女性が現れる。手には一冊の本が握られている。
「初めまして、と言うべきね。」
「誰だお前は?」
「私はグレイ・ローズ。呪法連合の現盟主よ。」
「呪法連合……だと?」
天垣はその言葉を聞いて警戒を強め、大剣に手をかける。
「警戒するのはわかっている。呪法連合の黒い噂は、魔道士間では絶えないからね。だけど、噂は所詮噂。私たちには敵対する意志はない。」
「なら、何をしに来た?」
「彼を回収しに来た。」
「回収?カーネリアをどこに連れいて行くつもりだ?」
「ふぅん、あなたは、しっかり隠し通せたみたいね。聞かれなかったの?」
「あぁ、何も聞かれなかったね。」
天垣は大剣を握る力を強める。
「お前たち……繋がっているのか?」
「ん?あぁそうだよ。僕は呪法連合幹部の1人だ。……もう言ってもいいだろ?」
「あぁ、構わない。」
「なぜだ……なぜお前が、呪法連合にいるんだ?!」
天垣はカーネリアに問いただす。
「それが、世界を守ることに繋がるからだ。」
カーネリアは、少し、美桜のほうに視線を向ける。
「君は、神呪の律令を知っているかい?」
「そんなものは知らん。」
「神呪の律令。それは、呪いの悪魔グリモワールの力の一部だ。」
「……悪魔だと?」
天垣は前に足を出す。
「グリモワールは、この力を取り戻す気だ。僕たち幹部と、盟主であるグレイ・ローズは、神呪の律令を五つに分けて1人1つを管理している。」
「それが理由か?管理者がいないというそれだけの理由か?」
「あぁそうだ。君もさっき見ただろう。僕がさっき使ったもの、神呪の律令の力の一部だ。あれに加え、あと4つも別の力が残っている。そんなものを、放置していていいわけがないだろ。」
「だから、呪いに手を染めたのか?それが、魔道士の規則に反することだということを、お前が知らないはずがないだろ!」
「ルールなんてものは、人の動きを縛る枷でしかない。ルールに囚われているようじゃあ、世界を守ることなんか不可能だ。僕はそれを理解した上で、この力を管理している。そして、この方法こそが、グリモワールを倒す鍵になる。そうだろ?」
「その通りだ。人に馴染んだ力を取り戻すことは、グリモワールであっても難しい。奴を弱体化させる唯一の方法だ。」
グレイ・ローズは背を向ける。
「行くぞ。油を売っている時間はない。」
「そういうわけだ。」
カーネリアは天垣から目を逸らしてグレイ・ローズのほうを見る。
「くっ……信じられるかっ!」
天垣は大剣を抜く。グレイ・ローズは杖を取り出すと、杖に魔力を集める。
「大人しくしろ。」
グレイ・ローズが杖を振ると、会場に大きな亀裂ができる。
「今のを避けられるか?人間が喰らえば即死だ。神霊の加護を持ってしても、即死は防ぎようがない。わかったのなら武器をしまえ。もし敵対すると言うのなら、私も容赦はしない。お前を殺すことなど、紙を破ることのように簡単だ。」
グレイ・ローズはカーネリアを連れて姿を消す。
「大……丈夫?」
美桜は天垣に声をかける。
「俺は問題ない。一旦情報を整理する。」
「それにしても、相変わらずのバケモノっぷりだな。あんなもの、避けられるやつはいない気がするよ。」
グレイ・ローズは歩きながら話す。
「それもそうだ、今の魔道士は弱すぎる。いや、正確には、私の時代の魔道士が強すぎただけだ。だが、私より強いやつであっても、平気で死ねるような時代だ。」
「そういえば、悪魔って何体いるんだ?」
「はぁ……前も聞いたはずだ。」
「復習?みたいなものだ。」
「……グリモワールを含め、4体よ。」
「ちなみにだが、全員と戦ったのか?」
「……一応ね。」
「誰が強かったとかあるのか?まぁ、全員強いと思うが。」
「4体とも、異常と言える実力を持っている。一対一で勝てるような相手じゃないのは確かね。」
「僕が何人いたら勝てそうだ?」
「さぁ?レベルが違いすぎて分からない。1つ言えることは、私でも、グリモワールを1人で倒すことはできない。」
「そんなバケモノが他に3体もいたのか。」
「そう。でも正直に言えば、私ぐらいの実力者が数人いれば、なんとかなるレベルではある。」
「君レベルの人間を見つけるのは、相当骨が折れると思うけど?」
「だけど、1体だけ……1体だけは違う。そいつだけは……あり得ないほどに強い。」
カーネリアはグレイ・ローズの手を見る。手は小刻みに震えていた。
「そいつを思い出すと、今でも震えが止まらない。そいつとは戦う前からわかっていた。勝てないと。私では、手も足も出ない。あれは……」
グレイ・ローズは地面にしゃがみ込む。
(トラウマレベルか……どんなやつと遭遇したらこうなるんだ?)
