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家族の肖像
奥さまの名前はリコリス、旦那さまの名前はキール。ごく普通の貴族の二人は、ごく普通の政略結婚をし、ごく普通に夫は愛人を持ちました。ただひとつ違っていたのは、生まれた子どもたちは天使(比喩)だったのです!
リコリスの父は男爵であり、非常にやり手の経営者でもある。
領地は小さいながら、領民と連携して商売を盛んにし、景気がいいから税収が上がりその税収を使ってさらに領地を発展させていく。
国からはその手腕を見込まれ、没落や経営不振で国に返上された領地の管理をしてみないかという打診が何度か来たくらいだ。
でも父は野心家ではなく、単純に「生まれ育った男爵領を盛り立てたい」という一心だったので丁重にお断りをしていた。
しかし、一件だけ断れなかったのが、ベルデ伯爵家の後継者とリコリスの婚姻だった。
ベルデ家はいまでこそ伯爵であるが、もとは侯爵家でであった。領地を切り売りした結果、リコリスのクランベール男爵領と隣り合う伯爵領しか残らなかったのだ。しかし、それは享楽による資金難ではなく、災害や国の一大事にいの一番に金を用意してきたからだった。父ならば「領地を売る前にやることがあるだろう」と言いそうだが、歴代ベルデ当主は絶望的なまでに金策が下手だったのだろう。
一爵位の差でしか婚姻ができない中、この縁が結ばれたのは「建国時より国を支えてきたベルデ家を立て直したい」という国の思惑があってだった。
「家族となったからには」と父も積極的に伯爵領地に関わってくれ、領地にいるベルデ伯爵とは非常にうまくやっているらしい。
いっぽうこちらは、淡々とした結婚生活をおくっている。
ベルデ伯爵子息のキールは外面のよい典型的な貴族の子息だった。
自分の両親には従順で模範的な態度をとるが、両親が領地へ戻るとやりたい放題。
伯爵の伝手と実家の戦略で王都に出している店は繁盛しているし、優秀な店長がいるおかげで夫がするのは予算の配分や最終決裁のみ。そこはやはり伯爵子息というべきか、そつなくこなす。そして空いた時間をパーティーや紳士クラブへの参加に費やすのだ。
私が子どもを妊娠してからの夜会はキール一人で参加となったが、とても「楽しく」お過ごしになられていたようだ。
私がお腹は重いわ食べ物は食べられないのに吐き気は止まらないわ、という状況の中ルンルンで朝帰りする夫に対しては殺意しかわいてこなかった。
誰との子を妊娠していると?と何度も心の中で問いかけた。
そして迎えた出産の日。ストレスがたたったのか、予定日より一週間早かった。
夫?元気に外出中ですが?
家令が伝令に向かったけれど、出席予定の夜会には夫はいなかったようだ。
ドコニ イタノ デスカネー??
通常より長い時間をかけて、文字通り命がけで産み落としたのは、双子の男女だった。
いつの間にか気を失い、次に目を覚ました時は下半身が動かず自分の体が自分のものではないようだった。
でも辛うじて動く手に、我が子を抱かせてもらう。
ほぁあ、ほあぁと泣くしわくちゃの顔がふたつ。この上なく、可愛かった。
――私が守らなければ。
強く思った。
ユフィーナとジストと名付けた双子は、良く泣く元気な子たちだった。
私はまずは体力の回復、ということでベッドの上で絶対安静。
乳母たちが子どもの世話をしてくれるので安心ではあるが、目を離したくなくて自分のベッドの横にベビーベッドを置いてもらう。
母が私を生んですぐ亡くなったのもあり、できるだけ一緒にいたいのだ。
ぐずっても私がだっこすると泣き止む姿を見て、乳母がにこやかに「やはりお母様が一番ですね」と言う。
そうか、私が一番か。
領地のために働く「みんなの男爵様」の父。
愛人を作り、最優先にしてくれない夫。
でも、この子たちにとっては私が一番。特別なんだ。
なんだか、胸がきゅうっとした。そうか、これが、家族なのね。
凄い速さで成長していく我が子を見ていると、あっという間に時間が過ぎていく。
子どもたちの首が座り、寝返りをうて始めた6か月目。
子どもが病気なく育つように、家族で祈りを込めて子どもを抱きしめる祈健会を行う時期が来た。
父と義両親に招待状を出す。どちらも参加と返事が来た。
夫の両親とは手紙を数回やりとりはしたものの、どちらも無表情で正直とっつきにくい。
父は商談のために一日遅れの当日参加となると知らせが来ていたので、当日は緊張を強いられるだろう。はぁ、と大きなため息が漏れる。
あれこれ準備をしていたら、気が付けば来週の開催だ。
あくまで家族間のこじんまりとした会だからこそ、心地よく過ごしてもらいたいと義両親を迎える準備はぬかりない。
もちろんここでも夫は役に立たなかった。計画段階で義両親のもてなしについて夫に相談すると、
「料理長や家令に任せておけばいい。うちの両親は、男爵家との結婚なんて恥だといつも言っていたからな。子どもができたとて喜ぶまいよ。ま、お前の実家の支援は助かるから、それが続く間は跡取りとして扱うから安心しなさい」
と言い放ち、遊びに出かけた。
クズが!
