盲目エルフは異世界勇者と旅をする

茜色蒲公英

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トロルの森

誘惑に注意

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村で一泊することにした一行。
村長の家を出て宿屋に行こうとしたがたくさんのトロルが村を行き交いし、道の真ん中を歩こうものなら踏み潰されてもおかしくなかった。

「どうやって移動する?道の端っこ歩いていれば踏み潰されることはないと思うけど」

「そりゃ歩いていくしかねえな。けどこの村超広そうだぞ。となりにある建物まで百メートルはあるし、一軒一軒しらみ潰しに調べてたら日が落ちるぞ」

「しかし拙者含め誰もこの村に来たことがないのでござろう?ならば一軒一軒調べるか村人に聞くのが定石でござる」

(なら僕が聞いてみよう)

ラルアが目を閉じ、手を空に掲げるとリトス達の頭の中に二秒ほど鋭い金属音のようなものが流れ、歩いていたエプロン姿の女性の村人がこちらに近づいてきた。

「あらこんにちは小さな人!脳波を送ってきたのはそこのアルラウネちゃんね!おばちゃんに聞きたいことがあるみたいだけど、何が聞きたいの?」

(宿屋の場所を教えて欲しいんだ。そしてできれば行く途中で踏み潰されない方法も教えて欲しい)

「宿屋の場所?それなら向こうをちょっと行った所にあるわよ!」

そう言って女性はリトス達から見て右を指す。
「トロルのちょっとはヒューマンのちょっとじゃないでしょ」とリトスは言いかけたが女性の声に遮られる。

「私達に踏み潰されない方法は乗せてもらうか空を飛ぶことね!裸足で歩いてたら踏んだことに気づくけど私達靴履いてるから踏んでも気が付かないのよねぇ!建物に沿って歩いてたヒューマンの兵士さんが建物から出てきた鍛冶屋のおじさんにパキッと踏み潰されちゃったこともあるからとにかく歩くのはおすすめしないわよ!」

最後にウインクをして女性は去っていき、移動手段を確保できていないリトスは「不死身だから」という理由で仕方なく隆を走って宿屋まで向かわせることにした。

「なんでだよ!あのトロルみたいに乗せてもらえばいいだろうが!」

「その人がどこかに行っちゃったから君に行ってもらうんでしょ。ほら、早く行ってきて。その間に私達は移動手段を考えてるから。手甲は預かってあげるから安心して」

「じゃあ考えてからでも…」

隆が最後まで言う前に首にはラルアの枝が巻き付き、リトスは武器に手をかけていた。

「行ってきます…」

「はい。行ってらっしゃい」

隆が気合の入った大声で叫びつつ何度も踏み潰されては再生して宿屋に向かっていった。

「さて、私達は宿屋までの移動手段について考えないとね」

「拙者はそれよりも隆殿が仲間ではないような扱いをされているのが可哀想で仕方ないのでござるが…」

話し合いをすること数十分後。
ラルアが足の生えた木を生やすという案や、屋根の上を歩いていくという案は出たがどちらも不可能ということで却下され、ラルアが交信を周りに飛ばしつつできるだけ急ぎ足で宿屋に向かうという案に決まった。
しかし宿屋に向かった隆が戻ってこない。

「不安でござるな。拙者が見てくるからそこで待っていてほしいでござる」

ライナはそう言うと素早く建物の屋根や村人の身体を伝って宿屋に向かっていった。

(最初からライナを向かわせればよかったね)

「それは言わないお約束」

待つこと数分。ライナだけが戻り、「入室手続きは済ませてきたでござるが隆殿の姿はなかったでござる」と告げた。

(どこに行ったんだろう…近い場所なら受信することができるけどここは広いし人がいるから拾えないな)

「うーん。私も耳をすませてるけど隆らしき声は聞こえないね。まったく、一体どこに行ったんだか」

その頃、隆は村人が入れないような道に入り、コウモリの羽が生えた女性に誘惑されていた。

「ねぇ僕、ここに来たってことはトロルから逃げてきたんでしょ?折角だからお姉さんといいことしない?」

胸を強調して誘惑する女性。
無表情を装って「俺は忙しいから」と断る隆だが、内心は崖から落ちる寸前だった。

「忙しいってどんな用事なの?お仕事じゃないでしょ?」

「宿屋でチェックインしなきゃいけないんだよ。じゃあな」

本当はついていきたい。
そんな思いで鉄球がついた枷を引きずるように立ち去る隆。
しかし女性は後ろを向いた隆に抱きつき、胸を押し付ける。

「お・ね・が・い」

「用事は無くなった。どんなテンプレが待っていようと俺は今この時を楽しむ」

「ちょっと何を言ってるか分からないけど…ありがと」

不敵な笑みを浮かべて狭く、暗い道の奥に隆を連れて行く女性。
奥に進めば進むほど暗くなっていき、視界が一瞬闇に包まれると隆の腕を掴んでいた女性は消え、闇が晴れると様々な建物が崩壊し、空が黒雲に包まれた町が広がっていた。

「おい…マジかよ…ここってまさか…」

帰ろうと振り返ってみたが先程まであった闇はなく、荒廃した町と大量のアスモディアンが隆を囲んでいた。
あるものは黒い布を被り、大鎌を持って宙に浮いた悪魔。
あるものは十を超える腕と目を持った機械。
様々なアスモディアンが目の前の餌に笑っていた。

「まさかまだトロルの村に来ているヒューマンがいるとはナァ」

「しかも武器すら、防具すら持ち合わせてないときた。ケヒャヒャ!殺るぞォ!」

大鎌を持った悪魔が鎌を振り下ろすと隆はそれを間一髪で避ける。

「その鎌貰ったぁ!」

隆は地面に刺さった鎌を引き抜こうとすると、手が一気に干からびる。

「うわぁぁぁ!!」

「ボハハハハ!ヒューマン如きが我らアスモディアンの武器に軽々しく触れるからそうなる!今のうちに頭を叩き割る!」

自分の手がミイラのように干からびて焦る隆は振り下ろされる金棒を避けられず、後頭部に直撃した。

「コイツ、シンダ。カットスルカラマッテロ」

機械は首、腕、足へ器用に切れ目を入れて足からカットを始める。

「ぐっ、ああぁぁぁぁ!!」

足を切断され、喉が壊れそうなほどの悲鳴を上げる隆。

「コイツ、生きてやがる!ロボ!死んだんじゃねぇのか!」

「イキカエッテイル。ヤムヲエナイガミンチニスルヒツヨウガアル」

「ちっ、お前ら!ぶっ潰すぞ!」

金棒を持ったいくつかのアスモディアンが隆の頭や身体を何度も、何十回も叩き潰し、原型が無くなった何かを向けて一匹のアスモディアンが唾を吐いた。

「手間かけさせやがって、折角久しぶりにかぶりつけると思ったのによ」

「ならば妾が食べやすい大きさに貴様らを切ってやろう」

突如空から現れた、黒いフードをかぶった少女は一匹のアスモディアンを縦に切ると他のアスモディアンを驚かせる暇もなく次々と殺していく。

「ちょこまかと!」

金棒を振り下ろすと少女は素手で受け止め、華麗に奪うとその金棒で頭を叩き潰した。

「オ、オマエ、イヤ、アナ」

「壊れるがよい、欠陥製品」

小声でなにかの呪文を唱えると機械は火柱を上げて燃え上がり、黒煙を上げて炭になった。

「さて、こやつはどうするかのう…あの村まで送らねばならんか。面倒じゃのう…」

黒いフードをかぶった少女は再生した隆を肩に乗せ、呪文を唱えてその場から消えた。
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