「グリモワールにすら勝てない私に、あんなやつの相手が務まるわけがない。」
「でも、グリモワールは君の手の中にある。」
カーネリアはグレイ・ローズが持っている本を指差す。それは美桜とサーミルが見つけた本だ。
「封印を強める。」
「倒すわけじゃないのか?」
「今戦っても勝ち目は薄い。もっとお前たちに、こいつの力が馴染む必要がある。」
グレイ・ローズは立ち上がると話を変える。
「私の依頼は終わったか?」
「あぁ、ちゃんと死神は、ガーネット・クローヴァーが保持している。」
「そう……ちゃんと、継承されたようね。」
美桜が部屋のソファに座っていると、サーミルとアメジストが部屋に入ってくる。
「お疲れ様です。」
「お疲れ。」
サーミルは美桜に缶コーヒーを渡す。
「なんで缶コーヒー?」
「今は色々と話したい気分だ。」
2人は美桜の反対に座る。
「呪法連合、まさか本当に存在するとは……名前は知っていたが、てっきり都市伝説的なものだと思っていた。」
「私も同じです。」
「しかしあの男……胡散臭いとは思っていたが、まさか、呪法連合の幹部だとは思いもしなかったな。」
「そういえば、グリモワールはどうなったの?」
「あぁ、それなんだが……さっきあの男の部屋を見てきたが、グリモワールはどこにもなかった。それにあの女が持っていた本……今思えば、あれはグリモワールじゃなかったか?」
「言われればそうかも。あまり憶えてないけど。」
「そうだ。ガーネットさんはどこへ?」
「ガーネット様は、緊急会議に出席しておられます。」
「緊急会議?」
「揃ったか。」
会議室には、天垣、ホーリー、ガーネットの3人が集まった。
「少なすぎでは?」
「早急に人を集めることは難しい。それに、今回のことは特殊だ。」
「せめて団長を呼んだらどうですか?」
「もちろん呼んだ。だが……」
「私がいなくてもなんとかなるでしょう。それに、椿もいるでしょう?」
「と、言われた。」
「確かに団長が言いそうではある。」
「椿がいるとは言われても、その肝心の椿がいないんだよ。」
「え、いないの?」
「あぁ、さっきから連絡がつかない。まあいい。今後について話し合うのが先だ。」
3人が会議を始めようとすると、誰かがドアをノックする。ドアの外には執事が立っていた。
「こちらを。椿様の部屋に置いてあったものです。」
執事は机の上に録音機を残して部屋を出る。
「なんで録音機?」
「聞いてみるぞ。」
天垣は録音機を起動する。ザーっという音が流れたあと、椿の声が聞こえる。
「天垣、あんたがこの声を聞いてる時、私はフランスにはいない。時間がないから率直に言わせてもらう。呪法連合と敵対することはおすすめしない。まぁ最終的な判断は、あんたとアーロンドに任せる。」
音声が切れて、部屋に沈黙が走る。
「……どうするつもりですか?」
「どうするも何も、俺の判断だけで決めることはできない。それに、まだ決断を下すには早すぎる。」
「私はどっちでもいいわ。頭痛いから休ませて~。」
ガーネットは水を飲んで机に伏せる。
(まったく、この二日酔いは……)
ホーリーはガーネットの襟を掴む。
「部屋に連れて行くわ。あと、私には決めることはできない。それほどの権限は私にはない。」
ホーリーはガーネットを引きずりながら部屋から出る。
「引きずるな~、おんぶしろ~。」
「酔ってるのか酔ってないのかどっちなんだ!」廊下からホーリーの声が聞こえる。
「はぁ……やれやれだな。」
「うーん……」
美桜はソファに寝転びながら考え事をしていた。
「何を考えているんだ?」
サーミルが覗き込んでくる。
「んー?あー、どうやったら強くなれるか。」
「十分強いと思うが?」
「それは青と赤がいるから。私1人だというほど強くないのよねぇ……」
「つまり、自己研磨したいと?」
「そう。特に武術を鍛えたい。まぁ、そんな都合よく鍛えられる場所なんて……」
「あるぞ。」
「あるわけないよねぇ~………………今なんて?」
「あるぞ。武術を鍛えられる場所。」
「どこ?」
「その前に、1人探さないといけないやつがいる。」
「誰を探しに行くの?」
「晴 祭鷹(セイ サイオウ)だ。」
「……僕に用でもあるのか?」
祭鷹は背後から近づいてきたサーミルと美桜に気づく。
「えーと、事情を話すと……」
「なるほどな。武術を鍛えたいから僕のもとに来た。まぁ、間違ってはいない。鍛錬をしたいなら、来週の今日の正午に、本部のロビーで待っていろ。」
祭鷹はどこかに去って行った。
「さっ、あとは来週まで待つだけだ。」
「これでいいの?」
「あぁ、本格的な武術の鍛錬をするにはこうするしかない。そのためには中国支部の最高管理者、 真絶(シンゼツ)の承諾を得る必要がある。」
「んーと、誰?」
「知らないのか?」
「うん、知らない。」
「まぁ、上層部は団員の情報を公開するようなことはない。自分から調べないと知ることはできないからな。」
「で、どんな人なの?」
「真絶は天級の魔道士だ。その実力は天級の中でもトップクラス。一部の団員からは、天級最強の魔道士とも言われている。」
「そんなに強いの?」
「あぁ、ガーネットさんがまだ天級だった頃、真絶はガーネットさんを圧倒するほどの力を持っていた。その力は今も健在だ。」
青が美桜に話しかける。
(そいつは面白そうだな。見つけたら戦わせてもらうぞ。)
(あんたは戦闘狂なの?)
「入れ。」
祭鷹は部屋に入る。部屋の中には1人の男がいる。
「なんだお前か。合同訓練はどうだった?」
「自分にとって、非常に有意義な時間だった。」
「そうか。ならよかった。」
男は巻物を取り出す。
「また新しいものを作ったのですか?」
「いや、古いものに手を加えただけだ。」
男は巻物を机に置くと、祭鷹のほうを見る。
「俺に何か話すことがあるんだろ?」
「はい。昨日、武術の鍛錬をしたいと申す者が現れました。あなたにその許可をいただこうと伺った諸造です。」
「武術の鍛錬、か。その者の名はわかるか?」
「神宮寺 美桜。あなたと同じ、天級の魔道士です。」
「神宮寺……」
男は少し黙り込む。
「鍛錬を許可しよう。それと、その者には最初、俺のところに来るように言っておけ。」
「はっ。」
祭鷹は軽く頭を下げて部屋から出る。
「神宮寺 美桜……」
男は巻物を手に取る。
「少しばかり、戦ってみたいものだ。」
1週間後……
「ロビーで待ってろとは言われたけど……」
「遅いな……」
2人はソファに座りながら待っている。
「コーヒーはいるか?」
「砂糖多めでお願い。」
サーミルはコーヒーを取りに行く。美桜はカバンから本を取り出して読み始める。
「何を読んでいる?」
「恋愛小説。」
「面白いのか?」
「うん。」
美桜は青の頭を撫でる。
「……あいつについてどう思う?」
「サーミルのこと?」
「違う。グレイ・ローズと名乗った女のことだ。」
美桜は本を閉じる。
「グレイ・ローズ。直訳すると灰色の薔薇。」
「至ってシンプルだな。お前はその名前に疑問を持っているように見えるが?」
「うん……だって灰色の薔薇は、存在しないんだもん。」
「なに?」
「知らないんだ。」
「花に興味はない。」
「なんの話をしているんだ?」
サーミルが紙コップを2つ持って現れる。青は咄嗟に美桜の陰に隠れる。
「あ、隠れた。」
「そろそろ姿を見せてくれてもいいと思うけどな。はいコーヒー。」
「ありがとっ……」
美桜はコーヒーを受け取ろうとした時、突然、眩暈に襲われる。
「大丈夫か?!」
「うん……大丈夫……」
美桜はコーヒーをゆっくりと飲む。
「………。」
美桜はコーヒーを飲んだあと、再び本を読み始める。
「約束どおりだな。」
祭鷹がゆっくりと現れる。祭鷹が来るまで、美桜が一言も喋ることはなかった。
「僕についてこい。お前たちに会いたいと言う人がいる。」
サーミルは美桜に手を差し伸べるが、美桜は手を取らずに自分で立ち上がる。サーミルは美桜が苦しそうに見えた。
(顔色が悪い?いや、気のせいか?)
