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静音を背負い旅館へ向かう俺は途中に団子屋を見つけた。
ガラスのショーケースの中にはこれから餡子や甘いタレを漬けるであろう串に刺さった大きな三つの団子が板の上に数十本と置かれている。
店に入って食べるものではないらしく、厳つい顔をした坊主頭のおじいさんが捻ったタオルを頭に巻いていつでも注文を受けられるように背もたれのない椅子に座っている。
そしてこっちを見るなり立ち上がり、ショーケースの上に置かれた七輪にショーケースから取り出した二本の団子を取り出して焼き始めた。
「おいしそう…」
「俺達以外人が通っていないのに焼き始めるとは買わせる気しかないな」
きっとあのおじいさんの策略だろう。
しかし目の前で団子を焼かれて美味しそうだと思わない観光客がいるだろうか。
俺は一度静音を降ろし、財布を取り出しておじいさんの前に行った。
「種類、聞いてもいいですか」
「みたらし、粒あん、黒ごまだ」
「みたらしと粒あん一つずつお願いします」
「百二十円だ」
安い。味が心配になるほどだ。
お金を渡すとズボンのポケットにしまい、壺を二つ取り出すと焦げ目のついた二つの団子を壺の中に入れ、たっぷりと漬けると蓋のついていないパックに乗せて渡してきた。
「私みたらし食べる」
「静音が餡子ダメだもんな」
熱そうだと思ったのか恐る恐る串に手を伸ばし、タレがこぼれないように回しながら口に運ぶ静音。
こぼれないようにタレを舐めているので妙に艶かしい。
「おいひぃ…」
俺も一口食べると安さに似合わない美味しさで驚いた。
「美味いだろ?ここらへんには懸賞なんかで当たった夫婦ばっかしか観光客は来ねぇからこうやって目の前で団子を焼かねぇと売れねぇんだ」
「そういえば駅ではここから他の場所に行ってる人がいましたね。ここは観光地じゃないんですか?」
「だったんだよ。猿まわしやったり時代劇の舞台になってそれを見に来る人がいたんだがな…それも二十年近く前の話だ。今じゃ老いも若きも見るもんが変わっちまって『古い物』見たさに来ては写真を撮っていくだけで終わりだ」
「近くにお寺とか…神社とかはないんですか?」
頬にタレをつけた静音が串を咥え、話に加わる。
「ないわけじゃねぇがごく普通の神社だぞ?近所のやつらが大晦日とかで集まるくらいで祭りは人が来る人が毎年減ってるからて今年はやらんと言ってるが…」
「勿体無い…こんなに美味しいお団子が食べられるのに…」
「ありがとよ。だが住んでたやつは都会に行っちまって観光客が少ないから近くの店はどんどん閉まっていく。隣の八百屋は近所の連中が買っていくからまだなんとかなってるが土産屋なんて五はあったのに全部閉まっちまった…っと暗い話ばっかりで悪ぃな。何もない場所だが景観はいいからゆっくり歩けよ」
俺達はおじいさんに「ごちそうさまでした」と告げると旅館に向かって歩き、静音が思い出したかのように「足が痛い」と言ったのでまた背負うことにした。
団子屋のおじいさんの言うとおり、旅館に着くまで観光客が寄りそうな場所はほとんどなく、八百屋や酒屋など住民が使う店がほとんどだった。
目的地である大きめの旅館に着き、静音を降ろして中に入ると着物を着た若い女性が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」
「はい。このチケット使えます?」
チケットを手渡すと嬉しそうな、そうでもないような複雑な表情をして「使えますよ」と答えた。
「梅、竹、松と部屋の階級がありますがいかがいたしますか?」
たしか梅はランクが下で松が上だった気がする。
松の方が料理も豪勢だったりするのだろうか。
「どうする?」
「折角だし…松がいい」
「松ですね、ではこちらへ」
俺達と案内してくれる女性の足音しかしない廊下を歩き、二階へ上がり、一番奥であろう部屋へと案内された。
中に入ると合宿で使うんじゃないかというくらい広い部屋で床は畳、押し入れを開けると夏には暑いが暖かそうな布団が入っている。
