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世界樹の子 前編

限界のその先

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アランの放った黒い槍は魔王の体を貫いたあとすぐに消え、貫かれた魔王の体には穴が空いた。
しかし血は出ずその代わりに黒い液体が噴き出した。

「やるの…ああー…姿を保てんな」

流れた黒い液体は沸騰したかのように音を立てて魔王の体へと戻っていく。
骨の砕く音、折れる音を響かせながら幼い少女の姿から「化け物」と呼ばれる大きな姿へと形を変えていく。

「あまりにも目立つからこの姿では出歩けなくてなぁ…リトスよ、妾が見えなくてよかったな」

「本当にね…見たら卒倒しちゃってたかも」

魔王の腕は増えて虫のように這い、体から垂れる黒く粘着性のある液体が地面に落ちるとそこから煙が出ている。
下半身は蛇の尻尾を思わせるがその先端には鉄球のようなものがついている。
背中には鋭い棘が生えあからさまに毒であろう煙が噴出していた。

「おいおい…変身ってレベルじゃねえぞ…」

魔王の攻撃を警戒する一行。
それを見て笑みを浮かべる魔王は煙の噴出力を上げて辺りを毒々しい煙で覆い始める。

「あの煙に何かあるぞ!」

「そんなこと見ればわかるでござるよ!ここは早急に片を付けるでござる!」

クナイを投げつけたライナだが魔王の体から出ている液体に刺さり一瞬で朽ちてしまった。

「そういう感じかよ…アラン!また俺らが時間を稼ぐから頼んだぞ!」

しかしアランからの返事はない。
何かあったのかと隆がアランのほうを向こうとすると風を切る音がしたすぐ後に民家に叩きつけられた。

「敵から眼を逸らしてはいけないと教わらなかったのか?」

身動きができないまま地面に引きずられて森の方へと投げ飛ばされた隆。
ラルアは動きを止めようと何度も枝や木を生やしていたが黒い液体と煙によって腐ってしまっていた。
そしてラルア自身も煙によって意識が遠のきほぼ何も見えなくなっている。

(また…役に立てなかったな…)

意識が落ちる直前、魔王が目に前に映るとラルアは静かに目を閉じた。

「どうする…どうすればいいのでござるか…」

近くから聞こえた激しくたたかれた音に魔王が誰かを殺したことを確信したライナ。
どうにでもなれと音のするほうに走ると潰されて死んでいるラルア。
驚く暇もなく振り下ろされた尻尾を短刀で受け止めようとするがあっけなく折れる。

「打つ手なし…でござるな」

「そこぉっ!」

ライナを叩き潰そうとした尻尾にリトスの武器が刺さると軌道がずれた。

「何かっこつけて死のうとしてんの!」

「最初棒立ちしてたリトス殿に言われたくないでござるなぁ…!」

ライナは震える手でクナイを取り出して尻尾に刺さった武器を頼りに投げる。

「これで姿は見えるでござるな…ごふっ」

口から出てきたのは黒い液体。
歯を食いしばって折れた短刀を握り魔王の方へと走っていく。

「リトス殿の方にはいかせないでござる!」

「遅い」

魔王がリトスを掴もうとすると魔王の顔面に力強いこぶしが入りよろけさせた。

「遅れたな。戻ってきたぞ」

「今度は間に合ったね」

リトスの周りには口から吐いたであろう黒い液体。

「まだやれるのか?」

「この状況で休めないでしょ」

お互い近くに寄ってカウンターを狙う二人。
魔王の尻尾に刺さったクナイを引きずる音がするとリトスはしゃがみ、薙ぎ払われた尻尾についた鉄球を隆が拳で砕いた。

「ライナ!生きてるか!?」

「勝手に殺さないでほしいでござるよ!」

鉄球が砕け怯んでいる魔王の尻尾を掴んだ隆は背中を地面に叩きつける。

「今だライナ!」

「この勝機逃さないでござる!『稲妻』!」

腹にライナの尻尾が深く刺さり、続いて隆も腹に乗り連打を決めた後右ストレートを打ち込む。

「だっらぁぁぁぁぁぁ!」

「ぐっ…ぶほぉ!」

吐かれた液体を回避した二人。
起き上がった魔王の後ろに周った隆がもう一度尻尾を掴もうとしたが後ろに跳ばれ腕で腹を潰されてしまった。

「ここまでやるとはな…だがもう限界だろう?」

「限界なんてとっくに超えてるでござるよ!」

振り上げた魔王の腕を避けて短刀を刺しこみ、隆が踏み潰されている腕にクナイを両手で流すように切る。

「ちっ!」

別の腕で振り払おうとするも頬に掠り、ライナのやりたいことを察したリトスが武器をライナに投げ渡した。

「腕上がったでござるな」

「初めのころなんて知らないでしょ」

受け取ったカットラスで魔王の腕を断ち隆をリトスの方へと蹴り飛ばしたライナ。
その勢いのまま腕を避けては腕を切り落とし、残り二本となったところで隆の意識と肉体が戻った。

「悪い!気を抜いた」

「そんなこといいから早く行ってあげて」

リトスに膝枕をされていたことを気にすることなく魔王へと走っていく隆。
隆の顔に液体をかけないように我慢していたリトスは一気に吐き出し、満足したかのように笑顔で力尽きた。
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