「やっぱり、国が変わると雰囲気も変わるわね~。」
美桜は建物の中を見渡す。雰囲気はフランスとは全く違うものとなっている。
「こっちだ、はぐれるなよ。」
気づけば、祭鷹は2階に続く階段で待っていた。
「速いな……」
2人は祭鷹のあとを追う。
「今更だが、なぜ強くなろうとしている?」
「えっ、私?」
「あぁそうだ。」
「私一人だとそんなに強くないから。」
「そんな理由か……」
3人は一際大きな扉の前につく。
「僕は外にいる。お前たちだけで行ってこい。」
美桜は両手で扉を押す。部屋の中には、1人の男が椅子に座っていた。机には巻物が広げてある。
「よく来てくれた。知っているかもしれないが、俺は真絶。この中国支部の最高管理者を務めている。」
(でかっ?!2メートル近くあるでしょ?!)
真絶は2人よりも遥かに大きい。
「お前が神宮寺 美桜か。」
「知ってるの?」
「天級ともなれば、名前と顔ぐらいは知れ渡っている。それに加え、ある人物からお前のことを聞いていたからな。」
「ある人物?」
「君と同じ、神宮寺の苗字を持つ者からだ。確か、名前は椿だったか……」
「いつ来たの?」
「丁度、合同訓練が終わったタイミングだったな。」
(あの人が何も考えなしに来るとは思えない。何かあったの?)
「そういえば、彼女の後ろには鶴城 玖羽もいたな。」
「えっ、玖羽もいたの?」
「なんだ知り合いか?」
「まぁ、うん。」
真絶は声色を変える。
「彼にはあまり近づかないほうがいい。」
「なんで?」
「彼からは、"人間とは思えない異質な気配"を感じた。」
「どういう気配?」
「お前は龍神を従えているだろ?」
青が顔を出す。
「ちっ、気づかれたか。」
「龍神などを従えている者は、気配が複数ある。しかし、彼からは1つの気配しか感じられなかった。その気配は紛れもなく彼のものだ。その気配が異質だった。あれはおおよそ、人間が発することができるものではない。あの気配を例えるとするならば………"威光"だな。」
「威光?」
「まあいい、話が逸れた。武術の鍛錬を受けたいと言ったな?その前に、俺と少し手合わせをしてもらえるか?」
「いや急?!いいけどさ……」
「では、表に出よう。」
建物の外には巨大な修練場が広がっている。真絶は美桜の反対側に向かう。
「ルールは簡単、己の武術のみで戦う。魔力等の使用は禁止、それだけだ。準備はできたか?」
「いつでも。」
2人は武器を構える。
(何あの武器?刀?)
真絶は苗刀を抜く。
(刀身が長い。迂闊に近づくのは危険。)
「いつでも来てくれて構わない。」
(挑発に乗るとでも?でも、仕掛けてくる気配がない。ほんとに待ってるだけ?)
美桜は真絶の目を見る。
(違う!確実にこっちの隙を伺ってる!ん?じゃあ、隙を見せればあっちから来るんじゃ……)
しかしそれほど単純なことではない。隙を見せても、真絶は動こうとしないのだ。
(いやなんで?!ほんとに待ってるの?だったら遠慮なく行かせてもらうけど……)
美桜は地面を強く蹴って、真絶に向かって切りかかる。真絶は美桜の攻撃を容易く受け止める。
「お前の攻撃はそんなものか?まるで軌道を捉えるのが容易だ。」
「くっ、このっ……」
美桜は薙刀を振って苗刀を弾く。真絶はようやくその場から動き出す。
(速いっ?!)