「こちらが一日一組様限定の部屋となっております。浴場のご利用時間は深夜十二時まで、夕食は十七時にお持ち致しますのでごゆっくりしていってください。もし不便等があった場合、テレビの横に電話を置いていますので受話器を取ればエントランスに繋がりますのでご気軽にご利用ください。ここまでで何か質問はございますか?」
「あの…チケットなのにこんな広い場所に泊まっていいんですか?」
察してやれよという視線を送るが静音は純粋に疑問に思っているらしい。
「いいんです。本日は予約が0でしたし、来ていただいただけでも嬉しいのでサービスです」
「じゃあ俺からも…ここに中居さんって何人いるんですか?」
「女将の私含め今日は五人です。私以外は入ってきて二~三年なので料理と配膳に専念して欲しかったので部屋への案内や予約の管理は私一人でしています」
ざっと見ただけで十部屋はあったが混雑時は大丈夫なのだろうか。
「女将さんって五十歳くらいのイメージがありますけど…若いですね」
「先代が引退してしまって今は私が務めているんです。少々不安かと思いますがそんなイメージを払拭するようなサービスをさせていただきますので期待していてください。では失礼いたします」
女将は笑顔でそう言うと一礼して去っていった。
「優しそうな女将さんだったね…」
「そうだな。俺は先に風呂入るが静音はどうする?」
「えっ…!」
風呂に入ると言っただけなのに顔を赤くする静音。
「えっと…私達恋人同士だけどまだ一緒にお風呂は早いかな…」
「何言ってんだ…男湯と女湯で別れてるだろ」
「そ…そうだよね…けどここで待つのもあれだし私も行く」
来客用に置いてあったタオルと着替えを持って風呂へと向かう俺達。
しかし、女湯の前には「男性の清掃員が清掃中のため現在使用できません」と看板が立ててあった。
「嘘…」
「人数の関係だろうな…じゃあ先に入ってるから部屋で待っててくれ。早めに上がる」
「嫌だ…一緒に入る!」
「は!?」
ガラスのショーケースの中にはこれから餡子や甘いタレを漬けるであろう串に刺さった大きな三つの団子が板の上に数十本と置かれている。
店に入って食べるものではないらしく、厳つい顔をした坊主頭のおじいさんが捻ったタオルを頭に巻いていつでも注文を受けられるように背もたれのない椅子に座っている。
そしてこっちを見るなり立ち上がり、ショーケースの上に置かれた七輪にショーケースから取り出した二本の団子を取り出して焼き始めた。
「おいしそう…」
「俺達以外人が通っていないのに焼き始めるとは買わせる気しかないな」
きっとあのおじいさんの策略だろう。
しかし目の前で団子を焼かれて美味しそうだと思わない観光客がいるだろうか。
俺は一度静音を降ろし、財布を取り出しておじいさんの前に行った。
「種類、聞いてもいいですか」
「みたらし、粒あん、黒ごまだ」
「みたらしと粒あん一つずつお願いします」
「百二十円だ」
安い。味が心配になるほどだ。
お金を渡すとズボンのポケットにしまい、壺を二つ取り出すと焦げ目のついた二つの団子を壺の中に入れ、たっぷりと漬けると蓋のついていないパックに乗せて渡してきた。
「私みたらし食べる」
「静音が餡子ダメだもんな」
熱そうだと思ったのか恐る恐る串に手を伸ばし、タレがこぼれないように回しながら口に運ぶ静音。
こぼれないようにタレを舐めているので妙に艶かしい。
「おいひぃ…」
俺も一口食べると安さに似合わない美味しさで驚いた。
「美味いだろ?ここらへんには懸賞なんかで当たった夫婦ばっかしか観光客は来ねぇからこうやって目の前で団子を焼かねぇと売れねぇんだ」
「そういえば駅ではここから他の場所に行ってる人がいましたね。ここは観光地じゃないんですか?」
「だったんだよ。猿まわしやったり時代劇の舞台になってそれを見に来る人がいたんだがな…それも二十年近く前の話だ。今じゃ老いも若きも見るもんが変わっちまって『古い物』見たさに来ては写真を撮っていくだけで終わりだ」
