吸血鬼パパと拾われた俺。〜子育て同棲編〜

あじ/Jio

文字の大きさ
19 / 40
第一部 子育て同棲編

三話

しおりを挟む
 


 その二日後。土曜の昼に自宅の電話が鳴った。
 初めてのことに、少しだけ緊張しながら受話器を取る。電話の相手は穏やかな声音をした、初老を迎えたと思われる男性だ。丁寧に名乗られて、頭の中で名前を反芻して気づく。
 相手は、じゅんきに仕えるじいやからの電話だった。

「ああ、はい。こちらはいつでも大丈夫ですけど」

 しかもなんと、先日の件でお詫びがしたいので、都合のいいときに訪ねたい、という要件だった。
 部屋の中はいつでも綺麗だし菓子折りもある。急な来客にも対応は可能だ。
 春太は不思議そうに見上げてくるテディを見下ろす。

「あの。テディに聞いてみるので、少しだけお待ち頂いてもよろしいですか?」

 なれない敬語を使って保留音を流すと、テディと目線を合わせて事情を話した。

「……はるちゃん、一緒にいてくれる?」
「当たり前じゃん」

 テディは悩んだすえに渋々ながら承諾した。
 受話器をとり、話を進める。今日の午後3時頃に、じゅんきとじいやが訪ねてくることになった。
 念の為に右京に報告をして、じゅんきたちを待つ。
 春太と同じく、テディもあまり嬉しくなさそうだ。
 それに、春太は洗練された所作や言葉遣いなんて知らない。失敗をしたらどうしよう。今からでも右京に代わってもらった方がいいのではないか。
 そんな緊張の時間も、インターホンの音で弾けた。

「お邪魔致します。急な来訪にも関わらず、ご対応くださりありがとうございます」

 じゅんきを連れてやってきたのは、柔和な雰囲気の男性だった。
 まさに、爺やと呼ぶに相応しい容貌をしている。涼し気な面差しと、細身のスーツに身を包む姿は、少しの隙もない。歳を感じさせない、色気のある男性だ。
 それに比べてじゅんきは、不機嫌そうに突っ立っている。春太とテディの視線に気づいた爺やが頭を下げた。

「申し訳ありません。少々、緊張しているようで。……こちらに向かうあいだは、テディ様にお会いできると喜んでいたのですが」
「なっ、爺! 余計なことはいうなっ」

 まさか、そんなわけないだろう。
 そう思ったが、案外嘘でもないみたいだ。じゅんきは顔を赤くして、モジモジしている。
 テディの表情は相変わらず変化はない。でも別に、怒っているんでも、無視をしているわけでもない。テディも困っているのだ。

「立ち話もなんですから。どうぞ。……お菓子も用意してあるので、ゆっくりしていってね」

 最後はじゅんきに声をかけて、リビングへと移動する。
 カチコチとついて来たじゅんきは、迷いながらもテディの右隣に座った。

「……この前は悪かったな」

 そして、尊大な態度で謝罪した。

「……いえ、べつに」

 テディが淡々と返す。その様子を誤解したのか、じゅんきの眉が下がった。
 そして、ポケットからキーホルダーを取り出して、テディの手に握らせる。

「……返す」
「……。ありがとうございます」

 小さな手のひらに、大切な宝物が戻ってきた。少しだけテディの目元が緩くなる。
 春太が紅茶を煎れながらその様子を眺めていると、爺やがやってきて手伝ってくれた。
 慣れたように、美しい所作でお茶を淹れる。その手腕に見惚れていると、いつでも教えると微笑まれた。

「春太さん。坊ちゃんから話は伺いました。テディ様に傷をつけてしまったこと、深くお詫び申し上げます」
「いえ。……俺じゃないですし。それに、テディがこれは二人の問題だって言ってましたから」

 春太が手を振ると、爺やはようやく頭を上げてくれた。そして、じゅんきのことを話す。

「坊ちゃんは以前から、テディ様のことを気にかけておられたのです。ですが、どうにも素直になれず……あのような愚行を」
「へえ」

 じゅんきがキーホルダーを見つけたのは偶然だった。
 よくテディを見つめていたじゅんきは、すぐにそれがテディのものだと気づいたらしい。
 爺やに「早く返してあげたい。だから、明日は早起きして家を出るぞ」と、お願いしたそうだ。
 なのに、まだ返していないと知り、爺やも驚いたらしい。
 テディはいつも一人で本を読んでいて、じゅんきはそれを遠くから眺めるだけだった。仲良くなりたくてもきっかけが掴めない。
 けれど、キーホルダーをとおして初めて話せたときに、思ってしまった。
 ずっと返さなかったらテディと毎日話せるんだと。
 じゅんきは泣きながら、爺やに告白したらしい。
 そして、今度こそ本当に返すこと、傷つけたことを謝ることを条件に、今日は訪ねてきたと話してくれた。

