4 / 4
その後と自業自得のキール
しおりを挟む
祈健会当日。
用意された衣装でおめかしをした子どもたちに皆メロメロになった。
だって!本当に!!かわいいんですもの!!!
会が始まり、皆にぎゅーーーっと抱きしめられて、二人は大喜び。
さらに二人が大好きなかぼちゃのピューレがご飯にでてレジスはごろごろ転がりながら喜んだ。あああ、せっかくの洋服が……。でも、動き回るのも成長の証拠よ!とお義母さまが言うから好きにさせておく。
皆の笑い声と子どもたちの笑顔でとても和やかな雰囲気の中、家令が夫の帰宅を告げた。
キールは昨日から愛人と過ごしていた名残か、その表情にはどこか締まりのない、満足げな色が浮かんでいる 。
「やあ、遅くなってしまった。仕事が立て込んでいてね」
白々しい嘘を吐きながら部屋に入ってきた夫は、そこに座る父・クリストフの姿を見て、一瞬で顔を強張らせました。元騎士として名を馳せたお義父さまの眼光は、鋭い剣のように夫を射抜く。視線で人が殺せそう、というのはこういうのをいうんでしょうね。
「仕事、だと?」
お義父さまの地を這うような低い声が響きました。
「昨日、ここではない家に呼びつけられた馬車は、お前の仕事場とは全く違うところにお前を送り届けたと聞く。リコリスが命がけで産んだ双子のために、神の加護を祈るこの佳き日に、お前はどこで何をしていた?」
「それは……その……」
しどろもどろになるキールに、追い打ちをかけるようにお義母様が冷ややかな視線を送る。
「キール。」
お義母さまの声が静かに響きます。
「お前は私たちがリコリスさんに感謝すべきだとあれほど話していたのに、全く理解していなかったようね」
「父上、母上! 私はただ、ベルデ家の格を……!」
「格?生まれたばかりの子どもと妻を放って遊びまわっている男が何を言うの。あなたのいう格が爵位ならば、身の丈以上の支援をした結果伯爵になった自分の家は恥ずかしくないの?」
黙り込む夫。もともとベルデ家はお義母さまの系譜。実家への立て直しへの思いは一入だろう。
「……キール、領地に来い」
お義父さまが静かに言う。
「一から根性を叩き直してやる。二度とリコリスと子どもたちに、そのような腑抜けた顔を見せるな」
それから数カ月。
領地に連れていかれたキールは、お義父さまに死ぬほど働かせられているらしい。
「大丈夫。私は騎士だった。死ぬときはどの程度か熟知している」
ニコリ、ではなくニヤリと笑うお義父さま。
素敵!とっても悪役顔ですわ!
お義父さまたちはあの後からちょこちょここちらに遊びに来てくれる。
たくさん遊んでくれるので、子どもたちもお二人がとても大好き。
ユフィは一生懸命ハイハイして、レジスは一生懸命転がって近づく。この子は歩く気はないようで、最近は回転が速くなっている気がする。
さらに数週間後。今日は久しぶりに夫が帰ってくる日。いや、帰れる日だ。
領地ではお義父さまにしっかりと根性を叩き直されているようだけど、子どもたちとの日々が楽しすぎて正直出迎えるのもおっくうだ。まぁ、今日はお義母さまもいらっしゃるから、それだけは救いだ。
領地ではかなり頑張っているから優しくした方が?いや自業自得だしね。うん。
家令から夫たちが到着ユフィと一緒に出迎える。
「おか「いあっしゃいませー」……」
出迎えの挨拶をしようとしたら、ユフィの可愛い声が重なる。
声は可愛いけれど、内容は残酷だ。
確かに、赤ちゃんの頃から遊びまわっていたから接点はほぼなかったし、今はずっと領地だからユフィにとっては「知らないおじさん」よね……。
「おかえりなさいませ、旦那様」
気を取り直して一礼する。
「あ、ああ。父上は……あんなに容赦のない方だったのだな……。それより、その、子どもたちは……」
夫がユフィにおずおずと手を伸ばす。彼なりに、離れている間に子どもの尊さに気づいたのかもしれない。あるいは、先ほどの一言で、今更ながらに子どもと仲良くしたいと思ったのだろうか。
「ユフィーナ。パパですよ」
私の言葉にユフィが夫を見る。ちょうどその時、
「どうした、こんなところで立ち止まって。さっさと中に入らんか」
「じーじ!おかえいなさいー」
ぱぁぁぁ!と顔を輝かせてユフィがお義父さまを出迎える。
あ、夫が涙目ですわ。
そりゃあ自分は「いらっしゃい」でお義父さまは「おかえりなさい」だものね。
でもしょうがないわ、過ごした時間が違うもの!
