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活動開始
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昼休みが終わるまで薫は興奮し続けていた。
いつか自分もそんな恋してみたい、誰かの家に泊まってみたいと何故かだっこに共感を求め、だっこは軽く「そっすね」と受け流していた。
だっこにそういう経験をしてみたいかと聞いてみたのだが「僕には遠い物語なのでー」と鼻で笑われた。
放課後、静音と一緒に鍵を持って部室に入り、用事で遅くなるだっこを待つことにした。
いつも通り部長は来ず、何か読むものは無いかと探していると本棚にはだれが書いたのだろうか本屋によくある手書きのポップが挟まっていた。
丁寧にラミネートされているにもかかわらず「オススメ!特に最後が!」と作品名すら書かず語彙力がどこかにいっている。
「どうしたの?」
本棚の前でずっと立っていたせいだろうか静音に顔を覗き込まれ心配されてしまった。
「このポップなんだが、静音じゃないよな」
本棚からポップを抜いて渡すと静音はしばらく眺めてから首を横に振った。
「だよな。となるとアリサ先生か」
アリサ・ウィンリィン先生は英語の教師であり文芸部の顧問。
薫に負けず劣らず晴れでも雨でも関係なくにこやかな笑顔を振りまいている。
授業中は優しく丁寧に教えてくれるいい先生なのだが教科書を忘れたり赤ペンのインクが少ないからと緑色のボールペンで丸を付けたりとどこか抜けている。
父親はアメリカ人、母親は日本人のハーフということで英語と日本語のバイリンガル。
今年入ってきたばかりで本人は運動部の顧問になりたかったそうなのだが既に枠が埋まってしまっていたので文芸部の顧問となった。
「ここに入るの私達かアリサ先生くらいしかいないもんね…そんなに良かったのかな」
ポップの横に置いてあった本の表紙を見てみると「時空旅行記」と書かれており、男の人が湯飲みに乗ってどこ飼い向かっているイラストが描かれている。
中身が気にならないといえば嘘になるが地雷臭がほのかにしている。
文庫本で読みやすいと思いきや「1」と書いてあり、本棚には「12」まで置いてあった。
いったいどれだけ時空を跨いだんだこの主人公。
「先生がおすすめしてるなら読みたいな…」
俺は読む気がないので静音に渡すとすぐに椅子に座って読み始めてしまった。
俺も何か読むかと探しているとドアが開き、ペットボトルをいくつか抱えただっこが入ってきた。
「お待たせー。アリサ先生が飲み物くれたけど飲む?」
「何があるんだ?」
「アイスティーしかないけど」
「なんでだよ…じゃあそれでいい」
アイスティーを受け取るとついでにポップのことも聞いた。
するとやはりアリサ先生が書いたとのことだった。
俺たちが旅行で休んでいた際、だっこが部室にゲームを持ち込んだ時にアリサ先生が部室に現れて本を読んでいき、その時ハマったのか「時空旅行記」を持ち帰ってしまったとのことだった。
そして今日本棚に返し、ポップを残していったという。
「配線いじってる後ろで『キャー!』とか『なんでー!?』っていうから僕も反応に困っちゃったよね。静音氏がああいうの持ち込むって珍しいよね」
「私じゃないよ?」
「へ?」とだっこが俺の方を向くが俺でもない。
俺たちがこの部に入って間もない頃の本棚は空っぽだった。
そこから俺達が持ちんだり持ち帰ったりとしているのだが「時空旅行記」はここにいる三人のものでなければアリサ先生のものでもない。
だとすれば。
「まさか部長か?」
「ありえなーーくはないけど今まで部長が持ち込んだことないんだよね。ま、こんなところ入るの部の関係者しかいないんだけど。ところで進氏、新しいゲーム買ったからやらない?一人用だけど」
「どっちかが実況やるやつか…お前のやる一人用実況が難しいものたまにあるだろ」
「それがいいんじゃないか。やる?やらない?」
テレビの前に置いてあるのは有名な最新ハード。
それで一人用だとしたらRPG辺りだろう。
