あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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「上海店は高級志向だからそんなに在庫抱えてないんだけどさ、北京店は細々したみやげ物が多いから、どうしても生産管理が必要になるよね。松本が入ってくれてホント助かったよ」

「でも松本を置いたのは一時的なもんだろ? 現地責任者を雇うってぞぞむは言ってたよな。誰になったんだ?」

「ひとまず地元で探すって。それも近々、面接してるんじゃないかな。こっちから人を送るより、そのほうが話がスムーズに行くからって。少数民族の多い地域だからね、その辺の民族感情の絡みもあるのかも」

「そう言えばさ、間野《まの》がデザインした試作品が上がって来てたけど、あれ中国人受けすると思う?」

「どうだろう…。ていうか、ポケットティッシュ持ち歩くのなんて日本人くらいじゃないの?」
「いや、日本人だけど俺だって持ち歩かないぞ」

「あれは女性用でしょ?」
「だと思うけど。女性はそんなにティッシュが必要なのか?」

「知らないけど香港では女性も持ち歩かないと思うよ?」
 香港人のレオンは首を傾げている。

 間野が作ったのはポケットティッシュとハンドタオルが入れられるポーチのようなものだが、そもそもポケットティッシュを使うのかという話になったのだ。

 女性は使うのか?ということで中国人にもリサーチしたが、持ち歩かないという意見がほとんどだった。というより、ポケットティッシュをそもそも見かけない。

 ないこともないが、庶民は適当にトイレットペーパーをくるくる巻いて持ち歩くのが大半だ。

 そういう意味で手紙《ショウジー》がトイレットペーパーって中国語は正しいよなと孝弘は思った。ちなみに日本語で言う手紙は中国語では信《シン》と言う。

「でもま、日本人向けにネットで出してみてもいいんじゃない?」
 レオンの提案に孝弘はうーんと考えこむ。


「売れそうもないなら無理しなくてよさそうだけどな。むやみにアイテム数増やしてもしょうがないし」

「間野さんは少数民族のテキスタイルに興味ある子なんでしょ?」

「ああ。中国に来たことないっていうか、一度も海外行ったことないって言ってたし、かわいいデザインが好きみたいだから日本向けの商品開発に特化したほうがいいかもな」

 レオンと孝弘の話を聞きながら、楽しそうだなと祐樹はぼんやり二人を眺める。それも当たり前と言えば当たり前だ。

 櫻花貿易公司は3人が作った会社なのだ。まだ留学生だったぞぞむが孝弘に話を持ちかけて、すでに留学を終えて香港に戻っていたレオンと3人で立ち上げた。

 行動的な3人が集まって始めた会社はじょじょに軌道に乗り、今年の夏に店舗を持つに至ったのだ。

 中国は今後大きな経済発展が見込めるし、うまく時流に乗れば相当大きく飛躍できる可能性を持っている。3人ともまだ若いのだし、会社とともにこれからまだまだ成長していくだろう。

 今は一時的に孝弘が抜けているだけだ。生き生きした顔でレオンと話し込んでいるのを見ると、本来の孝弘の居場所はそちらなのだと実感する。

 祐樹の会社と2年間の専属契約を結んでいるから、表だってそちらの仕事はできないけれど、常にぞぞむとレオンとは連絡を取っているし動向を気にしている。

 本当なら会社が大きくなろうとするこの時期に孝弘が抜けてしまうのは、かなり影響があったはずだ。でも二人は孝弘が祐樹を追いたいと聞いて、一言も不満を言わず応援したのだと言う。

 それを聞いたとき、祐樹は泣きそうな気持ちになった。

 ビールを飲んで鍋を食べながら、雑談のようなやりとりだけれど真剣に仕事の話をしている孝弘を祐樹は複雑な思いで眺めた。

 オフィスで仕事をしている時とは眼の輝き方が違う。

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