真絶はその巨体に見合わない速度で苗刀を振る。美桜は苗刀を薙刀で受け流すが、ぶつかった際に重い一撃が体を襲う。
(なんて一撃、これで魔力を使用していないなんて……まぁ、それはこっちも同じか。)
青が美桜に話しかけてくる。
「我も戦わせろ。ルールなど、ただの口約束でしかない。」
「いや……私1人で戦う。」
美桜は青の言葉をきっぱりと断る。
「それで負けても知らん。」
(……この勝負に勝ち負けはない。ただ、お互いの実力を測るだけに過ぎない。)
美桜は真絶に向かって薙刀を突き出す。真絶は余裕の笑みを浮かべてゆっくりと躱す。その直後、真絶は地面をなぞるようにして苗刀を振る。美桜は下から来た苗刀を防ぐが、薙刀がかち上げられる。薙刀は美桜の後方に落下する。
「ふむ……お前の実力はだいたいわかった。それと、1つ言いたいことがある。2人も来てくれ。」
真絶は祭鷹とサーミルを呼ぶ。
「言いたいことって何?」
「それは後だ。まずはお前の実力だが、実力としては十分だろう。あくまで、龍神を使う前提だが。」
「そうでしょうね。」
美桜は腰に手を当てて少し落ち込んだように真絶から視線を逸らす。
「で、言いたいことって?」
「そのことだが、少々複雑だ。単刀直入に言わせてもらうが、お前、あと何年生きれるんだ?」
「何年生きれる、ねぇ……」
祭鷹とサーミルは驚いたように美桜のほうを見る。
「何年生きれるかって、どういうことだ?」
「そのままの意味だ。彼女に残された時間は少ない。」
真絶は戸惑うサーミルに包み隠さずに伝える。
「何が原因でそうなったんだ?」
「そんなもの、すでに明白だろう。……龍神だ。要するに、力の代償というものだ。」
美桜は手を腰から下ろす。
「すでに彼女の体はボロボロだ。下手に龍神の力を使用すれば、寿命を大幅に削ることになる。彼女も、それをわかっている。それが、鍛錬をしに来た理由なんじゃないか?」
「鍛錬でどうにかなるものなのか?」
「体を鍛え、力に耐えられるようにするのが目的だろう。違うか?」
「……えぇ、半分正解よ。今だから言わせてもらうけど、さっき本部あったあれもこれが原因よ。」
サーミルは美桜の襟を掴む。
「なんで……なんで黙ってたんだ!」
「ふふっ、寿命なんて、どうすることもできないわ。自分でできる対策をするしかない。それに、言ったとしても、あんたに迷惑をかけることになるでしょ?」
「そんなことはない!私だったら、あなたの苦労を減らせるようにいくらでも努力をする!それに、そういうことは、誰かに話したほうが心が軽くなるだろ?」
「軽くなったとしても、寿命が増えるわけじゃない。だったら誰にも言わないほうが、心配させるようなことがなくて済むでしょ。」
サーミルは襟を掴む力を強める。
「なんでそんなに冷静でいられるんだ?まるで、命なんて必要ないみたいだぞ。」
「えぇ、必要ないわよ。……………だから。」
美桜は最後、小さな声で何かを呟く。
「さっ、そこまでだ。祭鷹、彼女の相手をしていてくれ。」
「はっ。……行くぞ。」
祭鷹はサーミルの様子を伺ったあと、どこかへ連れて行く。
「……さて、少し落ち着いたか?」
「えぇ、流石にね。」
美桜は額に手を当ててため息をつく。
「俺について来い。」
真絶は修練場から離れてどこかへ向かう。向かう先には山が見える。
「どこに行くつもり?」
2人は大きな門の前につく。
「この先で、冬刹(トウセツ)という人物を探すといい。彼なら、俺よりも優れた武術を伝授してくれるだろう。」
真絶は美桜の質問に答えることなくその場を去る。美桜は仕方なく門を開けて山道を進む。
どこかの国の森林の中にて……
「……これはどういうことだ?」
椿と玖羽は茂みの中から建物を監視していた。周囲には魔獣が群がっている。
「なんで魔獣がいるんだ?」
「ニグレードを倒しても魔獣は消えない。数は減ったけど…」
椿は魔獣の数を数える。
「ざっと20といったところね。上級が複数いるけど、倒せる?」
「あぁ、余裕だ。」
玖羽は茂みからゆっくりと出てくる。気づいた魔獣は一斉に襲いかかる。
「邪魔だ。」
次の瞬間、魔獣の体を玖羽の魔力が貫く。
「あの数を一撃……とんだバケモノね。」
「1で入るぞ。」
玖羽は短剣を手に持って、建物のドアノブに手をかける。
「3……2……1……!」
玖羽は勢いよくドアを開ける。建物の中は薄暗く、人がいる気配はなかった。床には大量の紙が散乱している。
「誰もいない?あ、おい!」
椿はズカズカと中に入っていく。
「あんたは建物の中を見て回って。私はこの紙を漁っておく。」
そう言って、椿は紙を拾い出す。
「ったく、いっつもこれだな。」
玖羽は建物の奥へと進む。
(読めない……)
紙は字が霞んでいたり、汚れたりしていて読むことができない。
「おい、このでかいのはなんだ?」
建物の奥の部屋には、人1人が入りそうな巨大な培養槽があった。椿は視線を向けただけで何も言わない。
(これは、途切れ途切れだけど読めそう……)
椿は1枚の紙に書かれていることを目で読む。
(ク………実…。結 …の…臓の…製……功。しか…、使……に…な………。…が、…の…身には…わせ…ば…力な……になる。まぁ、……的な…の……か…い。)
「暗号?」
椿は思わず言葉がこぼれる。
(ここでなんの実験をしてたわけ?)
「ちょっと来てくれ。」
椿を呼ぶ声が部屋の奥からする。椿は玖羽のところに向かう。
「この扉、鍵がかかってるぜ。鍵はあったか?」
「ない。壊せば?」
玖羽は扉を蹴破る。玖羽はその先の光景に息を呑む。椿は目にした光景を冷静に観察する。
「なるほどね……魔獣の狙いはこれか。」
扉の先には大量の小さな培養槽があった。中には何か不気味なものが入っている。
「これは……なんだ?生き物か?」
玖羽は培養槽の中のものを観察する。
「いや……この形……"心臓"か?」
「えぇ、間違いないでしょう。」
「なんでこんなにあるんだよ……」
「おそらく、全て複製したものよ。」
「複製?!心臓をか?!怖っ……ここにいたやつは何を考えてやがったんだ?」
椿は培養槽に手を突っ込み、心臓の複製を取り出す。心臓は空気の変化ですぐに枯れ果ててしまう。
「よく素手で行くな……」
「1つ回収しておいて。培養槽ごとね。あと部屋全体の写真も。」
椿は巨大な培養槽のもとに向かう。培養槽の周りにシミができたいることに気づく。
(まるで何かを拭いたような跡……培養槽のほうから出てきたみたいね。)
椿は培養槽の中を確認する。
「あれ?」
培養槽の中にはガラス片がない。培養槽の後ろにまわると、小さなガラス片が落ちていた。
(これが外にあるってことは、何かが中から出てきたってことになる。一体何が?)
「ん?なにこれ?」
椿は培養槽の横に落ちている枯れ葉のようなものを拾う。枯れ葉にしては妙に重く、まるで、生物の一部だったように見える。
「まさか……」
椿は全てを理解する。気づけば、思い切り壁を殴っていた。
「なんかすごい音がしたけど……」
玖羽が恐る恐る出てくる。
「……面倒なことになった。証拠は持った?」
「?あぁ……」
玖羽は椿に言われたものを渡す。
「さてと、さっさとずらかるわよ。」
美桜はその花に驚いている。なぜなら、灰色の薔薇など、存在しないのだから。
(造花……じゃない?)