だが普通に考えればの話だ。
美少女ゲーが色々な場所をカットしたものも中にはあるため俺が実況をすると暗転が入った時に何かしらリアクションをしなければいけない。
だっこが実況をするときもそれは同じなのだがこいつは平然と「ここではあんなことがあったんですね!」と恥ずかしげもなくいうのでたちが悪い。
「俺が操作をする。実況は頼んだぞ」
そうとなれば俺が操作をすれば問題は何もないだろう。
幸いにもだっこは指示することがないので安心してプレイができる。
電源を入れてディスクを読み込むのかと思っていたが既に入っていたらしくすぐに起動した。
読み込み中の間だっこが「策にハマったな」という顔をしていたがそんなゲームは発売していないだろう。
「取って撮れ!女学院!」
タイトルコールが聞こえると静音の冷たい視線が突き刺さるのを感じた。
タイトルからして嫌な予感しかせず、スタートボタンを押すと「はじめから」と「オプション」だけが明るく光っている。
「僕もこれやるの初めてなんだよね。ク…良ゲーって言われてるし楽しみだな」
クソゲーって言いかけなかったか。
読むのをやめて画面を見つめている静音がやたらと気になりながらも俺は始めることにした。
数秒のロード後明るい音楽が流れ始めると「操作方法を教えるね!」と明らかに十年以上前のオタクを狙いすましたかのような女の子の声。
説明書を見たくてだっこに要求するが「こういうのはノリが大事だから家に置いてきた」と拒否されてしまった。
カメラを構えたり写真を撮ったりと基本の操作からしゃがみやローリングなど意外にボタン操作が多く、十分以上も続くボタンの説明が終わるとやっとストーリーが始まった。
主人公のモノローグで「ここは百合ヶ陸女学院。俺は女装してここに忍ぶことに成功した!女子の下着姿を拝んでやるぜ!」と文字が出てくるとカメラを首から下げた主人公らしき人物が映った。
「僕は指示とかできないから存分に楽しんでねー」
「やりやがったなこの野郎!」
どうすればクリアなのかも聞かされていない状態のまま地獄とも呼べるゲームが始まってしまった。
いつか自分もそんな恋してみたい、誰かの家に泊まってみたいと何故かだっこに共感を求め、だっこは軽く「そっすね」と受け流していた。
だっこにそういう経験をしてみたいかと聞いてみたのだが「僕には遠い物語なのでー」と鼻で笑われた。
放課後、静音と一緒に鍵を持って部室に入り、用事で遅くなるだっこを待つことにした。
いつも通り部長は来ず、何か読むものは無いかと探していると本棚にはだれが書いたのだろうか本屋によくある手書きのポップが挟まっていた。
丁寧にラミネートされているにもかかわらず「オススメ!特に最後が!」と作品名すら書かず語彙力がどこかにいっている。
「どうしたの?」
本棚の前でずっと立っていたせいだろうか静音に顔を覗き込まれ心配されてしまった。
「このポップなんだが、静音じゃないよな」
本棚からポップを抜いて渡すと静音はしばらく眺めてから首を横に振った。
「だよな。となるとアリサ先生か」
アリサ・ウィンリィン先生は英語の教師であり文芸部の顧問。
薫に負けず劣らず晴れでも雨でも関係なくにこやかな笑顔を振りまいている。
授業中は優しく丁寧に教えてくれるいい先生なのだが教科書を忘れたり赤ペンのインクが少ないからと緑色のボールペンで丸を付けたりとどこか抜けている。
父親はアメリカ人、母親は日本人のハーフということで英語と日本語のバイリンガル。
今年入ってきたばかりで本人は運動部の顧問になりたかったそうなのだが既に枠が埋まってしまっていたので文芸部の顧問となった。
「ここに入るの私達かアリサ先生くらいしかいないもんね…そんなに良かったのかな」
ポップの横に置いてあった本の表紙を見てみると「時空旅行記」と書かれており、男の人が湯飲みに乗ってどこ飼い向かっているイラストが描かれている。
中身が気にならないといえば嘘になるが地雷臭がほのかにしている。
文庫本で読みやすいと思いきや「1」と書いてあり、本棚には「12」まで置いてあった。