***************
さてあっという間に祈健会前日。義両親が来る日です。
ああ、胃がキリキリします。
夫?
昨日から帰っていません。今日義両親がいらっしゃることは伝えているんですがね!
最近お気に入りの若い愛人といるのが楽しくて忘れているのでしょう。
子どもたちの一番かわいい時期を見ようともしない馬鹿には愛想が尽きているのでもういいですが。
家令から義両親が到着した旨が伝えられ、応接室にて迎える。
騎士として働いていた義父は体も大きく眼光も鋭い。義母はあまり表情が変わらない上、ツリ目でとっつきにくい感じがする。
領地が隣り合っているものの。普段私たちは王都にいるのでろくに親交を持てていない。
そんな中でもてなせとか拷問だ……。
あとで双子に癒してもらおう。あのもちもちぷにぷにほっぺを触っていたらすべてのストレスが発散される。
よし、と気合をいれて「お忙しい中、お越しいただきありがとうございます」と社交スマイルを浮かべた。
三人で話し出してすぐ、夫の不在を問われる。
ま、気になりますよね。
「申し訳ありません、あいにく仕事の都合がつかなかったようで……」
さすがに「浮気相手のとこでパーっとやってまぁす!」とは言えず、話を濁す。
義父はじっと私を見ると、「……苦労をかけるな」とつぶやいた。
お?思ったよりまともな反応。
あとは当たりさわりのない近況報告などをして、双子のいる遊び部屋へ案内した。
初めての孫との交流、お二人にとってもいいものとなるといいのだけれど。
「なんだこの生き物は!
骨は?骨はあるのか!?
ふにゃふにゃだぞ!?」
「まぁまぁまぁ!!!!!!
まぁまぁまぁまぁまぁ!!!!!!
かーわーいーいー!」
……おや?義両親の様子が……
リコリスの父は男爵であり、非常にやり手の経営者でもある。
領地は小さいながら、領民と連携して商売を盛んにし、景気がいいから税収が上がりその税収を使ってさらに領地を発展させていく。
国からはその手腕を見込まれ、没落や経営不振で国に返上された領地の管理をしてみないかという打診が何度か来たくらいだ。
でも父は野心家ではなく、単純に「生まれ育った男爵領を盛り立てたい」という一心だったので丁重にお断りをしていた。
しかし、一件だけ断れなかったのが、ベルデ伯爵家の後継者とリコリスの婚姻だった。
ベルデ家はいまでこそ伯爵であるが、もとは侯爵家でであった。領地を切り売りした結果、リコリスのクランベール男爵領と隣り合う伯爵領しか残らなかったのだ。しかし、それは享楽による資金難ではなく、災害や国の一大事にいの一番に金を用意してきたからだった。父ならば「領地を売る前にやることがあるだろう」と言いそうだが、歴代ベルデ当主は絶望的なまでに金策が下手だったのだろう。
一爵位の差でしか婚姻ができない中、この縁が結ばれたのは「建国時より国を支えてきたベルデ家を立て直したい」という国の思惑があってだった。
「家族となったからには」と父も積極的に伯爵領地に関わってくれ、領地にいるベルデ伯爵とは非常にうまくやっているらしい。
いっぽうこちらは、淡々とした結婚生活をおくっている。
ベルデ伯爵子息のキールは外面のよい典型的な貴族の子息だった。
自分の両親には従順で模範的な態度をとるが、両親が領地へ戻るとやりたい放題。
伯爵の伝手と実家の戦略で王都に出している店は繁盛しているし、優秀な店長がいるおかげで夫がするのは予算の配分や最終決裁のみ。そこはやはり伯爵子息というべきか、そつなくこなす。そして空いた時間をパーティーや紳士クラブへの参加に費やすのだ。
私が子どもを妊娠してからの夜会はキール一人で参加となったが、とても「楽しく」お過ごしになられていたようだ。
私がお腹は重いわ食べ物は食べられないのに吐き気は止まらないわ、という状況の中ルンルンで朝帰りする夫に対しては殺意しかわいてこなかった。
誰との子を妊娠していると?と何度も心の中で問いかけた。
そして迎えた出産の日。ストレスがたたったのか、予定日より一週間早かった。
夫?元気に外出中ですが?