「ひとりで居る坊ちゃんが可哀想で、甘やかしてしまった私の責任です」

 春太はじゅんきが羨ましいと思った。大切にしてくれる人がいて、間違った時には叱ってくれる。
 春太の家族は春太を居ないものとして扱った。あの家にいた頃の春太は透明人間だ。

「……甘やかしてくれる人がいて良かったですよ。子供のうちに沢山甘えるべきです」

 誰に言うでもなく春太は答えると、爺やと共に席に戻った。

「ゲーム?」
「そうだ。俺の家にきたらゲームができるぞ」
「ふーん」

 テディは興味なさそうに返事をする。玉砕したじゅんきが固まった。
 きっと、ゲームをきっかけに、テディと親睦を深めたかったのだろう。
 だが残念なことにテディはゲームをしたことがない。この家には、必要最低限のものしか置いていないからだ。
 春太は一つため息をつくと、じゅんきの手伝いをしてやることにした。

「じゅんき君。どういうゲームがあるの?」
「……色んなのだ。敵を倒すのも、冒険するのも、島をつくるのもある」
「へえ」

 じゅんきはテディをちらちらと見ながら話す。一方のテディは、手のひらにあるキーホルダーを嬉しそうに見つめて、聞いていなかった。
 じゅんきが返すことを渋った気持ちもわからないでもない。だからと言って、テディを傷つけたことを許せる訳では無いが。

「ねえテディ。俺も結構ゲーム好きなんだけど、今度おもちゃ屋さんに見に行く?」
「……なんで?」
「テディ、わんちゃん好きでしょ? ゲームには色んなのがあって、動物を育てたりするのもあるんだよ」
「そうなの?」

 ぱっと紫の瞳が輝く。

「見に行く前に、じゅんき君のお家に遊びに行って、ゲームがどういうものか教えてもらったら?」

 春太の提案に二人は正反対の表情を浮かべた。
 じゅんきは花が咲いたように笑う。その隣で、テディは困ったように、嫌そうにしていた。

「……はるちゃんも、一緒?」

 そして、やはり妥協点はそこなのか、春太の手に触れて見上げてくる。

「……あの。はるちゃんも一緒なのは、だめですか?」

 続けて隣に座るじゅんきの事も首を傾げて見上げた。
 絶世の美少年に見上げられて、断れる人などいるのだろうか。じゅんきは振り子のように頷き、春太は少しだけ哀れんだ。
 二時間ほど滞在して二人は帰っていった。じゅんきを見送りながらテディが呟く。

「……思ったより、怖くなかった。……たぶん」

 初めて同年代の子とこんなに話をしたとテディは言っていた。
 そして、カレンダーを見ると、小さな手で来週の土曜日に丸をつける。その日はじゅんきの家に遊びに行く日だ。
 迷いながらもテディは進んでる。
 自分よりもうんと小さい子を相手に、置いてけぼりにされた気分を味わう弱い自分が嫌いだ。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

あの日、北京の街角で

ゆまは なお
BL
5年前、一度だけ体を交わした彼が、通訳として出張に同行するーーー。 元留学生×駐在員。年下攻め。再会もの。 北京に留学していた上野孝弘は駐在員の高橋祐樹と街中で出会い、突然のアクシデントにより、その場で通訳を頼まれる。その後も友人としてつき合いが続くうちに、孝弘は祐樹に惹かれていくが、半年間の研修で来ていた祐樹の帰国予定が近づいてくる。 孝弘の告白は断られ、祐樹は逃げるように連絡を絶ってしまう。 その5年後、祐樹は中国出張に同行するコーディネーターとして孝弘と再会する。 3週間の出張に同行すると聞き、気持ちが波立つ祐樹に、大人になった孝弘が迫ってきて……? 2016年に発表した作品の改訂版。他サイトにも掲載しています。

S級エスパーは今日も不機嫌

ノルジャン
BL
低級ガイドの成瀬暖は、S級エスパーの篠原蓮司に嫌われている。少しでも篠原の役に立ちたいと、ガイディングしようとするが拒否される日々。ある日、所属しているギルドから解雇させられそうになり、焦った成瀬はなんとか自分の級を上げようとする。

薄幸な子爵は捻くれて傲慢な公爵に溺愛されて逃げられない

くまだった
BL
アーノルド公爵公子に気に入られようと常に周囲に人がいたが、没落しかけているレイモンドは興味がないようだった。アーノルドはそのことが、面白くなかった。ついにレイモンドが学校を辞めてしまって・・・ 捻くれ傲慢公爵→→→→→貧困薄幸没落子爵 最後のほうに主人公では、ないですが人が亡くなるシーンがあります。 地雷の方はお気をつけください。 ムーンライトさんで、先行投稿しています。 感想いただけたら嬉しいです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...