いったいどれだけ時空を跨いだんだこの主人公。
「先生がおすすめしてるなら読みたいな…」
俺は読む気がないので静音に渡すとすぐに椅子に座って読み始めてしまった。
俺も何か読むかと探しているとドアが開き、ペットボトルをいくつか抱えただっこが入ってきた。
「お待たせー。アリサ先生が飲み物くれたけど飲む?」
「何があるんだ?」
「アイスティーしかないけど」
「なんでだよ…じゃあそれでいい」
アイスティーを受け取るとついでにポップのことも聞いた。
するとやはりアリサ先生が書いたとのことだった。
俺たちが旅行で休んでいた際、だっこが部室にゲームを持ち込んだ時にアリサ先生が部室に現れて本を読んでいき、その時ハマったのか「時空旅行記」を持ち帰ってしまったとのことだった。
そして今日本棚に返し、ポップを残していったという。
「配線いじってる後ろで『キャー!』とか『なんでー!?』っていうから僕も反応に困っちゃったよね。静音氏がああいうの持ち込むって珍しいよね」
「私じゃないよ?」
「へ?」とだっこが俺の方を向くが俺でもない。
俺たちがこの部に入って間もない頃の本棚は空っぽだった。
そこから俺達が持ちんだり持ち帰ったりとしているのだが「時空旅行記」はここにいる三人のものでなければアリサ先生のものでもない。
だとすれば。
「まさか部長か?」
「ありえなーーくはないけど今まで部長が持ち込んだことないんだよね。ま、こんなところ入るの部の関係者しかいないんだけど。ところで進氏、新しいゲーム買ったからやらない?一人用だけど」
「どっちかが実況やるやつか…お前のやる一人用実況が難しいものたまにあるだろ」
「それがいいんじゃないか。やる?やらない?」
テレビの前に置いてあるのは有名な最新ハード。
それで一人用だとしたらRPG辺りだろう。
だが普通に考えればの話だ。
美少女ゲーが色々な場所をカットしたものも中にはあるため俺が実況をすると暗転が入った時に何かしらリアクションをしなければいけない。
だっこが実況をするときもそれは同じなのだがこいつは平然と「ここではあんなことがあったんですね!」と恥ずかしげもなくいうのでたちが悪い。
「俺が操作をする。実況は頼んだぞ」
そうとなれば俺が操作をすれば問題は何もないだろう。
幸いにもだっこは指示することがないので安心してプレイができる。
電源を入れてディスクを読み込むのかと思っていたが既に入っていたらしくすぐに起動した。
読み込み中の間だっこが「策にハマったな」という顔をしていたがそんなゲームは発売していないだろう。
「取って撮れ!女学院!」
タイトルコールが聞こえると静音の冷たい視線が突き刺さるのを感じた。
タイトルからして嫌な予感しかせず、スタートボタンを押すと「はじめから」と「オプション」だけが明るく光っている。
「僕もこれやるの初めてなんだよね。ク…良ゲーって言われてるし楽しみだな」
クソゲーって言いかけなかったか。
読むのをやめて画面を見つめている静音がやたらと気になりながらも俺は始めることにした。
数秒のロード後明るい音楽が流れ始めると「操作方法を教えるね!」と明らかに十年以上前のオタクを狙いすましたかのような女の子の声。
説明書を見たくてだっこに要求するが「こういうのはノリが大事だから家に置いてきた」と拒否されてしまった。
カメラを構えたり写真を撮ったりと基本の操作からしゃがみやローリングなど意外にボタン操作が多く、十分以上も続くボタンの説明が終わるとやっとストーリーが始まった。
主人公のモノローグで「ここは百合ヶ陸女学院。俺は女装してここに忍ぶことに成功した!女子の下着姿を拝んでやるぜ!」と文字が出てくるとカメラを首から下げた主人公らしき人物が映った。
「僕は指示とかできないから存分に楽しんでねー」
「やりやがったなこの野郎!」
どうすればクリアなのかも聞かされていない状態のまま地獄とも呼べるゲームが始まってしまった。
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