薔薇は作り物ではなさそうだ。美桜の横を花びらが通り過ぎる。辺りを見ると、灰色の花びらが集まりだしていた。
「なぜ……ここに?」
カーネリアはゆっくりと立ち上がる。
「あんた……これについて知ってるの?」
カーネリアが答える前に、天垣が美桜の前に降り立つ。
「え?」
「俺の後ろにいろ。」
「なん……」
美桜は何かの気配を感じる。
(何か……来る?!)
集まった花びらが散り散りとなって、中から1人の女性が現れる。手には一冊の本が握られている。
「初めまして、と言うべきね。」
「誰だお前は?」
「私はグレイ・ローズ。呪法連合の現盟主よ。」
「呪法連合……だと?」
天垣はその言葉を聞いて警戒を強め、大剣に手をかける。
「警戒するのはわかっている。呪法連合の黒い噂は、魔道士間では絶えないからね。だけど、噂は所詮噂。私たちには敵対する意志はない。」
「なら、何をしに来た?」
「彼を回収しに来た。」
「回収?カーネリアをどこに連れいて行くつもりだ?」
「ふぅん、あなたは、しっかり隠し通せたみたいね。聞かれなかったの?」
「あぁ、何も聞かれなかったね。」
天垣は大剣を握る力を強める。
「お前たち……繋がっているのか?」
「ん?あぁそうだよ。僕は呪法連合幹部の1人だ。……もう言ってもいいだろ?」
「あぁ、構わない。」
「なぜだ……なぜお前が、呪法連合にいるんだ?!」
天垣はカーネリアに問いただす。
「それが、世界を守ることに繋がるからだ。」
カーネリアは、少し、美桜のほうに視線を向ける。
「君は、神呪の律令を知っているかい?」
「そんなものは知らん。」
「神呪の律令。それは、呪いの悪魔グリモワールの力の一部だ。」
「……悪魔だと?」
天垣は前に足を出す。
「グリモワールは、この力を取り戻す気だ。僕たち幹部と、盟主であるグレイ・ローズは、神呪の律令を五つに分けて1人1つを管理している。」
「それが理由か?管理者がいないというそれだけの理由か?」
「あぁそうだ。君もさっき見ただろう。僕がさっき使ったもの、神呪の律令の力の一部だ。あれに加え、あと4つも別の力が残っている。そんなものを、放置していていいわけがないだろ。」
「だから、呪いに手を染めたのか?それが、魔道士の規則に反することだということを、お前が知らないはずがないだろ!」
「ルールなんてものは、人の動きを縛る枷でしかない。ルールに囚われているようじゃあ、世界を守ることなんか不可能だ。僕はそれを理解した上で、この力を管理している。そして、この方法こそが、グリモワールを倒す鍵になる。そうだろ?」
「その通りだ。人に馴染んだ力を取り戻すことは、グリモワールであっても難しい。奴を弱体化させる唯一の方法だ。」
グレイ・ローズは背を向ける。
「行くぞ。油を売っている時間はない。」
「そういうわけだ。」
カーネリアは天垣から目を逸らしてグレイ・ローズのほうを見る。
「くっ……信じられるかっ!」
天垣は大剣を抜く。グレイ・ローズは杖を取り出すと、杖に魔力を集める。
「大人しくしろ。」
グレイ・ローズが杖を振ると、会場に大きな亀裂ができる。
「今のを避けられるか?人間が喰らえば即死だ。神霊の加護を持ってしても、即死は防ぎようがない。わかったのなら武器をしまえ。もし敵対すると言うのなら、私も容赦はしない。お前を殺すことなど、紙を破ることのように簡単だ。」
グレイ・ローズはカーネリアを連れて姿を消す。
「大……丈夫?」
美桜は天垣に声をかける。
「俺は問題ない。一旦情報を整理する。」
「それにしても、相変わらずのバケモノっぷりだな。あんなもの、避けられるやつはいない気がするよ。」
グレイ・ローズは歩きながら話す。
「それもそうだ、今の魔道士は弱すぎる。いや、正確には、私の時代の魔道士が強すぎただけだ。だが、私より強いやつであっても、平気で死ねるような時代だ。」
「そういえば、悪魔って何体いるんだ?」
「はぁ……前も聞いたはずだ。」
「復習?みたいなものだ。」
「……グリモワールを含め、4体よ。」
「ちなみにだが、全員と戦ったのか?」
「……一応ね。」
「誰が強かったとかあるのか?まぁ、全員強いと思うが。」
「4体とも、異常と言える実力を持っている。一対一で勝てるような相手じゃないのは確かね。」
「僕が何人いたら勝てそうだ?」
「さぁ?レベルが違いすぎて分からない。1つ言えることは、私でも、グリモワールを1人で倒すことはできない。」
「そんなバケモノが他に3体もいたのか。」
「そう。でも正直に言えば、私ぐらいの実力者が数人いれば、なんとかなるレベルではある。」
「君レベルの人間を見つけるのは、相当骨が折れると思うけど?」
「だけど、1体だけ……1体だけは違う。そいつだけは……あり得ないほどに強い。」
カーネリアはグレイ・ローズの手を見る。手は小刻みに震えていた。
「そいつを思い出すと、今でも震えが止まらない。そいつとは戦う前からわかっていた。勝てないと。私では、手も足も出ない。あれは……」
グレイ・ローズは地面にしゃがみ込む。
(トラウマレベルか……どんなやつと遭遇したらこうなるんだ?)
