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リボフラの城下町

出発

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隆のくだらない話を聞いて呆れたリトスとラルアは二人の泊まる部屋に帰り、ベッドに座って明日の予定を話していた。
この町を出たいがその後追われる身になる可能性があり、しかしこの町にいると二日後、少なくとも良くないことが起こる。
しかしこの町から逃げること以外のアイディアは浮かばない。
やがて大事な話をしているのにリトスが笑顔になっていることに気づいたラルアが理由を聞いてみると答えは単純なものだった。

「いままで匂いと感触しかわからなかったから、ラルアの声が聞こえたことがすごく嬉しいの。もちろん顔から足まで触ればどんな感じかイメージは出来るけど声は聞かなきゃ分からないでしょ。なんで私に交信できるようになったのかは不思議だけどね」

(推測だけど僕がラーヴァナの部屋で魔力を大量に吸収したからだと思う。元々隆とは交信できていたけど断片的にしか伝えられなかったし、意思疎通ができていたかと言われれば怪しかったな)

「う、うん。それと一つ聞いていい?隆からは君は女の子だって聞いたけど、女の子だよね?」

話し方が男の子らしいと感じたリトスが恐る恐る聞くとラルアは自分の体を触り、(分からない)という結論を出した。

「えぇ…資料では性別があるって書いてあったんだけどな…でも木から生まれるから両親とかいないし、もしかしたら性別が無いのかな」

(じゃあ僕は寝るよ。お休み)

「うん、おやすみ」

ベッドに横たわり、眠ったラルア。
リトスも隣にあるもう一つのベッドに横たわって目を閉じると不思議とすぐに眠りに入ることができた。
だが、リトスが寝てから数時間後、まだ夜が更けていない頃にリトスはラルアの(助けて)という交信に起こされた。
しかし、起こした本人は静かに寝息をたてている。
気のせいと思ったリトスは眠りなおすが、今度は(リトスは隆のことが好きなんだね)という交信に起こされた。

「起きてるでしょ?ねぇ、起きてるって言って?お姉さん怒らないから起きてるって言って?お願いだから今言ったことについてちょっと反論したいから。ね?」

しかし返事は帰ってこない。
この時、ラルアは寝言で無意識に更新を飛ばしており、その交信は宿屋にいる主人、宿屋に泊まっている全員に行き渡った。

翌朝、リトスが支度をして部屋を出ると隆が立っており、元気な声で挨拶をしてきた。

「おはよう!リトス、お前俺のこと好きだったんならそう言えよ!もしかしてツンデレってやツァァ!」

「おはよう、まだ眠たいようだったら次は目じゃなくて惨めな棒でも切ろうか?」

「やめろ…それだけはやめろ…」

ロビーに行くと宿主が笑顔でリトスと隆を待っていた。

「おはようございます。隆様、もうリトス様から告白されました?」

「いや、それがこいつ照れてるみたいでなイタタタタ!俺の腕はそっちには曲がらないんだよ!!」

「ねぇ主人。もしかして昨晩誰かから交信届いた?」

「はい、最初は『助けて』、その後は『リトスは隆のことが好きだったんだね』というものでした。アルラウネの方のお声が聞けるなんて珍しいものかと思っていましたが、その子だったんですね。それより告白されなくていいのですか?」

目を輝かせて聞いてくる主人。
困ったリトスは脅すわけにもいかず「するわけないでしょ」とだけ言った。
外に出た三人は今後の予定について話すため集会所に行き、空いている円型のテーブルの席に座った。

「さて、今日の予定だけどこの町を出て近くの森に、その森で馬車があればそれ使って別の国に行きたいんだけど…」

「行かねえぞ。俺は王と戦う」

「…その国はトロルがいて、そこでアスモディアンに関する情報を集めたいの」

「行かねえって言ってんだろ。受付嬢を見捨てるわけにはいかねえ」

「…なら君一人で行ってくれば?私とラルアは別の国に行くから」

「ダメだ。俺一人じゃ勝てねえ」

隆の言葉と偉そうな態度に苛立ち始めるリトス。
それを察してラルアは何とかリトスを宥めようとするが言葉が思いつかずに縮こまっていた。

「なら諦めて。君の自殺に付き合うほど私は命を捨てる余裕ないの。受付の人に惚れるのは君の勝手だけど、その一人の女性のために私たちを巻き込むのはやめて」

「うるせえ、お前は俺の仲間だろ」

「…それが最後の言葉と受け取るよ」

武器に手をかけて投げようとするリトス。
しかし投げる前にラルアが片手で出した鋭く尖った枝が隆の体を囲み、刺さる寸前で止めていた。

(隆、僕はまだ生まれて数十年しか生きてないから仲間の形っていうのがよく分からない。けど今隆が僕とリトスに言った仲間っていうのは違う気がする。仲間っていうのはもっとこう、大切にしなきゃいけない気がする)

「ちっ…じゃあどうすりゃいいんだよ!お前らはあいつを見捨てるのか?あいつが忠告してくれなきゃ俺らは嵌められてたんだぞ」

(うん。だからこの町を出なきゃいけないんだよ。受付の人は僕たちをこの町から逃がすために忠告してくれたんでしょ。だったら僕たちは彼女のためにもこの町を出なきゃいけない。そうだよね、リトス)

「うん。それに君が助けに来るのを見越してあの手紙を渡した可能性だってある」

「あくまで可能性だろ。それなら逃げることも計算に入れてるんじゃねえのか?」

「入れてると思うよ。だから急いで出なきゃいけない」

そう言って席を立つリトス。
隆は「分かった」と言いつつも唇を噛み締めるのだった。

三人は外に出て町を出ようとすると一人の兵士に止められた。
「もう出るのか?」「もうすこしゆっくりしていけ」と兵士は言うが、リトスは「もう行くあては見つかった」と言って振り切ろうとする。
すると兵士は「そうか」とだけ言って三人を通した。
すんなりと通してくれたことに少し驚いたリトスだが、察されないように町を離れていった。

町から十分程離れ、地図を見て次に行く場所の再確認を始めた。

「それで、次に行く町っていうのはどこなんだ?」

「ナイアシンっていう町だね。東にある町でちょっと遠いけど昨日宿屋に行く前に買い物をしたし、そこの町に行く途中にトロルの森があってそこで果物とかも取れるから食料は困らないね」

「トロルって確かデカイやつだよな。俺ら食われねえか?」

「食べないよ。彼らは大きいから人間一人食べたところでお腹いっぱいにならないし。トロルの住んでる所はいろんなものが大きいんだよ。生き物から植物、果ては武器まで。それに彼らの性格は温厚で争いを嫌っているみたい。ヒューマンとはお金の関係で関わりは無いし、エルフは他種族との交流が無いからそもそもなんだけどアスモディアンとは交流してるみたい。そこで情報収集してもいいんだけど町の方が情報集まりやすいからね」

「なるほどな。じゃあ早速向かうとするか」

地図をしまい、森に向かって歩く三人。その少し後ろでは怪しい影が蠢いていた。
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