家令が伝令に向かったけれど、出席予定の夜会には夫はいなかったようだ。
ドコニ イタノ デスカネー??
通常より長い時間をかけて、文字通り命がけで産み落としたのは、双子の男女だった。
いつの間にか気を失い、次に目を覚ました時は下半身が動かず自分の体が自分のものではないようだった。
でも辛うじて動く手に、我が子を抱かせてもらう。
ほぁあ、ほあぁと泣くしわくちゃの顔がふたつ。この上なく、可愛かった。
――私が守らなければ。
強く思った。
ユフィーナとジストと名付けた双子は、良く泣く元気な子たちだった。
私はまずは体力の回復、ということでベッドの上で絶対安静。
乳母たちが子どもの世話をしてくれるので安心ではあるが、目を離したくなくて自分のベッドの横にベビーベッドを置いてもらう。
母が私を生んですぐ亡くなったのもあり、できるだけ一緒にいたいのだ。
ぐずっても私がだっこすると泣き止む姿を見て、乳母がにこやかに「やはりお母様が一番ですね」と言う。
そうか、私が一番か。
領地のために働く「みんなの男爵様」の父。
愛人を作り、最優先にしてくれない夫。
でも、この子たちにとっては私が一番。特別なんだ。
なんだか、胸がきゅうっとした。そうか、これが、家族なのね。
凄い速さで成長していく我が子を見ていると、あっという間に時間が過ぎていく。
子どもたちの首が座り、寝返りをうて始めた6か月目。
子どもが病気なく育つように、家族で祈りを込めて子どもを抱きしめる祈健会を行う時期が来た。
父と義両親に招待状を出す。どちらも参加と返事が来た。
夫の両親とは手紙を数回やりとりはしたものの、どちらも無表情で正直とっつきにくい。
父は商談のために一日遅れの当日参加となると知らせが来ていたので、当日は緊張を強いられるだろう。はぁ、と大きなため息が漏れる。
あれこれ準備をしていたら、気が付けば来週の開催だ。
あくまで家族間のこじんまりとした会だからこそ、心地よく過ごしてもらいたいと義両親を迎える準備はぬかりない。
もちろんここでも夫は役に立たなかった。計画段階で義両親のもてなしについて夫に相談すると、
「料理長や家令に任せておけばいい。うちの両親は、男爵家との結婚なんて恥だといつも言っていたからな。子どもができたとて喜ぶまいよ。ま、お前の実家の支援は助かるから、それが続く間は跡取りとして扱うから安心しなさい」
と言い放ち、遊びに出かけた。
クズが!
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さてあっという間に祈健会前日。義両親が来る日です。
ああ、胃がキリキリします。
夫?
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子どもたちの一番かわいい時期を見ようともしない馬鹿には愛想が尽きているのでもういいですが。
家令から義両親が到着した旨が伝えられ、応接室にて迎える。
騎士として働いていた義父は体も大きく眼光も鋭い。義母はあまり表情が変わらない上、ツリ目でとっつきにくい感じがする。
領地が隣り合っているものの。普段私たちは王都にいるのでろくに親交を持てていない。
そんな中でもてなせとか拷問だ……。
あとで双子に癒してもらおう。あのもちもちぷにぷにほっぺを触っていたらすべてのストレスが発散される。
よし、と気合をいれて「お忙しい中、お越しいただきありがとうございます」と社交スマイルを浮かべた。
三人で話し出してすぐ、夫の不在を問われる。
ま、気になりますよね。
「申し訳ありません、あいにく仕事の都合がつかなかったようで……」
さすがに「浮気相手のとこでパーっとやってまぁす!」とは言えず、話を濁す。
義父はじっと私を見ると、「……苦労をかけるな」とつぶやいた。
お?思ったよりまともな反応。
あとは当たりさわりのない近況報告などをして、双子のいる遊び部屋へ案内した。
初めての孫との交流、お二人にとってもいいものとなるといいのだけれど。
「なんだこの生き物は!
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