「グリモワールにすら勝てない私に、あんなやつの相手が務まるわけがない。」
「でも、グリモワールは君の手の中にある。」
カーネリアはグレイ・ローズが持っている本を指差す。それは美桜とサーミルが見つけた本だ。
「封印を強める。」
「倒すわけじゃないのか?」
「今戦っても勝ち目は薄い。もっとお前たちに、こいつの力が馴染む必要がある。」
グレイ・ローズは立ち上がると話を変える。
「私の依頼は終わったか?」
「あぁ、ちゃんと死神は、ガーネット・クローヴァーが保持している。」
「そう……ちゃんと、継承されたようね。」
美桜が部屋のソファに座っていると、サーミルとアメジストが部屋に入ってくる。
「お疲れ様です。」
「お疲れ。」
サーミルは美桜に缶コーヒーを渡す。
「なんで缶コーヒー?」
「今は色々と話したい気分だ。」
2人は美桜の反対に座る。
「呪法連合、まさか本当に存在するとは……名前は知っていたが、てっきり都市伝説的なものだと思っていた。」
「私も同じです。」
「しかしあの男……胡散臭いとは思っていたが、まさか、呪法連合の幹部だとは思いもしなかったな。」
「そういえば、グリモワールはどうなったの?」
「あぁ、それなんだが……さっきあの男の部屋を見てきたが、グリモワールはどこにもなかった。それにあの女が持っていた本……今思えば、あれはグリモワールじゃなかったか?」
「言われればそうかも。あまり憶えてないけど。」
「そうだ。ガーネットさんはどこへ?」
「ガーネット様は、緊急会議に出席しておられます。」
「緊急会議?」
「揃ったか。」
会議室には、天垣、ホーリー、ガーネットの3人が集まった。
「少なすぎでは?」
「早急に人を集めることは難しい。それに、今回のことは特殊だ。」
「せめて団長を呼んだらどうですか?」
「もちろん呼んだ。だが……」
「私がいなくてもなんとかなるでしょう。それに、椿もいるでしょう?」
「と、言われた。」
「確かに団長が言いそうではある。」
「椿がいるとは言われても、その肝心の椿がいないんだよ。」
「え、いないの?」
「あぁ、さっきから連絡がつかない。まあいい。今後について話し合うのが先だ。」
3人が会議を始めようとすると、誰かがドアをノックする。ドアの外には執事が立っていた。
「こちらを。椿様の部屋に置いてあったものです。」
執事は机の上に録音機を残して部屋を出る。
「なんで録音機?」
「聞いてみるぞ。」
天垣は録音機を起動する。ザーっという音が流れたあと、椿の声が聞こえる。
「天垣、あんたがこの声を聞いてる時、私はフランスにはいない。時間がないから率直に言わせてもらう。呪法連合と敵対することはおすすめしない。まぁ最終的な判断は、あんたとアーロンドに任せる。」
音声が切れて、部屋に沈黙が走る。
「……どうするつもりですか?」
「どうするも何も、俺の判断だけで決めることはできない。それに、まだ決断を下すには早すぎる。」
「私はどっちでもいいわ。頭痛いから休ませて~。」
ガーネットは水を飲んで机に伏せる。
(まったく、この二日酔いは……)
ホーリーはガーネットの襟を掴む。
「部屋に連れて行くわ。あと、私には決めることはできない。それほどの権限は私にはない。」
ホーリーはガーネットを引きずりながら部屋から出る。
「引きずるな~、おんぶしろ~。」
「酔ってるのか酔ってないのかどっちなんだ!」廊下からホーリーの声が聞こえる。
「はぁ……やれやれだな。」
「うーん……」
美桜はソファに寝転びながら考え事をしていた。
「何を考えているんだ?」
サーミルが覗き込んでくる。
「んー?あー、どうやったら強くなれるか。」
「十分強いと思うが?」
「それは青と赤がいるから。私1人だというほど強くないのよねぇ……」
「つまり、自己研磨したいと?」
「そう。特に武術を鍛えたい。まぁ、そんな都合よく鍛えられる場所なんて……」
「あるぞ。」
「あるわけないよねぇ~………………今なんて?」
「あるぞ。武術を鍛えられる場所。」
「どこ?」
「その前に、1人探さないといけないやつがいる。」
「誰を探しに行くの?」
「晴 祭鷹(セイ サイオウ)だ。」
「……僕に用でもあるのか?」
祭鷹は背後から近づいてきたサーミルと美桜に気づく。
「えーと、事情を話すと……」
「なるほどな。武術を鍛えたいから僕のもとに来た。まぁ、間違ってはいない。鍛錬をしたいなら、来週の今日の正午に、本部のロビーで待っていろ。」
祭鷹はどこかに去って行った。
「さっ、あとは来週まで待つだけだ。」
「これでいいの?」
「あぁ、本格的な武術の鍛錬をするにはこうするしかない。そのためには中国支部の最高管理者、 真絶(シンゼツ)の承諾を得る必要がある。」
「んーと、誰?」
「知らないのか?」
「うん、知らない。」
「まぁ、上層部は団員の情報を公開するようなことはない。自分から調べないと知ることはできないからな。」
「で、どんな人なの?」
「真絶は天級の魔道士だ。その実力は天級の中でもトップクラス。一部の団員からは、天級最強の魔道士とも言われている。」
「そんなに強いの?」
「あぁ、ガーネットさんがまだ天級だった頃、真絶はガーネットさんを圧倒するほどの力を持っていた。その力は今も健在だ。」
青が美桜に話しかける。
(そいつは面白そうだな。見つけたら戦わせてもらうぞ。)
(あんたは戦闘狂なの?)
「入れ。」
祭鷹は部屋に入る。部屋の中には1人の男がいる。
「なんだお前か。合同訓練はどうだった?」
「自分にとって、非常に有意義な時間だった。」
「そうか。ならよかった。」
男は巻物を取り出す。
「また新しいものを作ったのですか?」
「いや、古いものに手を加えただけだ。」
男は巻物を机に置くと、祭鷹のほうを見る。
「俺に何か話すことがあるんだろ?」
「はい。昨日、武術の鍛錬をしたいと申す者が現れました。あなたにその許可をいただこうと伺った諸造です。」
「武術の鍛錬、か。その者の名はわかるか?」
「神宮寺 美桜。あなたと同じ、天級の魔道士です。」
「神宮寺……」
男は少し黙り込む。
「鍛錬を許可しよう。それと、その者には最初、俺のところに来るように言っておけ。」
「はっ。」
祭鷹は軽く頭を下げて部屋から出る。
「神宮寺 美桜……」
男は巻物を手に取る。
「少しばかり、戦ってみたいものだ。」
1週間後……
「ロビーで待ってろとは言われたけど……」
「遅いな……」
2人はソファに座りながら待っている。
「コーヒーはいるか?」
「砂糖多めでお願い。」
サーミルはコーヒーを取りに行く。美桜はカバンから本を取り出して読み始める。
「何を読んでいる?」
「恋愛小説。」
「面白いのか?」
「うん。」
美桜は青の頭を撫でる。
「……あいつについてどう思う?」
「サーミルのこと?」
「違う。グレイ・ローズと名乗った女のことだ。」
美桜は本を閉じる。
「グレイ・ローズ。直訳すると灰色の薔薇。」
「至ってシンプルだな。お前はその名前に疑問を持っているように見えるが?」
「うん……だって灰色の薔薇は、存在しないんだもん。」
「なに?」
「知らないんだ。」
「花に興味はない。」
「なんの話をしているんだ?」
サーミルが紙コップを2つ持って現れる。青は咄嗟に美桜の陰に隠れる。
「あ、隠れた。」
「そろそろ姿を見せてくれてもいいと思うけどな。はいコーヒー。」
「ありがとっ……」
美桜はコーヒーを受け取ろうとした時、突然、眩暈に襲われる。
「大丈夫か?!」
「うん……大丈夫……」
美桜はコーヒーをゆっくりと飲む。
「………。」
美桜はコーヒーを飲んだあと、再び本を読み始める。
「約束どおりだな。」
祭鷹がゆっくりと現れる。祭鷹が来るまで、美桜が一言も喋ることはなかった。
「僕についてこい。お前たちに会いたいと言う人がいる。」
サーミルは美桜に手を差し伸べるが、美桜は手を取らずに自分で立ち上がる。サーミルは美桜が苦しそうに見えた。
(顔色が悪い?いや、気のせいか?)