夫はいわば「見習い家族」。時間と愛と、絆がないと家族にはなれないわ!
いま、ダイニングにはこの前レジスがクレヨンで描いた絵が飾られてある。
義両親、私、レジスとユフィ。そして乳母たち。
廊下には結婚して間もない時の肖像画が飾られてあるが、どこか冷たいそれとは違い、レジスの描いた絵は温かな家族の姿が表現されている。
「家族の肖像画」に、夫が入る日は来るのかしら。
それは今後の夫の活躍にご期待、ってね!
**********************
完結です。
よく舌足らずな子の描写として「です」が「でしゅ」になったりしますが、私の周りにはいないんですよね。
自分も含めて、特定の行が別の行に置き換わることが多いなぁと。
私が子どもの頃は、ら行がいえずあ行になってたんですよね。
さようなら、が「さようなあー!」みたいな。
なのでユフィもおなじくラ行がいえない子になりました。
レジス?肉体言語です。ジェスチャー!めっちゃ手足がわさわさするよ!
キールが「見習い家族」から昇格され、肖像画のはしっこに描かれる日はくるのか。
くるといいね?
用意された衣装でおめかしをした子どもたちに皆メロメロになった。
だって!本当に!!かわいいんですもの!!!
会が始まり、皆にぎゅーーーっと抱きしめられて、二人は大喜び。
さらに二人が大好きなかぼちゃのピューレがご飯にでてレジスはごろごろ転がりながら喜んだ。あああ、せっかくの洋服が……。でも、動き回るのも成長の証拠よ!とお義母さまが言うから好きにさせておく。
皆の笑い声と子どもたちの笑顔でとても和やかな雰囲気の中、家令が夫の帰宅を告げた。
キールは昨日から愛人と過ごしていた名残か、その表情にはどこか締まりのない、満足げな色が浮かんでいる 。
「やあ、遅くなってしまった。仕事が立て込んでいてね」
白々しい嘘を吐きながら部屋に入ってきた夫は、そこに座る父・クリストフの姿を見て、一瞬で顔を強張らせました。元騎士として名を馳せたお義父さまの眼光は、鋭い剣のように夫を射抜く。視線で人が殺せそう、というのはこういうのをいうんでしょうね。
「仕事、だと?」
お義父さまの地を這うような低い声が響きました。
「昨日、ここではない家に呼びつけられた馬車は、お前の仕事場とは全く違うところにお前を送り届けたと聞く。リコリスが命がけで産んだ双子のために、神の加護を祈るこの佳き日に、お前はどこで何をしていた?」
「それは……その……」
しどろもどろになるキールに、追い打ちをかけるようにお義母様が冷ややかな視線を送る。
「キール。」
お義母さまの声が静かに響きます。
「お前は私たちがリコリスさんに感謝すべきだとあれほど話していたのに、全く理解していなかったようね」
「父上、母上! 私はただ、ベルデ家の格を……!」
「格?生まれたばかりの子どもと妻を放って遊びまわっている男が何を言うの。あなたのいう格が爵位ならば、身の丈以上の支援をした結果伯爵になった自分の家は恥ずかしくないの?」
黙り込む夫。もともとベルデ家はお義母さまの系譜。実家への立て直しへの思いは一入だろう。
「……キール、領地に来い」
お義父さまが静かに言う。
「一から根性を叩き直してやる。二度とリコリスと子どもたちに、そのような腑抜けた顔を見せるな」
それから数カ月。
領地に連れていかれたキールは、お義父さまに死ぬほど働かせられているらしい。
「大丈夫。私は騎士だった。死ぬときはどの程度か熟知している」
ニコリ、ではなくニヤリと笑うお義父さま。
素敵!とっても悪役顔ですわ!