「近くにお寺とか…神社とかはないんですか?」
頬にタレをつけた静音が串を咥え、話に加わる。
「ないわけじゃねぇがごく普通の神社だぞ?近所のやつらが大晦日とかで集まるくらいで祭りは人が来る人が毎年減ってるからて今年はやらんと言ってるが…」
「勿体無い…こんなに美味しいお団子が食べられるのに…」
「ありがとよ。だが住んでたやつは都会に行っちまって観光客が少ないから近くの店はどんどん閉まっていく。隣の八百屋は近所の連中が買っていくからまだなんとかなってるが土産屋なんて五はあったのに全部閉まっちまった…っと暗い話ばっかりで悪ぃな。何もない場所だが景観はいいからゆっくり歩けよ」
俺達はおじいさんに「ごちそうさまでした」と告げると旅館に向かって歩き、静音が思い出したかのように「足が痛い」と言ったのでまた背負うことにした。
団子屋のおじいさんの言うとおり、旅館に着くまで観光客が寄りそうな場所はほとんどなく、八百屋や酒屋など住民が使う店がほとんどだった。
目的地である大きめの旅館に着き、静音を降ろして中に入ると着物を着た若い女性が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」
「はい。このチケット使えます?」
チケットを手渡すと嬉しそうな、そうでもないような複雑な表情をして「使えますよ」と答えた。
「梅、竹、松と部屋の階級がありますがいかがいたしますか?」
たしか梅はランクが下で松が上だった気がする。
松の方が料理も豪勢だったりするのだろうか。
「どうする?」
「折角だし…松がいい」
「松ですね、ではこちらへ」
俺達と案内してくれる女性の足音しかしない廊下を歩き、二階へ上がり、一番奥であろう部屋へと案内された。
中に入ると合宿で使うんじゃないかというくらい広い部屋で床は畳、押し入れを開けると夏には暑いが暖かそうな布団が入っている。
「こちらが一日一組様限定の部屋となっております。浴場のご利用時間は深夜十二時まで、夕食は十七時にお持ち致しますのでごゆっくりしていってください。もし不便等があった場合、テレビの横に電話を置いていますので受話器を取ればエントランスに繋がりますのでご気軽にご利用ください。ここまでで何か質問はございますか?」
「あの…チケットなのにこんな広い場所に泊まっていいんですか?」
察してやれよという視線を送るが静音は純粋に疑問に思っているらしい。
「いいんです。本日は予約が0でしたし、来ていただいただけでも嬉しいのでサービスです」
「じゃあ俺からも…ここに中居さんって何人いるんですか?」
「女将の私含め今日は五人です。私以外は入ってきて二~三年なので料理と配膳に専念して欲しかったので部屋への案内や予約の管理は私一人でしています」
ざっと見ただけで十部屋はあったが混雑時は大丈夫なのだろうか。
「女将さんって五十歳くらいのイメージがありますけど…若いですね」
「先代が引退してしまって今は私が務めているんです。少々不安かと思いますがそんなイメージを払拭するようなサービスをさせていただきますので期待していてください。では失礼いたします」
女将は笑顔でそう言うと一礼して去っていった。
「優しそうな女将さんだったね…」
「そうだな。俺は先に風呂入るが静音はどうする?」
「えっ…!」
風呂に入ると言っただけなのに顔を赤くする静音。
「えっと…私達恋人同士だけどまだ一緒にお風呂は早いかな…」
「何言ってんだ…男湯と女湯で別れてるだろ」
「そ…そうだよね…けどここで待つのもあれだし私も行く」
来客用に置いてあったタオルと着替えを持って風呂へと向かう俺達。
しかし、女湯の前には「男性の清掃員が清掃中のため現在使用できません」と看板が立ててあった。
「嘘…」
「人数の関係だろうな…じゃあ先に入ってるから部屋で待っててくれ。早めに上がる」
「嫌だ…一緒に入る!」
「は!?」
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