「やっぱり、国が変わると雰囲気も変わるわね~。」
美桜は建物の中を見渡す。雰囲気はフランスとは全く違うものとなっている。
「こっちだ、はぐれるなよ。」
気づけば、祭鷹は2階に続く階段で待っていた。
「速いな……」
2人は祭鷹のあとを追う。
「今更だが、なぜ強くなろうとしている?」
「えっ、私?」
「あぁそうだ。」
「私一人だとそんなに強くないから。」
「そんな理由か……」
3人は一際大きな扉の前につく。
「僕は外にいる。お前たちだけで行ってこい。」
美桜は両手で扉を押す。部屋の中には、1人の男が椅子に座っていた。机には巻物が広げてある。
「よく来てくれた。知っているかもしれないが、俺は真絶。この中国支部の最高管理者を務めている。」
(でかっ?!2メートル近くあるでしょ?!)
真絶は2人よりも遥かに大きい。
「お前が神宮寺 美桜か。」
「知ってるの?」
「天級ともなれば、名前と顔ぐらいは知れ渡っている。それに加え、ある人物からお前のことを聞いていたからな。」
「ある人物?」
「君と同じ、神宮寺の苗字を持つ者からだ。確か、名前は椿だったか……」
「いつ来たの?」
「丁度、合同訓練が終わったタイミングだったな。」
(あの人が何も考えなしに来るとは思えない。何かあったの?)
「そういえば、彼女の後ろには鶴城 玖羽もいたな。」
「えっ、玖羽もいたの?」
「なんだ知り合いか?」
「まぁ、うん。」
真絶は声色を変える。
「彼にはあまり近づかないほうがいい。」
「なんで?」
「彼からは、"人間とは思えない異質な気配"を感じた。」
「どういう気配?」
「お前は龍神を従えているだろ?」
青が顔を出す。
「ちっ、気づかれたか。」
「龍神などを従えている者は、気配が複数ある。しかし、彼からは1つの気配しか感じられなかった。その気配は紛れもなく彼のものだ。その気配が異質だった。あれはおおよそ、人間が発することができるものではない。あの気配を例えるとするならば………"威光"だな。」
「威光?」
「まあいい、話が逸れた。武術の鍛錬を受けたいと言ったな?その前に、俺と少し手合わせをしてもらえるか?」
「いや急?!いいけどさ……」
「では、表に出よう。」
建物の外には巨大な修練場が広がっている。真絶は美桜の反対側に向かう。
「ルールは簡単、己の武術のみで戦う。魔力等の使用は禁止、それだけだ。準備はできたか?」
「いつでも。」
2人は武器を構える。
(何あの武器?刀?)
真絶は苗刀を抜く。
(刀身が長い。迂闊に近づくのは危険。)
「いつでも来てくれて構わない。」
(挑発に乗るとでも?でも、仕掛けてくる気配がない。ほんとに待ってるだけ?)
美桜は真絶の目を見る。
(違う!確実にこっちの隙を伺ってる!ん?じゃあ、隙を見せればあっちから来るんじゃ……)
しかしそれほど単純なことではない。隙を見せても、真絶は動こうとしないのだ。
(いやなんで?!ほんとに待ってるの?だったら遠慮なく行かせてもらうけど……)
美桜は地面を強く蹴って、真絶に向かって切りかかる。真絶は美桜の攻撃を容易く受け止める。
「お前の攻撃はそんなものか?まるで軌道を捉えるのが容易だ。」
「くっ、このっ……」
美桜は薙刀を振って苗刀を弾く。真絶はようやくその場から動き出す。
(速いっ?!)
