盲目エルフは異世界勇者と旅をする

茜色蒲公英

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アメジストは退屈

二度と会えないわけじゃない

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アメジストが目を覚ますと自分の部屋にいた。
体を起こして窓を見ると夜になっており、少女を捕まえるためドアに手をかけるが力が入らずベッドに戻って座った。

「トパーズめ、借りでも作ろうってのか」

「ところが妾じゃよ」

横を見ると一度見たときにはいなかった魔王が隣に座っていた。

「うおっ!?…魔王様でしたか」

「妾で悪かったな。お前達にたまには帰って来いと言っておったのにまっっったく帰ってこんから説教でもしようかと思うたらお前が倒れておるじゃろ」

「申し訳ありません…まさか相手が魔力を封じることができるとは思っていなくて」

「言い訳は聞かん。それより主犯は見つかったのか?」

「逃がしてしまいましたけどね。魔力が戻り次第見つけ出して殺します」

口を吊り上げて力強く拳を握り締めるアメジスト。

「それほど魔力を消費したのか。口を開けてみよ」

「はい。あー」

「アホらしい顔をしておるの。ほれ」

魔王はアメジストの口に丸いダークジェムを放り込み、アメジストはそれを噛み砕いた。

「本来は酒に入れて妾が楽しむものじゃがくれてやろう。トパーズに先を越されたくないのじゃろ?」

「さすが私の事分かっていますね。よし!さっさと終わらせてきます」

「そうそう、言い忘れておったがあやつは精神操作で操って…っておらんな。まぁアメジストじゃし大丈夫か」

開いたままのドアを閉めて城に帰る魔王。
玉座に座りリトス達の様子を映像で眺め、一人高笑いするのだった。

一方、魔力が戻ったアメジストは少女を見つけるため町を奔走していた。

「おいマスター!女の子供見なかったか?なんかこう焦って逃げてるやつが!」

「いや見てねぇよ。バニラ、見たか?」

「見てはいませんけど遠くで誰かが争っている音は聞こえましたね。もしかしてもしかします?」

「そうだよ。それで逃げてった奴隷を解放したいっていうガキが今回の主犯だ。いくら子供で体力が有り余っているとは言えあの足じゃ遠くまで行ってないだろ」

「とはいっても争っていたのはお昼でしたよね?もう夜ですし町の外に出ていると思いますよ?」

「ガキ一人で町の外に出れるか?この辺は雑魚しかいないがガキ一匹仕留めるなら造作もないはずだ」

「それはそうですね…となると家に帰った可能性もありますがどんな女の子か覚えてますか?」

「どんなって言われてもな。いたって普通だったぞ、せいぜい他のやつらと違って自分の奴隷を連れてないくらいだったしな」

「ガキが奴隷連れてないっていうのはまぁよくあることだ。そいつは奴隷顔ほうが目的なんだろ?だとしたらそいつの親はどうだろうな?」

マスターがヒントを与えるとアメジストは一度首を傾げるがすぐに自分の頭を叩いてそのまま抑える。

(思い出せ。ここで働いてて奴隷を連れていない男の客はいた。そいつは酔い潰れて私が家まで送ったが家の中は見てないな)

「やっぱり考えるのは私の性に合わないな」

「え?」

「いなかったらまた出てくるまで探せばいいだけだしな」

もう一度考え直そうと提案するバニラを無視して思い当たる家へと走るアメジスト。
彼女の頭は今「問題を解決しよう」という考えはなく、「殴ってすっきりする」ことしか頭にない。
目的の家に着きノックせずドアを蹴破って中に入ると音に驚いて玄関まで男が走ってきた。

「何事だ!?」

「この家にガキがいるだろ。渡せ」

「乱暴に来てそんなこと言われて娘を渡す親がいるわけないだろ!大体何の用だ」

「お前だろ。この町で奴隷解放しようとして奴隷を反逆させてる奴は」

「な、何を言って…」

「正義ぶってヒーローになりたいのかは知らんがぞれにしては随分と悪役がやりそうなことしてるな。糸を引くやつは身内だけで十分だ」

「デタラメなことを言うな。第一君、最近バジルの店で働いている店員だろ?君には関係ない話じゃないか」

さっさと帰ってくれと手を払い男は部屋に帰ろうとするとアメジストは靴を拾って投げると靴は壁に刺さった。

「おい、どこに行くんだ。逃げるんだったら家の中探し回して娘を殺してお前も殺す」

「やってみろ。こっちに来ないからわかると思うが僕は独り身でね。子供なんかいないよ」

「私がガキを出せと言ったときに娘って言ってたのにか?」

驚いて固まる男の顔を壁にぶつけて気絶させるとリビングや寝室を荒らして少女を探し始めるアメジスト。
しかしなかなか見つからず、寝室にあるクローゼットを開けたアメジストは歯を見せて笑う。

「やっと見つけた」

怯える少女の髪を掴み、暴れられても全く気にせずに地面へと叩きつける。

「昼は随分なことしてくれたな。二度も地面に倒れているようでは魔王様の部下として情けないことこの上ない。え?こんなことをしておいて心が痛まないのかって?昼にも話しただろ。私は善人じゃない。勇者が欲しけりゃ頼んでも聞いちゃくれない神にでも頼んでお前に優しい勇者が来るのを来世で待つんだな」

少女の首を切り落とすと玄関に戻り、意識が戻ってまだ転がっている男の背中を踏みつける。

「あとはお前だけだな。どうせ死ぬんだしどうやって奴隷達の心を動かしたか誇るように語っていいぞ」

「そ…その必要は…ない…」

男が指を立てるとアメジストの首に針が刺さるような感覚がした。
刺された場所を触ってみると血は出ておらず、体に異常はない。

「馬鹿な…延髄に刺激を与えて精神を操れる針だったのに…」

「そんなもんに頼っていたのか。もっと高等な呪文かと思ったんだが聞いてみればそんなものか。そんな針より私の作った針の方がまだマシだな」

呪文を唱えて具現化させたアメジストのそれは針というにはあまりにも太く鋭い。

「じゃあな。偽善」

事が済んだアメジストは蹴破られたドアから家を出ると壁にもたれかかっていたトパーズに話しかけずバジルの店へと向かっていった。

「おーいマスター」

「今日は休みだってアメジストか。その様子じゃ終わったようだな」

「終わった。これでしばらく騒動は起きないだろ」

「そうか。それでわざわざ言いに来たってことは帰るんだろ。アスモディアンのくせに律儀なやつだな」

「たった三日しか働いてなくても世話になったことには違いないからな。バニラにもよろしく言っておいてくれ」

「言わねぇよ。お前らが黙って辞めてったて言えばお前らがまた来たときあいつが嬉しそうな顔するだろ?」

「また来るか分からないのにか?」

「こう言えばお前はまた来るだろ?お前は非情に見えるが実のところ甘甘だからな。くたばるんじゃねぇよ」

「フン。マスターこそな」

後日、城に帰ったアメジストは城を開けていた分魔王の遊びに付き合わされたが満更でもないどころか幸せだったという。
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