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アメジストは退屈

人の気持ちは読めないけれど

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アメジストはここの店員である兎耳の店員に話しかけられ、断っても下がりそうにない店員は向かいの席に座った。

「話すって世間話でもすればいいのか?」

「さっき出て行った人と話していたことです。奴隷たちの反逆のことですよね?」


「知ってどうするんだ。他の奴隷の所に行って『反逆しないでください』って言いにでも行くのか?」

「そうではありません。情報共有をしたいんです」

「情報共有だあ?話長くなるなら飲み物貰うぞ」

話をしてくれるのが嬉しかったのか、店員は厨房に行き赤い飲み物を持ってきた。

「数種類の赤い果実で作ったジュースです。それで情報共有ですが見て食べたとおり飲食店で昼夜問わず様々な方がご来店されるんです。奴隷への扱いは人それぞれで主人が見ていない時に対しての反応やほんの小さな独り言でも私の耳には入ってくるんです」

「自慢の耳なんですよ」と店員は耳を動かしてみせる。

「それで反逆者を見つけ出そうというわけか。悪くないな」

「それでしたら…!」

「だがあくまでお前はここの店員だろ。そんなことしていいのか?」

アメジストが厨房に視線を移すとここの店主であろう坊主の男がカウンターに手をついて話を聞いていた。

「客を疑ってるようで俺としては素直に頷けねぇな。それにこっちが動かなくてもさっき出て行った兄ちゃんがなんとかするだろ?」

「そうだといいんだけどな…聞き出す前に衝動で殺したり騙されてなきゃいいんだが」

「心配ならついて行ってアンタが聞けばいいじゃねぇか」

「私が行ったところでやることは変わらない。死ぬか生きるかの状態で聞いて答えないなら殺すだけだからな」

あくびをしてジュースを半分ほど飲むと「段々と恐怖に陥れるなんて器用なことができるのは魔王様くらいだ」と続ける。

「それじゃあ手当たり次第ということじゃないですか…」

「反逆したらこうなるっていう見せしめにもなるんだからいいだろ。あいつが聞き出すのに失敗したら死体晒して紙でも貼っておくか」

「よく…よくそんなこと思いつきますね」

「あ?」

「主犯と話し合って平和的解決をしようとか、そう思わないんですか?」

「思わない。暴力で解決できることなら私はこの拳で叩き伏せる。そのために魔王様の近くにいさせてもらっているんだからな」

アメジストは強く握った拳を見つめると、残ったジュースを飲みきり「じゃあな」と言って店を出た。

「恐ろしい女だったな。お前も俺に反逆したらあいつが飛んでくるかもしれんぞ」

「マスターに拾ってもらったのにそんなことしません。ですがこのままだとこの町でいい事が起きる気がしません」

それから三日後、アメジストが家で果物を齧っているとドアがノックされた。

「入っていいぞ」

ドアが開くと縄で縛られた鳥人が投げ込まれ、続いて狼男、人魚、最後はヒューマンが投げ込まれトパーズが入ってきた。

「鳥人が他の反逆者の居場所を吐いたので捕まえてみたがどれも主犯ではなさそうだ。アメジスト、君はそれらしき人物と会えたかい?」

「私もダメだ。騒ぎに駆けつけたり兎耳のいる店に行って怪しい奴の後を追ってみたりしてるがどいつも『他のやつに便乗しているだけでトップは知らない』の一点張りだ」

「辿ろうとしても途中で途切れてしまう…一体どうしたものか」

逃げることを諦めて大人しくしている鳥人達をよそに考える二人。
すると天井に亜空間が現れそこから破いたように穴の空いたマントを羽織った魔王が降りてきた。

「お前達、随分と面白そうなことをしておるの」

「魔王様!どうしてここに!?」

「お前達が三日も城を空ければ何かを企んでおるのかと思うじゃろ」

「企むだなんて滅相もない!実はですね…」

「もう知っておるわ。一部の奴隷が反逆しておるという件じゃろ?主犯はもう見つけて思うておることを視たが中々に面白いことを考えておるようじゃな」

「捕まえなかったのは面白いから…ですかね」

「阿呆。お前たちが勝手に首を突っ込んだことじゃろう。妾が気にかけるからと心配をしておったのは褒めるがこの程度の遊戯少し頭を捻ればお前達二人で解決できるわ」

「頭を捻る?」

「考え方を変えろと言っておる。お前達が主犯ならどうやってお前達の目を掻い潜って反乱を起こさせる?そしてどう言えば奴隷共が反逆する気を起こすのか。その理解から始めないとイタチごっこになるぞ」