お義父さまたちはあの後からちょこちょここちらに遊びに来てくれる。
たくさん遊んでくれるので、子どもたちもお二人がとても大好き。
ユフィは一生懸命ハイハイして、レジスは一生懸命転がって近づく。この子は歩く気はないようで、最近は回転が速くなっている気がする。
さらに数週間後。今日は久しぶりに夫が帰ってくる日。いや、帰れる日だ。
領地ではお義父さまにしっかりと根性を叩き直されているようだけど、子どもたちとの日々が楽しすぎて正直出迎えるのもおっくうだ。まぁ、今日はお義母さまもいらっしゃるから、それだけは救いだ。
領地ではかなり頑張っているから優しくした方が?いや自業自得だしね。うん。
家令から夫たちが到着ユフィと一緒に出迎える。
「おか「いあっしゃいませー」……」
出迎えの挨拶をしようとしたら、ユフィの可愛い声が重なる。
声は可愛いけれど、内容は残酷だ。
確かに、赤ちゃんの頃から遊びまわっていたから接点はほぼなかったし、今はずっと領地だからユフィにとっては「知らないおじさん」よね……。
「おかえりなさいませ、旦那様」
気を取り直して一礼する。
「あ、ああ。父上は……あんなに容赦のない方だったのだな……。それより、その、子どもたちは……」
夫がユフィにおずおずと手を伸ばす。彼なりに、離れている間に子どもの尊さに気づいたのかもしれない。あるいは、先ほどの一言で、今更ながらに子どもと仲良くしたいと思ったのだろうか。
「ユフィーナ。パパですよ」
私の言葉にユフィが夫を見る。ちょうどその時、
「どうした、こんなところで立ち止まって。さっさと中に入らんか」
「じーじ!おかえいなさいー」
ぱぁぁぁ!と顔を輝かせてユフィがお義父さまを出迎える。
あ、夫が涙目ですわ。
そりゃあ自分は「いらっしゃい」でお義父さまは「おかえりなさい」だものね。
でもしょうがないわ、過ごした時間が違うもの!
夫はいわば「見習い家族」。時間と愛と、絆がないと家族にはなれないわ!
いま、ダイニングにはこの前レジスがクレヨンで描いた絵が飾られてある。
義両親、私、レジスとユフィ。そして乳母たち。
廊下には結婚して間もない時の肖像画が飾られてあるが、どこか冷たいそれとは違い、レジスの描いた絵は温かな家族の姿が表現されている。
「家族の肖像画」に、夫が入る日は来るのかしら。
それは今後の夫の活躍にご期待、ってね!
**********************
完結です。
よく舌足らずな子の描写として「です」が「でしゅ」になったりしますが、私の周りにはいないんですよね。
自分も含めて、特定の行が別の行に置き換わることが多いなぁと。
私が子どもの頃は、ら行がいえずあ行になってたんですよね。
さようなら、が「さようなあー!」みたいな。
なのでユフィもおなじくラ行がいえない子になりました。
レジス?肉体言語です。ジェスチャー!めっちゃ手足がわさわさするよ!
キールが「見習い家族」から昇格され、肖像画のはしっこに描かれる日はくるのか。
くるといいね?
70
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
答えられません、国家機密ですから
ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。
【完結】婚約破棄されたら、呪いが解けました
あきゅう
恋愛
人質として他国へ送られた王女ルルベルは、その国の人たちに虐げられ、婚約者の王子からも酷い扱いを受けていた。
この物語は、そんな王女が幸せを掴むまでのお話。
透明な貴方
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。
私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。
ククルス公爵家の一人娘。
父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。
複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。
(カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
馬小屋の令嬢
satomi
恋愛
産まれた時に髪の色が黒いということで、馬小屋での生活を強いられてきたハナコ。その10年後にも男の子が髪の色が黒かったので、馬小屋へ。その一年後にもまた男の子が一人馬小屋へ。やっとその一年後に待望の金髪の子が生まれる。女の子だけど、それでも公爵閣下は嬉しかった。彼女の名前はステラリンク。馬小屋の子は名前を適当につけた。長女はハナコ。長男はタロウ、次男はジロウ。
髪の色に翻弄される彼女たちとそれとは全く関係ない世間との違い。
ある日、パーティーに招待されます。そこで歯車が狂っていきます。
何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。
侯爵令嬢は限界です
まる
恋愛
「グラツィア・レピエトラ侯爵令嬢この場をもって婚約を破棄する!!」
何言ってんだこの馬鹿。
いけない。心の中とはいえ、常に淑女たるに相応しく物事を考え…
「貴女の様な傲慢な女は私に相応しくない!」
はい無理でーす!
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
サラッと読み流して楽しんで頂けたなら幸いです。
※物語の背景はふんわりです。
読んで下さった方、しおり、お気に入り登録本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる