盲目エルフは異世界勇者と旅をする

茜色蒲公英

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世界樹の子 前編

もう一人の忍者

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幼いころのライナは大人しく今のような忍者を目指そうとは塵ほども思っていなかった。
親に心配をさせまいと子供に色んなことを教える先生になる。
そんな夢を持つ女の子だった。
両親も忍者になっているわけでもなく他の村や町からガラス等を買い入れ装飾品を作っては売っていた。
戦いとは関係のない家庭にいたライナが忍者になったのは親友のせいだった。
頭が良かった故の周りからの嫉妬、無視、そのせいで一人でも友達になってくれればそれだけでライナにとってはとてつもなく嬉しいものだった。

壁を降りてリトス達のいる場所へと走るライナ。
用が済みすぐにこの場を離れようと町を迂回して次の場所を目指す一行。
隆が町で何を買ったのか聞くとライナは袋からクナイと手裏剣に小刀、そして新しい武器何種かを地面に広げる。

「このぐるぐる巻きになってるのは…ロープか」

「知っているのでござるか?」

「多分だ多分。何かに巻き付けて素早く移動するためのものじゃねえのか?使い方は知らんが」

ロープの先にはフックがついており「やっぱりそうだ」と高い木に向かってロープを回転させてから投げる。
すると勢いよく発射され一本の枝に巻きついた。

「おぉ…凄いでござるな」

「自分でもうまく使えたことにびっくりしたぞ。本来は屋根に上ったりするもんなんだろうがライナには要らなそうだな」

「大体の場所なら足で行けるでござるからなぁ。隆殿にあげるでござる」

隆が喜んでロープを回収しているとラルアが(貸して)と手を出す。
回収し終えて渡すと隆の真似をしてロープを飛ばし始めた。

ライナが次に取り出したのは鎖。
それも両端に太く長い鉄を鋭角に削ったものがついている。

「これたしか万力鎖だったか。へぇ~初めて生で見た」

「どうやって使うの?」

「両端に鉄がついてるから片方を垂らして鎖をこう持ってだな…ライナ、お前見なくても知ってるだろ」

「知らないでござる。急いでたから使い方なんて教わってないでござるよ」

「じゃあ買った意味ねえじゃん!」

「知り合いがタダでくれるっていうから貰ったのでござるよ。使い方はやってるうちに分かるかと思っていたでござる」

「俺があっちの世界でこんなことばっかに詳しくて良かったな…そんで使い方だが…」

その後も鎖鎌、手甲鉤の使い方を教え、最後に残ったのは隆を恐怖させるものだった。

「おいおい…なんでこんなもんがこの世界にあるんだよ…」

手榴弾。
それもM24型柄付手榴弾にそっくり、もしくはそのものだった。

「見た感じ鈍器でござるな。隆殿の世界にあったものなのでござるか?」

「俺が生まれる八十年ぐらい前の爆弾だ。歴史か戦争に興味のあるやつだったら一度は資料で見たことはある。ライナが忍者なことでだいぶ怪しかったが確信した。あの町に俺と同じ世界から来たやつがいる」

隆がそう口にした時風を切る音が通り過ぎ、隆の右腕が後方へと飛んでいった。

「っつ!敵襲か!?」

周りを見ても誰もいない。
リトスの頭には糸使いである魔王の部下が思い浮かんだが敵対関係ではないのであり得ない。

「ラルア!」

隆が叫ぶと既にラルアは地面に手を当てて頷いた。

(もう場所は把握できたよ。ただ動きがかなり素早いね)

「音も葉っぱが揺れる音くらい。慣れてるね」

二人の言葉を聞いてライナが「まさか」と呟く。
聞き逃さなかったリトスがライナに顔を向けた。

たった一人の友達であり親友。
親友であり競い合うライバル。
ライバルであり師匠。
大人しく弱かったライナを忍者に育て上げたもう一人の忍者。

「名前はヒメ。マダラヒメと名乗っていたでござる」

「日本人か。ラルア、捕まえるぞ」

(まかせて)

「待つでござる!ヒメは拙者とは比べ物にならない強さでござるよ!」

「だからって放っておいて誰かの首を跳ね飛ばされるわけにはいかねえだろ。ライナ、武器持ってないリトスのこと頼んだぞ」

ラルアのナビに従って一行を襲うヒメを追う隆。
リトスと共に残されたライナはヒメのことについて語り始めた。

ヒメはライナがちょうどいじめられていた頃に町にやってきた。
自分と同じ幼い少女がぬいぐるみや絵本を持たず血の滴る刀を鞘にしまうことなく、抜き出したま持ちま町を散歩をするかのように歩いていた。
駆け付けた警備は皆切り殺され仲間を呼び出されようが逃げることなく。
まるで「ここは自分の敷地だ」と言わんばかりに。
そんな殺戮者を見て怖がらないわけがない。
目の前を通っただけで殺されるかもしれない。
しかし、ライナの足はヒメに向かっていた。
自殺願望があったわけではない。
ましてこの町のために死のうなどと思ったわけでもない。
興味が足を止めてくれなかった。

「ウチを殺して…くれそうにないね。そんな本じゃ私を殺せないよ」

「えっと…その…どうしたらそんなに強くなれるんですか?」

怯えながらもまっすぐなその瞳にヒメは笑わなかった。
その代わり持っていた刀を渡して振るように指示した。
初めて持った重い武器に持ちあげることで精一杯だった。
自分には無理だと返すとヒメはおもちゃでも扱うかのように刀を振り回し、背後にいた兵士の胴体を鮮やかに切り落とした。

「すごい…」

感嘆の声を上げるライナ。

「ぷっ…はっはっは!間近で知り合いが殺されてるのを見てその感想なんだ!気に入ったよ!」

血に濡れた手でライナの手を握り、「今日からウチら親友ね!だめなら殺す!」と豪快に笑うのだった。
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