魔王は「くっくっくっ」と笑うと縛られていた鳥人達を解放する。

「いいのか?俺達を解放して?」

狼男が自分より背の低い魔王に睨むと魔王は子供らしい笑顔で返し、「ボム」と唱えると狼男の片足が爆発音と共に吹き飛ぶ。

「グガァァ!」

「ああ。貴様のような愚者がもう一度この町を荒らすようなものならこの二人が首を刎ねようぞ。アメジスト、トパーズ」

呼ばれた二人は煽られた魔王が不機嫌なのかと背筋が凍り、声を出そうとしても出ない。

「その…なんだ…たまには城に帰ってこい。待機中なのはお前達二人なのじゃから話し相手になれ」

そう言うと魔王は亜空間を作り、城へと帰っていた。

「…この家爆破されるかと思ったな」

「小生は『次勝手なマネしたらこうなるぞ』と反逆者の首を刎ねるかと思ったよ」

それから二人はアメジストの部屋で、また兎耳の店員がいる店で働きながら話し合い、兎耳の店員の名前が「バニラ」という名前だということを知り、主人の名前が「バジル」だということを知った。
バジルの店の閉店後、「今日は終わり」の看板をアメジストが外に出すとカウンターに座り、魔王から言われたことについて話し合っていた。

「分からない。魔王様に反逆しようと思ったことがないから主犯の考えていることが全く分からない」

「小生も同じく。普通のヒューマンならともかく獣人やアスモディアンとのハーフなら仲間を作って生きていくというのができるはず」

「お前ら昨日もそんなこと言ってたじゃねぇか。俺は昨日も言ったがそういう力を持てなかった、あるいは持ってたとしても行動に出せないから不自由でも生きてこうと奴隷になるしかなかったんだろうが。攫い屋に売られたやつもいるだろうがそういうやつはどこかしら拘束されるもんだからまず反逆はできないんだよ」

「じゃあバニラの足についてる役割果たしてない足枷は?」

「これはおもちゃです。これを付けていないと奴隷だと思われないので」

「ボロボロになったエプロンも変えろって言ってるのに気に入ってるからって新しいものに変えようとしないしな」

「ほほぅ、その話からするとバニラは奴隷ではないと」

「そういうこった。そのくらい頭が回れば主犯の考えてることくらいパパッと思いつくだろ」

「じゃあマスターは思いついたのか?」

「動機が三つくらいはな。だがお前らが思いつかなきゃ魔王から考えろって言われた意味がねぇだろ?それに俺が思いついたからってそれが答えとは限らねぇ」

「結局マスターも分からないのか」

「当たり前だ。魔法が使えなきゃ他人が何を考えてるかなんぞわからねぇよ」

「しかし全員心が読めれば生活が楽になるのでは?」

「バーカ。んなことできたら気持ち悪くて外に出れねぇよ。良いことも嫌なことも表情、言葉一つで隠せるから生活っていうもんは成り立ってんだ。アメジスト、今日お前が飲み物こぼした時に若注文した若い男が『大丈夫ですか』って言ってたがあいつだって心じゃ『何やってんだこいつ』と思ってたかもしれねぇんだぞ」

「よし、そいつを捕まえてくる」

「今の話を聞いてたのかお前は!いいか、そう思っていたとしてもそいつが心に思うだけで言葉に出さなかったからあの時お前は手を出さず片付けられたんだ」

「つまり…どういうことだ?」

「えっとですね…マスターはこう言いたいんだと思います。何かをする時、した時に相手の立場になってみると分かりやすい。そうですよね?」

バニラがバジルの方を見ると「うんうん」と頷く。

「相手の立場ねぇ…奴隷が反逆して私らが捕まえても疑われなさそうな場所…ここだ」

自信有りげにアメジストが立ち上がるとアメジストを除く三人はため息を漏らした。
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