真絶はその巨体に見合わない速度で苗刀を振る。美桜は苗刀を薙刀で受け流すが、ぶつかった際に重い一撃が体を襲う。
(なんて一撃、これで魔力を使用していないなんて……まぁ、それはこっちも同じか。)
青が美桜に話しかけてくる。
「我も戦わせろ。ルールなど、ただの口約束でしかない。」
「いや……私1人で戦う。」
美桜は青の言葉をきっぱりと断る。
「それで負けても知らん。」
(……この勝負に勝ち負けはない。ただ、お互いの実力を測るだけに過ぎない。)
美桜は真絶に向かって薙刀を突き出す。真絶は余裕の笑みを浮かべてゆっくりと躱す。その直後、真絶は地面をなぞるようにして苗刀を振る。美桜は下から来た苗刀を防ぐが、薙刀がかち上げられる。薙刀は美桜の後方に落下する。
「ふむ……お前の実力はだいたいわかった。それと、1つ言いたいことがある。2人も来てくれ。」
真絶は祭鷹とサーミルを呼ぶ。
「言いたいことって何?」
「それは後だ。まずはお前の実力だが、実力としては十分だろう。あくまで、龍神を使う前提だが。」
「そうでしょうね。」
美桜は腰に手を当てて少し落ち込んだように真絶から視線を逸らす。
「で、言いたいことって?」
「そのことだが、少々複雑だ。単刀直入に言わせてもらうが、お前、あと何年生きれるんだ?」
「何年生きれる、ねぇ……」
祭鷹とサーミルは驚いたように美桜のほうを見る。
「何年生きれるかって、どういうことだ?」
「そのままの意味だ。彼女に残された時間は少ない。」
真絶は戸惑うサーミルに包み隠さずに伝える。
「何が原因でそうなったんだ?」
「そんなもの、すでに明白だろう。……龍神だ。要するに、力の代償というものだ。」
美桜は手を腰から下ろす。
「すでに彼女の体はボロボロだ。下手に龍神の力を使用すれば、寿命を大幅に削ることになる。彼女も、それをわかっている。それが、鍛錬をしに来た理由なんじゃないか?」
「鍛錬でどうにかなるものなのか?」
「体を鍛え、力に耐えられるようにするのが目的だろう。違うか?」
「……えぇ、半分正解よ。今だから言わせてもらうけど、さっき本部あったあれもこれが原因よ。」
サーミルは美桜の襟を掴む。
「なんで……なんで黙ってたんだ!」
「ふふっ、寿命なんて、どうすることもできないわ。自分でできる対策をするしかない。それに、言ったとしても、あんたに迷惑をかけることになるでしょ?」
「そんなことはない!私だったら、あなたの苦労を減らせるようにいくらでも努力をする!それに、そういうことは、誰かに話したほうが心が軽くなるだろ?」
「軽くなったとしても、寿命が増えるわけじゃない。だったら誰にも言わないほうが、心配させるようなことがなくて済むでしょ。」
サーミルは襟を掴む力を強める。
「なんでそんなに冷静でいられるんだ?まるで、命なんて必要ないみたいだぞ。」
「えぇ、必要ないわよ。……………だから。」
美桜は最後、小さな声で何かを呟く。
「さっ、そこまでだ。祭鷹、彼女の相手をしていてくれ。」
「はっ。……行くぞ。」
祭鷹はサーミルの様子を伺ったあと、どこかへ連れて行く。
「……さて、少し落ち着いたか?」
「えぇ、流石にね。」
美桜は額に手を当ててため息をつく。
「俺について来い。」
真絶は修練場から離れてどこかへ向かう。向かう先には山が見える。
「どこに行くつもり?」
2人は大きな門の前につく。
「この先で、冬刹(トウセツ)という人物を探すといい。彼なら、俺よりも優れた武術を伝授してくれるだろう。」
真絶は美桜の質問に答えることなくその場を去る。美桜は仕方なく門を開けて山道を進む。
どこかの国の森林の中にて……
「……これはどういうことだ?」
椿と玖羽は茂みの中から建物を監視していた。周囲には魔獣が群がっている。
「なんで魔獣がいるんだ?」
「ニグレードを倒しても魔獣は消えない。数は減ったけど…」
椿は魔獣の数を数える。
「ざっと20といったところね。上級が複数いるけど、倒せる?」
「あぁ、余裕だ。」
玖羽は茂みからゆっくりと出てくる。気づいた魔獣は一斉に襲いかかる。
「邪魔だ。」
次の瞬間、魔獣の体を玖羽の魔力が貫く。
「あの数を一撃……とんだバケモノね。」
「1で入るぞ。」
玖羽は短剣を手に持って、建物のドアノブに手をかける。
「3……2……1……!」
玖羽は勢いよくドアを開ける。建物の中は薄暗く、人がいる気配はなかった。床には大量の紙が散乱している。
「誰もいない?あ、おい!」
椿はズカズカと中に入っていく。
「あんたは建物の中を見て回って。私はこの紙を漁っておく。」
そう言って、椿は紙を拾い出す。
「ったく、いっつもこれだな。」
玖羽は建物の奥へと進む。
(読めない……)
紙は字が霞んでいたり、汚れたりしていて読むことができない。
「おい、このでかいのはなんだ?」
建物の奥の部屋には、人1人が入りそうな巨大な培養槽があった。椿は視線を向けただけで何も言わない。
(これは、途切れ途切れだけど読めそう……)
椿は1枚の紙に書かれていることを目で読む。
(ク………実…。結 …の…臓の…製……功。しか…、使……に…な………。…が、…の…身には…わせ…ば…力な……になる。まぁ、……的な…の……か…い。)
「暗号?」
椿は思わず言葉がこぼれる。
(ここでなんの実験をしてたわけ?)
「ちょっと来てくれ。」
椿を呼ぶ声が部屋の奥からする。椿は玖羽のところに向かう。
「この扉、鍵がかかってるぜ。鍵はあったか?」
「ない。壊せば?」
玖羽は扉を蹴破る。玖羽はその先の光景に息を呑む。椿は目にした光景を冷静に観察する。
「なるほどね……魔獣の狙いはこれか。」
扉の先には大量の小さな培養槽があった。中には何か不気味なものが入っている。
「これは……なんだ?生き物か?」
玖羽は培養槽の中のものを観察する。
「いや……この形……"心臓"か?」
「えぇ、間違いないでしょう。」
「なんでこんなにあるんだよ……」
「おそらく、全て複製したものよ。」
「複製?!心臓をか?!怖っ……ここにいたやつは何を考えてやがったんだ?」
椿は培養槽に手を突っ込み、心臓の複製を取り出す。心臓は空気の変化ですぐに枯れ果ててしまう。
「よく素手で行くな……」
「1つ回収しておいて。培養槽ごとね。あと部屋全体の写真も。」
椿は巨大な培養槽のもとに向かう。培養槽の周りにシミができたいることに気づく。
(まるで何かを拭いたような跡……培養槽のほうから出てきたみたいね。)
椿は培養槽の中を確認する。
「あれ?」
培養槽の中にはガラス片がない。培養槽の後ろにまわると、小さなガラス片が落ちていた。
(これが外にあるってことは、何かが中から出てきたってことになる。一体何が?)
「ん?なにこれ?」
椿は培養槽の横に落ちている枯れ葉のようなものを拾う。枯れ葉にしては妙に重く、まるで、生物の一部だったように見える。
「まさか……」
椿は全てを理解する。気づけば、思い切り壁を殴っていた。
「なんかすごい音がしたけど……」
玖羽が恐る恐る出てくる。
「……面倒なことになった。証拠は持った?」
「?あぁ……」
玖羽は椿に言われたものを渡す。
「さてと、さっさとずらかるわよ。」
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