盲目エルフは異世界勇者と旅をする

茜色蒲公英

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ピリキド

真相

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街を出て大きな城のあるピリドキという町に向かう一行。
リトスに町の情報を聞き、雑談を交えてゆっくりと歩いていた。

「前から思ってたんだがこの世界には国ってないのか?」

「国…ね。あったと思うよ」

「曖昧な言い方だな」

「だって私が生まれた時には無かったし。でもおじいさんの世代にはあったみたい。でも資料には残ってないから確信はないね」

ライナとラルアに至っては「国」という単語も知らない。

「じゃあ町や村はそこの長が仕切ってるのか…村を広げたり町を広げようとか思ったりするもんだろ。戦争とかないのか?」

「ここ数年は聞いたことないでござるな。隆殿のいた世界ではあったのでござるか?」

「あったな。とはいっても八十年近く前のことでそれ以来でかい戦争はないな。でもまぁ大小関わらず俺のいた世界なんて二千年以上前から戦争は絶えなかったな。食料だったり威厳だったり理由ならいくらでも付けられるしな」

「何それ…じゃあ『気に食わないから』っていう理由でも戦争を起こせるの?」

「兵士は納得しないだろけどな。だから兵士や民に嘘をつくんだよ。『あの国は先日こちらの国を襲った。早急に対処しないと壊滅する』ってな。心を読むような魔法がない世界じゃ感情や言葉で人を操るんだよ」

例えで軽く演説のようなものをやってみせる隆。
しかし嘘だと分かっている三人にはうまく伝わることはなかった。
その日の夜、一つの木の周りで寝ている三人をよそにリトスは寝付けずにいた。

(戦争ね…魔王もピリキドもまだ動いてないけど片方が動いたら世界は一気に変わる。魔王の勢力のアスモディアンは町や村を襲うようになるだろうし、私のいた村もきっと…いや、そんなのどうだっていい。今はピリキドに着くことを考えないと…)

「やァお嬢さん。お久しぶりだね?」

突如として現れた気配に驚くリトス。

「いやいや驚かせてすまない。気配を消しておかないとそこの三人が起こしてしまうからねェ」

「その声…トロルの村で聞いた声だね」

「覚えていてくれて光栄だなァ。さて無駄話をする男は嫌われてしまうから本題に入るとしよう。現在俺の同僚であるアメジストが君達を追っている」

「へぇ…それで?諦めて魔王の下に行けって言いたいの?」

「いや、それはお嬢さんを見た時から思っていたことだ。伝えたいのはアメジストが目的のためなら虐殺だろうが拷問だろうが平気でやってのけるやつだということだ。ピリキドに着いてから対峙したら間違いなくピリキドは崩壊する」

「は…?いや冗談でしょ。ピリキドは以前魔王との戦いで活躍したんだし幹部の一人にやられるような所じゃない」

「条約を結ぶ前、魔王様には部下一人いなかった。アスモディアンが所属の一種として認められずたった一人で狩られる立場にあったアスモディアンを他の種族と共存できるようになるため仕掛けたんだ。だが今回は…」

「何を話しておる、カーネリアン」

声と威圧感に背筋が凍るリトス。
感じたことのある気配に聞いたことのある声のはずなのにその気が全くしない。

「ま、魔王様…」

「何を話しておるのかと聞いているのだが」

「それは…ピリキドにアメジストが来るとピリキドが滅びかねないとこの者に警告を…」

魔王の前で話すカーネリアンの声は先ほどの陽気な声とはかけ離れ、今にも殺されそうな動物のように震えた声で話していた。

「なるほど、アメジストならやりかねんな。だが今の時間でなくともそこにいる三人が起きてからでもできることじゃろう」

「で、ですがそれだと…」

「口答えはいい。城に戻れ」

魔王がそう言うとカーネリアンは言葉を発さずに消えた。
そして魔王は周りに誰もいないことを確認するとリトスの手を引いて隆達のいる場所へと歩いて行った。
風が吹かず、音一つしない草原の真ん中で魔王は麻でできたシートのようなものを地面に広げ、リトスに靴を脱がせて座らせた。
リトスの前にいる魔王は先程とは違い威圧は無く、以前酒を飲みあっていた時のゆるやかな雰囲気を纏っていた。

「さっきは部下が悪いことをしたの」

「あはは…森で別の部下に殺されてるんだし気にしてないよ」

「そうか?ならいいのじゃが。さて生憎今日は酒を持ってきておらんから話したいことだけ話すぞ」

リトスがこくりと頷くと魔王は話を続ける。

「お前のいた村で隆が召喚される前、妾は世界に向けて征服をしたそうじゃな」

「うん…うん?」

魔王の言い方が気になるリトス。

「したそう…ってどういうこと?」

「簡単なことじゃ。妾は世界を征服するなど一言も言っておらん。どこかの町で嘘を言った阿呆が他の村やらに広めたんじゃろうな」

「嘘って…じゃあまだピリキドが動いてないのはまさか…」

「伝わってないかもしくは信じていないかのどちらかじゃろう。それでこのままアホのアメジストがピリキドで暴れれば他の町は確信するじゃろうな。妾は勝てる自信があるから戦争が起ころうがそうでなかろうが構わぬがお前達はそうもいかぬじゃろう」

「まぁね。というより状況の最悪さに頭が痛い」

敵対しているということに変わりはないが旅の目的が「制服を阻止するために魔王を倒す」ことだったため魔王の言うことが本当なら旅の意味がなくなってしまう。
そうなると今自分達は誰かのついた嘘に動かされて戦争を起こそうとしている。
隆が昼に言っていた意味がようやく分かり、リトスは魔王に向かって頭を下げた。

「ど、どうした?」

「ほんっっとうにごめんなさい!今まで嘘に踊らされていたとはいえバカなことをしてた!」

「構わん、妾は怪我一つしておらんし見ておって楽しかったぞ」

魔王は頭を下げ続けるリトスを仰向けにさせ、頭を撫でる。

「これからどうしようかな…時間が経てば嘘が広まって戦争は避けられないし、かといって私が『魔王が征服しようしているのは誰かが蒔いた嘘』だって言っても信じてくれるとは思えない」

「ならばこうすれば良い。リトスが『私達で魔王を倒すから引っ込んでろ』と言っておれば他の連中が妾に歯向かうことはないじゃろ」

「んー…確かにそれが最善策かな。でもそれだとまた私達殺されない?」


「何度か死ぬじゃろうな。だがその度生き返らせるから存分に妾の部下と遊んでやれ。一部の部下にも既に遊び相手がいるから存分に遊んでこいと伝えてあるぞ」

「遊び感覚で殺されて生き返らせるって新手の拷問か何かかな?でもそうしないと不自然だもんね…よし!私やるよ!」

「その意気じゃ!ちなみにじゃが明日遭遇予定のアメジストは隆と一度戦っておるぞ。隆自身は気づいておらぬようじゃがな」

「そうなんだ。じゃあそろそろいい眠気もきたし寝てもいい?」

「うむ。きちんと運んでやるから大いに安心して眠れ」

翌朝、目が覚めたリトスは隆にもたれかかっていた。
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