幼なじみ彼女と俺の距離

茜色蒲公英

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包まれた本

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布団を離れさせるつもりがむしろくっついてしまい並んで寝ることになってしまった。
二人きりで和室で一つの布団なら何も起きないわけがないと言いたいところではあるが二つあるのでそんなことはない。
一つしかなくても手を出さないが。
電気を消そうとして「もう少し話をしたい」と言われ電気をつけたまま寝ると朝まで寝ることができなくなるため手元に置ける電気を近くまで持ってきて天井の電気を消すことにした。

「こうやって寝るのっていつぶりかな…」

「小さい時ってことしか覚えてないな。確か俺が泊りに行ったんだよな」

小さい頃親父の方が夜勤で母さんが昼勤務だった。
親父が俺を保育園へと送り、迎えは母さんが来ていた。
しかし、母さんが仕事の事情で帰れなくなってしまい家の近い静音の家へと止まることが一度だけあった。
子供だからということもあってか別の部屋ではなく大きな布団に二人で並んで寝ていた。

「うん…一緒に寝たのはそれっきりだし私も何度か泊まろうかなとは思ってたんだけど…その…勇気が出ないっていうか…」

後半の方が布団に埋まってしまい何を言っているのかよく聞き取れなかったが前から一緒に寝たいとは思っていたらしい。

「それとたまには私の家にも遊びに来て…本しかないけど」

「そうさせてもらうよ」

とある本では彼女が家に招いたらGOみたいなことが書いてあった気もするが静音はそんなこと知るはずもないだろう。
いやこれまで千を軽く超える本を読んできた彼女ならそういう知識も俺以上にあるのかもしれない。
最近やたらと積極的だしもしかすると静音の方から攻めてくることも考えられる。

「私のお母さんも進のお母さん達も外で遊ぶことほとんどないし…私達も公園とかで遊ぶ歳じゃないから遊園地とかは行かないけど…またこうやって旅行ができるといいね…」

こちらを向いたまま静音は寝てしまい、俺も手元の電気を消して寝ることにした。

次の日、まだ空が少し暗い時に起きてしまい、静音を起こさないように立ち上がってスマートフォンを見てみるとまだ朝の五時。
二度寝をしようにも目が覚めてしまったため顔を洗うついでに風呂に入ることにした。
脱衣所に入ると着替えが置いてある。近所の人が利用しているのだろうか。
浴場に入ると俯いていて顔は見えないがお年寄りの方に見える。

「この時間はまだ清掃時間じゃないだろ」

「俺清掃員じゃないんですけど…ん?」

どこかで聞いたことのある声、というより昨日聞いた声だ。

「その声は昨日団子買った兄ちゃんだな?普段からこんな朝早くから起きてるのか」

「いえ、今日はたまたま早く起きてしまって。団子屋さんも早いんですね」

「こんなもん歳だ歳」

軽く体を洗ってから湯船に浸かり、団子屋のおじいさんと世間話をして風呂を出た。
部屋に戻るとまだ静音は寝ており、静音が起きるまでお茶を飲みながら持ってきた本を読んで時間を潰すことにした。
適当に取ろうと静音の荷物を見るとカバーのされていない推理小説が何冊かあり、底の部分に一冊だけカバーがされている小説があった。
静音は本にカバーをしない性格でカバーされているのは必ず借りているもの。
しかし静音の家には図書館よろしく大量の本があるので持っていない本といえば恋愛ものやライトノベルぐらいだ。
持っていないのは静音の家にある本棚は両親のものでその中にライトノベルを入れるのは見た目のバランスが悪くなってしまうということで遠慮しているらしい。
また恋愛小説をだっこから借りたのかとカバーのついた本を手に取り流し読みするとだっこから聞いたことのある内容が目に入ってくる。
とあるゲームがノベル化したと興奮してその内容を聞かされたものだがそれにとてつもなく酷似している。
いやそのゲームがRPGだったり格闘ゲームならまだいい。
ただこの小説は美少女ゲーム、いわゆるエロゲーの小説なのだ。
俺はゲームをプレイしたことがないのでそっちの要素が満載なのか感動できるものなのかはじっくり読まなければ理解できないだろう。
しかし元のゲームがその要素を含んでいるのだから当然この小説にもその要素が含まれているのだろう。
ならば静音の彼氏としてどんな内容か確認しなければならないだろう。
最初の数ページにあるフルカラーの浴衣がはだけた少女のイラストを見ないふりしてページを進めた。

それから時計を見ないまま大分読み進め、あれなシーンにはまだ突入していないがかなり面白い展開になってきた。
だっこが勧めてくるのも頷ける。

「さて、今何時だ」

「八時だよ…」

「もうそんな時間か…あっ」

ゆっくりと本を閉じ振り返ると平手打ちの構えをした静音が顔を赤くして立っていた。

「浴衣…はだけてないな」

「ふん!」

何年かぶりにくらった静音の平手打ちは割と痛かった。

「おはようございます。…おや?昨夜何がございましたか?」

離れて座る俺たちに女将は困惑していた。

「なんでもないです…」

「そうでしたか…朝食をお運びします」

運ばれてきたご飯に昨日だったら目を輝かせているのだが今日は興味すら示していないように眺めている。

「十時半までチケットは有効なのでごゆっくり…」

心配そうに出ていく女将。
とりあえず謝らなければ。

「なぁ静音」

「いまご飯食べてるから話しかけないで」

「はい…」

尻に敷かれている夫はこんな気分を毎日味わっているのだろうか。
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